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選択 その二

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 これが昨日の出来事。

 空気が重い……。
 ここにいる全員がジョーンズは戻ってくると思っていた。

 特にルシアン。
 彼は確固たる覚悟で挑んだ。その覚悟と葛藤を私は知っていた。私も全力で挑んだ。
 そして、ジョーンズは戻ると口にした。

 それを……それを……私が台無しにした。
 それどころか、私のせいでジョーンズはビックタワーから抜けられなくなった。

 なんたる失態。これほどのボカを私はしたことがない。いや、ウソ。
 でも、今ほど自分が許せないと思ったことはないのは本当。

「姐さん、先ほどジョーンズが占拠戦を動画で流していました。NPCを残酷に殺していました。残酷な見世物です」
「……」
「俺は……竜胆騎士団として見逃せません。ジョーンズを止めるつもりです。姐さんは見ていてください。今度は俺達が……」
「ダメ。無駄死にするだけ」

 戦力が違いすぎる。
 ビックタワーには元世界チャンピオンのグリズリー、貧困層の銃士のテンペストがいるし、クリサンも相当の手練れ。
 たとえ彼らが見逃してくれても、プーシュカには今のルシアン達では勝ち目はない。

 打開策が必要。
 けど、私が動けない以上、ルシアン達では無理。

「はぁ? なに勝手にダメだって決めつけてるのよ! 私はアンタのようにジョーンズを見捨てたくないの! 過去のこととか、親のこととか抜きでね!」
「やめろ、ミリアン。人質がとられてるんだぞ? 分かってやれよ」
「だから、コイツ抜きでやるんでしょうが! それとも、なに? 私達竜胆騎士団ってコイツがいないと何も出来ない集団なの? それでもヨシュアン、男なの?」
「なんだと!」
「お、落ち着いてください、ヨシュアン! ミリアンも!」
「うっせえ! いい子ぶってるんじゃねえぞ、カリアン!」
「そ、そんな言い方しなくても! 僕はただ、みんなの為に……」

 くっ!
 この仲間割れは私のせい。これでは戦う以前の問題。
 けど、副官君が人質にとられている以上、私には何もしてあげられない。

「大丈夫だ!」
「「「……」」」

 ルシアンがいきなり大声で高らかと宣言したので、ミリアン達は呆然としていた。

「な、何が大丈夫なの、ルシアン? 何一つ問題は解決してないわよ? それとも、ルシアンにはあるの? 今の状況を打破できる作戦が」

 それは私も聞きたい。
 ルシアンの迷いのない自信満々の笑顔に、ミリアンだけでなく、私さえ不安とわずかな期待をしてしまう。
 私達の問いにルシアンは……。

「俺にはない! 姐さんに任せる!」

 ……。

「クルックー!」
「賛成にゃ~」

 ……。

「コシアン」

 パキッパキッ!

 ミリアンのご指名だし、ここは鉄拳制裁を……。

「いや、待って! だって、そうじゃん! 今まで姐さんが作戦を立ててくれて、その通りに動いてきたじゃん!」
「だ~か~ら! コシアンはそれどころじゃないんだから、私達がやるしかないでしょ! いつまで私達はコシアンに甘えているのよ!」
「それは違うぞ、ミリアン。信じているんだ」

 信じている?

「姐さんが絶対にいい案を出してくれる。それまで、俺達はその案を実行できるよう鍛えておく。それでいいじゃないか」

 ごめんなさい、ルシアン。
 私は……その期待に応えられそうにないし、資格もない。
 みんなを脱落させようとしたから……。

「ルシアン……私はキミ達に……力を……」
「姐さんはずっと敵の思い通りになるつもりですか?」

 ……ふっ、言ってくれる。頬が緩むの感じていた。
 そう……私は黙っていられるほどおしとやかではないし、悲劇のヒロインを演じるつもりもない。
 悪者にさらわれたのなら、自力で脱出、殲滅する女だ、私は。
 思い出せ……初出動のときを……。

 心の中で……いや、魂が激しく燃え上がるような感覚がする。
 だから……。

「そんなわけがない。逆襲の準備中」
「ほら、姐さんは自分で解決するさ。俺達が心配することじゃない」
「だからって!」
「ミリアン、こんなときだからこそ、俺達は自分達のスタイルを崩しちゃダメなんだ。最初に決めただろ? ミリアンは遠距離担当で、ヨシュアンは盾役。カリアンは俺達の武具のメンテナンス。これでうまくやってきたじゃないか。きっと、これが俺達が最大限に力を発揮できる布陣なんだよ」
「布陣って……確かにそうだけどよ……」

 戸惑うヨシュアンに、ルシアンは……。

「俺さ……姐さんになりたかった。強くて機転があって、知識が豊富でどんな困難も立ち向かって解決できる姐さんになりたいって思ってた。いや、そうじゃないな。俺は別人になりたかったんだ。犯罪者の息子でもなくて、ただのフツウの人でもよかったんだ……現実から逃げたかった」
「……」
「でも、ようやく分かったんだ。俺は俺にしかなれない。誰かになれないんだって。自分の罪からは逃げちゃダメなんだって。ヨシュアン、俺はさ、父さんを刺したことをずっと後悔して生きていくよ。償っていくよ。だから、俺はみんなを信じるし、俺にしか出来ないことをやる」
「それって何ですか、ルシアン?」

