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十五章

十五話 エンゼルランプ -あなたを守りたい- その三

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 るりかの言葉に全員が黙りこむ。
 橘先輩が私のことを好き? そんなことありえるの? そんなわけないじゃん。

「あのね、るりか、そんなはず……」
「るりか、頭いいし! きっとそうだし!」
「えっ?」

 明日香は指を鳴らして、るりかの意見に同意しちゃったよ。
 えっ、納得しちゃうの? 嘘でしょ? どこに賛成できる要素があるの?

案外あんがい、的を射た意見ではありませんか、お姉さま?」
「黒井さんまでそんな……」
「麗子、ありえないだろ?」

 だよね。私も御堂先輩の意見に賛成。橘先輩が私の事、好きだなんて思えないもん。

「咲、どないしたん? 顔を真っ赤にさせて」
「……は、はわわわわわわわわ! そうだったんですね! 私、全然気づきませんでした! きっとそうですよ! おめでとうございます、ほのかさん!」

 ええええっ! サッキーも納得しちゃうの? 何がおめでとうなの! どこに納得できるものがあるの?

 橘先輩は私のことをよくからかうし、落ち込んでいたら心配して声かけてくれるし、ピンチのときに助けてもらったし……。
 あ、あれ? これって、好かれているってことなの?
 な、なんでなんで? 顔が一気に熱くなる。胸がどきどきして苦しい。落ち着かない。思わず、両手に頬をあててしまう。

「咲、落ち着き。まだそうときまったわけやない。憶測おくそくで断定したら……」
「絶対にそうです! それなら、いろんなことが納得できます! 橘先輩が黒人ボクサーを呼んでまで獅子王先輩に勝ちたかったのは、獅子王先輩がほのかさんのファーストキス奪ったからですよ! でなきゃ、外国から黒人ボクサーなんて呼びませんよ! おかしいと思っていたんです。たかが、獅子王先輩一人倒すのに、強いボクサーを海外から呼んでくるなんて。橘風紀委員長がほのかさんのことを愛していたのなら理解できます! まさに愛の力です!」
「ちょ、ちょっとサッキー。なんで私のファーストキスの相手を知っているの?」

 私のファーストキスの相手が獅子王先輩であることを知っているのは、獅子王先輩と古見君、るりかと明日香、先輩の五人だけのはず。

「みんな知ってますよ! そんなことより、ちーちゃんは私の推理を聞いても、まだ違うと言えますか!」
「そ、そんなことなんだ。私のファーストキスは……」

 みんなに知られてるんだ。ちょっとショックなんですけど。しかも、なぐさめの言葉すらない。
 サッキーに言い寄られ、朝乃宮先輩は珍しく慌てている。

「え? なんというか、その……は、話がそれてもうたやない」
「こっちのほうが大切です! ちーちゃん!」

 朝乃宮先輩が困ったようにサッキーから目をそらす。その先に長尾先輩がいた。

「せ、せや、長尾はんはどうおもわはる?」
「えええ! ここで僕? ち、違うんじゃない? 後輩だからじゃない?」

 長尾先輩のとぎれとぎれの推測に、サッキーはぶんぶんと首を振って否定する。

「いいえ、違います! 私だって後輩なのに、橘風紀委員長にあまり声をかけてもらえません。黒井さんだって同じですよね?」
「そうですわね」
「……ち、違うと思うんだけどな」

 さ、サッキー……も、もうやめて……。
 なんでか分からないけど、恥ずかしいから。私は先輩が好きだもん。橘先輩が私の事を好きって、その……ちょっと……困る。

 オホン!

 朝乃宮先輩がせきをして、強引に話を戻してくれた。

「と、とにかくや! 時間がないことは分かったやろ? それに古見はんを説得するんはけて通れない道やろ? うまくいったら、獅子王先輩と古見はんを仲直りするきっかけになるやろうし、ウチとの勝負も伊藤はんの勝ちになります。古見はんを説得できへんのなら、きっぱりあきらめて風紀委員に戻ってくる。どうです? 悪い話やないやないと思いますけど?」

 た、確かに、古見君を説得しないといけないんだけど、それができれば苦労しないというか……。

「助っ人もいることやし、チャレンジしてみ?」

 私は助っ人の御堂先輩と長尾先輩を見る。
 二人はそっと顔を背けた。

「ダメじゃん!」

 無理だよ! 諦めるの、早すぎ! 助っ人にすらならないよ!
 二人の態度に私は頭を抱えていると、朝乃宮先輩が頭を撫でてくれる。
 なんでだろう……先輩に頭を撫でてもらった感覚に似ている。朝乃宮先輩の手は先輩と同じごつごつとした感覚。なのに、あたたかい。
 違うとしたら、先輩は力強くいたわるように撫でてくれて、朝乃宮先輩は慈しむように、傷つけないようにそっと撫でてくれること。

