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十章

十話 真相 その三

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 四人がお互いの罪を認め合い、泣き止んだとき、彼女達は少しテレくさそうに笑っていた。
 会話がぽつりぽつりと交わされ、笑顔が広がっていく。
 平村達は失われた時間を取り戻すように、おしゃべりに花を咲かせていた。
 俺としてはこの場を去って、左近に報告と行きたいのだが、まだ一つ重大な謎が残っている。それを解決しないことには、この事件に幕を下ろすことが出来ない。
 気が引けるのだが、俺は司波に話しかけた。

「すまない、司波さん。少し話を聞かせてくれないか?」
「話? それってナンパ?」

 なぜ、そうなる?
 案の定、俺は周りの女子から睨まれてしまう。
 つくつぐ思うのだが、俺は女子に恨まれているのか?
 確かに人に恨まれやすい性格だが、初対面の人間にからかわれる所以ゆえんはないぞ。

「ごめんごめん、ジョークだから。それにしても、奏水の趣味も相変わらずね」
「……待って。言っている意味、分からないから」

 本当にコイツらは……話が進まないだろうが。
 だが、笑顔で冗談を言い合えているということは、仲は問題なさそうだと安堵してしまう。

「悪い、真面目な話なんだ。俺としては腕時計盗難事件についてはまだ未解決の部分がある。だから、教えて欲しいんだ」
「何が知りたいの?」

 俺は白部の鞄から平村の鞄に腕時計が移動した方法を知るべく、司波に尋ねる。

「腕時計を盗む計画は二人でたてたのか? もしかして、まだ共犯者がいるのではないか? そいつが今回の一件を立案したのではないか?」
「べ、別に誰もいないから。私達で考えたから。そうだよね、瑠々」
「う、うん! 間違いないよ!」

 二人の挙動が怪しい。明らかに嘘をついている態度だ。
 そうは思っても、俺の推測なので問い詰めることが出来ない。あくまで任意での事情聴取となる。
 どうにかして、二人の口から共犯者の名前をききだしたい。どうすれば……。

「ねえ、藤堂先輩。もしかして、私の鞄から真子の鞄に腕時計が移動したことを確認しているの?」
「そうだ。白部さんの潔白を証明するためにも、全てを明らかにしておきたい」

 腕時計を盗んだ方法は分かったが、白部の鞄から平村の鞄に腕時計が移動した謎が残っている。
 腕時計が移動した時間は、白部が自分の鞄に腕時計を入れてから、白部達の担任の先生が平村の鞄から腕時計を見つけるまでの間だ。
 そのとき、髙品は保健室、司波は更衣室にすら入っていない。つまり、二人には犯行が不可能なのだ。
 だとしたら、もう一人、共犯者がいる事になる。その人物こそ、俺は今回の一件の全ての黒幕だと確信している。

「……そのことなんだけど、もういいよ。私が犯人じゃないって真子に証明しただけで満足しているから」

 白部の提案に、俺はらしくないと思ってしまった。白部なら、全ての真実を明らかにしたいと思っていたのだが、俺の思い過ごしか?
 俺としては最後まで事実を追求するべきだと思うのだが、白部が望んでいない以上、やめるべきなのかもしれない。

 白部としてはせっかく親友と仲直り出来たのに、これ以上事実を追求することでまた不仲になることを恐れているのだろうか?
 だが、その考えはまるで……。
 この難題を、意外な人物が意外な方法で教えてくれた。その人物は……。

「あっ! 思い出しました!」

 平村の大きな声に、俺達は虚を突かれてしまった。
 俺はつい、平村に尋ねてしまう。

「何を思いだしたんだ?」
「荷物検査の件です! やっぱり、一番左から右に向かって先生が、一番右から左に向かって美花里ちゃんが荷物検査を始めたんですよ!」

 平村の言葉に、俺は首をかしげる。
 平村の言いたいことは、腕時計が盗まれた事が判明したとき、井波戸と井波戸達の担任の先生が荷物検査したときの話だ。

 白部の話では一番左から右に向かって井波戸が、一番右から左に向かって担任の先生が荷物検査したとのこと。
 白部達の鞄がロッカーの並びから見て、真ん中より右側にあったことから、距離的に近い担任の先生が腕時計を見つけた。

 この意見に平村が異を唱えた。
 一番左から右に向かって担任の先生が、一番右から左に向かって井波戸が荷物検査をしたと言い出したのだ。
 平村の意見が正しい場合、腕時計を見つけるのは井波戸のはずだが、実際には担任の先生が腕時計を見つけたため、白部の意見が正しいと結論づけたのだが、平村は納得していないようだ。

「平村さん、さっきもそのことで話し合ったが、平村さんの言うとおりだと、腕時計を発見したのは井波戸さんになるのではないか? それとも、荷物検査の調査にスピード差があって、先に担任の先生が見つけたと言いたいのか?」
「違います! 荷物検査は二回されたんです!」
「二回……だと?」

