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十七章

十七話 ヤナギ -愛の悲しみ-  その四

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 『ブラックメア・ファンタジア』



 それははるか遠い昔。空と宇宙のはざまにある異世界『オリンベア』で。
 人と妖精と精霊、魔法が共存する世界。
 そこには光の一族と闇の一族が日々、覇権争いで血を血で洗う凄惨な戦いが繰り広げられていた。
 しかばねが屍を覆い、流れた血は大地を赤く染めていく。いつ終わるかも分からない泥沼の戦いの中、一つの希望が生まれる。

 勇者。
 それは世界に光をもたらすもの。光の一族の希望。
 見返りも打算も求めず、ただ人々の笑顔の為に勇者は魔王軍と戦い続けていた。
 その強さ、快進撃かいしんげきはどんなに深い闇をもふりはらい、光の一族が夢見た平和を実現させようとしている。
 勇者の進撃に一人、また一人、彼の元に集い、より大きな力となっていく。
 勇者達は力を合わせ、数々の困難を乗り越えていき、ついに魔王との最終決戦までたどり着く。



 魔王城の最奥、威厳のある門の前で勇者達は最後の戦いに奮起していた。

「勇者、いよいよだな!」

 仲間の声に、勇者は今までの激戦を思い浮かべていた。ここにいる仲間がいてくれたから、ここまで来ることが出来た。
 勇者は様々な思いを込めて、三人の仲間に告げる。

「ああ、ここまで、本当に長かった……数々の出会いと別れを経て、多くの犠牲を払って、ここまでたどり着けた。長い道のりだったよな。ここまで来たらもう、引き返せない。みんな、頼む……俺にみんなの命を預けてくれ」

 勇者は仲間達に頭を下げる。勇者の不安げな声に、仲間達は笑顔でうなずく。

「水くせえこと言うなよ! 地獄でもどこでもついていくぜ!」
愚問ぐもんだな」
「マスターのおももくがままに」
「お前達……やっぱり、お前達は最高だぜ!」

 仲間達の言葉に、勇者はもう何も怖くなかった。これから死ぬかもしれない激戦でも、仲間がいれば、不思議とうまくいくような気がした。
 勇者は一つ深呼吸した後、魔王に通じるドアをゆっくりと力強く開けた。



 部屋の中は暗闇に包まれていた。
 静寂な空間。
 光の届かない漆黒の闇。
 何も見えないが、勇者達は感じていた。

 ――この闇の奥に、いる。

 闇の奥底から強烈なプレッシャーが勇者達の肌を通じて、びりびりと伝わってくる。
 体にまとわりつく邪悪で巨大な闇はまるで蛇に体を巻きつかれたみたいに重くのしかかってきた。
 勇者達は圧迫感で押しつぶされそうになって息苦しくなる。
 それでも、勇者一行は暗闇の奥にいる存在を睨みつける。激戦を生き抜いた彼らだからこそ、怖じけずに闘志を燃やすことが出来た。
 闇の奥から声が響いてきた。

「よくぞここまでたどり着いたな、勇者達よ。誉めてやろう」

 低い威圧感のある声が勇者達に呼びかける。それだけで膝をつきそうになる重圧を感じるが、勇者は声を振り絞り、叫ぶ。

「お前が魔王か!」

 勇者の問いに、魔王は苦笑していた。

「何を今更いまさら。分かっているのだろう? この私が何者か」

 勇者達の目の前に黒い渦が現れる。
 そこに現れたのは、禍々まがまがしい仮面と漆黒の鎧を身にまとった長身の男だった。
 勇者達はすぐにその長身の男が魔王である事を直感で理解した。
 魔王からあふれる闇のオーラに、勇者達は無意識に後退してしまう。
 勇者は足に力を込め、目の前にいる魔王を指さす。

「俺は勇者! お前を倒し、オリンベアに光と平和をもたらすものだ!」
「……勝手な言い分だな。事の発端はお前達光の一族が我が闇の一族をしいたげてきたことだと理解しているか?」

