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プロローグ
プロローグ 勝手な事、ぬかすなっ! その二
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俺と女、楓さんと義信さんは居間に集まっていた。上座には義信さん、下座には女。左側に俺と楓さんが座っている。
俺は意図的に女から距離をとった。楓さんは自分の娘が心配なのか、女のすぐそばに座っている。
やはり、母親とは子供を心配するものなのだろう。
確か、あの女は家出同然でこの家を出ていったと義信さんから聞いている。
原因は些細なことから喧嘩して、勘当同然で別れたらしい。なのに、楓さんは当たり前のように娘である女をいたわっている。
この姿こそ親子の絆なのか。それを見せつけられ、気分が悪くなる。
楓さんの愛情が別の誰かに向けられていることに嫉妬してしまう。女がここに来なければ、この嫌な光景を見ずに済んだのに……。
分かってはいたが、この女は疫病神だと思い知らされる。女がこの家に来た理由は上春の言ったとおりだろう。
「私の父と兄さんの母親が再婚することになったんです。なので、これからは私達は家族です。一つ屋根の下、みんなで仲良く暮らすんですよ!」
上春の言葉が正しければ、この女は再婚の事と俺を引き取りに来たことを話しに来たはず。阻止できなかったことに、後悔してしまう。
だが、まだ遅くないはずだ。逆にちょうどよかったのかもしれない。俺の気持ちを女にも、義信さんと楓さんにも伝えておきたい。
義信さんはぴんと背筋を伸ばし、女を見据えているが、女は義信さんと顔を合わせようとしない。
理由はきっと、義信さんに対して、いろいろと後ろめたいことがあるのだろう。
重々しい空気の中、最初に口を開けたのは楓さんだった。
「澪、何かお父さんに言いたいことがあるんでしょ? お父さん、ちゃんと聞いてくれるから。ねぇ?」
楓さんがやさしく女に話しかける。女はふてくされたまま、ぼそっと口を開く。
「……再婚することになったの」
「まぁ、それはよかった! 今日はお祝いですね、お父さん! 澪、晩御飯食べていくでしょ?」
楓さんは女の再婚に大喜びしているが、義信さんは無反応だ。
俺は何か言いようのないむかっとした気持ちが湧き上がるが、それを抑え込んだ。
我慢しろ。女が再婚しようが何をしようがどうでもいい。勝手に新しい家族を作ればいい。俺には関係のないことだ。
だが、一緒に暮らすとかありえないことを言い出したら、全力で反対してやる。
苛立ちが全く収まらず、胃が痛くなってきた。
「待ちなさい。澪、正道の事はどうするつもりだ?」
そうだ。ここが肝心なところだ。再婚するのは勝手だが、俺には関係ない。俺のことは、ほっといてほしい。
もうすぐ、俺だって社会人になる。親の保護を受ける必要がなくなる。親がいなくても生きていけるんだ。だから、母親なんていらない。いらないんだ……。
「引き取るわ。正道と新しい家族でやりなおすから」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
引き取る? 新しい家族とやりなおすだと?
頭の中が真っ白になる。
今頃……今頃になって何を……何を言い出すかと思えば……。
「……勝手な事、ぬかすな!」
俺は自分を抑えきれずに怒鳴りながら立ち上がる。
コイツ、何様のつもりだ? 今まで放置しておいて、やりなおすだと? 冗談じゃない! 冗談じゃない! 冗談じゃない!
そんなこと、絶対に認められない! 納得いかない! 断固拒否だ!
