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藤堂正道の奮起 一章

一話 よう、正道。あけましておめでとう その四

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 反応がない。静寂だけがおとずれる。
 俺はもう一度、マヌケ達に呼びかける。

「モヒカンにカリアゲ、金髪! カーブミラーに映ってるぞ!」

 根拠を示したら、ようやく隠れていた野郎共が出てきた。
 三人だけでなく、四人、五人、六人と……おおっ、わらわらとわいてきやがった。
 十五人か……多いな。
 コイツら、誰にでもかみつきそうな尖った目をしてやがる。それに、何人かは武器を所持している。
 木刀や鉄パイプ、極めつけはモデルガンか? 喧嘩に飛び道具を使うなんて、青島の不良ではなさそうだ。

 青島の不良は基本、素手だ。
 己の力を信じ、真っ向勝負でたたきのめす。これが青島の不良の心情だ。
 だから、武器に頼るコイツらは違う。
 野郎が雁首がんくびそろえて俺に会いに来るなんて、ろくな用事じゃないな。
 一応聞いておいてやるか。

「何か用か?」
「お前が藤堂君?」

 不良のリーダーらしき男が俺の前に出てくる。
 チャラいな。サングラスに首にチェーン、冬なのに派手な半袖シャツを着てやがる。
 声に迫力がなくてつい、笑いそうになったが、気を引き締める。

「そうだが」
「俺達にはさ、理想があるわけ」
「理想?」
「青島に革命を起こし、理想郷を作っちゃうみたいな?」

 革命? 理想郷? 何を言ってやがる?
 俺は目の前の男が厄介な人物であることを認識する。
 目の前の男は喧嘩慣れしていそうだが、御堂や朝乃宮、潤平に比べれば、たいしたことはない。俺でも勝てるレベルだ。
 俺が問題視しているのは、目の前の男は明らかに何か目的意識があり、それを叶えるための力、数をそろえていることだ。

 数は力だ。そして、目的意識があると、それを実現させるために過激な行動もさない。
 特に革命だ理想郷だと酔いしれているヤツは何をしでかすか分からない。最悪、まともな話し合いは期待できないだろう。
 話し合いが出来ないのであれば、どうなるのか。
 野郎共はうっすらと笑みを浮かべ、俺に近づいてくる。

「俺達の計画に藤堂君は邪魔なわけ。分かる?」
「俺に喧嘩を売っているって事か?」
「そういうこと。邪魔者を排除できるし、不良狩りの藤堂君やっちゃったら、名も上がるでしょ? 一石二鳥でテンアゲっしょ」

 チャラいヤツとは別の男が俺にいきなり殴りかかってきた。俺は気持ちを切り替えていたので、あせることなく、遠慮することなく、前に出る。
 男の右ストレートをかわしざま、男の顔面目掛けて手を伸ばし、鷲づかみにする。

「うぉおおおおおお!」

 俺は男を体ごとフェンスに叩きつける。体勢を崩した男の腹に膝蹴りをかましたあと、無防備になった背中に肘鉄を叩きつける。
 まずは一人。

「俺は慈悲深い。逃げるヤツには手を出さないでやる。たたきのめされたいヤツは前に出ろ!」

 一喝してやると、野郎共は浮き足立っていた。
 やはり、青島の不良じゃないな。青島の不良なら、我先に襲いかかってくるのだが。
 だとしたら、コイツらは一体……。

「マジぱねぇ、藤堂君。マジうけるわ。ガチでいくわ」

 チャラい男が両手をポケットに入れながら近づいてくる。
 隙だらけだ。
 もちろん、俺は射程距離にチャラい男が入ってきたら、殴りとばす。
 後、三歩、二歩、一歩……。

「くっ!」

 顔面に、鼻先に風が吹き付ける。
 チャラい男はポケットに手を入れたまま、回し蹴りを俺の顔面目掛けて放ってきたのだ。俺は咄嗟に体を後ろに倒し、かろうじて回避できた。
 やはり、コイツだけは別格だ。
 まるで鞭のようにしなる蹴りを連続で繰り出してくる。

 俺は頭と急所をかばうようにして防御を固める。
 ヤツの足が俺の腕にぶつかったとき、しびれるような痛みを感じた。攻撃自体軽いが、何度も受けたら赤く腫れそうだ。
 俺は相手を黙らせるために、わざと大ぶりの攻撃をかます。相手を殴る事が目的ではない。相手と距離をとるための攻撃だ。
 右の振り下ろしにチャラい男はバックステップで距離をとる。いったん区切り直しといきたかったが……。

