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十六章
十六話 ホオズキ -偽り- その四
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「僕は中性的な顔立ちだから、よく女の子に間違えられたり、からかわれたりして……友達がいませんでした。こんな容姿だから仕方ないって思っていました。本当は人付き合いが苦手で、臆病なだけなのに、言い訳ばかりして、自分は悪くないって言い聞かせていました。僕にはもう友達ができないって思いこんでいました。そんな自分がこの世界で一番嫌いでした。獅子王先輩に会うまでは」
女の子顔負けの、綺麗な顔立ちの為に孤立してきた古見君。二人は立場も環境も違うけど、孤独だったことは共通している。
女の子はみんな、綺麗でありたいと思っている。少しでも綺麗に見せたくて努力を続けている。
でも、努力を重ねても、かなわない人が出てくる。同性ならまだあきらめがつくけど、負けた相手が男の子だった場合、納得できるのか?
古見君のような女の子顔負けの綺麗な子に出会ったとき、嫉妬しないと言い切れるのか?
古見君のせいじゃないけど、それでも嫉妬してしまう。男の子からは女の子っぽいとからかわれ、女の子からは嫉妬される。
ただでさえ内気なのに、この環境が更に古見君を孤独に追い込んでしまった。
「僕はずっといじめられていて、ずっと悩んでいました。それを獅子王先輩がすぐに解決してくれました。圧倒的な力で。最初は憧れでした。獅子王先輩の強さをどうしたら手に入れることができるのか、それを知りたくて毎日会いにいきました。それが途中から、僕の事を認めて欲しいと思うようになりました。少しずつ、獅子王先輩が僕の相手をしてくれるようになって……それが嬉しくて……もしかしたら、あのときから、強さよりも獅子王先輩を求めていたのかもしれません。獅子王先輩に告白されたとき、最初に感じたのは嬉しい、そう思いました。でも、冷静に考えると、この気持ちが正しいのか、分かりませんでした」
同性愛の壁。
古見君達と知り合うまで、私はBLが好きだけど、同性愛が好きなわけじゃなかった。
明日香とるりかにはよくしてもらっているし、感謝しているけど、二人から告白されたら断るだろう。
自分の恋愛は男の子としたいって思うし、同性で好きになるのは、ブレーキがかかってしまい、躊躇してしまう。
嫌悪感を感じる人が大半だと思う。
それに自分が同性愛者だったとしても、相手も同性愛者とは限らない。相手に否定されるのが当たり前の反応。
否定されることは辛いことだと思う。好きな人ならなおさら。それゆえに苦しんた結果、二人は別れてしまった。
私はこんな結末、悲しすぎると思う。先輩を好きになって分かったの。好きな人に受け入れてもらえる喜びを、否定される哀しみを。
二人の想いを知ってしまったからには、無視できない。お互い想い合っているのなら、結ばれてほしい。
そう願うことは罪なの? もし、それが罪なら、誰が裁く権利があるの? きっと、誰にもない。
だから、私は古見君達を応援する。きっと、間違いなんかじゃない。
頑張れ、古見君!
「僕は自分が傷つくのが怖くて……同性愛を理由にして、獅子王先輩の告白を断りました。臆病だったんです。弱い僕には無理だって思い込むようになりました。でも、分かったんです。あの廃工場で、伊藤さんが教えてくれました。伊藤さんは格闘技の経験がないのに、それでも、不良達に啖呵を切って、僕の事を擁護してくれました。友達だって言ってくれました。僕は伊藤さんに酷いことを言ってしまったのに、それでも、庇ってくれた。本当の強さはまだ分かりませんけど、僕が憧れた強さを伊藤さんは体現してくれました。勇気を僕にくれました。ありがとう、伊藤さん」
古見君は私に笑いかけてくれた。その純粋な笑顔がこそばゆい。
私でも、誰かの力に、勇気を与えることができた。
それが嬉しいし、そのことに気づかせてくれた古見君に私こそ感謝している。
「伊藤さんがくれた勇気、無駄にしません。今度こそ、自分に言い訳せずに、自分の出した答えを貫き通します。獅子王先輩」
古見君は立ち上がり、獅子王先輩に向かって頭を下げた。
「こんな僕でよかったら付き合ってもらえませんか? 一度、断っておいて虫のいい話だってことは分かっています。それでも……それでも、僕は……僕は、獅子王先輩の事が好きです」
獅子王先輩が立ち上がり、不安げに立ち尽くす古見君に歩み寄ろうとしている。獅子王先輩の表情は、とても穏やか。今までに見たことがない、優しい笑顔。
本当に美しいって思った。これが愛なんだって見せつけられた。
羨ましい……。
獅子王先輩の手が古見君の肩に触れようとしたとき。
「本当にそれでいいのですか?」
先輩が待ったをかける。これはいつもの空気が読めない行動じゃない。
これが一般的な行動。疑問。常識。
先輩は同性愛の現実をたたきつける。
