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人間の屑 その三

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「ルシアン、ジョーンズ。無事か?」
「勝てたみたいね」
「流石はコシアンさんですね」

 連絡を受け、ヨシュアン、カリアン先生、ミリアンがやってくる。
 あえて生け捕りした盗賊は観念したのか、ふてぶてしく地面に座り込んでいる。

「……あのぉ、姐さん。どうするんです?」

 ジョーンズは戸惑いの表情を浮かべ、私に尋ねてくる。
 答えは決まっている。

「ダメだ! 絶対に殺しちゃダメだ!」
「ルシアン……お前な……」

 はぁ……またルシアンとジョーンズの仲が険悪になる。戦っていたときはお互い背中を預けていたのに。
 ヨシュアン、カリアン、ミリアンは呆れたように二人を見つめている。

「コイツは敵だぞ。それに今回はPVPに向けての予行練習でもある。そうですよね、姐さん?」
「だったらプレイヤーを倒せばいいだけだろ! NPCは……いや、この世界の人達は生きているんだ! 殺すべきじゃない! コシアン、絶対にこの人は殺させないぞ!」

 はぁ……私に決断させるわけね。
 けど、さっきも考えていたけど答えは出ている。
 私の意見は……。

「ルシアンに任せる」
「「「……」」」

 ヨシュアン、カリアン、ミリアンは微妙な顔をしている。ジョーンズはぽか~んと口を開いたまま、フリーズしている。
 皆の言いたいことはわかる。きっと、厄介ごとになる。
 けど、そこに今回の社会勉強の意義がある。
 ルシアンはぱっと笑顔になり、

「信じましたよ、姐さん!」

 いや、そんないい笑顔で言われると……。
 私はつい、無邪気に笑うルシアンから顔を背けた。

「……それで、お前はどうするつもりだ?」

 ジョーンズの不機嫌そうな声に、ルシアンは気にとめることなく堂々と告げる。

「勿論、屯所に引き渡す」
「「「……」」」

 ジョーンズ、ヨシュアン、カリアン先生、ミリアンが私に視線を送ってくる。
 いやいや、文句はルシアンに言いなさい。

「皆はその……反対……なのか? でも、殺さずに済むのならそれに越したことはないだろ?」

 ルシアンの問いに、皆は……。

「……真面目な話し、どうやって屯所に引き渡すわけ? コシアンじゃないけどさ、捕まえる縄とか? でいいのか知らないけど、捕縛する道具もなく、いつ逃げられるか分からない男をどう扱うわけ? 大声で助けを呼ばれたらそこで終わりじゃない?」
「野郎をエスコートするのもな……」
「……僕もミリアンと同意見です。下手したら僕達、逆に窮地に立つかもしれないんですよ。それに僕とミリアンだけ殺させて他のメンバーは何もしないっていうのも……」
「……だな。俺が殺る」

 ミリアン、ヨシュアン、カリアン先生、ジョーンズはルシアンの意見に否定的。
 そこにいる男が素直にルシアンの指示に従う保障はないし、抵抗されるのがオチ。
 セオリーなのが、手錠で手足を後ろでホールドし、車で移動するのがいいのだけれど。

「ま、待ってくれ! 姐さんも言ってただろ? 今回は俺に任せるって! とりあえず、やってみよう。捕縛するクエストが今後あるかもしれないし、それの予行練習だと思ってさ。失敗しても逃げればいいだけじゃないか」

 全員が微妙な顔をしている。そして、非難の視線を私に向けてくる。
 はいはい、わるうございました。

「それとも……そんなに人殺しがしたいのか? 俺はやっぱり人を助ける事が出来る組織を作りたい。頼む! 俺に力を貸してくれ!」

 ルシアンはまっすぐに私達に頭を下げた。そこに打算や見返りはない。
 本当にそこにいる男を救いたい気持ちが伝わってくる。
 とらわれていた男は呆然としている。

「はぁ……分かったよ。ルシアンのやりたいようにさせようぜ」
「しょうがないか」
「確かに、殺すよりも助けた方が後味悪くなくていいですね。それに仲間に殺しを強要するのもおかしかったですね。ごめんなさい、ジョーンズ」
「いや、俺はいいんだけど……」

