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三十三章 決闘! ジャックVSグリズリー 同族嫌悪のどつきあい

三十三話 決闘! ジャックVSグリズリー 同族嫌悪のどつきあい その十一

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 ――い、息が苦しい……。

 ジャックは意識が朦朧としていた。
 音が聞こえなくなり、拳がスローモーションのように見える。
 体が鉛のように重く、歯を食いしばっていないと立っていられない。
 連打で拳を叩きつけるために無呼吸でお互い殴り合っているので、酸欠で脳がまわらない。

 ジャックは走馬灯に似た景色が流れていく。
 それは苦い思い出。
 助けられなかったレッキーの死に顔。
 ジャスティスに負けたこと。
 リリアンを悲しませたこと。

 惨めな想いをしているのに、逆襲といったハングリーさがなくなり、受け入れていた自分が一番腹立たしいと感じていた。
 だから……。

 ――死んでも勝つ!

 もう、敗者になりたくない。
 そして、リリアンに言った。

「負けないから! キミからもらった勇気で、僕は必ずキミを護るから!」

 護る為には勝たなければならない。負けは論外。
 それならば……。

 ――絶対に勝つ!

 拳を握り、ただ前に突き進み続け、死ぬまで意地を張り、敵を叩きのめす。

 ――勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ!

 どんな相手でも、どこの誰だろうと、誰になんと言われようと……。

 ――勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ――勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ!

 勝つ事でしか自分の存在意義を示すことができない半端者だから……好きな相手に自慢できることがこれしかないから……ジャックは死ぬまで戦い続ける。



 ――い、息が続かん……。

 グリズリーは今すぐにでも息を吸いたかった。
 呼吸できない苦しみに、意識が遠のきそうになりながらも、グリズリーは手を止めない。

 過去の栄光。
 初めての敗北。
 大事なファンに助けられ、見殺しにした罪悪感と屈辱。

 たった一度の敗北は毎晩悪夢としてグリズリーを悩ませている。
 グリズリーは一度の事故で格闘技を強制的に引退させられた。自殺を何度も実行し、悩み続けた。
 それがソウル杯を通じて体が自由に動ける、戦う場所を与えられ、仲間と出会い、生きる気力を取り戻しつつあった。

 自分の武で人のために、もう一度役に立ちたいと思っていた。
 皮肉だった。
 新たにできた自分の居場所が、更にグリズリーを苦しめる地獄へと変化した。
 それでも……。

 ――勝って取り戻す!

 ジャックの言うとおりだ。
 なぜ、自分だけがこんなに不幸な目にあうのか? 理不尽すぎる世界にグリズリー達は生きている。
 だからこそ、打ちのめされても、何度殴られても、立ち上がり、前へ進まなければならない。
 でないと、心が死んでしまう。

 プライドや熱くなれるモノがなく、ただ冷め切った退屈でつまらない怠惰な毎日を過ごすことは生きていると言えるのだろうか?
 違う。それはもう、死んでいる。生きていない。生きる意思が欠如している。
 そんな自分に戻りたいのか?
 答えは……。

 ――NOだ。必ず勝つ。勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ!

 生きるために、自分らしく生きるために、それを奪うモノが現れるのなら……。

 ――倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す!

 勝つ事でしか自分に自信が持てないから戦う。
 何より自分が負けるなんて、ありえない。あってはならない。負ければ全てを失う。
 もう、何も失いたくない。
 それがチャンピオンであり、使命なのだから。



 ジャックとグリズリーの殴り合いは二分近く続いていた。今なお、二人の拳は止まらない。
 異常だった。
 二分近く息を止めて、全力で手を休めることなく殴り合うことなど、ありえないのだ。もうすぐ、三分に及ぼうとしている。
 それは根性といった言葉では到底説明がつかない。執念でお互い殴っている。

 瞼は完全に腫れ上がり、お互い闇の中で拳を振るっている。
 それでも、相手の顔に拳を当てることが出来るのは、今までに気が遠くなるほど積み重ねてきた膨大な練習の成果だろう。

