風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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十五章

十五話 エンゼルランプ -あなたを守りたい- その十一

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「調子に乗るなよ、オカマ野郎!」
「!」

 な、何? 何なの?
 それは突然だった。
 いきなり大男が古見君を殴りかかったせいで、古見君の快進撃が止まってしまう。

 私は忘れていた。女鹿君にはまだ奥の手があったことを。
 先輩と同じくらいの体格の人が古見君に近寄っていく。獰猛どうもうな目つきで、下卑げびた笑みを浮かべて古見君を見下している。

 古見君は勝てるの? 女鹿君の言うことが本当なら、負け知らずの強いボクサーなんでしょ?
 古見君はまだボクシングを始めて半年くらいだよね? 不安で息が苦しくなる。
 古見君はガードをあげ、大学生のボクサーを待ち構える。

「俺に勝つ気か? まあ、楽しませてくれよ」

 大学生のボクサーが古見君に襲い掛かる。
 速い!
 大学生ボクサーのパンチを、古見君は当たる寸前すんぜんのところでかわす。風を切る音が私のところまで聞こえてくる。
 あんなに大きな体格で殴られたら、小柄の古見君はひとたまりもないんじゃあ……。

「あっ!」

 古見君が殴られた!
 大学生ボクサーのパンチが古見君にあたった! 古見君の肩に当たったと思った瞬間、肩でブロックしたから顔には当たらなかったけど、一メートルくらい吹き飛ばされた。
 やはり、体格の差が出てきている。古見君が不利だ!
 古見君は防戦一方になっている。全然手が出ていない。このままじゃ……。

「残念だったな、ほのか。あの人の前でオカマ野郎が何秒もつか楽しみだ」
「……頑張って、古見君!」

 私の声なんか何の役にも立たないのかもしれない。それでも、応援せずにはいられなかった。
 頑張れ、古見君! 絶対に負けないで!

「いい加減にしろよ、ほのか! お前は俺のものなんだよ! 他の男を応援してんじゃねえぞ!」

 痛い! また殴った!
 私はこの痛みを忘れない。必ず、やり返してやる。古見君は今も戦っている。なら、私も負けない。
 私は女鹿君を睨みつける。

「おーおー怖いね。その目つき、いつまでもつかな?」
「死ぬまでよ!」
「そうかい、おっ、決着がつきそうだぜ」

 古見君が壁際まで追い詰められていた。
 肩で息をしている古見君に対して、相手は余裕の笑みを浮かべている。
 相手は少しずつ距離を詰め、渾身こんしんの右ストレートを古見君にはなった!

「古見君!」

 私は思わず、目を閉じた。
 地面に何か倒れる音がする。

 古見君!

 誰も声を上げない。罵声が飛ぶかと思っていたのに。
 私はゆっくりと目をあける。
 立っていたのは古見君だ。大学生ボクサーは膝をついている。
 ふ、古見君が勝ったの?

「やった! やったよ、古見君! 凄い! 凄いよ!」

 私の称賛しょうさんに古見君ははにかんでこたえてくれた。

「大したことじゃないよ。この人は獅子王先輩の足元にも及ばない。右ストレート、遅すぎるよこの人。だから、簡単にカウンターとれたから」

 カウンター……そうか、古見君は相手の力を利用したんだ。
 カウンターは決まれば倍返しするようなものだ。威力が高いほど、相手に与えるダメージは大きい。
 あんなに体格がいい人だもん。倍返しされたら、ただじゃすまないよね。

「……調子に乗ってるんじゃねえぞ!」

 うわっ! 大学生ボクサーが立っちゃったよ! 寝てればいいのに。

「俺の右ストレートが遅いだと? ざけるな! もう、容赦はしねえ! 覚悟しやがれ!」

 うわっ……負け犬っぽい台詞言っているけど、古見君は大丈夫かな? 負けないかな?
 私は不安でぎゅっと手を握る。頑張って、古見君。
 大学生ボクサーが容赦なく古見君に拳を振り下ろす。でも……。

 パン!

「ぐっ!」

 ま、またカウンターが決まった!
 すごい! すごいよ、古見君! 大学生ボクサーがのけぞったよ!

