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二十六章

二十六話 カミツレ -苦難の中の力- その四

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「みなさん、私の呼びかけに集まっていただきありがとうございます。時間がありませんので、さっそく会議を始めたいと思います」

 次の日の放課後、私は出し物を却下されたグループの代表者を集め、風紀委員室に集まってもらった。
 獅子王さん達の出し物の代表者としては私が参加している。代表者以外にも丸井先輩率いる青島祭実行委委員の人達にも来てもらった。

 風紀委員室に会議テーブル(長細い机)を四台、長方形になるように並べている。私と先輩は上座に座らせていただいています。
 私は出し物参加者に一枚の紙を渡していく。渡し終えたら、すぐに説明に入った。

「みなさんに協力していただきたいのは、今お渡しした紙、出し物の申請書に必要事項を書いてください」
「ちょっと待て。今更書き直してどうするつもりだ? それにエントリーはもう締め切っているぞ?」

 会議に来ていた二上先輩が質問をはさんでくる。
 確かに、出し物を却下されたのにまた申請書を出すことに疑問を持たれるのは当たり前だと思う。その疑問に答えるべくこの会議の趣旨しゅしを説明する。

「もう一度、申請します。まずはこの紙を見てください」

 私は一枚の紙を取り出す。その紙はこの騒動の始まりである、通知書。
 この通知書で浪花先輩の停学と青島祭実行委員長の解任、いくつかの出し物の出場停止が載せられていた。

「通知書ね。それがどうしたの、ほのか?」
「るりか、この通知書の一番下をみて。『上記の決定について、異議、異論がある場合は処分決定通知後、一週間以内に再審査を請求することが可能』って書いているでしょ? この制度を使って出し物のエントリーを認めさせるの」

 これが私の考えた案。
 この通知書を出したのは新見先生で、私達に理由を述べてくれたけど、やっぱり私見だと思う。
 クラスや部の出し物は認めているのに、有志の出し物はすべて却下されている。
 青島祭実行委員の人にエントリーシートをみせてもらたけど、先生の言うような不出来なものではなかった。
 クラスの出し物用に書かれたエントリーシートの方がお粗末な内容だったものもある。
 なのに、ちゃんと書かれたエントリーシートが却下されているのは納得いかない。

 一番腹が立ったのは、獅子王さん達の出し物が一番初めに却下された欄に記載されていたこと。悪意があるとしか思えない。
 浪花先輩が新聞部を使って指摘したのは、馬淵先輩達の事。獅子王さん達は何も関係ない。
 なのに、獅子王さん達の出し物を最初に、目立つように書いているのはおかしい。

 獅子王さん達は何とも思っていないみたいだけど、獅子王さん達を見てきた私はこのやり方に我慢できなかった。
 先生の権限を振りかざして、生徒を黙らせる方法なんて許せない。
 だから、私は正々堂々と真っ向勝負することを選んだ。新見先生がルールにこだわるのであれば、そのルールの上で完膚かんぷなきまでに叩きのめしたい。

「ちょっと待て。審査するのは新見先生だろ? さっきも言ったが、エントリーシートを書いたとしても、期限切れで受け取ってもらえない可能性があるぞ。伊藤、お前にはあるのか? 受け取ってもらう方法とエントリーを認めさせる方法が」
「もちろんあります、二上先輩。受け取ってもらう方法としては嘆願書を使って訴えます。エントリーを認めさせる方法ですが、新見先生が認めざるを得ない方法を使って認めさせます」
「認めざるを得ない方法だと? どういうことだ?」

 私はその方法を説明しようとしたとき、ドアが急に開いた。みんながドアを注目する。
 入ってきたのは、新見先生!
 どうして? お呼びでないんですけど! 嫌な予感しかしない。

 新見先生は周りの生徒をゆっくりと見渡し、威圧をかけてくる。いやらしいやり方……。
 新見先生はこの集まりが何か分かっているみたい。邪魔をしに来たんだ。
 でも、いい手だ。みんな浮ついてしまっている。二上先輩は堂々としているけど、そんなのは少数だけ。