 ジャックの場合、体が覚えている。いや、すり込んでいる。
 相手を倒すために殴る場所を細胞が記憶している。

 グリズリーの場合は培ってきた経験と野生の勘で当てている。
 勘は数の激戦をくぐり抜け、呼吸をするように発揮できるほど磨き上げたグリズリーだけが持つ特技まで昇格している。

 二人の戦いがいつまで続くのか?
 誰もが思っていた疑問にようやく答えが出た。
 その解とは……。

「よっしゃあああああああああああああああ!」

 ビックタワーのメンバー達が歓声を上げている。
 ついに、ジャックの拳が止まったのだ。
 グリズリーは間一髪、拳をジャックの顔をタコ殴りにする。
 ジャックは無抵抗なまま、グリズリーに殴られ続ける。頭を垂れ、反撃する予兆がない。

 ついに、ジャックのスタミナがつきたのだ。
 テンションが上がっているときは疲労を押さえ込むことが出来るが、一度集中力がきれると蓄積された疲労は誤魔化すことが不可能となる。つまり、動けなくなる。
 ジャックの万策はつきた。顔を上げることすら出来ない相手など、恐るるに足らず。
 グリズリーはソウルに拳を集中させ、とどめの一撃に備える。グリズリーの得意な全力のフックでジャックの頭蓋骨ごとぶっ壊す。

 ――ここだ!

 グリズリーは大きく目を見開き、ジャックの動きを注視する。
 グリズリーの拳は空を切り、この激戦を終わらせるゴングが鳴ろうとしている。
 そのときだ。

「!」

 ジャックが顔を上げた。その目は闘志をみなぎらせ、全く諦めていなかった。
 だが、遅い。
 確実にグリズリーの拳の方が早い。グリズリーの拳はジャックのすぐそばにあり、ジャックはまだ構えている。
 誰が見ても、グリズリーの勝利はゆるがない。
 グリズリーの勝利が世界中に知れ渡る瞬間。
 閃光が突き抜けた。

 ジャックの潜在能力が解放され、最速の一撃がグリズリーに襲いかかる。不可能を可能にする起死回生の一撃。
 ジャックは気づいていた。グリズリーのフィニッシュブローを。
 だから、わざと手を止め、グリズリーに殴らせた。この殴り合いは全て、このときのために……。
 筑波拳闘ジムの筑波トレーナーはどうやってジャックがグリズリーに勝てるか?
 それを考えに考え抜いた結果がこの殴り合いだ。

 筑波が莫大なグリズリーの試合を見て、気づいたのだ。拳で相手を叩きのめすとき、グリズリーは右のフックを放つことを。
 全体重を乗せた右フックに耐えられた者はいない。それ故、必殺の一撃であり、尤も信頼できるパンチ。
 だからこそ、この殴り合いのフィニッシュは右フックを選択すると筑波トレーナーは読んだのだ。

 そこで考えたのが、殴り合いだ。極限状態での殴り合いだからこそ、グリズリーの判断と勘を鈍らせ、この苦しい戦いを終わらせる為のチャンスに飛びつくようジャックを鍛えあげた。
 三分間の無呼吸での殴り合い。
 現実ではありえない。人では無理だ。
 それ故、グリズリーの警戒心を解くことが出来る。

 筑波トレーナーはジャックに一秒でも長く殴り合いが出来るよう、毎日仕込んできた。
 それでも、ジャックがやり遂げる可能性は二割にも満たないと思っていた。時間が短すぎたのだ。
 けれども、泣き言は許されない。

 ジャックは自分の体内時計を信じ、閃光の一撃がうてる三分きっかりにグリズリーが右フックを仕掛けてくるよう、殴り、殴られ、右のショートアッパーでグリズリーの顎を跳ね上げる作戦を立てていた。

 だが……。

 ――待っちょったぞ! そん一撃を!

