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最終章
最終話 桜井みなみの願望
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□□□
「みなみ~、準備は出来てるの?」
「うん」
お母さんとお父さんは引っ越しの準備で忙しそうに立ち回っている。私はソファーに座って、その様子を眺めていた。
一郎ちゃんが引っ越していった後、私もお父さんの仕事の都合で引っ越すことになってしまった。慣れ親しんだ家を離れるのは寂しいけど、仕方ない。
それにもうここにいても意味がない。だって、一郎ちゃんがいないから……一郎ちゃんのいない町に、日常に何の意味があるのだろうか?
「みなみ、一郎君のこと、残念だったな」
「もう、お父さん! 何度その話をするつもりなの!」
「でもな、母さん。期待しただろ? 孫の顔がすぐに見られると思ったのにな」
「ごめんね、お父さん。私のわがままで引っ越すことになって」
「別にかまわないさ。可愛い娘の為だ。今度の新天地では全てを忘れて、学校生活を楽しみなさい」
父親の優しさに、心の奥が温かくなる。
私はそっとお腹に手を触れる。
「みなみ、まだ体調が悪いのか?」
「ううん、もう大丈夫。ありがとう、お父さん」
「いいんだ。みなみが元気ならそれでいい」
「もう、お父さん! こっちも手伝って!」
「はいはい、今いくよ!」
お父さんとお母さんはやっぱり仲がいい。私もあんな結婚生活が出来ればと思う。
ポケットに入れていた携帯から着信音が鳴る。リビングを出て、自分の部屋に戻り、通話ボタンを押す。
「はい」
「橘です。今、いいかな?」
橘……風紀委員……藤堂……私と一郎ちゃんの仲を引き裂いた人達。
「なんでしょう?」
「今日、引っ越すって聞いたから挨拶をしておこうと思って」
「わざわざありがとうございます。それとありがとうございました。最後まで黙っていてくれて」
「約束だからね。もう会うことはないと思うから、最後に教えてくれない?」
「なんでしょう?」
「本当に妊娠してなかったの?」
私はそっとお腹をなでる。
「なんでそう思うのですか?」
「直感だよ。女の子の嘘は複雑怪奇で僕には見破ることができないから。ねえ、本当の事、教えてくれない?」
「……妊娠してませんよ」
「……」
私の回答に、電話の相手は黙ってしまう。しばらくして、電話の相手の声が聞こえてくる。
「そうかい。分かったよ。まあ、妊娠していても、キミはもう青島高等学校の生徒じゃないから問題ないんだけどね」
「お話は以上ですか?」
私の淡々とした声に、電話の相手は気にすることなく話し続ける。
「うん。忙しいときに悪かったね。お元気で」
「はい、失礼します」
私から通話を切った。今かけてきた相手の番号を着信拒否の設定をして、携帯を机の上に置く。
私は慈しむようにお腹をなでる。
一郎ちゃんは私の為に身を引くフリをした。だから、あの藤堂の提案に乗った。
私だけは分かっている。一郎ちゃんは私を選んだのだ。なら、守らなきゃ。私と一郎ちゃんの愛の証を。
壁にかかっているカレンダーを見る。カレンダーの特定の日にちに赤い丸がついている。
赤い丸がついた日付は妊娠二十二週の日、母体保護法で中絶できなくなる日。
それまでは誰にも邪魔はさせない。
待っててね、一郎ちゃん。新しい家族と一緒に迎えにいくから。
□□□
-True End-
「みなみ~、準備は出来てるの?」
「うん」
お母さんとお父さんは引っ越しの準備で忙しそうに立ち回っている。私はソファーに座って、その様子を眺めていた。
一郎ちゃんが引っ越していった後、私もお父さんの仕事の都合で引っ越すことになってしまった。慣れ親しんだ家を離れるのは寂しいけど、仕方ない。
それにもうここにいても意味がない。だって、一郎ちゃんがいないから……一郎ちゃんのいない町に、日常に何の意味があるのだろうか?
「みなみ、一郎君のこと、残念だったな」
「もう、お父さん! 何度その話をするつもりなの!」
「でもな、母さん。期待しただろ? 孫の顔がすぐに見られると思ったのにな」
「ごめんね、お父さん。私のわがままで引っ越すことになって」
「別にかまわないさ。可愛い娘の為だ。今度の新天地では全てを忘れて、学校生活を楽しみなさい」
父親の優しさに、心の奥が温かくなる。
私はそっとお腹に手を触れる。
「みなみ、まだ体調が悪いのか?」
「ううん、もう大丈夫。ありがとう、お父さん」
「いいんだ。みなみが元気ならそれでいい」
「もう、お父さん! こっちも手伝って!」
「はいはい、今いくよ!」
お父さんとお母さんはやっぱり仲がいい。私もあんな結婚生活が出来ればと思う。
ポケットに入れていた携帯から着信音が鳴る。リビングを出て、自分の部屋に戻り、通話ボタンを押す。
「はい」
「橘です。今、いいかな?」
橘……風紀委員……藤堂……私と一郎ちゃんの仲を引き裂いた人達。
「なんでしょう?」
「今日、引っ越すって聞いたから挨拶をしておこうと思って」
「わざわざありがとうございます。それとありがとうございました。最後まで黙っていてくれて」
「約束だからね。もう会うことはないと思うから、最後に教えてくれない?」
「なんでしょう?」
「本当に妊娠してなかったの?」
私はそっとお腹をなでる。
「なんでそう思うのですか?」
「直感だよ。女の子の嘘は複雑怪奇で僕には見破ることができないから。ねえ、本当の事、教えてくれない?」
「……妊娠してませんよ」
「……」
私の回答に、電話の相手は黙ってしまう。しばらくして、電話の相手の声が聞こえてくる。
「そうかい。分かったよ。まあ、妊娠していても、キミはもう青島高等学校の生徒じゃないから問題ないんだけどね」
「お話は以上ですか?」
私の淡々とした声に、電話の相手は気にすることなく話し続ける。
「うん。忙しいときに悪かったね。お元気で」
「はい、失礼します」
私から通話を切った。今かけてきた相手の番号を着信拒否の設定をして、携帯を机の上に置く。
私は慈しむようにお腹をなでる。
一郎ちゃんは私の為に身を引くフリをした。だから、あの藤堂の提案に乗った。
私だけは分かっている。一郎ちゃんは私を選んだのだ。なら、守らなきゃ。私と一郎ちゃんの愛の証を。
壁にかかっているカレンダーを見る。カレンダーの特定の日にちに赤い丸がついている。
赤い丸がついた日付は妊娠二十二週の日、母体保護法で中絶できなくなる日。
それまでは誰にも邪魔はさせない。
待っててね、一郎ちゃん。新しい家族と一緒に迎えにいくから。
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-True End-
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