風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

文字の大きさ
142 / 545
十章

十話 オキナグサ -告げられぬ恋- その三

しおりを挟む
 私と古見君は黒服のスーツの人に先導せんどうされ、校門からリムジンに乗せられ、喫茶店『BLUE PEARL』に来ていた。
 お店の中は私と古見君、黒服のスーツの人達で満席になっている。私達の貸切状態。
 暑苦しい男の人が三十人以上あふれていて、すごく異質な空間になっている。
 これっていいのかな? 午後一時の稼ぎ時に喫茶店を占領せんりょうしてしまって。

「いらっしゃいませ」

 あれ? 店員がメイドから執事さんになってる! 驚き!
 燕尾服えんびふく姿の長身イケメンが甘い声で私に話しかけてくれる。カッコいい。
 でも、ここで働いていたメイドさんはどうしたんだろう?
 ま、まさか……メイドさん、押水先輩のことがダメになって辞めたんじゃ……。

 ここで働いていた二人のメイドさんは押水先輩のことが好きだった。その恋を私達は引き裂いてしまった。
 橘先輩の言葉が脳裏をよぎり、気分がブルーになってしまう。

 ごめんなさい……ごめんなさい……。

 私は恐る恐る店員さんに確認してみた。

「あの……」
「はい、お嬢様」

 お、お嬢様? 私が?
 あははっ、テレる。ドキッとくる大人びた笑顔に、甘く囁くようなクリアボイス……めちゃ媚びてる! でも、それがいい!
 あっ、いけない。ちゃんとしないと。

「そ、その……ここって前はメイド喫茶でしたよね? なんで執事さんになったんですか? 前にいたメイドさんはどうしたんですか?」
「執事になったのは店長の趣味です。メイドは彼氏ができたので辞めていきました」

 思いっきり私事わたくしごとだった! メイドさん、普通に彼氏作っているんだ。切り替え早いよ!
 細長いメニューを渡され、どうしていいのか困ってしまう。私達も何か注文したほうがいいのかな?
 でも、目の前の黒服さんに気圧けおされて、言葉が出てこない。隣に座っている古見君も縮こまっている。
 黒服さんは何を注文するのかな? やっぱり、黒服のスーツ、黒のサングラス、黒の靴下、黒の靴……黒で統一しているから飲み物も黒かな? 黒といえばやっぱりコーヒ……。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「「「水」」」」

 セコッ! ただの水って……しかも全員! ハモってるし! 執事さん、びっくりしている。
 大の大人が水を頼むかな? 水を頼む勇気がすごい。しかも真顔で! 余計にづらくなった。

「キミたちも何かたのみますか?」

 キミたちもって……私は執事さんを横目で見ながら、気になっていた点を黒服さんに確認した。

「……自腹ですか?」
「私がおごらせていただきます。こちらの都合に付き合わせていただいていますので」

 ふう……よかった。何かたのまないと執事さんに申し訳ないって思ってたんだ。執事さん、笑顔だけどメチャクチャ困った顔をしてるし。
 橘先輩と黒服さんのことがあって、お昼ちょっとしか食べてないし。何をたのもうかな。

「古見君は何をたのむ?」
「……すごいね、伊藤さん。僕は何も喉が通らないよ」
「でも、執事さん、困ってるよ」

 古見君は執事さんと目が合うと、執事さんは苦笑いを浮かべている。なんなんだろうね、この状況。

「お、お嬢様! ご注文は何になされますか?」

 執事さん、こびを売り始めたよ! カッコ悪い! でも、気持ちはわかるけどね。わかるんだけどね、執事さん。古見君は男の子ですよ?