 グリズリーは読んでいた。ここぞの場面でジャックは潜在能力を解放させ、閃光の一撃を放つことを。
 研究していたのはジャックと筑波だけではない。グリズリーも毎晩毎晩研究していた。
 ジャックの性格、クセ、攻撃パターン、ディフェンステクニック等、研究し、研究しつくした。
 そして、一つの結論に至った。
 ジャックはエンターテイナーなのだと。人をあっと驚かせる事や、大逆転劇を演出してみせることで観客を刺激し、楽しませる事を生きがいとする人物だと。
 だからこそ、待っていた。
 この起死回生の一撃を。

 この一撃を防げば、もうこわいものはない。
 連発できないことは研究済み。
 グリズリーは右フックに対するカウンター、アッパーを誘った。そして、ガードする術も何度も何度も練習し、身につけた。
 グリズリーは左手で顎をガードする。
 ジャックの一撃はスピードはあるが、破壊力はない。左手一本でも受けきれるはずだ。
 もし、受けきれなくても、勢いは殺す事が出来る。
 まだ体力に余裕がある。ジャックを仕留めるには充分の体力だ。

 今度こそ、グリズリーは勝利を確信した。

 ――なんじゃとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 ここでアクシデント……いや、想定外の事が起こった。
 ジャックの手が止まったのだ。これはどういうことなのか?
 ダメージでもう攻撃する余力がなくなったのか? いや、そんなことはありえない。
 それはジャックの目を見れば分かる。
 それならば、なぜ、手を止めたのか?

 ――こ、ここでフェイクだとぉおおおおおおおおおお!

 そう、ジャックは逆転の一撃すらグリズリーを騙す一手として使ったのだ。
 ジャックの本当の狙いは……。

 ――ここでボディブローか!

 最悪の一撃だ。
 グリズリーは全身冷や汗が湧き上がり、ゾッとした。
 今、気力だけで戦っているグリズリーにボディブローが決まれば、動けなくなる。
 疲労やダメージが堰を切ったようにソウルメイトに襲いかかり、限界を迎え、足から崩れ去る。
 そうなったら、負けは決定だ。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 グリズリーは両手を使って腹をガードする。これはもう本能だった。
 考える前にガードの姿勢をとっていた。
 ジャックはそのままレバーブロー……ではなく、ここでも瞬時に動きを止め、一歩下がってフックの体勢に入っていた。

 ――フックだと! しまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
 
 完全に裏をかかれた。グリズリーの顔面は完全にがら空きだ。
 こうなったら、顔と首を動かして、直撃だけでも避けることしかグリズリーのとれる選択肢はない。
 フックに備えようとしたが。

 ――軌道が違う! アッパーか!

 ジャックは左拳をフックとアッパーの中間の位置で体をねじり、体を後ろに倒しながら構える。
 右腕を大きく後ろに振って反動をつけ、全てのソウルを集結させた拳にジャックは全てを賭ける。

 ――いっけぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!

 ジャックは心の中で吼えた。
 これがジャックの最後に残されたジョーカー。最大の一撃。
 グリズリーを地面リングに叩きのめすために考えた秘策。

 BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!

 雷が落ちたような轟音とともにグリズリーは後ろへ吹き飛ばされた。
 ジャックの拳がグリズリーの鼻っ面にクリーンヒットした。腕を腹にガードし、フックとアッパーに警戒していた為、まともに正面から拳が入ってしまった。

 グリズリーは地面に叩きつけられた後、転げ回り、三メートルほど吹き飛ばされ、ようやく止まった。百メートル先でも届く風圧が突き抜け、静寂が訪れる。
 ジャックのスマッシュがグリズリーを地面に殴り倒したのだ。
 ジャックは両手を天に向かって突き上げた。



「キィキィキィ!(その姿は見かけ倒しか! 俺の敵じゃねえ!)」
「ぐぁああ……」

 メリーマイヤーは追い詰められていた。
 激戦と生き残りを賭けて戦い続けてきたアーレスと今日初めて戦ったメリーマイヤー。戦闘の経験と精神、覚悟が段違いの為、完全にメリーマイヤーは劣勢に立たされている。

 メリーマイヤーはブンブン腕を振り回し、アーレスを鋭利な爪で引き裂こうとするが、モーションが大きいことと、攻撃の後に隙が多いため、あっけなく躱され、反撃を許してしまっている。

 アーレスは激戦で鍛え抜かれた牙と突進力でメリーマイヤーの体力を削り、身軽なフットワークで危険地帯こうげきはんいからすぐに離れる。ときには六十センチも飛べるジャンプで相手を翻弄する。
 メリーマイヤーは徐々に後退していった。
 サポキャラは選んだ生物によって変化する。