 ヨシュアン、ミリアン、カリアン、ジョーンズは呆れていたけど、顔はほっとしていた。
 けど、ごめん、ルシアン。君の願いは叶いそうにない。

「分かった。けど、彼を屯所に渡すと処刑されるけど、いいの?」
「しょ、処刑?」
「そう。黒いカモリアを名乗る者は誰であろうと即処刑」
「「「……」」」

 黒いカモリアは商人だけでなく、この土地の領主の財宝も奪った事から怒りを買い、クロスロードの法で彼らは極刑と定められている。
 つまり、目の前の男を屯所に差し出すことは、彼を殺すということ。
 全員が黙り込む。そして、ルシアン以外の皆が私にさっさと言えよ! って非難の視線を浴びせてくる。
 先に口を開いたのは……。

「どうしたんだ? 俺を屯所に突き出して報奨金を貰えよ。俺達の仲間を殺しておいてまさか、罪悪感があるのか?」

 盗賊の方。
 ルシアンは目をそらし、考え込んでいる。
 動揺を見せるな、情けない。

「ど、どうするんだ、ルシアン? 屯所に突き出すのか?」
「け、けど、それだと彼を殺しちゃう……そこまでするのは……」
「何を迷っているのよ。相手は悪人よ。ここで見逃したら誰かが殺されるかもしれない。私達が復讐されるかもしれない。突き出すべきよ」

 ヨシュアン、カリアン、ミリアンが意見をだす。

「……なるほどな。だから、社会勉強ってわけか」
「ジョーンズ?」
「いや、なんでもない。ルシアン、決めろ。屯所に突き出すか、それとも別の決断をするか」

 もう一度、ルシアンに決断が委ねられる。
 ルシアンの決断は……。

「……ここから去れ。もう二度と悪事を働くな」

 これがルシアンの答え……。

「ぷあはははははははははは! コイツ、マジでビビってるのか! 俺達の仲間を殺しておいて、何を……」
「けど、キミは生きている。やり直せる。頼む、もう人の命を奪うのは金輪際こんりんざいやめてくれ。キミの強さを人を殺める事に使わずに誰かを護る為に使って欲しい。頼む」

 ルシアンは九十度腰を曲げ、頭を下げる。
 これには盗賊もあっけにとられていた。
 流石はルシアン。
 さて、盗賊の反応は……。

「なあ、青年……俺みたいな悪党でもやり直せると本気で思っているのか?」
「ああっ」

 即答。
 ある意味すごい。盗賊の彼がどうやってやり直せのかぜひお聞きしたい。どうせ、自分でなんとかしてくれだろうけど。
 でも、嘘をついていないことだけは伝わる。
 ルシアンは本気で信じている。

「そっか……俺でもやり直せるか……」

 盗賊はうつむき、体が震えている。
 ルシアンは笑顔で盗賊に手を差しのばす。
 私は横に移動する。
 盗賊はルシアンの手を……。

「……なんてな、死ねやぁあああああ!」
「! ルシアン!」

 盗賊の手にはダガーが握られている。
 そのダガーはルシアンの喉元に吸い込まれ……。

「ぐげぇえええええええ!」
「!」

 盗賊の右目にチャクラムが食い込む。
 焼けるような激しい痛みに盗賊は地面を転げ回っている。
 チャクラムを投げたのは……。

「なかなかいい切れ味してる」

 私。
 ちなみにこれをメンテナンスしてくれたのはカリアン先生。
 ほんと、頼りになるメカニック……いや、エンジニアか。

「て、てめえ! 悪魔か! 俺の右目を! 右目を!」
「私が悪魔? あっそ」

 この男からはぷんぷん匂う。
 私と同類の匂い。
 人を欺き、殺す。
 違うところがあるとしたら、私は傭兵で彼が盗賊だけのこと。
 さて、トドメをさすか。
 私はゆっくりとターゲットの元へ歩き出す。

