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83:こいのぼり

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「やねよ~り た~か~い こいのぼり~♪」
「いや、あの団地のベランダにあるこいのぼりはあきらかに屋根より低いでしょ? こいのぼりってかさばるし、保管が大変だし、準備するのも片づけるのも面倒くさいじゃん」
「もう! 本当にめんどうくさい! 風情がない! イケメンだからって何でも許されると思わないでくださいね!」
(今日も私の隣には先輩じゃなくて笑顔爽やかイケメン、新宮司爽真君がいる。けど、中身は腹黒毒舌王子で……)

「あ、あの! 爽真君!」
「キミは○○女子校の浜口さんだよね? こんにちは。元気だった?」
「たった一回しか会っていないのに覚えてくれていたんですか!」
「当たり前だよ。キミが育てていた花壇、すごく綺麗だったからさ。こんなに元気に花をさせることが出来る女の子ってすごく魅力的だよね」
「そ、そんな……」
「あっ、動かないで」
「きゃ!」
「ごめん……おどろかせちゃったかな? 髪に芋けんぴがついていたんだ」
「は、恥ずかしい……きゅん!」

(いやいやいや! この唐突な茶番、なんなの! イケメンアピールなの! 女の子の髪をイケメンに触られるときゅんってくるかもしれないけど、芋けんぴって何! ギャグでしょ、これ! いくらイケメンでもトキメかんわ!)

「……じゃあね、爽真君! バイバイ!」
「またね、浜口さん」
「……」
「ふぅ……女って馴れ馴れしいよな。一回会っただけでもう、名前で呼んでくるんだから調子がいいというか……ほんと、面倒くさい」
「……今の台詞、全国の女子を敵に回しましたよ」
「でも、少女漫画ってこんなヒーローいない?」
「いや、いますけど……」
「マゾなの? 口や態度では興味ありませんって顔しているけど、少し優しくされたらなびいてるじゃん」
「そ、それは少年漫画だって同じじゃないですか! ヒロインに何度も殴られても好きになってるし」
「いや、暴力系ヒロインは絶滅危惧種だぞ。最近の童貞はすぐに股を開く巨乳に憧れてるんだ。いつになったら、そんな女いないって気づくんだろうな」
「この人、鬼だ!」

「それより、ほのか。なんでこいのぼりって母親がいないわけ?」
「(この男、トリ頭なの? いや、三歩歩いていないのに忘れるとか、ありえない! 名前で呼ぶな!)ちゃんといますよ。こいのぼりにお母さんは」
「嘘つけ。こいのぼりの歌は大きい真鯉が父で小さい緋鯉が子供だって歌ってるじゃん」
「ふっふっふっ! こいのぼりの歌は三番まであって、二番におかあさんが出てきます! 大きい真鯉はお母さん♪ ってね」

「おい、どっちが父で、どっちが母なんだ?」
「一番上がお父さん。大黒柱である黒色の真鯉。二番目がお母さん。色は赤色の緋鯉です。三番目以降が子供ですね。けど、当初のこいのぼりは黒い真鯉だけで子供だけだったみたいですね。そこから、お父さん、お母さんが増えていったわけです」

「そもそもなんで鯉?」
「元ネタは『登竜門』みたいですね。『竜門』っていう滝があるんですけど、流れの速い滝を登り切ると竜になれるみたいで多くの猛者さかなが挑んだらしいんですけど、鯉だけが登りきったみたいです。鯉は竜門を登り切って、竜になって天へ昇っていったらしいんですけど……」
「なるほどな。凡人が出世することを願って鯉ってわけか。けど、イメージ的には極道だよな」

「……やめてください。背中の入れ墨を想像しちゃうじゃないですか~。こいのぼりはすこやかなイベントなんです。はぁ……先輩はいつ戻ってくるの……どうして、先輩は私のそばにいないの……ぐすん……」
「……お前のことが大事だからじゃねえの?」
「なにそれ? もしかして、知ってるんですか! 先輩って何をしてるんですか!」
「お前……藤堂のこと、信じられるか?」
「勿論信じられます!」
「なら、黙って待ってろ」
「やっぱり、知ってるんですよね! 教えてくださいよ!」
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