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三十二章 カースルクーム奪還戦 血闘

三十二話 カースルクーム奪還戦 血闘 その一

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「ほら、ほ~ら! ソレイユちゃん! お仲間がピンチですよ~。まあ、ソレイユたんも手も足も出ないんですけどね~」
「……」

 攻撃の手数、スピードが更に増すアレカサルの猛攻撃に、ソレイユはただ体を横にしながら、スモールシールドで耐え続けている。
 攻撃を続ければ、スタミナ値が減って、動きが止まるはずだが、ASとヴィーフリの潜在能力のおかげで、アレカサルはスタミナ値の最大値が増加し、攻撃を続けることができる。
 逆に防御し続けているソレイユの方がスタミナ値がつきて、オーバーフローになる。
 そうなれば、アレカサルに好き放題痛めつけられ、辱められ、殺される。

 それだけでなく、スモールシールドの耐久値がつきれば、シールドが破壊され、ソレイユを護るものがなくなる。そうなれば、運命は同じ。ソレイユの負けだ。
 だが、ソレイユの目には何の恐れも焦りも不安もない。ただ、じっとアレカサルを観察している。
 その視線に、アレカサルはただの強がりだと感じていて、ソレイユを絶望と羞恥に染めてやりたいと興奮しきっていた。
 地面に倒し、足でソレイユの顔を踏みつける屈辱を想像するだけで高揚感が収まらない。
 そして、そのときが訪れる。

「この一撃でシールドをブレイクしてやる! 地べたにキスさせてやるぜ!」

 アレカサルは狂気に満ちた顔で強烈な一撃をソレイユに放った。
 ソレイユはスモールシールで迎え撃つ。
 アレカサルのショートソードがスモールシールドにぶつかる瞬間、スモールシールドは破壊……。

「なぁ!」

 ソレイユのスモールシールドにソウルが宿り、角度を変え、アレカサルの攻撃を受け流した。
 欲望にまみれたモーションの大きい攻撃だったので、アレカサルの体は前に流れ、大きな隙が生まれる。
 それをソレイユが見逃すわけがなく……。

「はぁああああああああ!」
「ぐっ!」

 ソレイユの強烈な蹴りがアレカサルの背中に叩きつけられる。
 だが、バフ効果で全てのステータスが爆上げされているアレカサルは少しよろめいただけで、すぐに体制を整える。

「……な~に、そのそよ風のような蹴り。全然……ぐはぁ!」

 アレカサルは振り向いてソレイユをあざ笑おうとした瞬間、顎に何か堅いものがヒットした。
 それはスモールシールドだった。
 流石に強化されたアレカサルでも、顎に攻撃をまともに食らえば、のけぞる。スモールシールドはアレカサルにぶつかり、粉々に砕けた。
 アレカサルはたたらを踏みながら、それでもダウンせずに立ち止まることに成功する。

 しかし、ソレイユの攻撃は止まらない。
 アレカサルは前を向いた瞬間、今度はショートソードがこめかみにヒットする。アレカサルは更に後退し、歯を食いしばりながらもダウンを拒絶する。

「コマンド! 『サモンR』!」

 ソレイユはロングスピアを召喚し、大地を蹴り、アレカサルに追撃をかける。ロングスピアの矛先がアレカサルの顔面、みぞおち、心臓に突きつける。
 アレカサルの体が宙に舞うが、それでも、しっかりと着地し、踏みとどまろうとする。

「コマンド! 『サモンU』!」

 ロングスピアをアレカサルに投げ飛ばした後、今度はウォーハンマを召喚し、アレカサルの顎を下から上へと振り上げる。
 流石に体勢を崩しているところにウォーハンマで突き上げられれば、バフで強化されていても、アレカサルの体は宙に打ち上がってしまう。
 ソレイユはウォーハンマをその場に投げ捨て、アレカサルを追撃するために飛び上がる。
 空中での蹴りの三連撃をアレカサルに浴びせ、体を回転させ、その遠心力を利用したオーバーヘットキックでアレカサルを地面に叩きつけた。

「ぐはぁ!」

 アレカサルは口から苦痛の声を吐き出し、地面に倒れる。
 地べたを舐めたのはソレイユではなく、アレカサルの方だった。
 アレカサルは憎しみをたぎらせ、ソレイユを睨みつける。

