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番外編 その一
私が正道を幸せにしてあげる! その一
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このお話は『第七部 藤堂正道の奮起』の番外編です。
尾上菜乃花の視点で物語は進行します。
――――――――――――――――――――――――――――――
★★★
「菜乃花。あんたは女の子なんだからおしとやかにしなさい」
私はこの言葉が大嫌いだった。
おしとやか? なにそれ? 考えが古い!
私は男の子でも、女の子でも負けたことはない。成績もスポーツも、もちろん喧嘩も負け知らず。
でも、男の子の方が上って考えを押しつけられるのは納得いかない。私より実力がないのに、勝手に決めつけられるのはおかしい。
だから、私は男の子には絶対に負けない!
そんなときだった。藤堂正道と出会ったのは。
彼と初めて会ったのは……いや、私が彼だと認識して出会ったのは去年の正月だった。
「お母さん! 私、行きたくない!」
「我が儘言わないの。毎年、帰ってるでしょ?」
「そうだぞ、菜乃花。おじいちゃんもおばあちゃんも楽しみにしてるし、帰ろうな。菜乃花が帰ってくれないと……父さん、大変なことになるんだぞ」
知らないわよ、そんなこと。
私だって、おじいちゃんとおばあちゃんに会いたい。お年玉くれるし。でも、場所が問題。
おじいちゃん達が住んでいるのは青島という田舎の島で、観光名所なんだけど、シーズンは夏で、冬はなにもない。それどころか、お店も閉まっているので退屈でしかない。
貴重な冬休みを一日、二日ならともかく、四、五日もつぶされるのは嫌。
友達は海外に旅行に行っているのに、どうして、私は国内の、しかも田舎なの?
私は断固拒否したけど。
「そう、断るの。なら、お正月の間、ご飯もお風呂も洗濯も全て、菜乃花が自分で自腹を切ってやってね」
お母さんの弾圧に私は負けてしまい、正月はまた退屈になるとうんざりしていた。
「よく来たな、菜乃花」
「遠いところから来て疲れたでしょ? ゆっくりしていってね」
「はい! しばらくお世話になります!」
とりあえず、私はよそ行きの顔でおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶する。これだけでご機嫌を取れるから簡単よね。
それにしても、相変わらず何もない町ね、青島って。不良の楽園って言われているから、お正月でも暴走族がいるのかと思っていたけど、未だにお目にかかったことはない。
少し拍子抜けだったけど、変に絡まれるのも面倒だし。
「おばあちゃん、トイレ借りてもいい?」
「ええっ、どうぞ」
車に長時間乗っていたので、すませておきたい。
私はトレイに向かったとき……。
「きゃああああああ!」
私は尻餅をついてしまった。だって、家の中に見知らぬ大男がいたの。
身長はおじいちゃんよりも少し高くて、体はプロレスラーのようにがっちりしている。一番気になったのは目つき。
この目は絶対に犯罪者だ! テレビの『警察トゥエンティーフォー』で見たことがある! しかも、ロリコンっぽい!
私は怖さよりも正義感が勝っていた。
「この変質者!」
私の正義の拳が大男の股間に炸裂する……かと思われた。
大男は腰を引き、股を閉じることで私の渾身の一撃を回避してみせたのだ。
やるわね、この大男。デキるわ。
私は近所の道場で学んだ空手の構えをとる。
師範には人に向かって使ってはダメって言われてるけど、変質者はその限りではない!
私は絶対に負けないんだから!
「どうしたの! 菜乃花!」
「菜乃花! 無事か!」
「菜乃花!」
「菜乃花ちゃん!」
お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃんが何事かとやってきた。
私はみんなが来ないよう、怒鳴った。
「みんなは来ないで! このロリコン変質者は私が倒すから!」
さあ、かかってきなさい!
大男は私を見て、怯えているわね。今度は当ててみせる!
「こ、この野郎! 菜乃花に手を出したら、しょ、承知しないぞ!」
「お父さんは下がってて! 邪魔!」
そ、そんな~と情けない声が聞こえてくるけど、お父さんじゃあ無理!
「……待って。キミ……正道君?」
お母さんが戸惑ったように変質者に話しかけている。大男の注意がお母さんに向く。
「……あなたは?」
「覚えてない? 私、古都音。叔母の……」
「……あっ……ああっ! 覚えてます! 確か……」
「隙あり!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
ちっ! また、外した! 絶好のチャンスを!
「菜乃花! いい加減にしなさい!」
「あっ痛ったぁ!」
な、殴られた? お母さんに? なんで?
かるく混乱している私を、お母さんが睨みつけてくる。
どうして、お母さんはこの変質者をかばうの? まさか……。
「お母さんの隠し子なの? あの人?」
私はほっぺを引っ張られた。ちょっぴり泣いた。
「紹介しておこう。私の孫の正道だ」
「……よろしく」
大男、正道は少しだけ頭を下げた。
この人がおじいちゃんの孫? なるほど、頑固さと眉毛の太さは似てるわね。頭固そう……。
お母さんが叔母って事は、正道は私の親戚って事ね。
けど、彼のお父さんとお母さんはどこにいるの? そのことに誰もふれないのはなぜ?