 犬なら嗅覚が優れていたり、鷹は鋭い爪や優れた飛行能力、妖精の場合は高い知識を要している。
 メリーマイヤーの場合は可愛らしい外見であっても、体重は五十キロを超え、鋭い爪、牙と大人さえ振りまわす力強さがある。
 それ故、リリアンとアスコットが相手でも余裕で撃退できた。
 自身が消滅するほどの危機など存在せず、楽勝で勝てるのだから、強い精神など育つはずがない。

 ここにきて、自分と同格、それ以上の相手とまみえ、己を支える強い真の通った精神がモノをいうのだが、メリーマイヤーにはそれがない。
 主の精神が強いからといって、サポキャラが強いというわけではないのだ。

「キィキィーキィ!(どうだ? 追い詰められた気分は? お前、今まで自分と弱い相手しか戦ったことないだろ? このヘタレが!)」
「ぐぁああ……」

 自分よりも強い相手に、メリーマイヤーのとった行動は逃げだった。
 逃げることは一つの戦法であり、未来につながる行為である。
 体が成長すれば、イノシシなど楽勝になる可能性があるし、一生適わなくても、逃げ続ければ死ぬことはない。

 生きるとは勝負に勝つことではなく、いかに生き延びるかだ。
 グリズリーやジャックのように生存本能を無視し、命を削って戦う事が目的なのは自然の摂理に反する。

「キィキィーキィー!(俺に背を向けるとは賢いヤツだ。だが、そっちは……)」

 メリーマイヤーの逃走経路に、二つの影が立ち塞がる。
 リリアンとアスコットだ。
 リリアンはアスコットにまたがり、手には爪楊枝を握っている。

「ぐぁああああああああああああああああああ!」

 メリーマイヤーは大きく吼えた。
 目の前にいる相手など障害物にすらならない。ただの路上に転がる石だ。
 メリーマイヤーはスピードを落とさず、リリアン達に突っ込む。
 リリアンとアスコットは臆することなく、メリーマイヤーに突っ込んだ。

「キィキィキィキィキィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「!」

 メリーマイヤーはアーレスの天まで貫く雄叫びにビビって足が止まってしまう。アーレスが勇敢なるリリアン達にむけた援護射撃だ。
 アスコットはスピードをゆるめることなく突っ込んでくる。
 メリーマイヤーは混乱し、目の前のアスコットに向けてとりあえず右手をなぎ払う。
 アスコットはメリーマイヤーのリーチギリギリのところでUターンし、振り向きざま、後ろ足で土を蹴った。小さな無数の土の塊がメリーマイヤーの目に飛び込む。

「ぐ、ぐがぁああああ!」

 メリーマイヤーはいきなり視界を奪われ更に混乱する。
 何度も腕を振り回し、襲われないよう必死に攻撃する。
 メリーマイヤーは涙で土を追い出し、視界が回復すると、そこには……。

「キュキュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 アスコットが助走をつけなおし、再度、メリーマイヤーに突進し、飛び上がった。
 手を振り回しすぎて、腕が上がらないことにメリーマイヤーは気づく。
 しかし、焦りはなかった。たかが小動物の一撃など、臆するに足らずだ。何のダメージにもならない。
 そう思っていた。

「はぁあああああああああああああああああああああああ!」

 リリアンが両手に握った爪楊枝を構える。
 アスコットの体当たりとリリアンの爪楊枝の連係攻撃。
 メリーマイヤーは驚いたが、あんな細い木の枝など、何の恐怖にもならない……はずだった。

「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 メリーマイヤーは悲鳴を上げた。リリアンの爪楊枝はメリーマイヤーの目に突き刺さっていた。
 皮膚が硬いのであれば、柔らかい場所をつくしかない。それが目玉だ。

「キィキィ!(おおっ!)」

 リリアンが爪楊枝でメリーマイヤーの目を突き刺す姿と、ジャックがグリズリーをスマッシュで殴り飛ばした姿が重なって見えた。
 主もサポキャラも同時に地面を転げ回る。

 勝敗は決した。
 ジャックとリリアンの勝利だ。
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