 魔王の声には静かな怒りが込められていた。
 光の一族の長が、とある闇の者の存在を認めようとせず、蔑み、見下し、悪だとレッテルを貼り、いきなり闇の一族全員を力で浄化しようとした。
 闇の一族は光の一族に蹂躙され、奴隷に堕としても尚、尊厳まで奪っていった。
 この不条理に立ち上がったのが現魔王だ。
 魔王は闇の一族をまとめあげ、自由と権利を求め、反乱を起こした。

 光と闇の一族が戦い始めてから、二百年の月日が流れた。光の一族は短命のため、ある人物が史実をねじ曲げ、全く逆の歴史を後世に伝えた。
 その為、勇者達は偽りの歴史を教えられている。それ故、勇者は魔王の言葉を信じなかった。

「デタラメを言うな! お前達が我が光の一族の大地を血と恐怖に染め上げたんだろうが! この悪魔共め! 一匹残らず殲滅してやる!」

 勇者は知っている。
 光の一族が闇の一族に蹂躙される場面を何度も何度も見てきた。
 その度に自分の無力さに涙し、後悔を積み重ねてきた。思えば、悔恨かいこん懺悔ざんげにまみれた旅だった。
 そのやりきれない想いが報われるとしたら、それは魔王を倒し、平和を手にする事だ。
 だから、勇者は命を賭けて戦う。全ての光の一族の願いを背負って。
 魔王を指さし、罵る勇者を見て、魔王は悲しげに見つめ返していた。

「……そうか。所詮しょせん、光と闇は相容れぬ存在。ならば、ここがお前達の死に場所だ!」

 魔王が手をかざすと、闇の気配が部屋中を満たす。
 魔王の手が赤黒く光った瞬間、闇が牙をむき、勇者達を覆い尽くす。闇はまるで鎖のように勇者達を拘束し続ける。

「「「ぐっあああああああああ!」」」

 拘束する力が強くなり、勇者達はその痛みのせいで悲鳴を上げる。骨まで軋む圧力に勇者達は膝をつき、ひざまづいてしまう。

「お似合いの姿だな」

 魔王に見下され、勇者は恥辱にまみれるが、闇の拘束から抜け出せず、地面にいつくばってしまう。

 地面を這いつくばるものと見下ろすもの。

 魔王と勇者達の力関係を明確に示していた。

「さて、余興よきょうは終わりにしよう。私に刃向かったことを後悔しながら死んでゆけ」
「くっ……くっそ……」

 巨大な闇の力に押しつぶされそうになったとき、勇者のポケットの中からまばゆい光があふれる。
 その光は、漆黒しっこくの闇を打ち払い、聖なる光が部屋を満たしていく。

「お、おのれ! この光は!」
「こ、これは光の女神からもらった光のオーブ! コイツが闇を払ってくれたのか!」

 光は途絶えることなく、輝き続けている。まるで、正義は不滅だと言わんばかりに力強く、あふれんばかりに光り続けている。
 そして、光を通して声が聞こえてきた。


 勇者様。この大地に光を。
 勇者様。この世界に平和を。
 勇者様。この長い戦いに終止符を。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 勇者は雄叫びを上げた。
 勇者の背には、光の一族の悲願と志半ばで散っていた戦友の願いを背負っている。
 そして、勇者の後ろには頼もしい仲間がいる。
 もう、何も恐れるものはなかった。

 勇者達を拘束していた闇は消え去り、逆に体中に力が溢れてくるのを感じていた。
 今しかない。
 四人の心が一つになる。

「勇者、今だ!」
「ああっ! みんな、いくぞ!」
「「「合点招致!」」」

 勇者達の体が光り輝く。正義の光が巨悪を討たんと激しく燃えさかる。

 赤髪の炎のように逆立った髪型の長身のイケメンが、右手の包帯をほどく。
 包帯を全てほどいた瞬間、全身がほのおに包まれ、瞳が紅に輝く。
 焔の中から光り輝く鳳凰ほうおうが姿をあらわした。
 神々しく、全長二十メートルを超える鳳凰が魔王に向かって飛翔する。

「聖眼の力をなめるなよ! 聖王焔殺鳳凰波!」

 男物短羽織姿のポニーテール侍(イケメン)が、刀を真上に上げ、ゆっくりとまるで弧を描くように残像を残して回っていく。刀が一周した時、妖刀村雨が紫色の光を帯びる。
 そして、放たれる必殺の一撃!

