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番外編 その一

私が正道を幸せにしてあげる! その三

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「誰だ? てめえは?」
「正義の味方気取りか?」

 不良は正道を睨むけど、正道は一歩も引く気はないと言いたげに睨み返している。

「お前ら、『Blue Ruler』のメンバーだろ? あそこはカツアゲを禁止してたはずだ」
「うっせえよ! てめえ。マジ何者だ?」
「いや、待て……そいつ……思い出した! 藤堂だ!」
「藤堂? ああっ……片っ端から喧嘩を売ってるヤツか? 確か、あっけなく負けてたヤツだろ?」

 不良達がゲラゲラと下卑《げび》た笑いをする。
 正道って弱かったんだ……それとも、不良達のレベルが高いって事?
 なら……試してあげる!
 私は背後から不良の股間目掛けて、一気に蹴り上げた。

「はぁあああああああああああああああ!」

 男は悶絶し、うずくまっている。
 私はすぐさま二人目の股間も思いっきり蹴り上げた。

「いひぃんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!」

 これで二人、成敗!

「なんだ、このクソガキ!」

 最後の男が私を睨みつけ、殴りかかろうとするけど……。

「おい、どこを見てやがる」
「がはっ!」

 正道が不良の首を掴み、そのまま持ち上げる。力持ち~。
 私はひゅうと口笛を鳴らす。

「は、離しやがれ!」

 正道は男を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。
 パワースラム、でたぁあああ!
 いい技、持ってるじゃない!

「やるわね、正道! 流石は藤堂家の血を引いてる。私のお母さんもたまにするのよ。その力業」
「た、たまにするのか?」
「そうね。後、裸でお父さんとプロレスすることもあるわ。私がそれを見た次の日はご馳走が出てくるのよ。口止め料として」

 あっ、笑った……初めて見たかも。
 苦笑いだけど、笑うと……やっぱり不気味ね。もっと、楽しそうに笑えないの?
 私はカツアゲされそうになっていた兄妹に声をかける。

「ほら、あんた達、さっさと行きなさい」
「あ、ありがとう……お姉ちゃん」
「ありがとね、お姉ちゃん」

 私はシッシと兄妹を払う。

「照れてるのか?」
「やかましい!」

 この男、絶対にワザとね。ほんと、性格が悪いわ。

「く、くっそ……てめえ……」
「ざけるなよ……」
「……やんのかぁ……こら!」

 不良の三人がヨロヨロと立ち上がってくる。へぇ、すぐに立てるんだ。
 んじゃまあ、第二ラウンドってことで。

「おらっ!」
「っぐほぉ!」

 おおおおっ! 正道やるぅ!
 相手が立て直す前にヤクザ蹴りで男を一人、ぶっ飛ばした。
 残りもあの豪腕で二人をたたきのめす。
 ちょっと、待ちなさい! 私の出番! 出番がない!

「……てめぇ……卑怯だぞ」
「だから?」

 おおぅ……正道が不良の顔を踏みにじってる! コイツ、ドSなの? 引くわ~。
 けど、ミッションコンプリートね。
 そう思った瞬間、背筋がゾクッとした。
 な、なに? この寒気?

「おい、そこで何してやがる」

 腹の底からわきあがる威圧感に、私はすぐさま声のした方を振り向く。
 そこには金髪の女がいた。他にも強そうな男達が彼女の後ろに控えているけど、やはり気になるのは金髪の女。
 正道以上の眼力で、そこに彼女がいるだけで空気がピリピリしている。
 私は思いっきり金髪女を睨みつける。この女……ムカつく。
 金髪女は私を一度だけ見た後、すぐに正道に視線を向ける。
 やっぱり、ムカつく!