「てめえ! どういうことだ! 絶対、チートだろうが! なんで、スタミナがつきない! なんでオーバーフロー状態にならない! それにてめえは剣士じゃなかったのか! いろんな武器を使って恥ずかしくねえのか!」
「……」

 アレカサルのヒステリックな声だけが響き渡るが、ソレイユは何も答えない。
 スタミナについては確かにアレカサルの言うとおりだった。
 ソレイユはずっとスモールシールドで防御し続けていた。
 防御を続けている場合、スタミナは減り続ける。回復はしない。
 それなのに、ソレイユのスタミナはつきず、逆に目にもとまらない十一連撃を繰り出した。
 十一連撃をしたところまでは百歩譲って認めるとしても、ソレイユがオーバーフロー状態にならないのがありえないのだ。

 ソレイユのコンボは完全にマニュアルだ。システムで用意された技ではない。
 マニュアルのコンボ……つまり、オリジナルの連撃は、システムで用意された技よりも二倍のスタミナを消費する。
 だが、ソレイユは全く息切れしていないし、それどころか涼しい顔をしてアレカサルを見下している。

 格下だと見下していた相手に、逆に見下され、アレカサルはプライドを傷つけられた。
 十の罵声を浴び、ソレイユはようやくアレカサルにつぶやいた。

「……私には分かるの。アナタはもう、私の敵ではないわ。それに剣士だと一言も名乗ったつもりはない」

 ソレイユはジャック達との特訓の日々を思い出す。



「かはぁ!」

 ソレイユは地面に叩きつけられる。その姿をジャック、ムサシ、エリン、テツは見下していた。

 時間無制限一本勝負。
 ソレイユがジャック達に一撃でも与えることができれば、ソレイユの勝ち。それ以外は負けで、一撃当てるまで終わらない、地獄の特訓だ。
 ソレイユはぜーはーぜーはーと息を吐き出し、疲労と痛みに悲鳴を上げるソウルメイトに鞭を打ち、立ち上がる。

「すごいですよね~、ソレイユさんって。何度でも立ち上がってくるなんて……痛めつけがい……ちょっと、怖いかも~」
「エリン、てめえ、そんなこと一ミリも思ってねえだろ? 痛めつけ甲斐があるって言おうとしたよな? 俺には日頃の鬱憤を晴らしているようにしか見えないけどな」
「な、なあ、ソレイユ。大丈夫か? 少し休憩にしないか?」
「やめときなよ、ムサシ。そういうのはソレイユのプライドをキズつけることだって知ってるでしょ? 僕らができることは、ソレイユに実戦経験をとにかく積ませることだよ。でなきゃ、生き残れない」

 エリン、テツ、ムサシ、ジャックは思い思いに言葉をかけあう。
 ソレイユはしゃべる言葉すら惜しんで戦う為の体力をかき集める。全ては誰にも負けないために……プライドを取り戻すために。

 ソレイユは未だにPVPで勝利したことはない。
 カースルクームではアレカサル達を圧倒したが、途中で試練を受けたことで勝敗はついていない。
 それどころか、二度目の対決で、アレカサルに惨敗したのだ。

 相手が男だから、格闘技経験者だから……そんな言い訳はありえない。
 誰が相手だろうが、勝つ。
 それがソレイユのモットーだ。

「けどな、ジャック。強さなんて一長一短で身につくものじゃないだろ? 詰めすぎは逆に効率が悪くなる。ただの悪循環だ」
「ですよね~。ムサシさんの指摘通り、ただ戦うだけでは意味がないですし」
「意味がない……」

 ジャックはムサシとエリンの否定的な意見に考え込む。

 ――ううん……ソレイユの成長速度はピカイチだけど、如何いかんせん経験不足のせいでとれる選択肢が少なくてここぞというところで押し負けてしまう。
 こういうのは頭じゃなくて体で覚えるものだからひたすら実戦形式で特訓してきたんだけど……間違ってるのかな?

