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二十章

二十話 サボテン -燃える心- その六

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「明日香! るりか! お願い! 力を貸して!」
「また無理難題を……」
「いい加減にするし」
「そこをなんとか!」

 次の日の朝のHRで、私は何度も二人に哀願あいがんして泣きついた。馬淵先輩の前では虚勢きょせいをはっていたけど、やっぱり二百はキツい。
 二人に協力をお願いしているけど、難色を示している。獅子王さん達の事でも協力してもらって、迷惑かけちゃっているし、申し訳ないと思ってる。本当にごめん。でも、助けて。
 明日香とるりかの力を借りることさえできれば絶対にうまくいく! 二人は交友関係が広いし、彼氏たちに投票してもらったらかなりの数をゲットできるはず。

 明日香とるりかは複数の男の子と付き合っている。浮気ではなく、お互い合意のうえで遊びで付き合っている。二人はなぜか本命を作らない。何度か訊いてみたけど、はぐらかされてしまう。
 もしかして、二人は辛い失恋を経験したからつくらないとか。ふと、そんなことを考えてしまった。
 んん……そんなわけないか。私じゃあるまいし。二人は要領ようりょうもいいし、美人だし、ありえなくはないけど、想像がつかない。
 いけない、今は二人を説得しないと。

「明日香様! るりか様! お願いします! 一生のお願い!」
「ほのかの一生は何度あるの?」
「に、二回くらいかな? ほら、よく転生する話ってあるじゃん? チート級の能力をもってさ」

 私個人として、一生は一度でないと生きていくことに本気になれないんじゃないって思うんだけどね。
 一回だけだから精一杯生きることに価値が出てくる……ってテレビで言っていた。禿同はげどう

「ほのか」
「……ごめんなさい」
「我儘ばっかり言ってると、友達無くすし」
「……本当に申し訳ありません」

 ううっ、ダメか……。
 しょうがない……って思っちゃうのは失礼だよね。最近、頼りっきりだったし。
 はあ……人生って本当に難しい。一人じゃ解決できないものだらけ。だからPT組んで対応していきたいのに、人に頼りすぎると個々の力が弱っていく。ソロで頑張れなくなっちゃう。
 人生はなんて無理ゲーなの。クエストは強制で、詰めばクリア不可。運営がいないからいつまでたってもバグが修正されないし、GMコールもない。
 二人の協力は無理そうなので、計画を見直さなきゃ。

「……はあ。今回だけだからね」
「る、るりか?」

 え、うそ! るりか、手伝ってくれるの! 何? 私の事、好きなの? 私は愛してるよ、るりか!

「るりか、甘いし。ほのかを甘やかすとロクなことないし」
「ちょっと、明日香! 言っていいことと悪いことがあるでしょ!」
「言っていいことだし。男の前で見栄を張る女は同性からは嫌われるし」

 ぐうの音も出てこない。正論すぎる。
 でも、人助けだから……お願いだよ、明日香~。

「そんなチワワな目つきで見られても騙されないし」
「ううっ、明日香~」
「……今度、奢るし」
「明日香、大好き!」

 もう、明日香ったら! ツンデレなの! 女の私にしても意味ないじゃん! でも、愛してる!
 私はぎゅっと明日香に抱きつく。頬もすりすりしてあげちゃう!

「それで、私達と付き合っている男の子達に投票させたらいいってわけ?」
「うん! お願いします! 青島祭が終わったら、絶対にぜ~ったいにおごるから! それに、私の秘蔵のBL本、ヤオハライド全十三巻を……」
「分かったし。後、本はいらんし」

 やった! これで目標に大きく近づいた!
 私は心の中でガッツポーズをとる。では、次の作戦にうつりますか。



「やっほー、アコ。今、ヒマ?」
「……忙しいんだけど」
「ごめんね、少しでいいから。ダメかな?」
「……そう思うなら、たまには私達と遊びにきなさいよ。ほのかがセッテしてくれないから合コン、大変なのよ」