「同性愛はこの学園でも、世間でも認められていません。大半の人は嫌悪感を持つでしょう。そのせいで、どれだけの人が迷惑をこうむるのか、お二人自身も不幸な目にあうことを知っているのではありませんか?」
二人でなくても、私だって知っている。お互いの気持ちに気づくまでに、どれだけ辛い道を二人が歩んできたのか、間近で見てきた。
古見君は同級生に馬鹿にされ、嫌がらせを受けた。ボクシング部の顧問に注意され、神木さんに脅された。幼なじみである滝沢さんに騙された。
獅子王先輩は海外遠征の件で古見君と別れろと迫られた。獅子王財閥の圧力で退学させられそうになっている。
二人だけでなく、古見君の幼なじみである滝沢さんも辛い目にあった。
古見君に想いを寄せていた滝沢さんは、獅子王先輩に嫉妬し、事件を起こした。許されない行為だけど、退学はやり過ぎだと思う。
やり直す機会すら与えられずに問答無用で退学になるなんて、今でも私は学園側の決断は間違っているとしか思えない。
まだ付き合ってもいないのにこれだけの苦難が待ち受けていた。付き合うとなると、もっと過酷なことが待っているのかもしれない。
その先にあるものが必ずハッピーエンドとは限らない。別れてしまう可能性の方が高い。
それならば、二人が付き合うことに意味はあるの? 痛みを伴うのであれば、最初から別れてしまった方が良いのでは?
第三者である私でも、悲鳴を上げたいくらい不安だった。二人はもっと心細いと思う。
先輩はきっと、意地悪で言っているわけではないと思う。二人が最も傷つかない方法をとるように説得したいはず。
「同性愛が正しいのかどうかは、正直俺には分かりかねます。ですが、お二人のお付き合いは周りを巻き込み、不幸にしていくだけです。それでいいのですか?」
先輩の問いに、獅子王先輩は躊躇なく答える。
「誰が不幸になろうが俺様には関係ねえ。そもそも、他のヤツらが不幸にならないかわりに、なんで俺様と古見が不幸にならなきゃいけないんだ? 俺様は顔も知らない誰かの幸せのために生きているんじゃねえ。自分と古見の幸せの為に行動しているんだ。他がどうなろうと知ったことか」
獅子王先輩の発言に、先輩は目を細めて睨みつける。不良達を威嚇するような鋭い目つき。
先輩に睨まれても、獅子王先輩の表情は全く変わらない。
「他というのは伊藤も含まれているのですか? 二人の為に頑張ってきた女の子がどうなろうと知ったことではないと」
「はあ……」
獅子王先輩は面倒くさそうに髪を乱暴にかき、ため息をついた。
女の子顔負けの、綺麗な顔立ちの為に孤立してきた古見君。二人は立場も環境も違うけど、孤独だったことは共通している。
女の子はみんな、綺麗でありたいと思っている。少しでも綺麗に見せたくて努力を続けている。
でも、努力を重ねても、かなわない人が出てくる。同性ならまだあきらめがつくけど、負けた相手が男の子だった場合、納得できるのか?
古見君のような女の子顔負けの綺麗な子に出会ったとき、嫉妬しないと言い切れるのか?
古見君のせいじゃないけど、それでも嫉妬してしまう。男の子からは女の子っぽいとからかわれ、女の子からは嫉妬される。
ただでさえ内気なのに、この環境が更に古見君を孤独に追い込んでしまった。
「僕はずっといじめられていて、ずっと悩んでいました。それを獅子王先輩がすぐに解決してくれました。圧倒的な力で。最初は憧れでした。獅子王先輩の強さをどうしたら手に入れることができるのか、それを知りたくて毎日会いにいきました。それが途中から、僕の事を認めて欲しいと思うようになりました。少しずつ、獅子王先輩が僕の相手をしてくれるようになって……それが嬉しくて……もしかしたら、あのときから、強さよりも獅子王先輩を求めていたのかもしれません。獅子王先輩に告白されたとき、最初に感じたのは嬉しい、そう思いました。でも、冷静に考えると、この気持ちが正しいのか、分かりませんでした」
同性愛の壁。
古見君達と知り合うまで、私はBLが好きだけど、同性愛が好きなわけじゃなかった。
明日香とるりかにはよくしてもらっているし、感謝しているけど、二人から告白されたら断るだろう。
自分の恋愛は男の子としたいって思うし、同性で好きになるのは、ブレーキがかかってしまい、躊躇してしまう。
嫌悪感を感じる人が大半だと思う。
それに自分が同性愛者だったとしても、相手も同性愛者とは限らない。相手に否定されるのが当たり前の反応。
否定されることは辛いことだと思う。好きな人ならなおさら。それゆえに苦しんた結果、二人は別れてしまった。
私はこんな結末、悲しすぎると思う。先輩を好きになって分かったの。好きな人に受け入れてもらえる喜びを、否定される哀しみを。
二人の想いを知ってしまったからには、無視できない。お互い想い合っているのなら、結ばれてほしい。
そう願うことは罪なの? もし、それが罪なら、誰が裁く権利があるの? きっと、誰にもない。
だから、私は古見君達を応援する。きっと、間違いなんかじゃない。
頑張れ、古見君!