「いや、俺は賛成だぜ。戦いは何よりハングリー精神だ。敗北の屈辱が己を強くする。無駄じゃねえよ」

 テツの意見にジャックもうなずく。
 戦いは痛みを伴う。痛みに耐え、勝利を得るには強い意志が不可欠だ。
 それに、敗北から学ぶことは大きい。自分の弱点、足りないモノを強く教えてくれる。
 敗北から立ち直るにも、心が折れない強い意志が必要となる。

 ソレイユは極度の負けず嫌いだ。負けたくない気持ちが強いからこそ、このスパルタな特訓を耐えている。

「いや、ここは基本に立ち返って基礎体力作りからにしないか?」
「ムサシさん、正論ですけどカースクルーム争奪戦まであと少しなんですよ? 悠長なこと言ってられません。今回は後方支援に徹したもらった方がいいと思うんですけど?」

 ムサシとエリンの言うことはどちらも正論だ。
 基礎があってこその応用。
 ただ、基礎こそ短時間で習得できるものではない。積み重ねが基礎の元となる。

 それ故、エリンの言うとおり、今回の戦いは見送って次の戦いに備えるのがソレイユの安全にも繋がる。
 ただ、それはソレイユのプライドが許さないだろう。

「それなら、オラが集中的に剣を教えるのはどうだ? ソレイユは剣士だし」
「剣なんて自己防衛の武器でしょ? ソレイユさんって、防御よりも攻撃に優れていると思うんですけど~。口の悪さもね」
「エリン、それが言いたかっただけだろ?」

 エリンの指摘にジャックは考える。
 確かにソレイユの潜在能力、無限コンボは攻撃に特化している。コンボが続けば、ソレイユは相手に何もさせずにSPを全て削り取ることが可能だ。
 だが、コンボが何かしらの原因で止まってしまったとき、スタミナ切れになり、オーバーフロー状態で動けなくなる。
 それが原因でソレイユは二度、負けそうになっている。

 もう一つ、ソレイユが勝てない理由は、ソレイユの剣術は基礎通りで同じ剣術を扱うモノには動きを読まれやすい。
 現に同じ剣使いのアレカサルに動きを読まれ、返り討ちにあったことがある。
 
 それなら、戦い方を根本的に考え直す必要がある。
 しかし、今更剣ではなく、別の武器にして、戦闘スタイルを変えても短時間で習得可能なのか?
 ジャックはあっと声を漏らす。

 ――確かライザーだっけ? ソレイユは以前、アミルキシアの森でライザーという名前のプレイヤーにボクシングで挑んで圧倒したんだっけ? それなら、ボクシングを教えたら……いや、待って……待って……。

 ジャックはあることに気づいた。

 ――ソレイユの成長速度はハンパなく早い……剣術の経験は体育の時間と自己練習だけ……でも、一ヶ月もしないうちに様になりつつある……それにボクシングも僕が教えたわけじゃなくて、見よう見まねでやってみせた……それなら……ソレイユのスタイルって……一番しっくりくるスタイルって……。

「なあ、ジャックはどう思う?」

 ジャックはムサシの顔を見て……。

「僕、超いいアイデアを思いついた!」

 ジャックはパチンと指を鳴らす。

「……不安しかなんだが、一応聞いてやる。なんだ、そのアイデアとは?」
「ソレイユの剣術修行をやめて、新しいスタイルを身につけるんだ!」

 ジャックの提案に、テツは頭痛をこらえるように苦々しい顔になる。

「新しいスタイルだと? この短時間でか? それはすげえアイデアだ。ただし、可能ならな」
「オラもテツと同意見だ。確かに根を詰めて修行しても意味はないと言ったが、ソレイユには剣術の才能があると思うぞ。それなのに、新しい武器に変更して強くなれるのか? 逆に慣れるまで時間がかかって、弱くなると思うぞ」
「右に同じ~。そもそもソレイユさんの新しいスタイルって何ですか~」