 アコの指摘に、私は苦笑いを浮かべ、誤魔化す。
 風紀委員に入る前は、アコ達と余所の学校と合コンしまくっていた。恋愛に憧れて、イケメンと遊びたいという気持ちがあって、いろんな男の子と遊んでいた。まだ恋を知らなかったときの事。
 合コンは、男の子がお店の予約やセッティングをやっているものと思われているけど、女の子がすることだってある。そっちのほうがいろいろと都合がいいから。

 男の子に任せると、いかがわしいところに連れていかれる可能性があり、それで大変な目にあった子の体験から、やるようになった。
 正直、クスリとか犯罪に巻き込まれるのはごめんだし。背伸びしたいのは勝手だけど、それに巻き込まないでほしい。

 合コンの時は、私がセッティング、および雑用を担当している。アコは二次会があれば、それの準備、他の子は他校との男の子のスケジュール合わせ等、役割分担をしていた。
 合コンはそれなりに楽しかった。男の子に口説かれるのはやっぱりうれしい。女の子冥利みょうりに尽きるし、綺麗になる努力が報われた気がする。

 でも、やっぱり恋をしたら、合コンは遊びだって思える。だから、アコ達とは疎遠そえんになってしまった。
 それに、男の子と遊んでいるところを先輩に見られたくない。
 他の男の子と仲良くなって、それを先輩に見られて誤解されたら、死にたくなる……そう思っておいてなんだけど、獅子王さんや馬淵先輩の事は関係ないはずだよね? 別に恋愛感情なんて全くないし。
 そう思いつつ、なぜか罪悪感を覚えてしまう。

「あははっ、ごめん。風紀委員のお仕事が忙しくて、つい」
「そう、なら別にいいんだけど。私、いくね」
「……ねえ、アコ。一年D組の長瀬君の事、知ってる?」

 どこかにいこうとしていたアコの足が止まる。
 ビンゴ! 情報通り!

「……知ってるけど。それが何?」
「ぶっちゃけ聞くね? 長瀬君の事、好きなの? もしそうなら、紹介してもいいよ?」
「……詳しく聞こうじゃない」

 フィッシュ!
 そっけないアコだけど、やっぱり女の子だね。好きな男の子の話になると無視できない。だから、細心の注意を払って対応しないと。

「なんで、ほのかが長瀬君と知り合いなの? どういった関係なの?」
「長瀬君の友達と私が知り合いなの。だから、直接面識はないの」

 長瀬君の友達とは、馬淵先輩達の同性愛者の中にいる男の子を指す。ちなみに長瀬君はサッカー部の一年生で爽やか系のイケメン。
 イケメンとイケメンはまるで赤い糸で結ばれているかのように惹かれあう。奇妙な冒険が始まっちゃうくらいに。

 馬淵先輩達がいてくれることの強みとは、同性愛者以外のイケメンと知り合う機会が圧倒的に多いこと。
 同性愛者ではなく、彼氏がいないかもしれないイケメンを女の子に紹介し、その手数料として投票してもらう。これこそが、私の第二の作戦だった。

「大丈夫なの? それ?」
「大丈夫! アコが心配することは、長瀬君への第一声だよ」
「……別にほのかには関係ないでしょ、バカ」

 おおっ! アコがデレてる! 男の子達と合コンしてもデレなかったアコが! やっぱり、恋する乙女だね。
 でもね、アコ、一つ言わせてね。

「ねえ、アコ。その恥じらう表情を女の私に見せても意味ないよ? ツンデレは異性間でしなきゃ」
「うっさい! ツンデレ言うな!」
「はいはい。それでね、アコ。お願いがあるんだけど」

 アコの表情に警戒の色が浮かび上がる。

「……何をさせる気?」
「ちょっと、これ見て」

 私は自分のスマホをみせる。
 突然の事でアコは首をかしげていた。

「? スターフィッシュ? 何これ?」
「私が応援しているサイト。これに投票してほしいの」
「……それだけでいいの?」
「もし可能なら、アコの友達にも声をかけてくれるとうれしい」
「ふうん……」

