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七章

七話 ライラック -恋の始まり- その六

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 ソフトを起動して、いざ開始!

 『ときめきTOMORROW ダッシュターボ!』。

 突然だけど、説明しよう!
 『ときめきTOMORROW ダッシュターボ!』とは、オーソドックスな恋愛シミュレーションゲームで、主人公が幼馴染(ヒロイン)と恋人になるのがゲームの目的となる。
 ヒロインがいかにも男の子ウケしそうな萌え絵なのはさておき、私がマウスをクリックしてゲームを進めていく。

 私はこういうのは好きなんだけど、先輩達は……ダメみたい。先輩と獅子王先輩がつまらなそうな顔をしている。
 特に先輩は押水先輩を思い出しているのか、苦々しい顔つきになっている。
 大変だったよね、ハーレム騒動。もう、あれ以上のトラブルは起きないと思っていたけど、すぐにやってきちゃいましたね、トラブルが。
 そのトラブルの元である獅子王先輩は呑気にあくびをしている。
 二人が退屈しないよう、早く進めないと。
 何回かクリックしたところで、始めの選択肢が出てきた。

「さて、先輩達に問題です! ヒロインを起こしに来た主人公が、寝ているヒロインにとるべき行動は次のうち、どれでしょう!


1、優しく起こす。
2、起こすのは可哀想なのでそのままにする。
3、蹴り起こす。


 この三つから選んでください! 獅子王先輩はヒロインを古見君と思って考えてください。先輩は、わ、わた、わた……」

 ううっ、顔が熱くなってきた。恥ずかしくて言葉が続かない。私って言いたいのに。
 頑張れ、私!
 私は必死に口を動かし……。

「わた、わた……四月一日わたぬき君だと思って、答えてください! シンキングタ~イム!」

 私のバカ! 四月一日君って……本当にチキン……。
 でも、もう少しで私って言えそうになったもん。頑張ったよね。
 獅子王先輩は画面を睨みつけ、考えている。
 先輩は眉をひそめ、「四月一日君って誰だ?」とつぶやきながらも考えてくれていた。やっぱり、先輩は真面目だよね。
 ふふふっ、この二人が何を選ぶのか、予測ついちゃうな。

「では、正解は何番!」
「「一番」」

 あれ? 二人の声がハモった。
 一番か。藤堂先輩はともかく、獅子王先輩は三番を選ぶと思ったんだけどな。
 これって、古見君の事、真面目に考えてくれているってこと? 私、獅子王先輩の事、ちょっと見直したかも。
 一番を選ぼうとカーソルを動かして……クリックする前に……ちょっとこの女の子、お約束というか、パンツ、見えてるよね? 先輩、見たんだよね?

 な・ん・・か・む・か・つ・い・て・き・た!

 ピッ!(選択肢をクリックした音)
 バシュ!

『な、なんで蹴るのよ!』

 私は三番を選択した。幼馴染の女の子は涙目になりながら、主人公に抗議している。
 主人公の心の声も、なぜこんな選択肢を選んだんだってプレイヤーに恨み言をつぶやいていた。

「「おい!」」
「すみません、ちょっと手が滑って」



 次の選択肢が出てくるまで、私はCTRLキーを押しっぱなしで強制スキップで進める。
 先輩が気難しい顔で「読まなくていいのか?」と問いかけてきた。獅子王先輩は頬杖ほおづえをついて、大きく口をあけてあくびしている。
 私は手をパタパタと振り、時間がかかるのでパスさせていただくことを説明したけど……内心は、おもしろくないからスキップしてるんだよね。

 やたらサービスシーンのCG、出てくるし。少女漫画だってここまでサービスをしないし。何より、先輩に見せたくない。
 それに物語の内容も納得いかない。主人公は簡単にデート誘えてるし、ヒロインもすぐにOKだしちゃうし。
 そんな簡単に、しかも、男の子からデートに誘ってもらえるなんて、ありえないでしょ! 私だって先輩に誘ってもらったこと、一度もないのに! ナンパはよくあるけどね!

 私なんて、どれだけ勇気を振り絞って先輩にアタックし続けているのか、この二人に説教してやりたい!
 このゲーム、選択ミスだった。何が最高に面白いよ。女の子の私にパンチラCGはいらないっつーの。
 電子演算部め、ログはやはり、先生方に匿名とくめいで報告しておこう。
 ゲームを進めていくと、デートの当日に選択肢が出てきた。少し長かったけど、ここからが本番ですよ!

「さて、獅子王先輩。選択肢が出てきました」
「……おい。本当にコレ、役に立つのか?」

 獅子王先輩の疑問に、私は胸を張って答える。

「大丈夫です。今までは肩慣かたならしでしたが、ここからが本番です!」
「肩慣らし早いな」

 先輩のツッコミを無視して、説明を続ける。

「実は今日のお昼休み、古見君に会って色々とリサーチ致しました! 古見君の好み、思考は確認済みです。今後は古見君の好みにあわせて、好ましい選択肢を選び取れるか、テストさせていただきます! 例え選択肢を間違っても、今は問題ありません。古見君とデートの予行練習だと思って頑張ってください!」

 古見君に事情を説明して、了承りょうしょうはもらっている。獅子王先輩がどこまで古見君の好みを把握はあくしているか、これで分かるはず。
 古見君と話をしていて、疑問に思ったことがある。それは、同性愛者はいつから自分を同性愛者だと自覚するのか。

 BL本は沢山持っているけど、本に出てくる男の子は、すでに同性愛者だった。彼らはいつ、どうして同性愛に目覚めたのかは書いていない。獅子王先輩もはじめから同性愛を受け入れてるし。
 獅子王先輩の場合は、古見君を好きだって自覚したときに同性愛に目覚めたってこと? それまではノンケだったってこと? いきなり目覚めちゃうものなの? ううん……分からないな……。

 私もそうだけど、漫画やアニメ、ドラマに影響されて、好みができてくるよね? 男の子の漫画は百合ゆりはOKなのに、BLはダメって流れが多い。
 そんななか、どうして、男の子は同性愛に目覚めるのか? 男の子だけじゃなくて、女の子同士の恋愛もよく分からないんだよね。

 いつも一緒にいて、何をするときも離れない二人組の女の子って時々見かけるけど、いつからそうなったのかはさっぱりわからない。
 百合漫画を見ても、自然とカップルになって同性愛を認めているから、きっかけが分からない。
 それにBLもGLも性的興奮をうながす漫画ばかりだし。同性愛に関して、あまり書かれていない。

 同性愛のことって知っているつもりだったんだけど、全然分かっていなかった。明日香もるりかも分からない。親にも相談できない。
 ううん……もやもやするな……。
 みんなは分かるかな?

「おい、伊藤?」
「あっ……すみません。さて、いきますか!」

 答えが出ないものを考えても、仕方ないよね。今は獅子王先輩たちのことを考えよう。
 私は目の前のことに集中することにした。
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