「くたばれ!」

 俺の背後から別の男が木刀を振り下ろしてきた。
 俺は両手を頭にガードをまわし、体に力を入れる。
 木刀が俺の背中に叩きつけられる。痛みはあるが、動けないほどではない。
 ここで動きを止めたら、集中砲火を浴びてしまう。
 だから、俺はすぐさま裏拳で木刀を持った男の鼻っ面にたたき込む。
 鼻を殴ると、涙が出たり、鼻水、鼻血が出るからな。自分が思っているよりもダメージが大きいのだ。

 案の定、木刀の男は動きを止め、鼻血を止めようとしている。喧嘩の最中に絶対にみせてはいけない隙だ。
 俺は肘を相手の喉元にたたき込む。
 むせかえる不良に、俺は姿勢を低くし、体当たりで吹き飛ばした。

 これで二人。先はまだ長い。
 一人ではかなわないと思ったのか、今度は二人がかりで襲いかかってきた。

「死ねや、藤堂!」

 助走をつけた右ストレート。
 威力は高いが、大ぶりすぎる。
 俺は体ごと横へ移動し、一人目の男の攻撃をかわしつつ、両手で横から男を押し出す。押し出された男がもう一人の男とぶつかり、二人の動きが止まる。
 俺は無防備な男の背中を思いっきり蹴りつけた。二人はフェンスに顔からぶつかり、崩れ落ちる。
 座り込んだ男達の顔面を、思いっきり蹴り飛ばした。

 これで四人。
 俺は近くにあった自転車を掴み、そのまま持ち上げる。

「お、おい、嘘だろ……」
「や、やめろ!」

 止めろと言われて、止めるヤツがいるか。
 俺は自転車を不良目掛けて投げ飛ばす。
 一人の不良が自転車にぶつかり、下敷きになる。自転車に気をとられている男達に俺は両手でラリアートをぶちかました。
 俺は自分の立ち位置を確認する。周りを不良に囲まれている。このままだとボコられて終わりだ。だから、その前に……。

「はぁああああ!」

 拳を力任せにコマのようにふりまわし、相手の顎やテンプルに叩きつける。
 これで二人、三人は倒せた。この調子であと一人くらい……。

「!」

 俺は反射的に顔を背け、横から飛び出してきた蹴りをかろうじてかわす。チャラい男の鋭い蹴りに、俺は舌を巻いた。
 せっかくのチャンスを嫌なタイミングでつぶしてきやがる。
 俺は後ろにいた不良を蹴り飛ばして、後ろに下がる。ようやく、囲いから脱出できた。俺は軽く息を吐く。

 倒れているのは十人。残りは五人。
 半分以上減らされ、野郎共は完全に及び腰になっている。このまま逃げてくれれば御の字なんだが……。

「ねえ、藤堂君。今、勝てるって思わなかった? マジ、ないから」

 俺は血の気が引くのを感じていた。
 援軍か?
 チャラい男の後ろから、更に野郎が十人現れた。
 なるほどな、コイツの余裕の態度はここからくるのか。
 相手は弱いかもしれないが、こっちは一人だ。体勢を崩したり、隙をみせたら、一気にフルボッコにされてもおかしくない。

 不味いな、これは……。
 俺は相手を倒す事よりも防御に徹する作戦に切り替えるべきか、考え直す。
 これだけの数で喧嘩しているのだ。誰かが警察に通報し、警察官が来るかもしれない。
 そうなれば、強制的に喧嘩はおしまいだ。
 だが、相手はそれを許してくれなかった。

「全員で一気に襲いかかるぞ! みんなでボコれば怖くないってな」

 くそっ! 面倒なこと言いやがって。
 こうなったら、やれるだけやってやる。
 俺はボコられるのを覚悟し、前へ出ようとしたとき、足音が聞こえてきた。
 俺の後ろから走ってくる足音。

 しまった! 油断した!
 俺は背中が全く注意を向けていなかったことを悔いた。ここで後ろから反撃されるとは思っていなかった。
 致命的なミスだ。
 俺は歯を食いしばり、攻撃に備えていると、その足音は俺を通り過ぎ……。

「ぐはっ!」

 その人物は俺の前にいた不良に跳び蹴りで蹴り飛ばした。
 誰もが参入者に呆然としていた。
 野郎共は何者かと訝しんでいる。俺は、なぜアイツがこの場に来たのかを考えていた。
 喧嘩に割り込んできた人物とは……。

「よう、正道。あけましておめでとう」
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