「こ、このガキ……オカマ野郎のパンチなんて何発くらっても痛くねえんだよ!」

 確かにそうかもしれない。さっき大学生ボクサーは膝をついたのに、今はのけぞっただけ。全然倒れる気配がない。
 勝てないの、古見君は……。
 でも、古見君は笑っていた。

「そう……なら……」

 あっ!
 古見君の左右のパンチが大学生ボクサーにヒットしていく。

「あべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべっ!」

 こ、これは放送コードに引っかかるくらいの悲惨な光景がそこにあった。
 古見君のパンチで大学生ボクサーの人の顔が上下左右に跳ね上がる。どんどん大学生の顔が腫れ上がっていく。
 古見君の右ストレートが大学生ボクサーの鼻にぶち当たり、ついにダウンをとった!

 誰も何も言えずに、黙り込んでいる。
 テンカウントなんていらないよね?
 古見君が勝ったんだ!

「勝者! 古見君!」

 私は周りの不良達に、女鹿君に聞こえるように勝利宣言をする。
 古見君はテレくさそうに右手を挙げて応えてくれた。
 ううっ、ちょっと感動しちゃった。やったね、古見君。

「古見……よくやたな」

 獅子王先輩が古見君の頑張りに応じるように立ち上がる。古見君が獅子王先輩の元へと駆け寄っていく。
 私も身の安全の為に獅子王先輩達の元へ走った。大学生のボクサーがやられたことで、不良達の注意は古見君にむけられている。
 その隙に私はこっそり脱出できた。

「獅子王先輩!」
「お前の……おかげ……で、体力……回復できた」

 やった! 獅子王先輩も復活!
 希望が見えてきた!

「ったく、つかえねえな! 何が負けなしの最強のボクサーだ! ただの木偶でぐぼうじゃあねえか。お前ら、相手は二人だ、やっちまえ!」

 女鹿君がツバを吐きながら、周りの不良達に偉そうに命令する。
 不良達はまた舌打ちしながら、古見君達を囲っていく。
 古見君と獅子王先輩が背中合わせになり、相手を睨みつけている。まだ敵は二十人くらいいる。
 私に何かできることは……二人のフォローしないと。

「ちょっと、待ちなさい!」
「なんだ、ほのか。お前の相手は後でじっくりとしてやるから」

 キモッ! まだ、相手にしてもらえるなんて思っているんだ。
 鳥肌がたったし、色々と言ってやりたいけど、今は我慢がまんしなきゃ。
 まずはこの状況をなんとかしなければ。突破口はないの?
 私は気になっていたことがあった。

 女鹿君が不良グループのボスだなんて、聞いたことがない。そんな器じゃないと思う。
 たぶん、不良達が女鹿君に協力しているのは、獅子王先輩の恨みを晴らす為。それなら、女鹿君と不良達を分断できるかもしれない。
 思いつきだけど、やってみるしかない!
 私はできるだけ女鹿君をバカにした態度をとる。

「なんでキミ達はそこまで偉そうなの? ここにいる連中のボスなの? この中で一番弱いくせに」
「なんだと!」

 よし! のってきた!
 周りの不良達も足が止まっている。
 このまま、うまくいって!
 不安な気持ちを押し殺し、今度は不良達に挑発を仕掛けてみる。

「何でみんなはこんな喧嘩が弱い人に従うの? 一人じゃあ何もできない弱者に従うなんて、キミたちにはプライドがないの? 頭、悪いの? 誰かに命令されないと生きていけないの?」
「おいおい、イキがるなよ。ほのかがどうなるのか、俺の命令ひとつで決まるんだぞ。口のきき方に注意しろ! おい、お前ら! さっさとほのか以外のヤツを叩きのめせ!」

 ダメなの……。
 失敗したかのように見えたけど……。

「ちょっと、待ちなさい! これ以上ひなたに手を出したら、承知しないわよ!」
「うるせえ。黙ってろ、女! 俺に指図をするな」
「黙るのはお前だろ?」

 いつの間にか、不良達が女鹿君を囲んでいた。
 女鹿君は少しおどおどしながら、不良達に命令をする。

「な、何してやがる! 早くやれ!」
「うるせえ! 俺達に命令するな! 俺はな、獅子王を痛めつけられるって聞いたから協力してやっているんだ! お前が命令してんじゃねえよ!」
「なんだと! この裏切者! お前ら、こいつもやっちまえ!」

