上 下
138 / 531
九章

九話 サイネリア -いつも喜びに満ちて- その七

しおりを挟む
「古見君! 次いくよ!」
「待ってよ、伊藤さん!」

 私達はいろいろなゲームをプレイして遊んだ。
 古見君も最初は余所余所よそよそしかったけど、途中からは笑ってくれた。喜んでもらえた。
 それだけでもゲームセンターに誘った甲斐かいはあったよね。

 靴箱の事や試合の事もあったし、気晴らしになればと思っていたけど、うまくいったみたい。あとは先輩とのデートでどう感じてくれたのかが気になる。

「ねえ、古見君。今日の記念にプリクラとっていかない?」
「いいの? プリクラって確か、男の子の出入りは禁止されていなかったっけ?」
「カップルなら大丈夫! 先輩もいるし!」
「ちょっと待って! カップルの意味、違わない?」

 プリクラコーナーにいくと、店員さんが私達を見ていたけど何も言われなかった。
 プリクラが男性禁制になっているのって、盗撮やナンパ防止だったと思う。カップルや親子なら問題ないはず。

「ほらね。私の言ったとおりでしょ? ナイスカップリング!」
「……絶対勘違いしているだけだと思うけどな」

 悩んでいる古見君を引っ張って、私達は最新のプリ機に入る。
 私と古見君、先輩、滝沢さんの四人でプリクラをとることにした。
 操作、選択は私が選んでいく。

 コース、撮影枚数とレイアウト等、画面をタッチしてっと……。
 何回かフラッシュされ、そのたびにポーズを変える。
 古見君は私と一緒にポーズをとってくれたけど、先輩は直立不動のまま。本当に真面目だよね。証明写真じゃないのだから、好きにポーズとっていいのに。

「えへへ、ハートとかいれよっか?」
「いろんな機能があるね」

 写真を撮った後が楽しいんだよね。肌の色とか選んで、好きにラクガキしてできるこの瞬間が好きなんだよね。
 滝沢さんの顔にラクガキしたら怒られたけど、滝沢さんも好きなのか、いろいろとラクガキしてきた。私も負けずにらくがきしていく。
 プリント中と画面が表示され、できるのを今か今かと待っていた。

「伊藤、ちょっとトイレ」
「あ、僕も」

 古見君と先輩が離れていく。私と滝沢さんが残される。お互い何も話さず、携帯をいじりながら時間が過ぎていく。

「ね、ねえ、ちょっといい?」

 意外にも滝沢さんが話しかけてきた。

「何でしょう?」
「その、靴箱の件なんだけど」

 まだ言いたいことがあるの? あれは真犯人も捕まって私じゃないのに、しつこいな……。

「疑ってごめんなさい。私が間違っていたわ」
「……」

 あ、あれ? 予想していた答えと違う。急に態度が変わったことに驚きよりも不審ふしんな気持ちが強かった。

「なんで急に謝ったの?」
「本当はすぐに謝りたかったけど、ひなたの前だからつい意地をはっちゃって……ほら、ひなたにいろいろ言っちゃったから……」

 前から思ってたんだけど、滝沢さんってやっぱり……。

「古見君の事、好きなの?」
「ばっ! 違うわよ! 誰があんな女々しいヤツなんか! 本当にやめてよね!」

 分かりやすい。滝沢さん、顔を真っ赤にして否定しても、何の説得力もないですから。
 つい、今までのお返しといわんばかりにいじめたくなっちゃう。

「へえ、そうなんですか」
「ちょっと! 絶対に勘違いしてるでしょ!」
「してませんよ~」

 私の態度に顔を真っ赤にさせてムキになる滝沢さん。
 あまり怒らせるのも悪いし、ここまでにしておこう。滝沢さんはそっぽ向きながら小さい声でつぶやく。

「伊藤さんはひなたの事、どう思ってるの?」
「友達だけど」
「そっか、今度の友達は伊藤さんか。いつまで続くのかな」

 今度の友達? 古見君が前に女の子の友達はできても、すぐにダメになるって言ってたっけ。滝沢さんはそのことをいっているのかな?
 私は古見君とずっと友達でいたいと思っている。せっかく仲良くなれたんだから、このえんを大切にしたい。

「きっと古見君とはいい関係が築けると思う」
「そっか。ねえ、伊藤さん。し、獅子王先輩とのことって本当なの?」
「本当って?」
「ひなたとつ、付き合ってるとか」

 滝沢さんはぼそぼそと不安そうに尋ねてくる。
 古見君と獅子王先輩は付き合っていることになってるんだ。噂ってあまりあてにならないよね。
 私はちょっと複雑な気持ちになりながらも滝沢さんの質問に答える。

「二人は付き合ってないよ」
「や、やっぱりそうよね。男の子同士の恋愛っておかしいでしょ」
「そうかな? お互いが好きならいいと思うけど?」

 滝沢さんは困った顔をしていた。
 私は古見君の友達だから……古見君がもし、獅子王先輩の事が好きなら応援したい。

「ねえ、もし、もしもだよ? 伊藤さんが好きになった人が同性愛者で振り向いてもくれなかったらどうするの? 諦められるの?」

 滝沢さんが私の事を責めるような口調で質問をしてきた。でも、それは不安の裏返しなんだよね。橘先輩にも尋ねられた質問だ。
 それは仕方ないなんて強がりは言えない。性別は関係ない。先輩が私よりも他の人が好きってだけで嫉妬しっとしちゃう。
 だから、答えは決まっている。

「好きな人が同性愛者でも、振り向いてもらえるよう努力はしてみるかな。同性愛者だからって諦めるのは納得いかないから」
「そっか」

 滝沢さんは複雑そうな顔をしている。でも、これが私の本音。好きな人の事をあきらめたくなんかない。
 だって、私は四六時中、先輩のことを考えている。先輩のこと、誰よりも好きだから。絶対に報われたいと思っているし、先輩と恋人同士になれるって信じている。

「伊藤、待たせたな」

 先輩と古見君が帰ってきたので、この話題は終了となった。
 古見君の前では意地を張っているのか、滝沢さんは私に話しかけてこない。
 できたプリクラを見てみると、みんな笑っている。きっと、大丈夫だよね。古見君達の事も、滝沢さんのことも。
 そんなことはありえないと心のどこかで感じていながら、私は真実から目をそらしてはしゃいでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...