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす……冥途の土産に円○殺法、とくとあじわうがいい。円月○法、夢想泡沫一夜之幻!」

 白銀に身を包んだ人型戦闘機が、背中のウイングから光の粒子を放出させる。加速用バーニアで空高く飛び、急降下後、画面ドアップで目が一度光り輝く。
 高速移動したまま、大型ビームランチャーを構え、射撃体勢に入る。

「OK MASTER! SYSTEM ALL GREEN! LIMITER REMOVAL! UNLOCCK PASSWORD J・U・S・T・I・C・E JUSTICE! TARGET DEVIL LOCK ON! 『WHEN ALL OF LOVE IS JUDGED』! FIRE!」

 勇者は一度目を閉じ、ゆっくりと開く。瞳は黄金に輝き、全身が黄金のオーラに包まれる。
 その黄金の輝きに呼応するように勇者の手にしていた剣と鎧、盾、兜が真の姿に変化する。
 選ばれし者のみ真の力を解放できる晴天の剣に、白と黄金に彩られたフルプレートアーマー。名匠が生涯を掛けて鍛え上げた60cm程の円形の盾。
 その武装は真の勇気と正義の心をもつ者だけが手にできる、純白で穢れなき武具。
 完全武装した後、勇者は剣を投げ捨て、高々と拳を突き上げ、叫ぶ。

「この一撃にすべてをかける! 天帝陣聖七極星拳!」

 光り輝く勇者達の決死の一撃が閃光せんこうとなり螺旋らせんを描いて、魔王を滅ばさんと突き進む。魔王は手をかざし、闇のエネルギーを放出させて抵抗する。
 光と闇のエネルギーがぶつかりあい、激しくせめぎ合う。部屋の地面にひびが入り、めくれていく。
 大気が震え、激しくぶつかり合う轟音ごうおんが鳴り響く。
 均衡していた力は徐々に闇が押していく。

「我に敗北は許されない! 闇の一族を力ずくで従わせようとする傲慢ごうまんな者達に、膝を屈するものか! 私は闇の一族を束ねる王なのだ! 必ず我が手に勝利を掴んでみせる!」
「くっ……正義が負けてたまるか! 正義は必ず勝つ!」
「正義だと? 笑わせてくれる! 私一人よってたかって襲い掛かるお前達の行動が正義なのか! 群れなければ何もできないヤツに私が負けるはずがない!」
「一人一人の力は弱くても力を合わせれば、どんな困難だって乗り越えられるんだ!」

 光が闇を押し返そうとするが、闇の力はびくともしない。逆に光をのみこもうとする。
 勇者達は必死に抵抗するが、魔王にはまだ余裕があった。
 魔王は勝利を確信する。

「ここまでだな! 勇者達!」
「く、くそっ……ここまでなのか……」

 闇が光を覆いつくそうとしたとき。

「そこまでだ!」

 突如、魔王を後ろから羽交い絞めする者がいた。魔王は力を込めることが出来ず、押し切れない。
 勇者は魔王を羽交い絞めしている者に向かって叫んだ。

「あ、あなたは! 十五年前、生き別れになり、闇の一族として育てられ、何度も敵対してきたけれど親の形見で肉親だと分かった兄さん! 確か、俺達を庇ったせいで、裏切者として殺されたはず!」
「説明ありがとう、弟よ! 死にそうになったとき、テレポートで脱出したんだ! ふがいない兄で悪かった。せめて罪滅ぼしをさせてくれ。俺が魔王を押さえ込む、その隙に、俺ごと魔王をやれ!」
「この死にぞこないが!」