「そ、それじゃあ、オレンジジュースで」

 古見君は一番安いものを注文した。黒服さんに遠慮しているみたいだけど、執事さんの顔、引きつっているよ。
 満席でオレンジジュース一つはつらいよね。仕方ない。ここは私が手本を見せないと。

「あの~、注文いいですか?」
「はい! なんなりと、お嬢様!」

 執事さんが期待に満ちた懇願した目で私に訴えかけている。少しでも高いものを注文してくれと。
 それなら……。

「では……青島ブルーハワイスペシャルフルーツキャラメルティラスショコラマスクメロンチョコレートクリームプリンパフェ、ちょい盛りで!」
「長っ!」
「「「値段、高っ!」」」

 ふふっ、言ってやったね!
 ちなみに長っ、といったのは古見君で、値段、高っと言ったのは黒服達です。

「では、ごゆっくり」

 注文を復唱せずに執事さんがささっとキッチンへ戻っていく。キャンセルされたくないんだ。この店で一番高いものを注文したけど、それでも赤字なんだろうな……。
 また気まずい雰囲気がおとずれる。ここでにらめっこしていても始まらない。何かしゃべらないと。
 息を大きく吸い、覚悟を決める。いくよ!

「……今日もいい天気ですね」
「そうですね」

 ……会話終了。人事は尽くした。あとは天命を待つのみ。私のラッキーアイテムはリュックにつけたまま。ここにはない。
 先輩にクレーンゲームでとってもらった男の子と女の子の双子の赤ちゃん。その両方をリュックにつけている。
 部屋に大事に飾っておきたいと思ったけど、やっぱり、可愛いものは身につけておきたい。

「あの……そろそろお話を聞きたいのですが……」

 古見君が私の代わりに尋ねてくれた。目の前の黒服さんがネクタイを整え、話し出す。

「失礼。まずは自己紹介を。私、神木裕次郎と申します」

 神木さんが名刺を差し出す。名刺を受け取ると、そこには会社名と役職が記載されていた。
 会社の名前を見ただけでわかった。この人は獅子王先輩の会社の人だ。

「名刺に書いている通り、私は獅子王一様の父君の秘書を致しております。今日は伊藤ほのか様と古見ひなた様にお話があり、この場をご用意致しました」

 口調は丁寧だけど、すごく威圧的。雰囲気が重くなって、私は思わず息をのむ。

「お話とは獅子王一様のことでございます」
「おまたせいたしました、お嬢様方。青島ブルーハワイスペシャルフルーツキャラメルティラスショコラマスクメロンチョコレートクリームプリンパフェちょい盛りとオレンジジュースでございます」

 執事さんがパフェを私に、オレンジシュースを古見君の前においてくれる。
 水は黙っておいている。

単刀直入たんとうちょくにゅうに申し上げます。古見ひなた様、これ以上獅子王一様に近づくのはやめていただきたい」

 誤魔化ごまかしも言い回しもないストレートな意見に、私は唖然あぜんとしてしまう。私は黙ったまま、そっとスプーンを手にして、パフェを一口食べる。

「美味しい……」
「ただでとは言いません。それ相応の見返りをご用意致します。いかがでしょうか?」
「ぱくぱく……」
「お互い、悪い話ではないはずです。考えてみていただけませんか?」
「ぱくぱくぱく……」
「……」
「……この状況でよく食べられるね、伊藤さん」

 パフェを食べる私を見て、古見君は引いていた。
 だってお腹すいてるもん。お昼食べそこなったし。それに納得いかないことがある。
 それは……。

「あの神木さん、一言いいですか?」
「なんでしょう?」

 刃向かう気かコイツって見下した視線を私に浴びせてくるけど、どうしても、聞いておきたいことがある。

「なぜ、私に提案するのですか?」
「? あなたが古見様ですよね?」
「んなわけねーよ!」
「い、伊藤さん! 落ち着いて!」

 私は迷うことなく神木さんの胸倉をつかみあげる。よりにもよって私を男の子と間違えるなんて!
 こんな屈辱くつじょくは初めて!
 スカートいているでしょ、私は! 気づけよ、おい! 男の娘でもスカート履かんわ!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...