「今更どの面下げてそんなことが言えるんだ! 俺は絶対に認めないからな!」
「正道! あんたは私の子なの。言うことを訊きなさい!」
「俺の事を捨てたヤツが親面するな!」
なんなんだコイツは! 都合のいい時だけ親を気取るこの女に、俺は怒りで頭が沸騰しそうになる。
拳に力が入り過ぎて、震えているのが分かる。この拳をこの女に叩き込めたら、どれだけ胸がスカッとするか。怒りで血管が切れそうになる。
「す、捨てただなんて人聞きの悪いこと言わないで。私は正道のことを想って言ってるの。今まで何も連絡しなかったことは悪いと思っているわ。でも、分かって頂戴。私だって苦労したんだから。ちゃんと正道を迎えにくるまで頑張ってきたんだから。やり直したいと思っているのよ」
女は義信さんの顔色をうかがいながら、俺に弁明してきた。
ふざけているのか、コイツは。今は俺とお前の話だろうが。義信さんの顔色をうかがってるんじゃねえぞ。
何が分かって頂戴だ。お前だけが苦労したと思っているのか? 結局、自分のことしか考えていないだろうが。
これではっきりとした。この女は信頼に値しない。即刻、お帰りいただくしかない。
「俺の事を思っているだと? 悪いと思っているだと? やり直したいと思っているだと? だったら、どうして、お前が俺の元を去ったとき、俺の頼みを聞いてくれなかったんだ! 俺はお前達に何度も何度も頼んだよな! 別れないでくれって、俺を捨てないでくれって!」
「そ、それは正道があんなことをするから……」
あんなこととは、俺が同級生を病院送りにしたことを言っているのか? 確かにあれは俺が悪かった。だけど、それでも……。
「だから、その件については何度も謝っただろうが! なのにお前達は俺が悪いと言って、許してくれなかっただろうが! やり直す機会すらくれなかっただろうが! なのに、お前にはチャンスを与えろというのか! ざけてるんじゃねえぞ!」
我慢できねえ! 勝手すぎる!
俺は思いっきり女に怒鳴りつけた。
「いいか! お前がなんと言おうと、お前は俺を捨てたんだよ! だから、お前はもう、俺の親でもなんでもないんだ! 俺の前から消え失せろ! 二度と俺の前に現れるな!」
「わ、私は正道の親よ。親は子供と一緒にいるべきなの」
女の言葉は弱々しい。何の力も、説得力もない。
お前が俺の親だというのなら……それならば……こう言い返してやる!
「だったら、俺の父親ともう一度再婚しろ! やり直すっていうんなら、筋を通せ!」
そうだ。やり直すのなら、あの頃のように、俺の父親と母親の三人でやり直すのが妥当な判断だろうが。再婚相手とやり直すなんて道理じゃない。
「無理よ! もうあの人は別の女と結婚したのよ? 私だって他の人と結婚してもいいじゃない。我儘ばかり言わないの!」
我儘だと? だったら、お前の言い分は我儘ではないのか? 親は子供と一緒にいるべきなら、なぜ、俺は捨てられたんだ?
ダメだ……抑えきれない。この女を叩きのめしたい! この屑を全力で手加減なしで顔面を殴り飛ばしたい!
だが、俺の視界に悲しそうな楓さんがうつっている。それが抑止力になり、拳をふるえない。
悔しくて、もどかしくて拳を強く握りしめることしかできない。だから、言葉をたたきつけた。
「やかましい! いいか! お前がどこの誰と結婚しようと俺には関係ない。好きに再婚でもなんでもしてろ。だがな、俺を巻き込むな! 俺の親は……俺の家族は……義信さんと楓さんの二人だけだ! 三人も四人もいらないんだよ!」
「……正道」
新しい家族なんていらない! 必要ない! 親の都合に振り回されるなんて、まっぴらごめんだ! 納得いくわけないだろうが!
「正道、座りなさい」
「ですが!」
「二度同じことを言わすな」
俺は義信さんに言われるがまま、その場に座り込む。拳をぎゅっと握り、膝の上におく。
息苦しい……どうして、義信さんも楓さんもこの女を庇うんだ? 親子だからか? それなら、俺はまた捨てられるのか? 一人になるのか?
なんで、こんな思いをしなければならないんだ……俺が悪いのか……。
俺は女に殺意を込めて睨みつける。視線で人を殺せたらどれほど素晴らしいことか……。
お前さえいなければ……お前さえ……。
「澪よ、お前は正道の事を真剣に考えての決断なのか?」
「当たり前じゃない! 子は親と暮らすものでしょ! 私はただ、お父さんに正道を預けていただけ! 捨ててなんかいないわ!」
「それは澪の考えであって、正道の考えではない。だから、すれ違う。正道の顔を見てみなさい。お前の事を親として見ている顔か? 一緒に暮らしたいと思っている顔か? お前の都合を正道に押し付けるのはやめなさい」
「でも!」
「二度同じことを言わすな」
その一言で女は黙り込む。やはり、義信さんは公平だ。娘にも孫にも。
俺は頭の中を支配していた殺意が薄れていくのを感じていた。
結局、義信さんはどう決断するつもりなんだ?