「あ、姐さん! ちょっと待ってくれ! まだ彼はやり直せ……」
「無理。一度ケダモノに堕ちた傭兵は一生ケダモノ。人ではない」

 人でないモノには情けは無用。
 命をとるか、とられるかの世界。私はそんな地獄に生きてきた。
 だから、始末する。

「人じゃないだと……ふざけるな! てめえが人のこと言えるのか! てめえからぷんぷん臭いぜ! 下水に住み着いたドブネズミよりも腐った臭いがな! 俺も人でなしだが、お前の方がもっと外道だろうが!」

 私が外道? よく分かっているじゃない。
 同じ穴のむじなだから?

「おい、てめえ! 姐さんに変な言いがかりつけてるんじゃねえぞ! てめえはただの盗賊だろうが!」

 ジョーンズが私を庇ってくれるけど、その男の言うことは正しい。
 男は更にキレる。

「俺だって好きで盗賊やってるんじゃねえよ! あのクソ領主が……アイツが裏切ったから俺達は盗賊をやるハメになったんだろうが!」
「領主が裏切った? どういうことだ?」

 ルシアンの問いに、盗賊は目にギラギラと殺意をぶつけるように睨みつけながら、言葉を吐き出す。

「俺達は元々、義勇軍だった! 憎きエラリド人から故郷を護る為、有志で集まってきた誇り高きマルダーク人だった! だが! 領主のジャールはあろうことか、戦わずして降伏し、俺達義勇軍を逆賊にしやがった! 俺達は後ろ指をさされて生きていく羽目になったんだぞ! この恥辱がお前に分かるか! 故郷にも帰れない! これほどの侮辱、味わったことがない! アイツは俺達から全てを奪った! だから、取り返す為に戦う! 黒いカモリアは全てを奪い尽くす!」
「で、でも、だからって悪事を働いていいことじゃないだろ!」
「俺達は懸賞金をかけられてるんだぞ! まともに生きていけないんだよ! 何にも知らないヤツが偉そうな事、言うな!」
「……そんなことはない……そんなことはない!」

 ルシアンの怒鳴り声に男は一瞬黙り込むが、すぐに怒鳴りかえそうとしたが……。

「犯罪者だからってやり直せない事なんてないんだ! 誰にだって! 誰にだってやり直せるチャンスはあるんだよ! あきらめないでくれ!」
「……」

 ルシアン……やはり、キミは……。

「うっせえ……うっせえよ! ちゃんこだと! ふざけるな! もう遅えんだよ! 綺麗事ばかりいいやがって! ぶっ殺してやる!」

 男はダガーをルシアンに向かって振り下ろそうとする。
 勿論、私がここにいる限り、そんなことさせるわけにはいかないので、男の両手を押さえ、足払いし、男を地面に押し倒す。

「キミは最後の好機を逃した。ルシアンはキミを救おうとしたのに」
「くっ! 離せ!」
「キミは私の思惑通り、いい仕事をした。そこだけは感謝する。静かに眠れ」

 私は盗賊の口を鷲掴みにする。
 盗賊の口を無理矢理開けて……。

「ぐほぉ! ごおおおおおおお! っぐおおおおおおおおお! おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 潜在能力を解放し、私は盗賊の口から大量の粘液を流し込み、窒息させる。
 器官にどろっとした粘液がこびりつき、吐き出すこともできず、盗賊は涙と鼻水を流し、私の腕を必死にひっかき、地獄の苦しみを味わいながら死んでいった。
 股からアンモニアの臭いとシミが広がっていく。
 静けさが戻ってくる。
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