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十五章
十五話 エンゼルランプ -あなたを守りたい- その九
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もう、ダメ……助からない。
そうだよね、私のことなんか誰も助けてくれないよね。先輩とは喧嘩中だし……。
「まだあきらめてないのか? それとも、藤堂の前で犯されたいか? まあ、愛想をつかされて見に来ないかもな。空気読んでよ」
女鹿君の言葉が重くのしかかる。
「やめてくれ、伊藤。俺はお前の思っているような人間じゃないんだ。俺の事を分かったようなこと、言うな。勝手な理想を押し付けるのは……やめてくれ。迷惑だ」
私の事、迷惑だって思われているし。助けに何て……いや、先輩は助けにきてくれる。
先輩、空気読めないもん。喧嘩中でも絶交していても、先輩なら絶対に助けてくれる。
先輩は理不尽な目にあっている人がいたら助けてくれる。
私でなくても、獅子王先輩でも、先輩は全力で助ける、そんな人。だって、納得いかないから。
私はつい笑ってしまった。こんなときだっていうのに笑ってしまう。
そうだ。このまま、女鹿君達の好きにされてたまるもんですか。
それに、いつもは電話してこない先輩が電話してくるなんて、おかしい。もしかして、私の異変に気づいてくれているのかもしれない。電話に出ないことを不審に思っていてくれるかもしれない。
私のことをるりかや明日香に尋ねて、この場所まで来てくれるかもしれない。可能性は低いけど、あきらめるのはまだ早い。
先輩が私達を見つけてくれるまで、私がなんとかしなきゃ。私は風紀委員だもん。
先輩はやっぱり私に勇気をくれる。
そして、腕章の『風紀委員』の文字が困難に立ち向かえって教えてくれる。怖いけど、それ以上に頑張れるって思える。だから、やるんだ!
まずは状況を確認しなきゃ。
獅子王先輩が不良達に手を出せない理由は、古見君が捕まっているから。
それならば、古見君を助けたらきっと反撃の糸口になるはず。
私は縛られている手首を動かす。確か、地面には割れたガラスが落ちているはず……。
私は必死に地面にガラスがないか調べてみる。手は泥だらけになるけど、今は気にしていられない。
ガラスの破片は……あった!
私はガラスの破片を掴み、手首のロープを切ろうとする。
ダメだ。切れない。
でも、あきらめる……わけにはいかない! ダメなら別の方法を考えないと。
ロープは私の手首をぐるぐる巻きにしているだけ。手首の間を通していない。隙間さえできれば……。
手首を動かし、無理やり隙間を作る。
お願い……少しでも緩まって。
手首がロープにこすれて痛いけど、少しずつゆるんでいく。隙間ができていく。あと少し……もう少し……もうちょっと……や、やった! 隙間ができた!
これならロープをほどけるかもしれない! テレビで見たとおりに手首を動かして……隙間をひろげて……とれた!
手首が自由になった! 手首にロープの跡がついて痛いけど、気にしていられない。
私は縛られたふりをして、そっと周りを見渡す。
古見君を助けることさえできれば……獅子王先輩はまだ立っているけど、かなり傷ついている。今も不良達に殴られている。
早くしないと。
女鹿君は獅子王先輩がいたぶられているのを楽しそうに見ている。私を見ていない。助けるなら今しかない。
私は小さく深呼吸して、緊張をほぐす。大丈夫、私ならできる。
今だ!
不意打ちで女鹿君を押しのけ、古見君の元へ走り出す。ナイフを持っている男の子と滝沢さんめがけて、手にしたガラスの破片と砂を投げつけた。
「きゃっ!」
「こ、コイツ!」
男の子が怯んだ隙に、私は古見君の手を引っ張り、安全圏まで走った。
「大丈夫、古見君!」
「い、伊藤さん。ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって」
「それはいいから! 獅子王先輩! 古見君を助けました! もう、だいじょ……」
目の前の現実に、私は声を失ってしまった。
獅子王先輩は倒れていた。体中痣だらけになり、綺麗な顔が真っ赤な血で汚れている。
そ、そんな……間に合わなかったの?
傷だらけの獅子王先輩に反撃する力は残っていない。これじゃあ、状況を打開できない!
女鹿君が笑いながら私達に近づいてくる。
「抵抗はもう終わりか、ほのか。もっと抵抗してくれていいんだぜ。その為にわざと縄を外れるようにしてやったんだからよ。それに、これを見ろよ」
女鹿君が指を鳴らすと、体格の大きい、先輩以上の大きな男の子がやってきた。すごく強そうな人。こんなのって……。
「もしものことを考えて、助っ人をよんでいる。この人、大学でボクシングやってるんだぜ。負けなしの最強のボクサーさ。どうだ? 俺達に勝てそうか? 少しでも勝てると思ったか? ばぁ~か! やっぱり、いいよな。なんとかなりそうな希望を与えておいて、それを目の前でへし折るのは。絶望した顔が一番そそるぜ」
うそ……わざとなの?
