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十三章

十三話 タネツケバナ -不屈の力- その四

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「……というわけ。ごめん、左近。伊藤氏に負けたよ」

 潤平の対決の経緯いきさつを聞いて、僕は感心していた。
 放課後、風紀委員室で作業をしていた僕の元に潤平がやってきた。そして、たった今、伊藤さんと勝負をして、負けたことを報告してくれた。
 この内容には僕だけでなく、部屋にいた正道、御堂、朝乃宮も驚きを隠せない。

 僕は深いため息をつく。
 伊藤さんの行動力と作戦を見誤みあやまっていた。まさか、いきなり仕掛けてくるとは。
 伊藤さんの案は時間稼ぎが目的だと思っていた。だが、時間を稼ぐどころかすぐに対決を挑んでくるとは。本気で僕達に勝つ気みたい。
 潤平が負けたにもかかわらず、僕はうれしくて笑ってしまった。その表情を正道に見られてしまった。

「喜んでいる場合じゃないぞ、左近」

 正道にたしなめられ、僕はせきをして誤魔化ごまかす。

「ごめんごめん、つい感心しちゃった」
「感心?」

 正道の問いに、僕は自分の考えを話す。

「覚えてる? 風紀委員に恨みを持つ人達が僕の邪魔するって伊藤さんが言ったの。正直、ブラフだと思っていたけど、まさか獅子王先輩が伊藤さんの味方するなんて思わなかったよ。ちょっとだけ伊藤さんの話に信憑性しんぴょうせいが出てきたね」

 僕の意見に朝乃宮が首を振り、否定する。

「いけずなお人やね、橘はんわ。ホンマはそないなこと、微塵みじんも考えてないくせに」
「いけずなのは朝乃宮じゃない。伊藤さんのはったりをばっさり切り捨てて。そう思うなら勝ってきてよ」
「私がやる」

 御堂が意気揚々いきようようと立ち上がる。その目にはやる気と闘志とうしがみなぎっていた。
 御堂……少しは手加減してあげてね。

「いや、次は俺がやる。俺が責任を持って伊藤を指導する」

 正道が御堂を呼び止め、牽制けんせいする。それで引く御堂ではないことを僕は知っていた。

「……藤堂はやめとけ。お前、伊藤にあまいだろ? 私がきっちりとカタつけてやる」
「あまいのは御堂だろ? アイツは調子に乗りやすいからしっかりとしつけてやらないと。そもそも、お前が伊藤をたきつけるからこんなことになったんだろうか。そもそも、御堂はいつも考えなしに行動するから……」

 ああ、やっぱり……二人は真面目だから意見がぶつかるんだよね。
 しかも、正道、説教好きだよね? 御堂、青筋立ててるんですけど。

「……うっさいぞ、てめえ……アイツは女だぞ? 同じ女の私のほうがいいだろ?」
「伊藤は俺の後輩だ。御堂には黒井がいるだろ?」
「まだ言うか。伊藤は女の子なんだ。藤堂は女の接し方があらいんだよ」
「荒いのは御堂だろ? 黒井の事、殴ったりしているのを見たぞ。アレ、いつも気になってた。やめとけ。黒井が可哀想だ。お前はいつもいつも口よりも先に手を出してばかり……」

 お互い火花が出そうなくらいに睨みあう。もちろん、僕は二人を止めるようなことはしない。
 でもね、正道。説教はもういいから。御堂、血管がブチ切れそうなんですけどね。

「麗子は私の後輩だ。口出しするな」
「なら、俺の後輩である伊藤の事も口出ししないでくれ」

 伊藤さんの対処たいしょに関して、二人の口論がどんどんヒートアップしていく。お互い今にも掴みかからんとする勢いだ。

「誰も伊藤が藤堂の専属の後輩とは認めてない。伊藤なんかに鼻の下伸ばしてるから反抗されるんだ。その尻拭いを私がしてやってるだけだろが」
「誰も御堂に頼んでない。勝手に勘違いしているようだが、俺は伊藤をいやらしい目で見たことはない。尻拭いも必要ない。引っ込んでろ」
「ああん? この石頭が! てめえ、ちょっと外に出ろ!」
「暴力で白黒つけようとするのが野蛮やばんだと言ってるだろうが。伊藤に御堂の喧嘩っ早さがうつったらどうする。自重しろ」
「ちょっと、二人が喧嘩はじめちゃったよ、左近」

 潤平はどこか懐かしむように二人の喧嘩を見ていた。それは僕も同じで、つい苦笑してしまう。

「仲がいい証拠でしょ。あの頃から変わってないよね」

 二人の口論を聞きながら、僕は自分の作業に戻り、伊藤さんのことを考えていた。
 さて、次はどんな手でくるのかな? 残りのメンバーも少し伊藤さんにあまいけど、楽に勝てることはないはず。

 それよりも、この件が更に問題を大きくしないよう、気を付けないと。特に先生方の耳に入ったら厄介だ。
 悩みが尽きないけど、これはこれで楽しい。
 僕は窓の外を見上げた。今日も雲一つない、いい秋空だ。
 風紀委員対決、頑張ってね、伊藤さん。

「痛っ! お前! マジで殴ったな!」
「ああん? うっせんだよ、藤堂! ぐちぐちぐちぐち男のくせにしゃべりやがって! 拳で物言えや、こら!」

 正道、御堂……キミ達も少し自重してね。


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