204 / 386
番外編
コスモスの願い
しおりを挟む
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このお話はアルファポリス様のみ投稿しているオリジナルストーリーです。
小説家になろう様のみ投稿しているオリジナルストーリーもございますので、ぜひ、一読お願いします。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……痛ぁ!」
針が指に刺さり、コスモスは指をくわえる。慣れない針仕事に悪銭苦戦していた。
グリズリーとクリサンがソウルアウトした後、コスモスは一人、チーム『スュクセ』のフラッグを作成していた。
チームフラッグは、チームの象徴とも呼べるべき旗だ。
その旗のデザインを熊のマークに仕上げるため、コスモスは頑張っているのだ。
『スュクセ』はコスモスがクリサン、グリズリー、ライザーに声を掛け、作ったチームだ。
ライザーには袖にされたが、クリサンとグリズリーを仲間に引き入れることに成功した。最初は自分も戦闘で活躍できると思っていた。
コスモスは護身術と空手を子供の頃に学んでいて、格闘技の経験がある。女だからって、護られる気はさらさらなかった。
けれども、クリサンとグリズリーは規格外だった。
グリズリーは元UFC(Ultimate Fighting Ultimate Champions CARNIVAL)ヘビー級チャンピオン。その実力はちっとも衰えていない。
クリサンもコスモスと同じく、格闘技の経験者だが、レベルが違った。人を殺すことになんのためらいもない。
動きがトリッキーで、容赦なく急所をつく。残忍さだけなら、グリズリーを超えている。
実力ならグリズリーが上だが、実践となるとクリサンの方が強いのかもしれない。
グリズリーも人の子。殺しにためらいを感じている。その差が、クリサンの方が上だと思う理由だ。
そうなると、コスモスが一番下ということになる。けれども、これは仕方のないことだった。
まさか、元世界チャンピオンと殺しにためらいのないターミネータのような男がいるとは誰も予測……いや、自称ネトゲ最強を決める戦いだからこそ、この組み合わせはあるのかもしれない。
とにかく、このままだと足手まといになりかねないコスモスは、まず自分ができることから始めた。
それがフラッグ作りだ。
フラグなど簡単に作れると思っていたのだが……。
「……難しいわね」
アルカナ・ボンヤードはリアルに似せていることが売りなのだが、確かにその通りだ。裁縫一つでも技術を要する。
オートモードでもフラグを作成することはできるが、自動的に作られた物は心がこもっていないので、手作りにこだわった。
コスモスはときどき、あの世界が仮想世界だと忘れそうになる。手作りにこだわっているのがその証拠だ。
コスモスはふと、クリサンの言葉を思い出した。
アルカナ・ボンヤードの世界は現実に存在し、プレイヤーはソウルメイト(アバター)を通して、どこかの惑星にいるのだと。
コスモスはその考えを否定した。
アレンバシルから地球は見えるが、地球からは見えない。お互いの距離もある程度予測できるが、その距離の範囲にアレンバシルは存在しないのだ。
だが……。
――アレンバシルと地球の距離……月と地球の距離と同じだった……。
そうなのだ。アレンバシルから見える地球の大きさから計算した距離が、地球と月との距離と同じだったのだ。
これは何を意味しているのか? ただの偶然か?
それにアレンバシルから見た天体の位置がどこか見覚えがあったのは気のせいか?
もし、コスモスの推論が正しければ、あの世界は……。
「まさかね……そんなわけないわ……そんなわけないじゃない」
コスモスは首を横に振り、自分の考えを否定する。口に出したのは怖かったからかもしれない。自分の考えが正しければ、事態は想像を遙かに超えたものだからだ。
コスモスは無理矢理頭を切り替え、裁縫に集中するが……。
「痛ぁ! またやった……」
裁縫をあまりしてこなかったコスモスの技量では、なかなか思い通りにいかない。失敗ばかりだ。
それでも、失敗の中から学び、一歩ずつ前に進めている手応えはある。
――もう少し……もう少しで完成する。楽しみにしてなさいよ。
コスモスは頬を緩めながら、完成にむけて頑張っていたときだった。
――着信音? メール?
