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最終章
??話 ユーカリ -再生-
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×××
頭痛が止んだ。吐き気が止まった。
いつもどおりだ。屋上で俺は一人、景色を見ていた。
海に沈む太陽は、空を黄金色に染め、一日の終わりを告げようとしている。テスト期間に入っているので、ここには誰もいない。
だからこそ、俺はここであることを考えていた。
伊藤ほのか。
獅子王先輩がアメリカに留学した日、伊藤に別れを告げられた日から一週間がたった今も、伊藤は俺の前に姿を見せない。言葉通り、伊藤は俺の前から去っていった。
最初は厄介者扱いだった。伊藤とは意見が合わず、小言ばかり言っていた気がする。だが、伊藤は少しずつ成長し、俺を追い越して、先に進んでいってしまった。
伊藤はどうしてああも強いのだろう。自分の気持ちを押し殺して、俺の為に身を引いてくれた。
なのに、俺はいったい何をしているんだ? 伊藤の為に俺は何が出来たのだろう? もう答えは分からない。答えを得る機会を永遠に失ってしまった。
御堂、伊藤……なぜ、あんなに魅力的な女の子が俺なんかを好きになってくれるのだろうか?
御堂は今も俺の傍にいてくれる。適当な距離をとって、俺が傷つかないよう、支えてくれている。
なのに、俺は今も御堂から逃げ続けている。御堂の想いから目をそむけている。そして、待っているのだ。御堂と別れる時を。
後一年ちょっとで、俺達は高校を卒業する。御堂がどう頑張っても入学できない大学に進学し、進路を理由に距離を置き、自然消滅するのを待ち望んでいる。
そんなことを考えている自分に吐き気がする。
だが、逃げることの何が悪いというのか。逃げてはいけないなんて挫折したことのないヤツが言えるセリフだ。
世の中、どうにもならないことはある。逆にどうにかできることの方が少ないはずだ。
どうにもならないことから逃げて、諦めるのも一つの解決策だと俺は思っている。
なんにでも立ち向かわなければならないなんて、納得がいかない。他人ができるからといって、自分にできるなんて見当違いもいいところだろう。
今日も日が沈んでいく。同じ日が、変わることのない日常が続いていく。
もうすぐ年が明けるが、きっと何も変わらない。嵐が去っていくのを俺はじっとやり過ごすことしかできないんだ。
でも、それでもいいだろ?
誰に許しを得ているのか自分でも分からない。御堂になのか、伊藤になのか。
言い訳ばかり重ねるのが得意になってしまった。本当に情けない。ここにいても仕方ないな……もう、帰ろう。
屋上に吹き抜ける風は冷たく、本格的な冬が訪れようとしている。街路地の木の葉は枯れ落ち、新しい生命は次の春がくるのをじっと待っている。
だが、俺にやってくる春はなく、この寒い冬をじっと耐えていくことに慣れてしまった。
だから、俺は春を望まない。新しい出会いも、つながりもいらない。一人がいい。
俺は諦めていた。だから、気づかなかった。冬は体温を奪う寒さだけでなく、本人の意思に関係なく生命を強奪することを。
強奪されれば、待ち受けている運命は死しかないということを。
どんなに辛くても、その運命に抗い続けなければならないことを。
そして、冬は必ず終わることを。
がちゃ!
屋上のドアが開く音がする。誰か来たのか?
俺はドアの方を見ると、そこには俺のよく知る生徒がいた。
だが、こんな遅い時間に何の用だ? それに、いつも一緒にいるアイツがいない。どういうことだ?
その生徒は俺に近づき、とんでもないことを口走った。
それは、これから起こる波乱の幕開けとなる。
そして、これから続く日々は俺の贖罪の物語。そして、再起の軌跡。
「一緒に帰りませんか? 兄さん」
×××
- To be continued -
頭痛が止んだ。吐き気が止まった。
いつもどおりだ。屋上で俺は一人、景色を見ていた。
海に沈む太陽は、空を黄金色に染め、一日の終わりを告げようとしている。テスト期間に入っているので、ここには誰もいない。
だからこそ、俺はここであることを考えていた。
伊藤ほのか。
獅子王先輩がアメリカに留学した日、伊藤に別れを告げられた日から一週間がたった今も、伊藤は俺の前に姿を見せない。言葉通り、伊藤は俺の前から去っていった。
最初は厄介者扱いだった。伊藤とは意見が合わず、小言ばかり言っていた気がする。だが、伊藤は少しずつ成長し、俺を追い越して、先に進んでいってしまった。
伊藤はどうしてああも強いのだろう。自分の気持ちを押し殺して、俺の為に身を引いてくれた。
なのに、俺はいったい何をしているんだ? 伊藤の為に俺は何が出来たのだろう? もう答えは分からない。答えを得る機会を永遠に失ってしまった。
御堂、伊藤……なぜ、あんなに魅力的な女の子が俺なんかを好きになってくれるのだろうか?
御堂は今も俺の傍にいてくれる。適当な距離をとって、俺が傷つかないよう、支えてくれている。
なのに、俺は今も御堂から逃げ続けている。御堂の想いから目をそむけている。そして、待っているのだ。御堂と別れる時を。
後一年ちょっとで、俺達は高校を卒業する。御堂がどう頑張っても入学できない大学に進学し、進路を理由に距離を置き、自然消滅するのを待ち望んでいる。
そんなことを考えている自分に吐き気がする。
だが、逃げることの何が悪いというのか。逃げてはいけないなんて挫折したことのないヤツが言えるセリフだ。
世の中、どうにもならないことはある。逆にどうにかできることの方が少ないはずだ。
どうにもならないことから逃げて、諦めるのも一つの解決策だと俺は思っている。
なんにでも立ち向かわなければならないなんて、納得がいかない。他人ができるからといって、自分にできるなんて見当違いもいいところだろう。
今日も日が沈んでいく。同じ日が、変わることのない日常が続いていく。
もうすぐ年が明けるが、きっと何も変わらない。嵐が去っていくのを俺はじっとやり過ごすことしかできないんだ。
でも、それでもいいだろ?
誰に許しを得ているのか自分でも分からない。御堂になのか、伊藤になのか。
言い訳ばかり重ねるのが得意になってしまった。本当に情けない。ここにいても仕方ないな……もう、帰ろう。
屋上に吹き抜ける風は冷たく、本格的な冬が訪れようとしている。街路地の木の葉は枯れ落ち、新しい生命は次の春がくるのをじっと待っている。
だが、俺にやってくる春はなく、この寒い冬をじっと耐えていくことに慣れてしまった。
だから、俺は春を望まない。新しい出会いも、つながりもいらない。一人がいい。
俺は諦めていた。だから、気づかなかった。冬は体温を奪う寒さだけでなく、本人の意思に関係なく生命を強奪することを。
強奪されれば、待ち受けている運命は死しかないということを。
どんなに辛くても、その運命に抗い続けなければならないことを。
そして、冬は必ず終わることを。
がちゃ!
屋上のドアが開く音がする。誰か来たのか?
俺はドアの方を見ると、そこには俺のよく知る生徒がいた。
だが、こんな遅い時間に何の用だ? それに、いつも一緒にいるアイツがいない。どういうことだ?
その生徒は俺に近づき、とんでもないことを口走った。
それは、これから起こる波乱の幕開けとなる。
そして、これから続く日々は俺の贖罪の物語。そして、再起の軌跡。
「一緒に帰りませんか? 兄さん」
×××
- To be continued -
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