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番外編

コスモスの願い

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このお話はアルファポリス様のみ投稿しているオリジナルストーリーです。
小説家になろう様のみ投稿しているオリジナルストーリーもございますので、ぜひ、一読お願いします。

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「……痛ぁ!」

 針が指に刺さり、コスモスは指をくわえる。慣れない針仕事に悪銭苦戦していた。
 グリズリーとクリサンがソウルアウトした後、コスモスは一人、チーム『スュクセ』のフラッグを作成していた。
 チームフラッグは、チームの象徴とも呼べるべき旗だ。
 その旗のデザインを熊のマークに仕上げるため、コスモスは頑張っているのだ。
 『スュクセ』はコスモスがクリサン、グリズリー、ライザーに声を掛け、作ったチームだ。
 ライザーには袖にされたが、クリサンとグリズリーを仲間に引き入れることに成功した。最初は自分も戦闘で活躍できると思っていた。
 コスモスは護身術と空手を子供の頃に学んでいて、格闘技の経験がある。女だからって、護られる気はさらさらなかった。
 けれども、クリサンとグリズリーは規格外だった。

 グリズリーは元UFC(Ultimate Fighting Ultimate Champions CARNIVAL)ヘビー級チャンピオン。その実力はちっとも衰えていない。
 クリサンもコスモスと同じく、格闘技の経験者だが、レベルが違った。人を殺すことになんのためらいもない。
 動きがトリッキーで、容赦なく急所をつく。残忍さだけなら、グリズリーを超えている。
 実力ならグリズリーが上だが、実践となるとクリサンの方が強いのかもしれない。
 グリズリーも人の子。殺しにためらいを感じている。その差が、クリサンの方が上だと思う理由だ。
 そうなると、コスモスが一番下ということになる。けれども、これは仕方のないことだった。
 まさか、元世界チャンピオンと殺しにためらいのないターミネータのような男がいるとは誰も予測……いや、自称ネトゲ最強を決める戦いだからこそ、この組み合わせはあるのかもしれない。

 とにかく、このままだと足手まといになりかねないコスモスは、まず自分ができることから始めた。
 それがフラッグ作りだ。
 フラグなど簡単に作れると思っていたのだが……。

「……難しいわね」

 アルカナ・ボンヤードはリアルに似せていることが売りなのだが、確かにその通りだ。裁縫一つでも技術を要する。
 オートモードでもフラグを作成することはできるが、自動的に作られた物は心がこもっていないので、手作りにこだわった。
 コスモスはときどき、あの世界が仮想世界だと忘れそうになる。手作りにこだわっているのがその証拠だ。

 コスモスはふと、クリサンの言葉を思い出した。
 アルカナ・ボンヤードの世界は現実に存在し、プレイヤーはソウルメイト(アバター)を通して、どこかの惑星にいるのだと。
 コスモスはその考えを否定した。
 アレンバシルから地球は見えるが、地球からは見えない。お互いの距離もある程度予測できるが、その距離の範囲にアレンバシルは存在しないのだ。
 だが……。

 ――アレンバシルと地球の距離……月と地球の距離と同じだった……。

 そうなのだ。アレンバシルから見える地球の大きさから計算した距離が、地球と月との距離と同じだったのだ。
 これは何を意味しているのか? ただの偶然か?
 それにアレンバシルから見た天体の位置がどこか見覚えがあったのは気のせいか?
 もし、コスモスの推論が正しければ、あの世界は……。

「まさかね……そんなわけないわ……そんなわけないじゃない」

 コスモスは首を横に振り、自分の考えを否定する。口に出したのは怖かったからかもしれない。自分の考えが正しければ、事態は想像を遙かに超えたものだからだ。
 コスモスは無理矢理頭を切り替え、裁縫に集中するが……。

「痛ぁ! またやった……」

 裁縫をあまりしてこなかったコスモスの技量では、なかなか思い通りにいかない。失敗ばかりだ。
 それでも、失敗の中から学び、一歩ずつ前に進めている手応えはある。

 ――もう少し……もう少しで完成する。楽しみにしてなさいよ。

 コスモスは頬を緩めながら、完成にむけて頑張っていたときだった。

 ――着信音? メール?

 コスモスはコンソールを開き、メールの送信者を確認する。
 その人物とは、現実での知り合いで幼なじみの男の子からだった。
 毎度毎度似たような内容で、彼女を安否を気遣うものだった。コスモスはその男の子の過保護な態度に呆れつつも、感謝していた。

 ――アンタも頑張りなさいよね。

 コスモスには幼なじみが二人いた。幼稚園の頃から一緒で、同じ夢を見続けた。
 三人は同じ夢、アイドルを目指し、ここまできた。
 二人のうち、一人は同じくクロスロードに滞在していて、彼も同じくチーム『トライアンフ』を立ち上げ、頑張っている。
 彼は明日、クロスロードから次の街へ旅立つとのこと。
 お互い頑張っている姿に励まし、励まされ、なんとか脱落せずにきている。

 コスモスも明日、スヒナスとの決戦が待っている。それでも、フラッグを完成させたかった。
 なぜなら……。

「やっぱ、砦を攻略したら、フラッグをささないと格好つかないでしょ」

 これはきっと目印になる。この旗の下に皆が集まってくる。
 コスモスには核心があった。
 グリズリーのカリスマ性は本物だ。きっと、彼に憧れ、彼の好敵手としてこの旗に集ってくる。
 それに、これはコスモスの勘だが、ライザー達と一緒にこれからも旅をすることになる。だから、みんなの旗印になる。
 一つの旗に仲間が集う。よくある少年漫画のお決まりだが、悪くないはず。
 コスモスは輝ける未来を夢見て、夜が更けてもフラッグを作り続けていた。



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ここまでお読みいただきました読者様、ありがとうございました。
これにて、『第五部 クリサンとグリズリーの冒険』は終了です。
『第六部 Do you know Champion? 後編』につきましては、投稿日は現在未定です。
よいお年を。恵鉄

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