女を追い出すのか? それとも、女と一緒に暮らさなければならないのか?
一緒に暮らすなんて嫌だ……やめろ……やめてくれ……俺の領域に入ってこないでくれ……俺の居場所を奪わないでくれ……頼む……。
義信さんが出した答えは……。
「澪、正道がいては話し合いにならないのは分かっているな? 一度日を改める必要がある。今日のところは出直してきなさい」
「……」
……時が止まったかと思った。たまっていたものが息と一緒に吐き出された。
よかった……少なくとも、今日はもうこの女の顔を見なくて済む。そう思っていた。
「ええっと……もう遅いというか……」
「?」
遅い? どういうことだ?
ピンポーン!
呼び鈴? 誰だこんなときに?
俺の知り合いではないだろう。なら、義信さんか楓さんの客か?
一番の可能性は宅配だ。何もこんなときに……タイミングが悪いというかなんというか。
第三者の登場で、話し合いの場の空気は消え去った。こうなってはもう、この女は帰るしかない。少しだけ胸がすっとする。
俺は玄関に向かった。
ピンポーン!
「はい、どちらさま……」
玄関を開けた手が止まる。意外な人物がそこにいたからだ。
……なぜだ? なぜ、彼女がここにいる?
目の前にいたのは……上春だ。どうして、ここに?
理由を問いかけようとしたとき……。
「キミが正道君だね?」
俺の名前を呼ぶ、人懐っこい笑顔を浮かべる男性。相手は俺の事を知っているようだが、全く見覚えがない。
俺の名前を知っているということはどこかで出会ったからか? だが、どこで? 全く思い出せない……。
「あなたは……」
男は顔を引き締め、服装を正した後、ゆっくりと告げてきた。
「はじめまして。正道君の母親、澪さんと再婚した上春信吾です。よろしくお願いします!」
あ、あの女の再婚相手だと? コイツが……再婚相手……。
俺は感じていた。これから始まる試練のようなものを。今後、どうなってしまうのか……全く予測がつかなかった。
俺は意図的に女から距離をとった。楓さんは自分の娘が心配なのか、女のすぐそばに座っている。
やはり、母親とは子供を心配するものなのだろう。
確か、あの女は家出同然でこの家を出ていったと義信さんから聞いている。
原因は些細なことから喧嘩して、勘当同然で別れたらしい。なのに、楓さんは当たり前のように娘である女をいたわっている。
この姿こそ親子の絆なのか。それを見せつけられ、気分が悪くなる。
楓さんの愛情が別の誰かに向けられていることに嫉妬してしまう。女がここに来なければ、この嫌な光景を見ずに済んだのに……。
分かってはいたが、この女は疫病神だと思い知らされる。女がこの家に来た理由は上春の言ったとおりだろう。
「私の父と兄さんの母親が再婚することになったんです。なので、これからは私達は家族です。一つ屋根の下、みんなで仲良く暮らすんですよ!」
上春の言葉が正しければ、この女は再婚の事と俺を引き取りに来たことを話しに来たはず。阻止できなかったことに、後悔してしまう。
だが、まだ遅くないはずだ。逆にちょうどよかったのかもしれない。俺の気持ちを女にも、義信さんと楓さんにも伝えておきたい。
義信さんはぴんと背筋を伸ばし、女を見据えているが、女は義信さんと顔を合わせようとしない。
理由はきっと、義信さんに対して、いろいろと後ろめたいことがあるのだろう。
重々しい空気の中、最初に口を開けたのは楓さんだった。
「澪、何かお父さんに言いたいことがあるんでしょ? お父さん、ちゃんと聞いてくれるから。ねぇ?」
楓さんがやさしく女に話しかける。女はふてくされたまま、ぼそっと口を開く。
「……再婚することになったの」
「まぁ、それはよかった! 今日はお祝いですね、お父さん! 澪、晩御飯食べていくでしょ?」
楓さんは女の再婚に大喜びしているが、義信さんは無反応だ。
俺は何か言いようのないむかっとした気持ちが湧き上がるが、それを抑え込んだ。
我慢しろ。女が再婚しようが何をしようがどうでもいい。勝手に新しい家族を作ればいい。俺には関係のないことだ。
だが、一緒に暮らすとかありえないことを言い出したら、全力で反対してやる。
苛立ちが全く収まらず、胃が痛くなってきた。
「待ちなさい。澪、正道の事はどうするつもりだ?」
そうだ。ここが肝心なところだ。再婚するのは勝手だが、俺には関係ない。俺のことは、ほっといてほしい。
もうすぐ、俺だって社会人になる。親の保護を受ける必要がなくなる。親がいなくても生きていけるんだ。だから、母親なんていらない。いらないんだ……。
「引き取るわ。正道と新しい家族でやりなおすから」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
引き取る? 新しい家族とやりなおすだと?