 魔王は勇者の兄を振りほどこうとするが、勇者の兄は魔王に必死にしがみつく。

「でも、兄さん!」
「やれ! 俺の事はかま……」
「分かったよ、兄さん!」
「うな……えっ?」

 勇者の兄は期待していた弟の反応と違ったため、言葉に詰まる。兄の反応を無視して、勇者は仲間に叫ぶように呼びかけた。

「兄さんの犠牲は無駄にしない! みんな、最大パワーだ!」
「「「おう!」」」
「ま、待て! 最後まで話を……」
「「「「いっけぇえええええええええええええええええええええええええええ!」」」」

 勇者達は最後の力を振り絞り、闇を打ち払おうとする。
 目を開けることができない眩い光が魔王の部屋を包み込み、勇者の兄を巻き込み、魔王に炸裂さくれつする。
 闇はかき消され、光が部屋を、城をおおっていく。
 視界が晴れると、魔王がいた場所は床、壁、すべて消し飛び、城の外の景色が見えた。暗雲が晴れ、太陽の光が勇者達を照らしていた。

「勝った……勝ったんだ!」

 勇者は思わず拳を天に向かって突き上げる。
 魔王は倒れた。これで、光と闇の争いにけりをつけたのだ。

 勇者達はつかみ取った勝利をお互いたたえあったが、仲間の一人が勇者に問いかける。

「勇者、これからどうするつもりだ?」

 勇者は魔王城から見える広大な景色を見つめながら、答えた。

「そうだな……新しい冒険に出かけるか。まだ見ぬ冒険が俺達を待っている。俺達の戦いはこれからだ!」
「「「おうっ!」」」

 部屋を出ようとしたそのとき。

ひざまずけ」

 重々しい、背筋の凍る声が響き渡った瞬間、闇が世界を覆う。底のしれない漆黒の闇が勇者を光から闇へと引きずり込む。
 魔王の強力な力に、勇者達は膝をつき、立ち上がれない。
 勇者は必死に頭を上げ、声のした方に視線を送ると……魔王が立っていた。
 魔王は傷一つなく、勇者達を見下している。

「なぜだ……なぜ生きている? なぜ、無傷なんだ!」

 会心の一撃だった。だが、キズ一つつけられなかった。その事実が勇者の心を絶望に誘う。
 魔王はなぜ、生き残ることが出来たのかを笑みを浮かべながら語る。

「言っていただろ? テレポートで脱出したと」

 魔王の横には勇者の兄がテレくさそうに立っていた。

「に、にぃさあああああああああああああああん!」
「……すまない弟よ。つい」

 勇者の兄は弟に向かって、てへぺろっと言いたげに舌を出した。勇者は兄に対して殺意がうまれた。

「終わりだな。お前達はすべての力を出し切った。もう、反抗できる力はあるまい」
「く、くそっ……ひと思いに殺せ!」

 魔王は手を勇者に向け……手を差しのばす。

「チャンスをやる。ここで死ぬか、俺の部下として新たな人生を歩むか。選べ」
「俺は勇者だぞ! 魔王の部下になど、なるもんか!」

 闇の力に抑え込まれても、勇者の目は死んでいなかった。
 魔王は悲しげな瞳で勇者に語りかける。

「俺がなぜ、光の一族の長、光の女神に嫌われているかわかるか?」
「お前が邪悪な存在で、女神様にあだなす存在だからだろうが! 光の一族の領地をいきなり攻めてきたくせに!」
「違う。お前達は女神に情報操作されている」
「じょう……ほう……そうさ?」

 勇者はたどたどしく魔王の言葉を復唱ふくしょうする。魔王はゆっくりと闇の仮面を取り外す。
 魔王の素顔は、絶世の美男子だった。絹のような美しい髪に、細く長い眉毛、くっきりとした二重、んだ瞳、鼻が高く、バランスのとれた唇、シミ一つない白い美顔に、勇者は魔王に見惚れてしまった。

「この美しい顔に嫉妬した年増の女神が嫉妬して、俺達闇の一族をしいたげてきたんだ。やめてほしければ顔を焼けと女神が要求してきた。それを断ったら、見せしめに闇の一族を虐殺ぎゃくさつしてきた。だから、俺達は戦う選択肢しかなかったんだ」
「嘘だ!」