 テツとムサシ、エリンの疑問に、ジャックは胸を張って答える。

「ソレイユの新しいスタイルは……」
「「「スタイルは?」」」
「武蔵だよ!」
「「ムサシだぁ?」」

 意味不明な回答にテツとエリンはやれやれと肩をすくめ、首を横に振る。

「お、オラ? どういう意味だ?」

 ムサシは目を丸くし、自分を指さす。ジャックは手を顔の前で横に振る。

「ムサシじゃなくて、武蔵坊弁慶だよ! 確か武蔵坊弁慶って秘密道具を持ってたでしょ! それだよ!」
「武蔵坊弁慶はいつから猫型ロボになったんだ? 七つ道具だろ?」
「ええっと確か、熊手、薙鎌、鉄の棒、木槌、鋸、鉞、刺股だっけか? その七つ道具がどうかしたのか? まさか、剣をやめて薙刀にするのか? そりゃあ、ソレイユの才能があれば、薙刀にも変更は可能かもしれないが、如何せん時間が足りないぞ。それに基礎しかやっていないから、動きが読まれる。やはり、剣で強くなるべきだと思うぞ」

 ジャックは首をぶんぶんと横に振る。

「違うよ! 才能があるからこそ、剣術だけにこだわる必要なんてないんじゃないって言いたいの!」
「どういうことだ?」
「私もキミの言っていることが分からないんだけど」

 ずっと黙っていたソレイユも口を挟む。
 ジャックはちっちっちと指を振る。

「だから、剣術以外にも槍や斧、戦鎚や蹴り、拳といった複数の武術で戦えばいいじゃんってこと! 弁慶のようにさ!」

 ジャックの提案にテツやエリンは鼻で笑う。

「絵に描いた餅だな」
「壮大な妄想で笑えます」
「よし! 僕の予想通りだ! やっぱり、僕の考えに間違いはなかった!」
「「?」」

 ジャックの確信めいた笑顔に、バカにしていたテツとエリンは眉をひそめる。

「ジャック、どういうことだ?」
「武道をかじった人間なら、誰でもテツやエリンのように考えるってことさ。でも、そこに抜け穴がある」
「抜け穴?」

 ジャックの言う抜け穴とは……。

「考えてもみてよ。次々と違う武器で攻撃されたら、どう対処するの? 動きが読める?」
「そりゃあ読めないわな……」
「そう! 動きが読めず、始終ソレイユのペースで戦えるってわけ! 相手が慣れる頃にはKOってわけ! どう? いい案だと思わない?」

 ジャックのとんでもない案に、ムサシは黙り込む。
 動きが読めない。トリッキーな攻撃に振り回される。
 ムサシはそれを一度体験している。
 ジャックと一騎打ちをしたときだ。あのときはジャックとムサシはお互い譲れない想いがあり、ぶつかったときがある。
 そのとき、ジャックの摩訶不思議な動き、アムビデクスタ(両手利き)に手を焼かされた。

 アムビデクスタなど見たこともないし、聞いたこともない。
 初めて見る動きにムサシは翻弄され、実力がまるで発揮できなかった。
 動きに対応するのが精一杯だった。

 確かに、ジャックの言うとおり、様々な武器を臨機応変に使用されたら、防戦一方になるだろう。
 しかし……。

「けど、短時間で出来るのか? ただでさえ、一つの武術を覚えるのにかなりの努力が必要なのに、いっぺんに手を出したら、中途半端な実力になって、逆効果じゃないか?」
「それはやり方次第ではないですかね~。このゲームは格闘技初心者の救済処置の為に、システムが補助してもらえますし、それを利用すれば……」
「ソレイユのような初心者でも様々な武器を利用しながら戦えるな。たとえ、基本的な動きでも、いろんな武器を組み合わせて攻撃すれば、予測不可能な攻撃になる」

 今度はエリンやテツがジャックの意見を擁護し始めた。
 そう、全ては何をどう使うか? その使い方によっては強力な武器となる。

「……ジャック君。キミの方法なら、勝てるの? 強くなれるの?」
「約束はできない。この世界に約束された強さなんてないから。でも、ソレイユならこの戦法で強くなれるって信じてる。キミの才能はそれほど凄いんだ」
「……そう」

 ソレイユは決意した。自分だけの、自分にしかできないスタイルを身につけると。
 ソレイユが剣を選んだのは、格闘技の中で今までで一番努力したのが剣術だからだ。
 それでも、たったの二週間程度努力しただけでインターハイの実力者を倒したのだが。
 それ故、ソレイユには剣にこだわる理由はない。
 それならばと、ソレイユは持ち前の才能と努力と集中力で今のスタイルの土台を作り上げた。
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