 俺は背筋が寒くなるような衝撃を受けた。
 平村はそんな俺の様子に気づかず、思い出したことが嬉しかったのか、意気揚々と話し出す。

「はい! 最初は一番左から右に向かって先生が、一番右から左に向かって美花里ちゃんが荷物検査をしたんですけど、そのときは腕時計が見つからなかったんです。腕時計が出てこないことに結菜ちゃんが猛抗議したんです。そこで美花里ちゃんがもう一度荷物検査を提案したんですけど、今度は一番左から右に向かって美花里ちゃんが、一番右から左に向かって先生が荷物検査をしたんです。もしかして、見落としがあるかもしれないから、今度は入れ替わって探してみましょうって。それで先生が腕時計を発見したんです!」
「それは……本当なのか?」
「はい! 間違いないです!」



 ここまで話し終えたとき、先ほどとは打って変わって、重苦しい静寂が訪れていた。
 理由が分かってしまったからだろう。誰が白部の鞄にあった腕時計を平村の鞄に入れたのかを。
 俺はその犯人がはっきりと分かったとき、なぜ、司波と髙品が共犯者を隠そうとしたのか、白部が捜査を切り上げようとしたのか、理解できた。
 司波と髙品はその人物をかばうために……。

 白部は信じたくなかったのかもしれない。親友と思っていた人物が、いつも自分を気にかけてくれた人物が、実は濡れ衣を着せた張本人であることを。
 俺は司波達の時と同じように、本人の口から白部達に事実を語って欲しくてその人物を屋上へと呼び出した。

 ただ、その人物が素直に白部達に真実を話すとは思えなかったので、まずは俺達風紀委員が話をすることにしたのだ。
 俺は胸ポケットにあるペンをカチカチといじる。その後、俺はその人物に問いかける。
 お前がこの事件を仕組んだ犯人なのかと。

「……白部さんの鞄から平村さんの鞄に腕時計を入れたのはお前だな、全ての黒幕である……井波戸さん」

 俺は井波戸にお前が犯人だと突きつけた。
 井波戸は……唇を緩ませ、笑っていた。

「ちょ! ちょいちょいちょいちょいちょい! ちょい待った! えっ? 美花里が犯人って何なの? 黒幕って何? 美花里は二人の仲を一番気にしてたじゃん。どうして、そんな結論になっちゃうわけ?」

 庄川は混乱したように、疑問を俺にぶつけてくる。
 俺は井波戸がなぜ、黒幕と言ったのか、理由を話す。

「庄川君、思い出してくれ。そもそも、結菜さんが腕時計を持ってくるきっかけになったのはなぜだ?」
「そりゃ……確か結菜さんと司波さんが口論になって……美花里が……」

 庄川の言葉が途中で止まってしまう。言っていて気づいたのだろう。結菜と司波が腕時計の事で口論になったとき、誰が腕時計を持ってくれば証明できるとたきつけたのか。

「いやいや、それだけで決めつけるのは……」
「そもそも腕時計を持ってこなければ、この事件は起きようがなかった。違うか?」

 この事件の舞台を整えたのは井波戸だ。井波戸の一言さえなければ、事件は発生することはなかったのだ。

「いや、そうだけど……」
「暴論だわ」

 ずっと黙っていた井波戸がここにきて口を開いた。
 井波戸の口調には、まるで挑戦状を叩きつけるような強い口調が含まれている。
 やはり、司波達のようにはいかないか……。
 俺は腹に力を込め、井波戸と対峙する。

「私が腕時計を持ってくるように言ったのは、結菜と莉音の喧嘩を止めるために言ったの。他に他意はないわ。それに、腕時計を盗んだのは莉音達でしょ? 私は関係ない。それとも、莉音達が私も犯行に関わっていたことを自白したの?」
「いや、していない」
「でしょ」

 井波戸は勝ち誇った顔をしている。
 結局、司波達の口から井波戸が腕時計盗難事件に関わっていることを聞き出せなかった。
 ならば、証明しなければならない。井波戸がこの件に関わっている証拠を。

「み、美花里の言う通りじゃん。だ、大体、この事件って何で起こったわけ? 結菜さんの腕時計を妬んで司波さん達が盗んだのは分かるけど、どうして、真子っちゃんの鞄に腕時計を入れたわけ? 親友でしょ?」

 犯行の動機。
 庄川の疑問こそ、俺は井波戸が司波達をそそのかすことの出来た、司波達が犯行を決意した理由であると確信している。
 動機はきっと平村への恨みや怒りといった負の感情だと推測される。平村の性格から考えて、知らず識らずのうちに司波達の恨みを買ってしまったのだろう。
 では、犯行の動機とは……。
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