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十五章

十五話 エンゼルランプ -あなたを守りたい- その二

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「ウチと勝負しよっか」

 もう! なんで私の祈りはいつも通じないの! 私の祈りは着拒否されてるの!
 ここは何が何でも否定するべき。安易に同意したら取り返しがつかなくなるかもしれない。

「い、嫌です」
「そないないけずなこといわんと、お願いや」

 にっこりと手を合わせ、お願いしてくる朝乃宮先輩に、私は目を合わさないよう顔をそむけて、適当な言い訳を口にする。

「じ、実はもう、先輩にお願いしてまして……」
「それはおかしいどすな。藤堂はんには、伊藤はんとの勝負を受けんようお願いしておいたんやけど。藤堂はんはウチとの約束を破るお人やないです」

 ううっ、先回りされてる! 私の嘘なんて、朝乃宮先輩の前ではすぐにバレちゃった。
 どうしよう? 朝乃宮先輩に勝てる見込みなんてない。
 負けちゃうの? そんなのイヤ!
 何か考えないと、この場を切り抜ける案を……。

「橘はんもウチが勝負することを認めてくれてます。二人が認めている以上、対戦相手はウチしかいません」

 ダメ! 朝乃宮先輩の勝負を拒否できない空気になってる!
 ど、どどどどどどうしよう! 想定外だよ、こんなの!

「その前に勝負の内容って何? まさか、朝乃宮に有利な勝負じゃあないよね?」

 長尾先輩の問いに朝乃宮先輩は頷く。

「そうやね。せやけど、勝負の内容はウチに決めさせてもらえへん? 伊藤はんには厳しい内容やけど、受けるメリットは大きい。案外、あっという間に決着がつくかもしれへん。で、どうします? 聞くだけ聞いてみる?」

 朝乃宮先輩の提案に、私は息をのむ。
 ただでさえ、朝乃宮先輩に勝てる要素がないのに勝負内容まで決められたら、もうお手上げだ。
 何としても、私が朝乃宮先輩に勝てる勝負にしないと。

「ちょっと待ってください! 拒否権あるんですよね? 私から勝負内容を提案する権利はあるんですよね?」
「せやね。ウチも伊藤はんの勝負内容を拒否する権利があるんやさかい、公平にいかんとな」

 い、痛いところをついてきた。
 確かに、私が朝乃宮先輩に勝てる勝負を挑んでも、拒否されてしまったら終わり。
 ここで朝乃宮先輩の提案を無下むげにはできない。

 朝乃宮先輩の勝負内容は何なのかな? 想像が全くつかない。
 メリットが大きい? すぐに勝敗がつく? どういうこと?
 分からないことがすごく不安になって、弱気になっていく。

 お、落ち着かないと! ま、まずは朝乃宮先輩の話を聞くだけ聞いてみたら……いや、それだと朝乃宮先輩のペース。
 打開策が見つからず、答えが見つからない。やっぱり、この場から逃げだしたい。
 悩んでいると、黒井さんがそっと私の肩に手を置いてきた。

「伊藤さん、じたばたしても遅いですわ。とりあえず、朝乃宮先輩の話を聞いてみてはいかがですの?」
「く、黒井さん……」

(大丈夫ですの。いざとなればお姉さまか長尾先輩が止めてくれますわ。朝乃宮先輩が理不尽な要求を言うとは思えませんの)

 黒井さんに耳元で励まされ、気持ちが少し落ち着く。周りを見渡すと、みんなが私を見つめている。
 大丈夫、私達がついている。そうアイコンタクトされた気がする。
 よ、よし!

