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一章

一話 伊藤ほのかの挑戦 落ちてきた男編 その三

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 放課後。

 私と先輩、橘先輩、御堂先輩、朝乃宮先輩、長尾先輩は風紀委員室で、昨日の不良グループ『亜羅死』の事後処理を話し合っていた。不良を退治すれば、一件落着ではない。
 被害者への賠償、今後の身の振り方等、いくつか決めなければいけないことがある。
 警察では、不良を取り締まっても、カツアゲされた料金や暴力を受けたので治療費を被害者に払ってくれるわけではない。それに取り締まっても、また別の名前でグループを作られてしまっては意味がない。

 そういったところをどうするのか、風紀委員で話し合い、先生方の指示を仰ぐ。もちろん、先生方に不良を裁く権利などない。建前みたいなもの。
 要は、同じ学生同士で話をつけろってことらしい。なので、橘先輩が不良グループのリーダと話し合いをして、どうするのかを決めるのだ。
 私は新参者だからよく分からないんだけど、いろいろとあるみたい。
 話し合いの最後で、先輩が昨日起きた、大男が降ってきた件を改めて橘先輩に報告した。

「大男が降ってきた件ね」

 この奇妙な事件は本当に大変だった。
 大男が空から降ってきた後、先輩は男の子を保健室に運んで、養護教諭ようごきょうゆに診てもらった。
 さいわいたいした怪我ではなく、気絶しているだけだった。
 先輩は橘先輩に大男が降ってきたことを報告。
 報告が終わった頃には日が落ちてしまったので、打ち上げはなしになってしまった。

 許すまじ、あの男の子。
 腹いせに男の子を気遣きづかうふりをして、指で一番痛そうなところをぐいぐい押しつけてやったけどね。

様子見ようすみってことでいいよね」
「よくないでしょ!」

 私のツッコミに橘先輩は嫌そうな顔をしている。
 橘先輩の気持ちが手に取るようにわかる。関わりたくないって露骨ろこつに顔に出ていますよ。

「せっかくハーレム騒動も落ち着いてきたのに、厄介やっかいごとは勘弁かんべんしてほしいんだけど」
「だからって男の子が降ってきたんですよ? 尋常じんじょうじゃないですよ! 調査が必要でしょ! ねえ、先輩?」
「確かに。ふざけている場合じゃないぞ、左近」
「大真面目なんだけど」

 橘先輩はため息をつき、どう対処するか考え込んでいた。そんな橘先輩を見て、私はある期待をせずにいられなかった。

 空から人が降ってくる。このパターンは古今東西の物語やアニメ等で使われているお約束のシチュエーションだ。
 人だけではなく、アンドロイドや宇宙人、未来人、お城等、バラエティ豊かだ。
 だけど、現実はそんなことはない。空から人が落ちてきたら、それは自殺か他殺、事故になっちゃうだけ。
 落ちても生きていられる人がいるとしたら、それはジャ○キー・チェンかブ○ース・ウィリスのどちらか。二人とも落ちすぎ。
 今回の件はちょっと特殊だけど、立ち回り方さえ間違えなければ危険はないはず。
 つまり、ここで事件を解決してみせれば、私の株が上がる。
 そうすれば……。


「伊藤、よくやったな」
「見直したよ、伊藤さん」
「いやいや、これくらいどってことないですよ! これからも、どんどん任せてください! 私、失敗しないので!」
「頼もしいね、次期風紀委員長も間違いないね」
「伊藤、お前に会えて良かったよ。これからも、風紀委員の為に……俺の為にずっとそばにいてくれ」
「先輩……」


 ふふふふふふふふふふふふふふふふっ。
 やるきゃねえ!

 私は期待に満ちた目で目をぱちぱちさせながら、やる気満々の眼差しを橘先輩に送る。
 橘先輩と目が合う。

 ワ・タ・シ・ニ・マ・カ・セ・テ!

「正道、お願いできる?」

 がたん!

「い、伊藤、どうした?」
「なんでもありません」

 私はつい、ずっこけそうになった。
 ま、まあ、先輩だしね。橘先輩が一番信頼している先輩だから、仕方ないよね。わ、私だって先輩を指名しちゃうから。

「左近、亜羅死あらしの件が済んでからでいいか? 念の為、壊滅したかどうか確認したい」
「そっか、その件があったね」

 先輩、ナイス! 空気読めてますよ!
 きっと素で答えてくれたんだろうけど、そんなことは関係ない。私にチャンスがきたってことだよね。

「私も藤堂についていくから」

 御堂先輩が先輩と一緒っていうのが少し気になるけど、今はよしとしよう。これで候補者が二人減った。
 橘先輩は誰にしようか部屋を見渡みわたしている。

 ここよ、ほのか!
 上目遣うわめづかいで、橘先輩にアピールする。
 あっ、目が合った。

「潤平、お願いできる?」

 どうして! 目が合ったでしょ!
 長尾先輩は苦笑しつつ、手首を振っている。

「ええ~、僕、おんにゃの子ならやるけど、男はパス」

 流石は長尾先輩! マジ腐ってる! 本当にアンタは風紀委員なんですかと言いたいけど、グッジョブ!

「それなら……」

 橘先輩は残りのメンバーから指名しようとしている。
 アピールしなきゃ!
 ぱりぱちぱちぱち!
 瞬きを繰り返してアピールする私と、再び目が合う。

「朝乃宮、お願いできる?」
「……」

 おかしいな……避けられてるのかな……私。

「ウチもパス。汗臭そうやし」

 風紀委員って先輩以外やる気ないよね。橘先輩も大変だ。
 橘先輩は頭をかいている。仕方ない、私が引き受けてあげますか。もう、この部屋に指名できる人物は私しかいないよね。
 私はかるくせきをする。

「あ~あ、私、偶然にも、偶然にもひまだな~仕事してもいいかな~暇だし」
「……仕方ない。僕が直々に……」
「ワザとやっとるでしょ! 橘先輩!」

 堪忍袋かんにんぶくろが切れた! それはもう、プツンとね!
 橘先輩の胸倉をつかみ言い寄る。某テロ対策ユニットのエージェント並にブチ切れる。

「ふふっ、イケズやね、橘はんは」
「伊藤氏は二回、暇だって言ってたのに」

 だよね! 朝乃宮先輩も長尾先輩も気付いているよね! 二人が気づいて、橘先輩が気づかないわけないじゃない!

「ですよね! 流石は朝乃宮先輩、長尾先輩! 話が分かる! ねえ、橘先輩? 説明していただけますよね? なんで、やる気満々の私を無視したのか」
「いや、入ったばっかりの一年生には荷が重いと思って」
「大丈夫です! この件は私向きです! 私こそ適任者てきにんしゃです!」
「ダメだ」

 ここでまさかの反対が! しかも、先輩に反対されるなんて。

「なんでですか!」
「危険だからだ。男が空から降ってきたんだぞ? どうしても調査したいのなら、俺が一緒にいく。それまで待て」

 ううっ……先輩が私を心配してくれることがうれしくてむずがゆい。
 どうしよう……考えようによっては先輩と一緒なら心強いし……でも、認められたい。私だって先輩の役に立てることを証明したい。

「まあ、いいじゃない。ここは伊藤さんを信じてみるのもいいかもね」

 意外にも橘先輩が私を援護してくれた。
 えっ? なんで? 逆転してない?
 案の定、先輩は怒っている。ここは黙って見守ろう。

「左近!」
「過保護すぎだよ、正道。可愛い子には旅をさせなきゃ。要は危険じゃなければいいんでしょ? それなら……」

 橘先輩がとった決断は……。
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