 勇者は信じられないといった顔で反発する。魔王は疲れ切った顔で首を振る。

「本当だ。勇者よ、アルマジという種族を知っているか? 積極的に捕獲ほかくしていただろ?」
「あ、ああ。危険な種族だから私が管理するって女神様に言われて、捕獲していた」
「アルマジという植物系の一族はな、食べると美肌効果があるんだ。それに顔のシミにも効く。そこに目を付けた女神が勇者に命令して、捕獲させていたのが本当の理由だ」
「し、信じられない!」

 がんとして信じようとしない勇者に、魔王は諭すように問いかける。

「勇者よ。女神の要求に意味が分からないようなものはなかったか? 理不尽な要求ばかり言われなかったか? 断ろうとすると、胸を押し付けられなかったか? アイツは色仕掛けで押し切るタイプだからな。思い当たることはないか? 魔王と倒せば抱かせてやると言われなかったか?」
「……」

 勇者は絶望しきった顔をしている。思い当たるふしがあるようだ。

「あるようなだな」
「く、くそ! あの巨乳に騙された!」

 落ち込む勇者に魔王は優しく肩に触れる。

「勇者よ。騙されたとはいえ、お前は我が眷属を殺し過ぎた。罪は償ってもらうぞ」
「な、何をする気だ」

 魔王は勇者を押し倒し、勇者は仰向けに倒される。
 魔王の手が勇者の鎧に手をかける。勇者の光の鎧が解体されていく。勇者の鎧の上半身がすべて解体され、引き締まった体があらわになる。
 勇者の体は数々の戦いで傷だらけだった。醜い姿ともいえる。そんな勇者の体を魔王はそっと傷に手を当て、優しく撫でる。傷に触れられ、勇者はびくっと動いてしまう。

「き、傷痕なんて触って何をするつもりだ!」
「……綺麗だ」
「えっ?」

 魔王はいつくしむように、いたわるように勇者の傷をすっと撫でる。

「美しいと言ったのだ。立場は違えど、お前は光の一族の為に見返りを求めず体を張って戦ってきたのだろう? 私には分かる。誰かの為に頑張る姿は美しい」
「……」
「勇者?」

 魔王のねぎらいの言葉に、勇者は涙を流していた。

「……誰もそんなこと言ってくれなかった……それが当たり前だって思っていた。だから、辛くても笑顔でいなきゃいけなかった。あの女神ババアも回復魔法をかけただけで、労いの言葉一つなかった……」

 この戦いで多くの仲間が死んでいった。何度も死にかけ、そのたびに傷ついた体に鞭を打ち、必死に頑張ってきた。
 だが、勇者の苦労を分かってくれた者がここにいる仲間以外にいただろうか? いや、いなかった。

 魔王だけだった。勇者の辛さを分かろうとした者は。
 勇者はもう、魔王を殺すことが出来なかった。
 魔王は慈しむように、勇者にささやく。

「大丈夫だ。私の軍はホワイト企業だ。闇の一族だが、決してブラックじゃない。福利厚生や労働時間はしっかりとしている。サービス残業や厳しいノルマもない、必ず有給休暇を消費させる。ボーナスは年に三回。半年で昇給。頑張りによっては特別ボーナスもやぶさかではない。何より、アットホームで明るい職場だ。我が軍にこい。俺はお前が欲しいんだ」
「魔王……」

 魔王は勇者のズボンを脱がせた。全裸の勇者に魔王は寄り添っていく。手はそっと勇者の股間にそえ、上下に動かす。
 魔王は勇者の首筋に口づけし、そのままゆっくりと首筋を這うように勇者の頬まで舌でなぞっていく。

「あっ……」

 いいようのない、感じたのことない甘美な刺激が勇者の脳をとろけさせる。勇者の荒々しくたくましいお御劔みつるぎがズボンを押しのけようと膨らんでいく。
 魔王の唾液のあとが光に照らし出され、その終着地点は勇者の唇へと……。
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