コスモスはコンソールを開き、メールの送信者を確認する。
その人物とは、現実での知り合いで幼なじみの男の子からだった。
毎度毎度似たような内容で、彼女を安否を気遣うものだった。コスモスはその男の子の過保護な態度に呆れつつも、感謝していた。
――アンタも頑張りなさいよね。
コスモスには幼なじみが二人いた。幼稚園の頃から一緒で、同じ夢を見続けた。
三人は同じ夢、アイドルを目指し、ここまできた。
二人のうち、一人は同じくクロスロードに滞在していて、彼も同じくチーム『トライアンフ』を立ち上げ、頑張っている。
彼は明日、クロスロードから次の街へ旅立つとのこと。
お互い頑張っている姿に励まし、励まされ、なんとか脱落せずにきている。
コスモスも明日、スヒナスとの決戦が待っている。それでも、フラッグを完成させたかった。
なぜなら……。
「やっぱ、砦を攻略したら、フラッグをささないと格好つかないでしょ」
これはきっと目印になる。この旗の下に皆が集まってくる。
コスモスには核心があった。
グリズリーのカリスマ性は本物だ。きっと、彼に憧れ、彼の好敵手としてこの旗に集ってくる。
それに、これはコスモスの勘だが、ライザー達と一緒にこれからも旅をすることになる。だから、みんなの旗印になる。
一つの旗に仲間が集う。よくある少年漫画のお決まりだが、悪くないはず。
コスモスは輝ける未来を夢見て、夜が更けてもフラッグを作り続けていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきました読者様、ありがとうございました。
これにて、『第五部 クリサンとグリズリーの冒険』は終了です。
『第六部 Do you know Champion? 後編』につきましては、投稿日は現在未定です。
よいお年を。恵鉄
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このお話はアルファポリス様のみ投稿しているオリジナルストーリーです。
小説家になろう様のみ投稿しているオリジナルストーリーもございますので、ぜひ、一読お願いします。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……痛ぁ!」
針が指に刺さり、コスモスは指をくわえる。慣れない針仕事に悪銭苦戦していた。
グリズリーとクリサンがソウルアウトした後、コスモスは一人、チーム『スュクセ』のフラッグを作成していた。
チームフラッグは、チームの象徴とも呼べるべき旗だ。
その旗のデザインを熊のマークに仕上げるため、コスモスは頑張っているのだ。
『スュクセ』はコスモスがクリサン、グリズリー、ライザーに声を掛け、作ったチームだ。
ライザーには袖にされたが、クリサンとグリズリーを仲間に引き入れることに成功した。最初は自分も戦闘で活躍できると思っていた。
コスモスは護身術と空手を子供の頃に学んでいて、格闘技の経験がある。女だからって、護られる気はさらさらなかった。
けれども、クリサンとグリズリーは規格外だった。
グリズリーは元UFC(Ultimate Fighting Ultimate Champions CARNIVAL)ヘビー級チャンピオン。その実力はちっとも衰えていない。
クリサンもコスモスと同じく、格闘技の経験者だが、レベルが違った。人を殺すことになんのためらいもない。
動きがトリッキーで、容赦なく急所をつく。残忍さだけなら、グリズリーを超えている。
実力ならグリズリーが上だが、実践となるとクリサンの方が強いのかもしれない。
グリズリーも人の子。殺しにためらいを感じている。その差が、クリサンの方が上だと思う理由だ。
そうなると、コスモスが一番下ということになる。けれども、これは仕方のないことだった。
まさか、元世界チャンピオンと殺しにためらいのないターミネータのような男がいるとは誰も予測……いや、自称ネトゲ最強を決める戦いだからこそ、この組み合わせはあるのかもしれない。