 女鹿君は命令するけど、誰も従おうとしない。女鹿君の周りは、しらけきった空気になっていた。
 そりゃそうだよね。女鹿君は別に不良達のリーダーでもなんでもないんだもん。
 命令ばかりするような人に従いたいだなんて、思えるはずがない。

「おい! 誰のおかげで獅子王に復讐できたと思ってんだ! 恩をあだで返しやがって!」
「恩だと? こっちから協力してやっているのに、偉そうにしやがって。もう、お前に従う理由なんてねえんだよ。その女と腰でもふってろ、カス」
「か、カスだと!」
「女鹿!」

 私は地面にあった鉄パイプを拾い、地面に叩きつける。名字を呼び捨てにすることで、私に意識を向けさせる。
 ここしかない。ここで女鹿君と不良達を分断させるんだ。だから、古見君を挑発する。
 暴力は苦手で、ロクに武器なんて使えないけど、それでも、受けた痛みはきっちりと返さなきゃ気が済まない。

「女鹿、一人で立ち向かう勇気すらないの? 女々しいのは誰よ。女鹿が一番女々しいじゃない!」
「言わせておけば……殺す! 絶対に殺す!」

 来た!
 女鹿君が一人で私に襲い掛かってきた。
 私は鉄パイプを振り上げ、女鹿君に向けて振り下ろす。喧嘩慣れしていない私の攻撃はかすりもしなかった。

「喧嘩っていうのはこうするんだよ!」

 女鹿君が私に殴り掛かってくる。私は思わず身をすくめ、目を閉じた。女鹿君はいつまでたっても、殴ってこなかった。
 目をそっと開けると、女鹿君が地面に倒れていた。

「僕がいること、忘れてる?」

 ふ、古見君が助けてくれたんだ!
 かっこいい! 古見君が本気を出すと、凄いんだね。
 でも、できれば最初からお願いしたかった! 私が鉄パイプで殴りかかるまえに頑張ってほしかった。

「オカマ野郎! 卑怯だぞ!」

 大声で怒鳴る女鹿君の肩を、獅子王先輩が後ろから掴む。

「そうだな。人の喧嘩に割って入るのは、よくねえよな。ましてや、後ろから殴りかかるのは俺様の流儀じゃねえ。振り向く時間をくれてやる。さっさとこっちをむけ」

 あ、あっれ~、獅子王先輩。こっちを向けといいながら、無理矢理女鹿君を振り向かせて、殴っちゃったよ!
 獅子王先輩は怪我をしているせいでいつもの威力がない。女鹿君が膝をつきそうになるだけだ。

 でも、チャンス!
 私は無防備になった背中に鉄パイプを振り下ろす。叩いた手がしびれる。力のない私の攻撃では女鹿君にダメージが与えられない。

「てめえ、よくもやり……」

 女鹿君が言い終わる前に、古見君が女鹿の襟首を掴んで、そのまま殴りつけた。倒れた女鹿君に私達は追い打ちをかけた。

「この、変態サド男! 殴られた分、お返しよ!」
「僕はオカマじゃない!」
「とりあえず、死んどけ」

 私は何度も何度も女鹿君を蹴りつける。背中、頭、手……沢山、沢山蹴った。
 よくも何度も女の子である私を殴ったね! 痛かったんだからね!

 古見君も獅子王先輩も、私に加勢してくれた。これでもかってくらいに、女鹿君を痛めつけた。息が切れたので攻撃をやめると、女鹿君は気絶していた。
 ハハッ、いい気味! やられた分はきっちり十倍返し! 気持ちいい~。

 私の心の奥にあった何か重いものが解放された気がした。もう、女鹿君なんて怖くない。

「やったね、伊藤さん」
「ありがとう、古見君」

 これにて一件落着!

「おい、俺達を無視するな!」

 ですよね~。まだ、不良達がいましたよ。女鹿君が倒れたんだから逃げてくれればいいのに。
 ど、どうしよう……。
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