「僕は自分が傷つくのが怖くて……同性愛を理由にして、獅子王先輩の告白を断りました。臆病だったんです。弱い僕には無理だって思い込むようになりました。でも、分かったんです。あの廃工場で、伊藤さんが教えてくれました。伊藤さんは格闘技の経験がないのに、それでも、不良達に啖呵を切って、僕の事を擁護してくれました。友達だって言ってくれました。僕は伊藤さんに酷いことを言ってしまったのに、それでも、庇ってくれた。本当の強さはまだ分かりませんけど、僕が憧れた強さを伊藤さんは体現してくれました。勇気を僕にくれました。ありがとう、伊藤さん」
古見君は私に笑いかけてくれた。その純粋な笑顔がこそばゆい。
私でも、誰かの力に、勇気を与えることができた。
それが嬉しいし、そのことに気づかせてくれた古見君に私こそ感謝している。
「伊藤さんがくれた勇気、無駄にしません。今度こそ、自分に言い訳せずに、自分の出した答えを貫き通します。獅子王先輩」
古見君は立ち上がり、獅子王先輩に向かって頭を下げた。
「こんな僕でよかったら付き合ってもらえませんか? 一度、断っておいて虫のいい話だってことは分かっています。それでも……それでも、僕は……僕は、獅子王先輩の事が好きです」
獅子王先輩が立ち上がり、不安げに立ち尽くす古見君に歩み寄ろうとしている。獅子王先輩の表情は、とても穏やか。今までに見たことがない、優しい笑顔。
本当に美しいって思った。これが愛なんだって見せつけられた。
羨ましい……。
獅子王先輩の手が古見君の肩に触れようとしたとき。
「本当にそれでいいのですか?」
先輩が待ったをかける。これはいつもの空気が読めない行動じゃない。
これが一般的な行動。疑問。常識。
先輩は同性愛の現実をたたきつける。
「同性愛はこの学園でも、世間でも認められていません。大半の人は嫌悪感を持つでしょう。そのせいで、どれだけの人が迷惑をこうむるのか、お二人自身も不幸な目にあうことを知っているのではありませんか?」
二人でなくても、私だって知っている。お互いの気持ちに気づくまでに、どれだけ辛い道を二人が歩んできたのか、間近で見てきた。
古見君は同級生に馬鹿にされ、嫌がらせを受けた。ボクシング部の顧問に注意され、神木さんに脅された。幼なじみである滝沢さんに騙された。
獅子王先輩は海外遠征の件で古見君と別れろと迫られた。獅子王財閥の圧力で退学させられそうになっている。
二人だけでなく、古見君の幼なじみである滝沢さんも辛い目にあった。
古見君に想いを寄せていた滝沢さんは、獅子王先輩に嫉妬し、事件を起こした。許されない行為だけど、退学はやり過ぎだと思う。
やり直す機会すら与えられずに問答無用で退学になるなんて、今でも私は学園側の決断は間違っているとしか思えない。
まだ付き合ってもいないのにこれだけの苦難が待ち受けていた。付き合うとなると、もっと過酷なことが待っているのかもしれない。
その先にあるものが必ずハッピーエンドとは限らない。別れてしまう可能性の方が高い。
それならば、二人が付き合うことに意味はあるの? 痛みを伴うのであれば、最初から別れてしまった方が良いのでは?
第三者である私でも、悲鳴を上げたいくらい不安だった。二人はもっと心細いと思う。
先輩はきっと、意地悪で言っているわけではないと思う。二人が最も傷つかない方法をとるように説得したいはず。
「同性愛が正しいのかどうかは、正直俺には分かりかねます。ですが、お二人のお付き合いは周りを巻き込み、不幸にしていくだけです。それでいいのですか?」
先輩の問いに、獅子王先輩は躊躇なく答える。
「誰が不幸になろうが俺様には関係ねえ。そもそも、他のヤツらが不幸にならないかわりに、なんで俺様と古見が不幸にならなきゃいけないんだ? 俺様は顔も知らない誰かの幸せのために生きているんじゃねえ。自分と古見の幸せの為に行動しているんだ。他がどうなろうと知ったことか」
獅子王先輩の発言に、先輩は目を細めて睨みつける。不良達を威嚇するような鋭い目つき。
先輩に睨まれても、獅子王先輩の表情は全く変わらない。
「他というのは伊藤も含まれているのですか? 二人の為に頑張ってきた女の子がどうなろうと知ったことではないと」
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