 カリアン先生は優しい笑顔で尋ねる。
 聞かせて。キミの答えを。
 ルシアンは腰に手を当て、堂々と告げた。

「みんなの帰る場所を護る! みんなが一緒にいられるよう居場所を護ってみせる!」
「「「……」」」

 居場所を護るね……それがどれほど困難な道か、分かってる?
 私にだって難しいことをよくもまあ、軽々しく言ってくれる……。

 けど、ルシアンはそれでいい。リーダーがなんでもできる必要はない。そのために部下が、仲間がいる。

 これでいい。

 私はルシアンの言葉の意味をここにいる誰よりも知っている。それはすごく悲しいことだけど、ルシアンは前を向いて歩き始めた。

 それに対して、私はなにをしている?
 副官君が捕らわれたことに平常心を乱し、当たり前のことを忘れていた。

 恥ずかしい……。

 私が若者から学んでいる……でも、悪くない。

「はぁ……分かったわよ! じゃあ、コシアンの問題が解決するまで自主練ってことでいいのね!」
「だな」
「そうですね」
「……了解」

 私が役割を決めた。それなら、最後まで責任を持つべき。
 やることは決まった。
 それなら……。

「それじゃあ、例のアレ、今日やるわよ」
「おい、今日やるのかよ!」
「仕方ないでしょ! 日持ちしないんだから!」

 アレ? 日持ち? 何のこと?

「コシアン!」
「なに?」
「二時間後、私が指定した場所へ来なさい! 絶対よ!」

 なぜ、私を指さす?
 失敬な女。

「決闘? それとも愛の告白?」
「ミーちゃん!」
「しゃぁああああ!」
「相棒!」
「クルックー!」
「ぎゃあああああああああ!」

 こら! 化け猫! 私の顔をひっかくな!
 それと、相棒! なぜ背を向けて飛び立つ。
 我が隊で敵前逃亡は晩御飯抜き!

「クルックー!」

 なに? 化け猫が私とじゃれつきたいだけ?
 いや、顔面が酷いことになっているんですけど……。
 とりあえず、私は一度ソウルアウトして、約束の時間まで副官君の調査をすることにした。



 そして、二時間後。
 ミリアンがメールで指定した場所へいくと……。

「……なにこれ?」

 クロスロードの近くにある丘の上にテーブルが設置され、そこに色とりどりの料理が並んでいる。
 これは一体……。

「何って見て分からない? 料理よ。アンタ、両生類ばかり食べてて食事が偏ってるでしょ? だから、作ったの」
「?」
「アンタのために作ったって言ってるの!」

 えっ? なぜ?
 私はキミ達を裏切ったのに……。

「そのなに? アンタにはお世話になってるし、それに昨日は皆を呼び出したでしょ? きっと、竜胆騎士団再結成だと思ってたから、その門出的な? と、とにかく、みんなにも食べてもらおうと沢山食材買っておいたの! 冷蔵庫とかないから、腐っちゃうのよ!」
「……」
「こんなときにって思うかもしれないけど……これからが正念場だし、日本では腹が減っては戦ができぬってことわざがあって……あ……ああ! もう! 鬱陶しい! 食べてほしいから作ったの! 文句ある!」
「……ない」

 あるわけがない。
 それどころか、うるっときた。

「ま、まあ、英気を養うってことで喰おうぜ!」
「そうですね。みんなでご飯を食べるのって団結感があっていいですよね」
「よし! 食べよう!」

 ……。

「あっ、コシアンさん。俺も作ったんすよ。今時の男は料理も必須スキルですから」
「ぼ、僕は簡単な料理しか出来なかったんですけど、手伝いくらいはしましたから」
「俺も作りました! 俺は作ってくれる人がいないから覚えたんですけど!」
「私一人でも作れたんだけど、みんながどうしてもっていうから」
「……」

 ヨシュアン……カリアン先生……ルシアン……ミリアン……。

「コシアン?」

 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!

「ちょ! なんでいきなりやけ食いするの!」
「クルックー!」
「ミーも負けないにゃ~」

 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!

「クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルックー!」
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
「「「……」」」

 ……。

「ちょっと! どこにいくのよ! しかも一人で半分食べるとか……」
「……泣いてくる」
「はぁ? えっ? どこにいくの!」

 私はソウルアウトした。



『こちら、パイシース。ベース、聞こえるか?』
『こちらベース、音声良好』
『状況を報告せよ』
『報告って……ありませんぜ。三十分前に打ち合わせをしたばかりでっせ。あるわけがないっしょ』
『役立たず』
『ひでえ。何かあったわけ?』
『ベース。私のことをどう思う?』
『キチガイ』
『そう、私はキチガイ。それ以外は?』
『格好つけ。見栄っ張り。臆病なくせにお節介』
『そう。実に的確な答え。なら、分かるな?』

 カリカリカリカリカリ。

『相当ご立腹でいらっしゃる』
『今日ほど恥辱にまみれた日はない。すぐに見つけろ』

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ。

『了解。一つ、確認いいか?』
『なに?』
『我々は副官を取り戻したい。だが、艦長の本気を知りたい』
『私が本気でないと?』

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ。

『もし、プーシュカが艦長のお気に入りを殺せ……いや、脱落でしたっけ? そう命令されたとき、実行できるんですか? 今のところ、副官がいる候補は五カ所。調査して包囲するまでに時間が必要となるが、その調査中に命令されたら、時間稼ぎのためにやれるんですか?』
『やる』

 ……。

『全然説得力ねえな~。声、裏返ってるし。全力でやりたくないオーラーが見えそうだわ』
『そんなことはない』
『はぁ……仮想世界で殺しても、現実では死なないんでしょ? だったら、どっちを優先させるかガキだって分かるわな。分かってくれるわな』
『だからやるといっている。何度も言わせるな』

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ。

『はぁ……不安だわ。竜胆騎士団でしたっけ? 肩入れしすぎでしょ~。我々が見捨てられないようさっさと副官殿を見つけないと』
『そう思うなら結果を出せ、ベース。私からその名、コードネーム『悪霊ベース』を受け継いだ実力をしめしてくれ。頼む』
『了解』
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