女鹿君の言葉と、絶望的な状況に目の前が真っ暗になる。
ダメ……あきらめたらダメ……でも、どうしたらいいの?
不良の一人が笑いながら、私達に近づいてくる。私は頭の整理がつかないまま、何をしていいのかわからなくて動けない。
不良に私の腕を乱暴に捕まれ、激痛が走る。
「痛い!」
「伊藤さん!」
古見君が助けに入ろうとするけど、他の不良が邪魔をして動けない。
「まひろ! やめさせてよ! 伊藤さんは関係ないでしょ!」
「あるわ。その女のせいよ。ひなたがおかしくなったのは!」
滝沢さんが私を指さし、怨嗟の目で私を睨んでくる。
「伊藤さん、あなた言ったよね? 私の気持ちが分かるって。ふざけないで! あんたに私の気持ちなんて、理解できないわよ! 同性に自分の好きな人をとられる気持ち、あんたに分かるわけないでしょ! 私はね、ずっと前から、幼稚園の頃からひなたのこと、好きだったの! ずっと、ずっと好きだったのに……なのに、なのに! いきなり現れたヤツに、男に好きな人をとられるなんて冗談じゃないわよ! 女としてのプライドをここまで傷つけられたことはなかったわ! 伊藤さんさえ余計なことをしなければ……誰も傷つくことはなかったのよ!」
滝沢さんの言葉に、私は何も言えなかった。
私なの? 私が滝沢さんをここまで追い詰めてしまったの? 傷つけてしまったの?
分かってもらえると思っていた。同性でも異性でも、好きな人にふりむいてもらう努力を続けることが大切なんだって気持ち、伝えたつもりだったのに。
私は何も分かっていなかったの? 私の勘違いだったの?
「違うよ! 伊藤さんは僕の為に頑張ってくれただけだよ!」
「ひなたが頼んだの? 伊藤さんにお願いしたの?」
「そ、それは……」
「ひなたも気づきなさいよ! 私達、そこにいる女の都合で迷惑ばかりかけられてるのよ!」
古見君は押し黙ってしまった。
やっぱり、古見君に負担をかけてしまったのかな? 私のやっていることは間違いなのかな?
この場をおさめてくれたのは、意外にも女鹿君だった。
「痴話喧嘩は後にしてくれ。獅子王も片付いたことだし、そろそろ、お楽しみといこうか、ほのか」
手首を後ろに掴まれたまま動けない私に、女鹿君が手にした木刀で、私のスカートをめくろうとしてきた。
そうだよね、私のことなんか誰も助けてくれないよね。先輩とは喧嘩中だし……。
「まだあきらめてないのか? それとも、藤堂の前で犯されたいか? まあ、愛想をつかされて見に来ないかもな。空気読んでよ」
女鹿君の言葉が重くのしかかる。
「やめてくれ、伊藤。俺はお前の思っているような人間じゃないんだ。俺の事を分かったようなこと、言うな。勝手な理想を押し付けるのは……やめてくれ。迷惑だ」
私の事、迷惑だって思われているし。助けに何て……いや、先輩は助けにきてくれる。
先輩、空気読めないもん。喧嘩中でも絶交していても、先輩なら絶対に助けてくれる。
先輩は理不尽な目にあっている人がいたら助けてくれる。
私でなくても、獅子王先輩でも、先輩は全力で助ける、そんな人。だって、納得いかないから。
私はつい笑ってしまった。こんなときだっていうのに笑ってしまう。
そうだ。このまま、女鹿君達の好きにされてたまるもんですか。
それに、いつもは電話してこない先輩が電話してくるなんて、おかしい。もしかして、私の異変に気づいてくれているのかもしれない。電話に出ないことを不審に思っていてくれるかもしれない。
私のことをるりかや明日香に尋ねて、この場所まで来てくれるかもしれない。可能性は低いけど、あきらめるのはまだ早い。
先輩が私達を見つけてくれるまで、私がなんとかしなきゃ。私は風紀委員だもん。
先輩はやっぱり私に勇気をくれる。
そして、腕章の『風紀委員』の文字が困難に立ち向かえって教えてくれる。怖いけど、それ以上に頑張れるって思える。だから、やるんだ!
まずは状況を確認しなきゃ。
獅子王先輩が不良達に手を出せない理由は、古見君が捕まっているから。
それならば、古見君を助けたらきっと反撃の糸口になるはず。
私は縛られている手首を動かす。確か、地面には割れたガラスが落ちているはず……。
私は必死に地面にガラスがないか調べてみる。手は泥だらけになるけど、今は気にしていられない。
ガラスの破片は……あった!
私はガラスの破片を掴み、手首のロープを切ろうとする。
ダメだ。切れない。
でも、あきらめる……わけにはいかない! ダメなら別の方法を考えないと。
ロープは私の手首をぐるぐる巻きにしているだけ。手首の間を通していない。隙間さえできれば……。
手首を動かし、無理やり隙間を作る。
お願い……少しでも緩まって。
手首がロープにこすれて痛いけど、少しずつゆるんでいく。隙間ができていく。あと少し……もう少し……もうちょっと……や、やった! 隙間ができた!