「見て分からないか?」
「藤堂……まだ懲りてないのか? ウチのメンバーに手を出した以上、見過ごすわけにはいかねえよ」
「どこの誰だろうが、関係ない。納得いかないことを見過ごせないだけだ」
「ちょっと、待ちなさいよ! 私達二人相手に大勢で襲いかかってくるの? プライドがないの?」

 金髪女が私を見下してくる。ああっ、本当にムカつく……。
 誰もが威圧されれば従うなんて、ありえないから。

「なんだ、てめえは? さっさと家に帰れ。これは私と藤堂の問題だ。それに私が相手になる。他は手出しさせねえ……よ!」

 ちょ、金髪!
 金髪女は瞬時に正道との距離を詰め、殴りかかってきた。
 早い! それに崩しがうまい! 後、私を無視するな!
 正道はガードするけど、あの金髪女、ガードを崩して、正道を何度も殴りつけた。まるで喧嘩の玄人くろうとみたいな動きをしている。
 私が思い描いていた動作を、目の前の金髪女がやってのけていることに、私は嫉妬と苛立ちが更に強くなる。

 ああっ! 蹴り飛ばされた!
 正道は立ち上がるけど、足にきてる。
 金髪女の攻撃を防御するだけで手一杯みたい。正道はやぶれかぶれの攻撃を繰り出すけど。

「バカ!」
「遅い!」

 ああぁ~言わんこっちゃない! カウンターとられてどうするのよ! スピード負けしている相手に大ぶりするバカがどこにいるの!
 ったく、しょうがないんだから!
 私は準備を整え、正道に加勢することを決めたとき。

「動かない方がいいですの」

 いつの間にか、私の隣にツインテールの女が警棒で私を威嚇する。喉元に警棒を当て、私の動きを止めようとしている。

「これはお姉様とあの男のタイマンですの。無粋な真似をしないでほしいですの」
「はあ? 誰が決めたの、そんなこと。勝手に決めるな、ブス!」
「ぶ、ブス?」

 私はリュックから取り出しておいた、防犯スプレーを警棒女にぶっかけた。警棒女がひるんだ隙に、私は携帯型の防犯ブザーをならす。防犯ブザーは一定時間、何もしなくても鳴り続ける。
 大きな音に、ここにいる全員が浮き足立つ。

「なんだ? 何事だ!」
「よそ見してるんじゃねえ!」

 正道が金髪女を殴りかかったけど、すんのところで防御された。遅いわよ、ドン亀!
 私は手にしたボールを思いっきり金髪女に投げつけた。
 そのボールを金髪女は……。

「う、嘘でしょ……」

 後ろを向いていたはずなのに、金髪女は私が投げたボールを目で確認することなく掴んでみせた。ありえないでしょ! 心眼でもあるの、あの女!
 私の切り札が……ぶつけてボールを割らないと意味がないのに……。

「おい、ガキ。何のマネだ?」

 金髪女はボールを握りしめ……。

 パン!

 ボールを割った。ボールから液体が飛び出たことを確認し、私はライターに火をつける。

「く、くっせえ! なんだこりゃ? が、ガソリンか?」
「灯油よ。それより、これなにか、お分かり?」

 私はライターをちらつかせる。金髪女の体には灯油……ではなく、匂いのつけた水が付着しているだけなんだけど、相手はきっと灯油だと思い込んでるはず。
 私はライターをしゅぽしゅぽさせ、金髪女を脅す。

「で、どうするわけ? 私としてはそのムカつくでかい乳ごと燃やしてやりたいんだけど」
「で、デカい言うな!」

 なに、コイツ……顔を真っ赤にして否定して。その態度……。
 ム・カ・ツ・ク~~~~~!
 どうして、あんな脂肪の塊を男は好きなわけ? バカなの? 胎内からやりなおしてこい!
 クラスの男の子もお父さんも、みんな胸をガン見しすぎ! 女は顔でしょ! ムカつくのよ、巨乳金髪女!