「これは何の集まりだ、伊藤?」

 私に話しかけてきた? いつもなら先輩に話しかけるのに。
 私は注意しながら新見先生の意図を読もうとする。

「新見先生の決断に異を唱える為に集まってもらいました」
「伊藤!」

 ここで初めて二上先輩が動揺どうようして、声を荒げた。多分、私の事を想って言ってくれているんだけど、決めたから。
 逃げも隠れもせずに堂々と戦うと。だから、私はみんなの前に立って、護らなきゃいけない。

「ほう? 俺の判断に異を唱えるのか?」
「はい。私は納得いきませんから」

 私は真っ直ぐに新見先生を睨む。負けない。絶対にみんなの出し物と浪花先輩を復帰させてみせる。
 新見先生は近くの生徒からエントリーシートをひったくった。

「またエントリーシートを書くつもりか?」
「はい。却下されたのなら、また書き直すまでです」
「もうエントリーの締め切りは過ぎているが?」

 そう、エントリーの締め切りは過ぎている。だからこその嘆願書。
 生徒が学園生活を送るにあたって不利益や不条理が出た場合、嘆願書を使って学園側に訴えることができる。

「それなら嘆願書を出すまでです。普通、エントリーを却下する場合、次のエントリーが間に合うようにしなきゃいけないですよね? なのに、エントリーシートを一度認めておいて、期限が過ぎてから却下するなんて理不尽ですよね? 嘆願書を出されても仕方ないと思うのですが」
「そうだな。嘆願書が出れば見ないわけにはいかないよな」

 なに……新見先生のこの余裕は。何かあるの? 嘆願書を受け取らない策が。
 嘆願書を出すには二つ条件がある。一つは生徒が学園生活を送るにあたって不利益や不条理が出た場合。今回の新見先生の行動はこれに該当する。
 もう一つの条件はこの嘆願書を出す場合、全生徒数の三分の一の賛成が必要であること。この学園には全生徒数三百ほど。つまり百の賛成数が必要となる。

 でも、こっちには馬淵先輩達とヒューズのメンバー、FLCヒューズ・ラブリー・サークルがいる。馬淵先輩達は三十人、ヒューズは九人、FLCは私が知る限り五人。私と先輩を入れて四十六人。

 今回却下された出し物は八組で計三十七人。足して八十三人。FLCのメンバーは他にもいるかもしれないし、十七人くらいなら友達や知り合いに頼めば、なんとか集めることはできる。これで計百人。

 以上の事から人数もクリア。これで正々堂々と嘆願書を出して、もう一度審議に持ち込める。

「それなら伊藤の出す嘆願書の賛同者はいるんだろうな?」
「はい。ここにいるみなさんと……」
「ほう、百五十はいるということか」
「えっ?」

 新見先生の発言に私は言葉を失った。百五十人? 百人じゃないの?
 賛同者はこの学園の三分の一でいいはず。それは生徒手帳に書かれていた。何度も何度も確認した。間違いないはず。

「新見先生。賛同者は学園の三分の一でいいはずでは?」

 先輩が私の代わりに新見先生に確認をとってくれた。新見先生は私達をバカにするように笑いながら説明した。

「話していなかったか? 浪花の件があってから、賛同者の数を変更したんだ。三分の一では少ないと判断し、半分と決まった。これは先生方も賛同してくれている」
「そ、そんな……」

 目の前が真っ暗になる。百五十人? 多い……でも、頑張ればきっと……。
 わずかに絞り出した希望を、新見先生は更に踏みにじるような言葉をかけてきた。

「それとお前達に言っておく。俺がお前たちの出し物を却下したのは、青島祭の進行を妨げるものだと判断したからだ。エントリーシートに書かれた内容を確認したところ、実現性が低くと思わざるを得なかった。これ以上、青島祭の邪魔をするのであれば、それ相応の覚悟しておけ」

 新見先生の威圧的な態度に、集まってくれた一人の男の子が尋ねた。

「か、覚悟ってなんだよ」
「そうだな、首謀者は停学、その関係者も似たような罰を与える。お前達、よく考えて行動しろ」

 新見先生のこの一言は効果覿面こうかてきめんだった。みんな、浮足立っている。マズい、なんとかこの場をおさめないと……。
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