これならロープをほどけるかもしれない! テレビで見たとおりに手首を動かして……隙間をひろげて……とれた!
手首が自由になった! 手首にロープの跡がついて痛いけど、気にしていられない。
私は縛られたふりをして、そっと周りを見渡す。
古見君を助けることさえできれば……獅子王先輩はまだ立っているけど、かなり傷ついている。今も不良達に殴られている。
早くしないと。
女鹿君は獅子王先輩がいたぶられているのを楽しそうに見ている。私を見ていない。助けるなら今しかない。
私は小さく深呼吸して、緊張をほぐす。大丈夫、私ならできる。
今だ!
不意打ちで女鹿君を押しのけ、古見君の元へ走り出す。ナイフを持っている男の子と滝沢さんめがけて、手にしたガラスの破片と砂を投げつけた。
「きゃっ!」
「こ、コイツ!」
男の子が怯んだ隙に、私は古見君の手を引っ張り、安全圏まで走った。
「大丈夫、古見君!」
「い、伊藤さん。ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって」
「それはいいから! 獅子王先輩! 古見君を助けました! もう、だいじょ……」
目の前の現実に、私は声を失ってしまった。
獅子王先輩は倒れていた。体中痣だらけになり、綺麗な顔が真っ赤な血で汚れている。
そ、そんな……間に合わなかったの?
傷だらけの獅子王先輩に反撃する力は残っていない。これじゃあ、状況を打開できない!
女鹿君が笑いながら私達に近づいてくる。
「抵抗はもう終わりか、ほのか。もっと抵抗してくれていいんだぜ。その為にわざと縄を外れるようにしてやったんだからよ。それに、これを見ろよ」
女鹿君が指を鳴らすと、体格の大きい、先輩以上の大きな男の子がやってきた。すごく強そうな人。こんなのって……。
「もしものことを考えて、助っ人をよんでいる。この人、大学でボクシングやってるんだぜ。負けなしの最強のボクサーさ。どうだ? 俺達に勝てそうか? 少しでも勝てると思ったか? ばぁ~か! やっぱり、いいよな。なんとかなりそうな希望を与えておいて、それを目の前でへし折るのは。絶望した顔が一番そそるぜ」
うそ……わざとなの?
女鹿君の言葉と、絶望的な状況に目の前が真っ暗になる。
ダメ……あきらめたらダメ……でも、どうしたらいいの?
不良の一人が笑いながら、私達に近づいてくる。私は頭の整理がつかないまま、何をしていいのかわからなくて動けない。
不良に私の腕を乱暴に捕まれ、激痛が走る。
「痛い!」
「伊藤さん!」
古見君が助けに入ろうとするけど、他の不良が邪魔をして動けない。
「まひろ! やめさせてよ! 伊藤さんは関係ないでしょ!」
「あるわ。その女のせいよ。ひなたがおかしくなったのは!」
滝沢さんが私を指さし、怨嗟の目で私を睨んでくる。
「伊藤さん、あなた言ったよね? 私の気持ちが分かるって。ふざけないで! あんたに私の気持ちなんて、理解できないわよ! 同性に自分の好きな人をとられる気持ち、あんたに分かるわけないでしょ! 私はね、ずっと前から、幼稚園の頃からひなたのこと、好きだったの! ずっと、ずっと好きだったのに……なのに、なのに! いきなり現れたヤツに、男に好きな人をとられるなんて冗談じゃないわよ! 女としてのプライドをここまで傷つけられたことはなかったわ! 伊藤さんさえ余計なことをしなければ……誰も傷つくことはなかったのよ!」
滝沢さんの言葉に、私は何も言えなかった。
私なの? 私が滝沢さんをここまで追い詰めてしまったの? 傷つけてしまったの?
分かってもらえると思っていた。同性でも異性でも、好きな人にふりむいてもらう努力を続けることが大切なんだって気持ち、伝えたつもりだったのに。
私は何も分かっていなかったの? 私の勘違いだったの?
「違うよ! 伊藤さんは僕の為に頑張ってくれただけだよ!」
「ひなたが頼んだの? 伊藤さんにお願いしたの?」
「そ、それは……」
「ひなたも気づきなさいよ! 私達、そこにいる女の都合で迷惑ばかりかけられてるのよ!」
古見君は押し黙ってしまった。
やっぱり、古見君に負担をかけてしまったのかな? 私のやっていることは間違いなのかな?
この場をおさめてくれたのは、意外にも女鹿君だった。
「痴話喧嘩は後にしてくれ。獅子王も片付いたことだし、そろそろ、お楽しみといこうか、ほのか」
手首を後ろに掴まれたまま動けない私に、女鹿君が手にした木刀で、私のスカートをめくろうとしてきた。
応援ありがとうございます!
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