 でも、どちらも私の事を想って撫でてくれているんだよね。だから、似ているって思うのかな?
 朝乃宮先輩は私の頭をなでながら、黒井さんとサッキーに目配りをしている。

「古見君の説得には咲も黒井はんも手伝ってくれます。せやね?」
「わ、私で力になれるなら!」
「伊藤さんが主体で動くのであればお手伝い致しますわ」

 サッキー、黒井さん……。
 もう、なんで後輩の方が頼りになるのよ! 普通、逆でしょう!
 私は御堂先輩達を睨みつける。御堂先輩だけが睨み返してきて、私はすぐさま目をそらした。怖いよ。

 明日香とるりかは強制参加させるつもりだから、私を入れて五人。うん、五人ならなんとかなるかもしれない。
 悩んでいたら、もう一人意外な人物が協力に申し出てくれた人がいた。

「それにウチも協力します」
「はっ?」

 えっ、今、朝乃宮先輩、何て言ってくれたの? 協力してくれる? どうして?
 訳がわからない。なんで私に力を貸してくれるの? 今は敵同士なのに。
 古見君を説得できるとしたら、橘先輩か朝乃宮先輩のどちらかだと思っていたけど、まさか、勝負に勝ってもいないのに協力してくれるなんて。

「ちーちゃん……」
「泣かんといてや、咲。困った子や」

 朝乃宮先輩の申し出に、感極かんきわまったサッキーが涙目で見つめている。
 そんなサッキーを朝乃宮先輩は、いつくしむような笑顔でそっと涙をふいている。
 朝乃宮先輩の申し出を不審ふしんに思ったのは私だけでなく、黒井さんも同じように思ってくれた。

「あの……朝乃宮先輩。それでは勝負にならないのではありませんこと?」
「そんなことありません、黒井はん。ウチかて古見はんを説得できる自信ないです。せやけど、やるからには真剣にやります」

 朝乃宮先輩が真剣に行動してくれるなんて、普段の態度からは信じられない発言。何が彼女を突き動かすのだろう?
 気になってたずねてみた。

「朝乃宮先輩は誰の味方なんですか?」
「ウチは咲の味方です。最近、咲は伊藤はんと風紀委員の対決に胸を痛めとるさかい、はよ終わらせたいんよ。それがウチの本音です。伊藤はん、そろそろ答え、きかせてくれる?」

 朝乃宮先輩の言葉に嘘はない。私や古見君達の為なら疑っていたか、理解できなかったけど、朝乃宮先輩が溺愛できあいするサッキーの為なら納得できる。
 朝乃宮先輩が私達の為に力を貸してくれるチャンスを、みすみす棒にふる事なんてできない。
 この好機こうきを逃さず、私はこの勝負にのるべき。勝てる算段は今すぐ話し合えばいい。

「分かりました。この勝負、受けて立ちます!」
「そっか。なら、決まりやね。ちなみに勝負の期限は、今日を入れて三日後の十七時までにします」

 今日を入れて三日だけ? 早すぎる! まさか、こんな落とし穴があるなんて。

「えっ! そ、それはちょっと……」

 私の抗議する言葉が途中で止まる。朝乃宮先輩が真剣な表情で私を見つめてきたからだ。

「なら期限をいつまでするつもりなん? さっきも言いましたけど、時間はあまりありませんえ? それに説得できるチャンスは、せいぜい一回か二回くらいとちゃいます?」

 朝乃宮先輩の意見に、反論できない。たぶん、一回が限度かも。まだ、古見君と仲直りだってできていないのに。
 タイムリミットもいつなのかはっきりわからない以上、早く行動した方がいいよね。
 時間があれば、きっと理由をつけて後回しになる可能性が高いし。
 私は腹をくくった。

「分かりました。三日後の十七時までに説得してみせます」
「ええ返事どすな。ほな、始めましょうか」

 ついに朝乃宮先輩との勝負が始まってしまった。この対決は想定外そうていがいだけど、遅かれ早かれ、朝乃宮先輩と対決することは決まっていたんだ。覚悟を決めるしかないよね。
 私一人では無理。だから、みんなにお願いする。

「……朝乃宮先輩、長尾先輩、御堂先輩、サッキー、黒井さん、明日香、るりか……私に力を貸してください、お願いします」

 私はみんなに向かって、深々と頭を下げた。

「まかしとき」
「伊藤氏の為なら!」
「いざとなったらぶん殴ってでも解決してやる」
「私も頑張ります!」
「仕方ありませんわね」
「頑張ろうね、ほのほの」
「やってやるし!」

 みんな、ありがとう。これが終わったら、絶対に何かお礼させてね! 時間は少ないけど、みんなの力を借りて、全力で頑張る! 知恵をしぼって、活路を見いだす!
 絶対に、絶対に古見君を説得してみせるからね!
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