「と、とりあえず、聞かせてください。勝負内容を!」

 朝乃宮先輩が笑顔のまま、とんでもない勝負内容をふっかけてきた。

「勝負内容は古見はんを説得出来るかどうか。できたら伊藤はんの勝ち。できなければウチの勝ち。どうです?」

 一瞬、朝乃宮先輩に何を言われたのか分からなかった。
 ふ、古見君を説得する? 出来なかったら負け?
 そんなこと、できるわけがない。説得は一度失敗している。だから今度は失敗しない為に、橘先輩達の助力が必要なのに。

 今の私の助っ人は長尾先輩と御堂先輩、この二人だけ。
 二人が古見君を説得できるとは思えない。説得できるとしたら、獅子王先輩の方。

 獅子王先輩は弱い人の意見は聞かない。二人の強さなら、耳を傾けてくれる可能性はわずかだけどある。でも、古見君は強さで従わせるなんて無理だと思う。
 無理だよ。ここは答えを保留して、少しでも有利になるようにしなきゃ。でも、逃げようとする私を、朝乃宮先輩は許してくれなかった。

「伊藤はん、確認しておきますけど、いつまでに風紀委員との勝敗を決めはるつもりなん? 時間は限られてますし、はよせんと」

 時間が限られている? なんで?

「噂になってますえ。伊藤はんが風紀委員に喧嘩売ってるって。下剋上げこくじょうや反逆とか好きなように周りから言われとるんや。今は橘はんが抑えてはるけど、それもいつまでもつかは分かりません。風紀委員の顧問が動けば、一発でアウトや」

 そ、そんなことになってたの! 確かに顧問に呼び出されたら、なんて説明していいのか分からない。きっと、状況だけが悪くなる。
 でも、意外。
 どうして、橘先輩は問題にならないようにしてくれているのかな? 問題になれば、一気に問題は解決できるのに。
 橘先輩が噂を抑えてくれているのは、体裁ていさいを気にしているからかな?

「……思ってたんだけどよ、アイツ、伊藤に激アマじゃねえか?」

 御堂先輩の意見に朝乃宮先輩が同意する。

「せやね。ちょっと伊藤はんを優遇ゆうぐうしすぎやわ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私、橘先輩のせいで追い詰められているんですよ? 優遇はないでしょ!」

 あの意地悪が私を優遇してくれているとは思えないんですけど。
 私はそんなことはありえないとうったえる。でも、御堂先輩も朝乃宮先輩も首を横に振る。

「い~んや、橘は絶対、伊藤を贔屓ひいきにしている。あそこまで面倒見のいいところをみたことがない」
「せやね。本来ほんらいなら、ここまで問題を起こした風紀委員は、裏切り者として問答無用もんどうむようで辞めさせるのに。橘はんは自分に力を貸してくれる人には寛大かんだいやけど、裏切り者や刃向はむかう人には、容赦ないお人です。例外なんてありえへん……って思ってたんやけど」

 朝乃宮先輩は探りを入れるような目で私を見つめてくる。そんな目で見られても困るんですけど。
 実は私も、二人の意見と同じ。橘先輩は私を突き放したと思ったら、本気で心配して会いに来てくれることがあった。
 橘先輩の行動は矛盾むじゅんしている。

 考えてみれば、橘先輩はわざわざ私に獅子王先輩達のことを力ずくで解決するなんて言ってくること自体おかしい。
 本気で潰したかったら、わざわざ私に言わなくても行動すればいいのに。橘先輩の考えがさっぱりわからない。
 何がしたいの、橘先輩は?

「そもそも、橘先輩は同性愛に賛成なんでしょうか? それとも、反対なんでしょうか? 立場上ただ反対しているだけなんでしょうか?」
「反対だろ」

 サッキーの疑問に御堂先輩は即答した。私も御堂先輩の意見に賛成。橘先輩の態度からして、賛成はありえない。

「それならどうして……」

 サッキーのつぶやきに、朝乃宮先輩が答える。

「それは明らかに伊藤はんが原因やね。伊藤はんが獅子王先輩をかばわなければ、橘はんは何の躊躇ちゅうちょもなく二人を別れさせたやろうな。それ以外、理由が思いつかへん」

 私が原因? なんで?
 その謎に御堂先輩も朝乃宮先輩も明確な答えがわからない。

「それが分かれば苦労しねーよ」
「全くや」

 頭を悩ませている私達に、意外な人物が一つの推論を出してくれた。
 るりかだ。
 るりかはおずおずと私達に意見を述べた。

「は、話を聞いてて思ったんですけど、橘風紀委員長がほのほのを優遇するのは、ほのほののこと、好きだからじゃない?」
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