不思議に思っていたけど、詮索しないほうがいいわね。面倒そうだし。
正道は席を立ち、部屋を出て行く。不良だわ、あれは。
家族の団らんがまるでアレルギーのように感じて孤独格好いいと思っている思春期丸出しの男ね。
とりあえず、暇つぶしにテレビでも見よう。
しばらく芸能人がバーゲンセールのように湧き出る番組を見ていると。
「お待たせしました」
おばあちゃんとお母さんがご飯を持ってきた。
綺麗に整えられたおせちと吸い物、そして……。
「オムライス……」
「好きでしょ? 菜乃花ちゃん」
まあ、嫌いではない。
正直、子供の私にはおせちは口に合わないというか、渋すぎるのよね。
だから、おばあちゃんが作ってくれたオムライスを、私は大好きって言ったのを思い出した。
私としては、やはり、黒豆や蒲鉾よりもオムライスの方がいい。
「ありがとう、おばあちゃん! いただきます!」
私はスプーンで一口、オムライスを口にする。
お味は……。
「おばあちゃん! これ、おばあちゃんが作ったオムライスじゃないよね? お母さんが作ったの? 私、おばあちゃんが作ったオムライスが食べたかったのに~」
っていうか、このオムライスも微妙。お母さん、腕が落ちた?
私は黙々とオムライスを食べていると……。
「それ、正道さんが作ってくれたの」
なんと?
私はつい手を止めてしまった。
あの大男がこのオムライスを作っただと?
信じられない……どうして、男の子が料理するの? お父さんなんて卵一つ割ることすら出来ないのに……。
一番おかしいのは、私よりも料理がうまい……。
「ねえ、菜乃花? なにかな? 私のオムライスはおばあちゃんに遠く及ばなくて、クソ不味くて家畜の餌にさえならないっていいたいのかな?」
「いや、そこまで言って……あったぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁ!」
お母さん! それ、痛い! 痛いから!
どうして、お母さんは娘に暴力を振るえるの? 問題だよね、これ! でも、私は泣き寝入りなんて絶対にしない。
いつか私の正拳突きでお母さんをたたきのめす!
「菜乃花、良い事教えてあげる。私、青島極真流を学んでるの。負けなしだから」
青島極真流? なにそれ? 空手の流派?
負けなしってどれくらい強いの? 多分、大げさに言っていると思うけど……。
「凄かったわよね、古都音は。警察官も倒しちゃって大変でしたね……」
いや、洒落になってないよね? 笑い事でもない。公務執行妨害罪じゃん。
警察官、弱くなってるんじゃない? そうに決まってる。
私はぐりぐりされた頬をさすりながら、オムライスを口にした。
私は恥をかかされた原因である正道に、文句の一つを言いたかった。
私は一部屋、一部屋、確認していく。って言っても、部屋数は少ないので、すぐに正道の部屋はどこか分かった。
私はそっと部屋を開けると……いた。
正道は私に背を向け、机に座っている。あの手の男の子って、どうせ胸の大きいグラビアとか見てるんでしょう。いやらしい。あんな大きな脂肪の何がいいわけ?
私は忍び足で正道の背中に近づくと……。
「……なにこれ?」
「!」
正道が机でしていたことは……勉強?
「いや、おかしいでしょ! 真面目かっ!」
「お前は何なんだ! ノックもなしにいきなり近づくなんて!」
信じられない! 不良が真面目に勉強? インテリか!
漫画で見たことがある。
こういった不良は、頭を使って酷いことをする最も危ない人達。喧嘩は弱いタイプなんだけど、正道もそうなの? その大きな体は見せかけ?
そんなわけがない。おじいちゃんやお母さんの血を引いていて、弱いわけがない。
まあ、喧嘩が強いかどうかは別として、不良が真面目に勉強するとかありえないわ。
私が正道の化けの皮を剥いであげる。
「ねえ、正道。アンタ、どんな悪をしたの?」
「悪って……しかも、呼び捨てかよ」
「私の質問に答えなさい。ネタはあがってるのよ! 正道、アンタは何か悪さをしてここに連れてこられたんでしょ? 更生のためにおじいちゃんの家に居候してるんでしょ!」
私はビシッと正道を指さす。
お昼ご飯のとき、正道の両親らしき人はいなかった。つまり、正道は私のように里帰りしているワケではない。
それならば、なぜ、正道はここにいるの?
それはきっと、正道が何らかの問題を起こして、両親の手に負えなくなってここに来たと考えるべき。おじいちゃんに更生される為に。
灰色の脳細胞をもつ、私の推理に恐れおののきなさい! でも、どうして灰色なの?
「……お前に関係ないだろ? ガキはとっとと出て行け」
「図星だから言い返せないわけ? それとも開き直り? 悪さばっかりしてると、田舎のおっかさんが泣いてるわよ?」
いや、ここは田舎だし、田舎の田舎のおっかさんっの方が正しいのかな?
そんなことを考えていると……。
「黙れ……」
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