 アコが何か考えるようにじっとスマホをじっと見つめている。私はアコの回答をじっと待っていた。
 アコはスマホから目をそらし、肩をすくめた。

「ちなみにどんな出し物をするの?」
「それは秘密」
「教えなさいよ」
「ええっ~どうしよっかな? 口止めされてるし。でも、アコだし、誰にも言わないって約束してくれたら、ちょっとだけ教えてあげてもいいよ」
「……誰にも言わないから」

 ふふっ、うまく興味を持ってもらえた。誰にも言わないっていうのは、誰かにいってもいいよという女の子言葉。
 秘密を共有することは特別感がうまれ、親密になるチャンスである。まあ、これは広めてくれてもかまわない情報なので、あまり特別感はないけど、少しでも仲が良くなれれば御の字だ。
 話を終えると、アコは笑ってくれた。

「いいわよ。これくらいなら別にタダでしてあげたのに」
「ありがとう、アコ! でもね、やっぱり人にお願いするのならメリットがあったほうがいいでしょ? 紹介はさせてほしい」
「そうね。今回はありがたく報酬を頂戴しておくわ」
「それはいいけど、紹介するだけだからね。それ以降はアコが頑張りなよ」

 アコは少し困った顔をしている。私はアコの肩を軽くたたくと、その場を離れた。
 この調子で、何人かに声をかけてみるつもり。声をかけた女の子の半分が投票してくれたらもうけもの。
 さて、打つ手は多い方がいい。次の作戦も並行してためそっか。



「こんにちは。瀬尾先輩」
「げっ!」

 女の子相手にげって何よ、げって。
 嫌われていることは知っていたけど、ここまで露骨ろこつな態度をとられると傷つくな。

 瀬尾君。
 パソコン部の部長さんで、以前に問題行動が発覚した為、調査したことがあった。といっても、エッチなサイトを学園のPCで見ていただけなんだけど。
 先生に内緒にするかわりに、橘先輩は最新PCを譲り受け、私はあるプログラムを作ってもらった。そして、またもやお願いに来たのだから、嫌がられても仕方ないよね。
 それでも、瀬尾先輩の力をかりたい。だから、私は先に瀬尾部長に頭を下げた。

「迷惑をおかけしていることは分かっています。それでも、力を貸していただけませんか? お願いします!」
「……きょ、今日はやけに下手に出ているじゃないか。どういう風の吹き回しだ?」
「? 別に普通だと思うんですけど?」

 人にお願いするなら、これくらいは普通だと思うんだけど。
 そう思っていると、瀬尾先輩は気をよくしたのか、笑顔になっている。

「いや~、前は人の弱みを握ったら当たり前のように命令してきたメロ……伊藤さんが変われば変わるんだな。僕は嬉しいよ」
「……」

 瀬尾先輩、視線がどこに向いているか分かってますから。はあ、男の子って……。
 我慢よ、我慢の子よほのか。ほら、目を閉じて。

 家族で旅行にいった人津久の浜を思いだして。あの透きとおった空と海。青島みたいなリゾート地ではなく、人の手のついていない美しい光景に、私の苛立ちなんて小さいものよ。

 男の子って本当、女の子の一部分しか見てないんだから。他に見るところなんてたくさんあるでしょうに。いや、約一名、例外がいたっけ。浪花先輩が。
 みんなまとめて茨城にいけばいいのに。メロンの生産量ランキングナンバー1だし。
 そう言ってやりたかったけど、瀬尾先輩は変に感激しているみたいだし、話がしやすいから黙っておこう。

「今までのことを悔い改め、『お願いします、瀬尾先輩』ってキスしてお願いしてくれたら、話くらいは聞いてもいいよ」
「お願いします、瀬尾先輩」
「痛たたたたたた! 痛い! 痛いよ! 伊藤さん!」
「えっ? だってキスしてからお願いしてくださいって言いましたよね?」
「強制的に僕が地面にキスさせられるのはおかしい!」

 私は瀬尾先輩の言いつけどおり、瀬尾先輩の頭を鷲掴みにしたまま、地面に押し付けた。
 全く、男の子って少し甘い顔をしたらすぐにつけあがるんだから! まるで、愚弟の剛みたい! 教育が必要だよね。