頭の中が真っ白になる。
今頃……今頃になって何を……何を言い出すかと思えば……。
「……勝手な事、ぬかすな!」
俺は自分を抑えきれずに怒鳴りながら立ち上がる。
コイツ、何様のつもりだ? 今まで放置しておいて、やりなおすだと? 冗談じゃない! 冗談じゃない! 冗談じゃない!
そんなこと、絶対に認められない! 納得いかない! 断固拒否だ!
「今更どの面下げてそんなことが言えるんだ! 俺は絶対に認めないからな!」
「正道! あんたは私の子なの。言うことを訊きなさい!」
「俺の事を捨てたヤツが親面するな!」
なんなんだコイツは! 都合のいい時だけ親を気取るこの女に、俺は怒りで頭が沸騰しそうになる。
拳に力が入り過ぎて、震えているのが分かる。この拳をこの女に叩き込めたら、どれだけ胸がスカッとするか。怒りで血管が切れそうになる。
「す、捨てただなんて人聞きの悪いこと言わないで。私は正道のことを想って言ってるの。今まで何も連絡しなかったことは悪いと思っているわ。でも、分かって頂戴。私だって苦労したんだから。ちゃんと正道を迎えにくるまで頑張ってきたんだから。やり直したいと思っているのよ」
女は義信さんの顔色をうかがいながら、俺に弁明してきた。
ふざけているのか、コイツは。今は俺とお前の話だろうが。義信さんの顔色をうかがってるんじゃねえぞ。
何が分かって頂戴だ。お前だけが苦労したと思っているのか? 結局、自分のことしか考えていないだろうが。
これではっきりとした。この女は信頼に値しない。即刻、お帰りいただくしかない。
「俺の事を思っているだと? 悪いと思っているだと? やり直したいと思っているだと? だったら、どうして、お前が俺の元を去ったとき、俺の頼みを聞いてくれなかったんだ! 俺はお前達に何度も何度も頼んだよな! 別れないでくれって、俺を捨てないでくれって!」
「そ、それは正道があんなことをするから……」
あんなこととは、俺が同級生を病院送りにしたことを言っているのか? 確かにあれは俺が悪かった。だけど、それでも……。
「だから、その件については何度も謝っただろうが! なのにお前達は俺が悪いと言って、許してくれなかっただろうが! やり直す機会すらくれなかっただろうが! なのに、お前にはチャンスを与えろというのか! ざけてるんじゃねえぞ!」
我慢できねえ! 勝手すぎる!
俺は思いっきり女に怒鳴りつけた。
「いいか! お前がなんと言おうと、お前は俺を捨てたんだよ! だから、お前はもう、俺の親でもなんでもないんだ! 俺の前から消え失せろ! 二度と俺の前に現れるな!」
「わ、私は正道の親よ。親は子供と一緒にいるべきなの」
女の言葉は弱々しい。何の力も、説得力もない。
お前が俺の親だというのなら……それならば……こう言い返してやる!
「だったら、俺の父親ともう一度再婚しろ! やり直すっていうんなら、筋を通せ!」
そうだ。やり直すのなら、あの頃のように、俺の父親と母親の三人でやり直すのが妥当な判断だろうが。再婚相手とやり直すなんて道理じゃない。
「無理よ! もうあの人は別の女と結婚したのよ? 私だって他の人と結婚してもいいじゃない。我儘ばかり言わないの!」
我儘だと? だったら、お前の言い分は我儘ではないのか? 親は子供と一緒にいるべきなら、なぜ、俺は捨てられたんだ?