「だったら、その重くてデカいだけの乳、燃やして灰にしてさしあげましょうか? その無駄なものがなくなれば、猫背が治るんじゃない?」
「誰が猫背だ! そ、それに……とか言ってるんじゃねえ!」

 金髪女が突っこんできた。
 私はライターの火を消し、転がるようにして横に回避する。体勢を整えると同時にライターの火をつけるけど。

「痛っ!」

 金髪女に手首を蹴られ、ライターを手放してしまった。
 金髪女は得意げに笑い、私を見下してくる。

「どうだ? 突っこまれて距離が近けりゃライターは使えねえだろ? もう、ライターはないみたいだがな」
「あまい」

 私は予備のライターに火をつける。
 金髪女は呆れていた。

「どこから出してきやがるんだ」
「どこからでも……」

 油断していた。ライターを持っていた手首を後ろから掴まれ、私は地面に倒された。関節を決められているので逃げられない。

「全く、手癖の悪い子供ですの」

 くそっ……警棒女に不覚を取るなんて……。
 でも、遅い。

「何やってるんだ、お前ら!」

 ブザーを聞きつけた大人の男がようやくやってきた。時間稼ぎは成功したみたい。
 私的には情けないけど、ここは大人の力を借りるしかない。
 私は大声でやってきた大人に助けを求めた。

「助けてください! 不良に絡まれているんです!」
「……ちっ、またかよ。いい加減にしろよ、ガキ共が……全員、くたばれ!」

 ちょ、ちょっと! どうして、背を向けるの! 助けてくれないの!
 ブザーを聞きつけた男は私達に背を向け、家に入っていこうとした。
 そう……助けてくれないんだ……なら……。
 私は隠し持っていたボールを、関節がキメられていない手で壁に投げつけた。

 ぴちゃ。

 その水音に男は悲鳴を上げる。

「な、なにしやがるんだ! このガキ! 人ん家の壁に! 掃除しろ!」

 私が投げたのは防犯用の蛍光カラーボールだ。洗った程度では落ちない。
 私は男に向かって怒鳴り返した。

「するわけないでしょ! 逆に訴えてやるわ!」
「訴えるだと?」
「そうよ! 不良にカツアゲされそうになって、大勢に絡まれているのに、助けずに逃げていった男がいるって警察に言いふらす! お前も同罪だって言ってやる! 共犯にされたくなかったら、さっさと警察官を呼べ!」

 薄情男は顔を真っ赤にして私を睨みつけてくる。私も睨み返す。

「大人しくしなさいですの」

 私は警棒女に両腕とも抑えつけられた。もう、抵抗は出来ない。
 薄情男は私を睨みつけ……。

「殺されてしまえ! このガキが!」

 男は家に戻ろうとした。
 ヤバい! このままだと、私達、不良達に……。

「待ちなさい! それでも、男なの! 不良に立ち向かう勇気すらないの!」
「やかましい! 迷惑なんだよ、お前らはガキは! ところかまわず喧嘩ばかりしやがって! 共食いして死んでしまえ! 俺は絶対に警察なんて呼ばないからな!」

 な、なんなのよ、あの薄情クソ男は!
 これが不良の楽園ってワケ? 不良がなんでもやりたい放題ってこと?
 そんなこと、納得いかない! 絶対に負けないんだから!

「……おい、誰がカツアゲしたんだ? ウチのチームはカツアゲ禁止してるんだよ。適当なこと言ってるんじゃねえぞ、こら!」

 金髪が大声で怒鳴るが、私だって怒鳴り返した。

「嘘つきはそっちでしょ! お年玉を狙ったセコいカツアゲしてたくせに! しかも、小学生相手にカツアゲするとかプライドがないの、金髪女! 正道はね! そのカツアゲを止めたのよ! お金が欲しいなら、働いて手にしなさいよ、このクズ共が!」
「クズだと? てめえ……」
「なによ! 本当のことでしょ! それに誰かが絶対に警察を呼んでるわよ! 逃げなくていいの? 逃げるなら今のうちよ」

 どこまで持つか分からないけど、騒ぎを大きくして時間稼ぎをしていれば、きっと誰かが警察に通報しているはず。
 誰か! 誰か、警察を呼んで!

「その必要はない」
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