「では、話をしてもいいですか?」
「こんなことされて、話なんて聞くわけないだろ!」
「お願い、せ・お・先輩」
「……仕方ないな。話してくれたまえ」

 ちょろい。甘い声で優しく耳元でささやき、胸を瀬尾先輩の腕に軽く押し付けたらすぐにのってくれた。
 こういうバカっぽいところは好きだけどね。っていうか、これが普通の反応だよね?
 同性愛者と妙に紳士っぽい男の子と関わっていると、男の子がどんなものかさっぱり分からなくなってくるし、女としての自信がなくなってしまう。
 だから瀬尾先輩の反応を見ると安心しちゃうわ~。
 瀬尾先輩の機嫌が戻った事を確認した後、さっそく本題に入る。

「実はですね、HPホームページの作り方を教えていただきたいんですが」
「HPの? 作れじゃなくて?」
「はい。お願いできませんか、せ・ん・せ・い」
「ふっ、笑止! マスターと呼べ!」
「はい、マスター!」

 私達はがっしりと握手した。やった! 成功!

「その前に報酬の事を確認しておきたい」

 うわ……真っ先に報酬の確認するんだ……。
 少しドン引きしたけど、当たり前だよね。仕事をした分の報酬はあってしかるべき。もちろん、用意はしている。

「……差し押さえたPCの返却はどうですか? 橘先輩に贈呈ぞうていしたPCは無理ですけど」
「……もう一声!」

 足元見てくるね。まあいっか。
 私は一枚のディスクを渡す。

「では、このソフトはどうでしょう?」
「? 何これ?」
「某有名RPGです。難易度が高くてやりがいのあるゲームです。しかも、ご褒美CG付き!」
「……ほう」

 瀬尾先輩がゲーム好きなのは調査リサーチ済み。しかも、難易度の高いRPGをご所望しているとのこと。最近のゲームはぬるいと豪語しているから、このゲームは絶対に喜んでもらえるはず。
 このゲームの難易度は高い。ダンジョン探索型RPGなんだけど、各ダンジョンの最奥のボスを倒すとご褒美CGがゲットできる。そのCGはかなりの見もの。BL的な意味でね!

「別にご褒美CGはどうでもいいが、キミのいう難易度が高いRPGというのが気になる。僕はそんじゃそこらのRPGでは満足できないよ」
「大丈夫です。ウィザードリの流れをむRPGですから」

 同人のソフトだけど、評判はとてもいい。一部には熱狂的なファンが存在するゲーム。
 私の回答に満足したのか、瀬尾先輩は大喜びしてくれた。

「OK。引き受けよう」
「やった! ありがとうございます、マスター!」
「……本当に変わったね、キミ。僕達のゲームをボロカス言っていた人とは思えないよ」
「あははっ」

 私は誤魔化すように笑った。前に瀬尾先輩から自作のゲームを借りて、獅子王さん達と恋のレッスンをしたことがある。
 あまり役に立たなかったこと、先輩にエッチなCGを見せてしまったことに腹が立って、怒ったことがあった。
 今はいい思い出。あのころは先輩と仲が良かったのにな……。

「い、伊藤君?」
「はい?」
「な、悩んでいるのなら、僕が話くらいはきいてあげてもいいぞ! だから、泣きそうな顔をするな! 何があったのかは知らないけど、笑った方が……いいと思うぞ」

 いけない。関係のない人まで心配かけてどうするの。
 私は無理やり笑顔を作る。

「……ありがとうございます。ですが、結構です。それよりHPの作り方を教えてください」
「……分かった。今言ったことは忘れる。それとなぜHPを作りたいのかはきかないでおくよ」
「ありがとうございます。マスター、優しいですね」
「はっはっはっ! 僕の体の半分は優しさで出来ているからな!」

 これでスターフィッシュのHPを作ることができる。個人で作ったページを学園のサーバーを使用してのせることができる。これを使って、スターフィッシュの宣伝をして、投票をうながす。
 あまり効果はないと思うけど、やらないよりはマシ。少しでも投票してもらえるようやれることはやっておきたい。
 だから、頑張らないとね。百万の為に!
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