ダメだ……抑えきれない。この女を叩きのめしたい! この屑を全力で手加減なしで顔面を殴り飛ばしたい!
だが、俺の視界に悲しそうな楓さんがうつっている。それが抑止力になり、拳をふるえない。
悔しくて、もどかしくて拳を強く握りしめることしかできない。だから、言葉をたたきつけた。
「やかましい! いいか! お前がどこの誰と結婚しようと俺には関係ない。好きに再婚でもなんでもしてろ。だがな、俺を巻き込むな! 俺の親は……俺の家族は……義信さんと楓さんの二人だけだ! 三人も四人もいらないんだよ!」
「……正道」
新しい家族なんていらない! 必要ない! 親の都合に振り回されるなんて、まっぴらごめんだ! 納得いくわけないだろうが!
「正道、座りなさい」
「ですが!」
「二度同じことを言わすな」
俺は義信さんに言われるがまま、その場に座り込む。拳をぎゅっと握り、膝の上におく。
息苦しい……どうして、義信さんも楓さんもこの女を庇うんだ? 親子だからか? それなら、俺はまた捨てられるのか? 一人になるのか?
なんで、こんな思いをしなければならないんだ……俺が悪いのか……。
俺は女に殺意を込めて睨みつける。視線で人を殺せたらどれほど素晴らしいことか……。
お前さえいなければ……お前さえ……。
「澪よ、お前は正道の事を真剣に考えての決断なのか?」
「当たり前じゃない! 子は親と暮らすものでしょ! 私はただ、お父さんに正道を預けていただけ! 捨ててなんかいないわ!」
「それは澪の考えであって、正道の考えではない。だから、すれ違う。正道の顔を見てみなさい。お前の事を親として見ている顔か? 一緒に暮らしたいと思っている顔か? お前の都合を正道に押し付けるのはやめなさい」
「でも!」
「二度同じことを言わすな」
その一言で女は黙り込む。やはり、義信さんは公平だ。娘にも孫にも。
俺は頭の中を支配していた殺意が薄れていくのを感じていた。
結局、義信さんはどう決断するつもりなんだ?
女を追い出すのか? それとも、女と一緒に暮らさなければならないのか?
一緒に暮らすなんて嫌だ……やめろ……やめてくれ……俺の領域に入ってこないでくれ……俺の居場所を奪わないでくれ……頼む……。
義信さんが出した答えは……。
「澪、正道がいては話し合いにならないのは分かっているな? 一度日を改める必要がある。今日のところは出直してきなさい」
「……」
……時が止まったかと思った。たまっていたものが息と一緒に吐き出された。
よかった……少なくとも、今日はもうこの女の顔を見なくて済む。そう思っていた。
「ええっと……もう遅いというか……」
「?」
遅い? どういうことだ?
ピンポーン!
呼び鈴? 誰だこんなときに?
俺の知り合いではないだろう。なら、義信さんか楓さんの客か?
一番の可能性は宅配だ。何もこんなときに……タイミングが悪いというかなんというか。
第三者の登場で、話し合いの場の空気は消え去った。こうなってはもう、この女は帰るしかない。少しだけ胸がすっとする。
俺は玄関に向かった。
ピンポーン!
「はい、どちらさま……」
玄関を開けた手が止まる。意外な人物がそこにいたからだ。
……なぜだ? なぜ、彼女がここにいる?
目の前にいたのは……上春だ。どうして、ここに?
理由を問いかけようとしたとき……。
「キミが正道君だね?」
俺の名前を呼ぶ、人懐っこい笑顔を浮かべる男性。相手は俺の事を知っているようだが、全く見覚えがない。
俺の名前を知っているということはどこかで出会ったからか? だが、どこで? 全く思い出せない……。
「あなたは……」
男は顔を引き締め、服装を正した後、ゆっくりと告げてきた。
「はじめまして。正道君の母親、澪さんと再婚した上春信吾です。よろしくお願いします!」
あ、あの女の再婚相手だと? コイツが……再婚相手……。
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