とにかく、このままだと足手まといになりかねないコスモスは、まず自分ができることから始めた。
それがフラッグ作りだ。
フラグなど簡単に作れると思っていたのだが……。
「……難しいわね」
アルカナ・ボンヤードはリアルに似せていることが売りなのだが、確かにその通りだ。裁縫一つでも技術を要する。
オートモードでもフラグを作成することはできるが、自動的に作られた物は心がこもっていないので、手作りにこだわった。
コスモスはときどき、あの世界が仮想世界だと忘れそうになる。手作りにこだわっているのがその証拠だ。
コスモスはふと、クリサンの言葉を思い出した。
アルカナ・ボンヤードの世界は現実に存在し、プレイヤーはソウルメイト(アバター)を通して、どこかの惑星にいるのだと。
コスモスはその考えを否定した。
アレンバシルから地球は見えるが、地球からは見えない。お互いの距離もある程度予測できるが、その距離の範囲にアレンバシルは存在しないのだ。
だが……。
――アレンバシルと地球の距離……月と地球の距離と同じだった……。
そうなのだ。アレンバシルから見える地球の大きさから計算した距離が、地球と月との距離と同じだったのだ。
これは何を意味しているのか? ただの偶然か?
それにアレンバシルから見た天体の位置がどこか見覚えがあったのは気のせいか?
もし、コスモスの推論が正しければ、あの世界は……。
「まさかね……そんなわけないわ……そんなわけないじゃない」
コスモスは首を横に振り、自分の考えを否定する。口に出したのは怖かったからかもしれない。自分の考えが正しければ、事態は想像を遙かに超えたものだからだ。
コスモスは無理矢理頭を切り替え、裁縫に集中するが……。
「痛ぁ! またやった……」
裁縫をあまりしてこなかったコスモスの技量では、なかなか思い通りにいかない。失敗ばかりだ。
それでも、失敗の中から学び、一歩ずつ前に進めている手応えはある。
――もう少し……もう少しで完成する。楽しみにしてなさいよ。
コスモスは頬を緩めながら、完成にむけて頑張っていたときだった。
――着信音? メール?
コスモスはコンソールを開き、メールの送信者を確認する。
その人物とは、現実での知り合いで幼なじみの男の子からだった。
毎度毎度似たような内容で、彼女を安否を気遣うものだった。コスモスはその男の子の過保護な態度に呆れつつも、感謝していた。
――アンタも頑張りなさいよね。
コスモスには幼なじみが二人いた。幼稚園の頃から一緒で、同じ夢を見続けた。
三人は同じ夢、アイドルを目指し、ここまできた。
二人のうち、一人は同じくクロスロードに滞在していて、彼も同じくチーム『トライアンフ』を立ち上げ、頑張っている。
彼は明日、クロスロードから次の街へ旅立つとのこと。
お互い頑張っている姿に励まし、励まされ、なんとか脱落せずにきている。
コスモスも明日、スヒナスとの決戦が待っている。それでも、フラッグを完成させたかった。
なぜなら……。
「やっぱ、砦を攻略したら、フラッグをささないと格好つかないでしょ」
これはきっと目印になる。この旗の下に皆が集まってくる。
コスモスには核心があった。
グリズリーのカリスマ性は本物だ。きっと、彼に憧れ、彼の好敵手としてこの旗に集ってくる。
それに、これはコスモスの勘だが、ライザー達と一緒にこれからも旅をすることになる。だから、みんなの旗印になる。
一つの旗に仲間が集う。よくある少年漫画のお決まりだが、悪くないはず。
コスモスは輝ける未来を夢見て、夜が更けてもフラッグを作り続けていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきました読者様、ありがとうございました。
これにて、『第五部 クリサンとグリズリーの冒険』は終了です。
『第六部 Do you know Champion? 後編』につきましては、投稿日は現在未定です。
よいお年を。恵鉄
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる