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三十三章 決闘! ジャックVSグリズリー 同族嫌悪のどつきあい

三十三話 決闘! ジャックVSグリズリー 同族嫌悪のどつきあい その一

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「それで? もう始めていいの? 僕はいつでも準備OKだけど、お年寄りはしっかりと体をほぐさないと腰を傷めるんじゃない?」
「ジャック、頑張って!」
「キュキュ~!」

 ジャックは余裕の表情でグリズリーを挑発し、ジャックのサポキャラであるリリアンと、ソレイユのサポキャラであるアスコットがジャックを応援している。

「……」

 グリズリーは無言でマントを脱ぎ捨てる。その下から鍛え上げた強靱ではち切れんばかりの鋼の肉体が現れる。
 ジャックに対して作り上げてきた肉体ぶきだ。
 ジャックも対グリズリー戦に対して肉体と心を鍛え上げ、仕上げてきた。

 グリズリーは目をつぶり、空を見上げる。
 ヤレヤレ動画でジャックと対面し、不覚をとったときから、ずっとこのときを待っていた。
 借りを返すときがようやくやってきたのだ。
 グリズリーこそ、我慢の限界だった。今すぐにでも戦わないと抑えられないのだ。
 だが……。

 ヤットコノトキガキタカ! ヤツノニクヲクラエ! クワセロ!

 グリズリーのソウルメイトからドス黒いソウルがジワジワと湧き上がる。内なる声にグリズリーは支配されようとしている。

 ――黙れ! 出てくっな! おいん中ん悪魔!

 ミヲマカセロ! ホンノウニユダネロ! ワレコソガグリズリー! ヒトノニクヲクライ、チヲススリ、シジョウノヨロコビヲエル、サツジンキ!
 ソレガホントウノオレダ!

 グリズリーは抵抗するが、すぐに殺意に溺れ、快楽に墜ちたケダモノの本能に飲み込まれていく。
 その姿を見て……。

「何か変だよ……」
「キュキュ……」

 リリアンとアスコットは怯え……。

「馬鹿野郎が……」

 グリズリーと共に旅をしてきたクリサンは舌打ちしながら自身の武器である杭を握りしめる。

「クリサン。邪魔はしない約束だよね?」
「……分かってる」

 クリサンは構えをとく。
 ジャックの視線がグリズリーから逸れた瞬間!

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」
「ジャック!」

 グリズリーの豪腕が容赦なくジャックの顔面に飛び込む。
 リリアンが警告の声を上げる。

「ふっ……」

 ジャックはグリズリーの拳を躱すと同時にワンツーパンチをたたき込み、その場から離れる。
 グリズリーの顔が少し後ろに動いただけで、ダメージはなさそうだとジャックは感じていた。

「ねえ、潜在能力は使わないの? それと、AS達のバフ効果の恩恵はまだ出てないようだね。少し、待ってあげようか?」
「コロス……クッテヤル……オマエノニクヲ……クワセロォオオオ!」

 グリズリーはヨダレを垂らしながら、殺意丸出しの目つきでジャックを睨み付ける。
 ちなみに、グリズリーとクリサンはAS達のバフ効果をあらかじめ拒否していた。二人をミュート機能を使用することで、その恩恵を手放したのだ。
 ミュート機能とは、フレンド登録している相手に対する設定の一つである。
 その機能を使えば、メールでのやりとりやチャット、レッドメールの設定OFFやバフ効果の拒否等、カットする機能である。

 グリズリーは自分の力でジャックをたたきのめさないと気が済まないのだ。でないと、この胸の奥に湧き上がる怒りと殺意が抑えられそうにない。
 正々堂々、相手の土俵でたたきのめす。
 これがグリズリーのポリシーだ。

 しかし、グリズリーはNPCやプレイヤーを何人も倒し、血の臭いに酔いしれてしまった。信念が欲情に負けたのだ。
 内から湧き上がる食欲……人間の肉を喰らいたいという狂気にグリズリーは正気を失いつつある。

 クリサンは今のグリズリーを嫌悪している。ジャックなら目を覚まさせてくれると信じ、静観していた。

「へえ、そのままヤル気なんだ。自分から勝機を逃すなんて、正気? なんちゃって」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ!」

 グリズリーは雄叫びを上げる。グリズリーのソウルメイトからドス黒いソウルが湧き上がり、ジャックのソウルメイトに絡みつく。
 グリズリーは殺意のまま、目を血ばらせてジャックに襲いかかる。ジャックは何の気兼ねもなく、ガードを下げてグリズリーを迎え撃つ。
 グリズリーは両手を広げ、ジャックを掴みにかかる。ジャックはワンツーパンチでグリズリーの動きを止めようとするが、二メートル越えのグリズリーは止まらない。
 パンチを浴びてもすぐに体制を整え、ジャックに襲いかかる。
 顔にパンチを浴びても、パンチがあたる瞬間に顔を背けたり、前に出てクリーンヒットを避けることで、すぐに攻撃に転じるように動いている。

「ジャック!」

 リリアンが不安で叫んでしまう。
 今のグリズリーの姿はまるで、ダンプカーだ。パワーのごり押しでジャックは徐々に追い込まれていく。

 ドン!

「!」

 ジャックの背中に何かがぶつかる。
 それは建物の壁だった。
 グリズリーはただがむしゃらに突っ込んできたわけではない。ジャックの動きを止める為に、壁に誘導したのだ。

 ついにグリズリーはジャックを捕まえた。
 ジャックは両肩を掴まれ、プロレス技を警戒した。
 グリズリーは顔と背中を軽く後ろに倒し、口を開け……ジャックの頸動脈に牙を立てる。
 人の肉を喰らい、残虐に非常に殺す。まさに人食い熊、グリズリーだ。
 グリズリーは殺意の赴くまま、ジャックにかみつくが……。

 BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!

 グリズリーの顎が跳ね上がる。ジャックの右ショートアッパーがグリズリーの顎を突き抜け、続けて左のショートアッパーで更にグリズリーの顎をはね、距離をつくる。
 今度はワンツーパンチでグリズリーの鼻っ柱を叩きつけ、右のストレートのダブルをお見舞いした。

 ジャックはグリズリーが自分を壁際に追い込んでいたことを察知し、逆に仕掛けた。
 ボクサーなら相手をコーナーに誘導、もしくは追い込むことなどセオリーの戦法だ。だから、焦ることなく、ジャックはグリズリーの思惑にのり、超接近戦を挑んだのだ。
 グリズリーはまともにパンチを食らい、一瞬だが意識がとぶ。歯を食いしばり、前を見るが、ジャックはそこにいなかった。

「ねえ、その噛みつきってパフォーマンスなわけ? それに落ち着きがないみたいだけど、トイレにでもいきたくなった? ハッキリ言うけど、感情に身を任せた、そんなモーションの大きくて隙だらけな動き、殴ってくださいって言ってるようなものだよ? それとも、殴られたかったの?」

 ジャックはすでにグリズリーの背後をとっている。逆にグリズリーが壁際に追い込まれていた。

「……くっくっくっ……くははははははははははははは!」

 グリズリーは大笑いしていた。
 久しぶりの好敵手に、胸の高鳴りが抑えきれない。
 グリズリーの目は相変わらず目が血走っているが、そこにドス黒い殺意は消えていた。

「すまん、ただんウォーミングアップじゃ。これからが……本番じゃ!」

 グリズリーは不敵に笑っていた。
 それは強者と戦える悦び。純粋なファイターとしての血が騒いでいる。どうやって、叩きのめしてやろうか、頭の中にいくつものアイデアがうまれ、選択する楽しみが芽生えている。
 日本中のファンを虜にし、無敗を誇ったグリズリーの姿がそこにあった。

「馬鹿野郎が……遅いんだよ……コスモス、やっと帰ってきたぜ……グリズリーがよ……」

 そのことに、クリサンはなぜか目から涙がこぼれていた。
 クリサンとコスモスのヒーローが帰ってきたのだ。
 ここからが本当の戦いだ。

「ねえ、ジャック……グリズリーの雰囲気が変わってる……」
「キュキュキュ!」
「やっと真面目にやる気になったってことさ。まあ、勝つのは僕だけどね!」

 ジャックとグリズリーはお互いにらみ合いながら弧を描き、にらみ合う。あと一歩でも前に出れば、間合いに入る距離。
 緊張感が高まっていく。駆け引きが生まれていく。

 ジャックとグリズリーのゴングがようやく鳴り響いた。
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