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クリサンとグリズリーの冒険 後編
クリサンとグリズリーの冒険 その二十
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「その話し、本当なのか?」
「ああっ、引き渡したあの死体が証拠だ。俺の言ったとおり、小指がなかっただろ? 酒場のウエイトレスに似顔絵で確認してもらえれば裏がとれるはずだ」
「……最悪の事態だ……」
本日二回目の屯所の取調室。
俺くらいじゃねえ? 一日に二回もここに来るのは。トロフィーがあったら、ぜひもらいたいものだ。ゲームの世界なんだし。
おおっと、話がそれたな。事態が結構ヤバくてつい、現実逃避してしまった。
実はとんでもないことがクロスロードで起こっていたのだ。
今夜だけで三件、辻斬りがあった。被害者は皆、NPCだ。
犯人は黒いローブを羽織り、『黒いカモリア』と名乗って、報復にきたと叫んでいたという。
つまり、頭領であったグリモが死んでも、黒いカモリアの活動は止まらず、逆に街に被害が出てしまった。
それだけでも、大事件なのだが、俺が捕まえたガッサーが更にこの問題を大きくする。
犯人を見たという人物が、ガッサーの着ていたローブと同じものを黒いカモリアが着ていたというのだ。
これが何を意味するのか?
「……自作自演だったってことか。アイツらめ!」
俺を取り調べしていたバッツはカンカンになり、椅子を蹴飛ばした。
気持ちは分かる。金を払って護衛してもらっていた傭兵団スヒナスが、実は黒いカモリアだったなんて……洒落にもなってないよな。
我が物顔でクロスロードを闊歩し、様々な店で問題、無銭飲食を繰り返し、因縁をつけられ、その度に金を請求してきたスヒナス。
なるほどな。絵に描いたような胸くそ悪い悪党共だ。
「けど、どうする? 証拠はあの死体だけだが……」
「いや、待て。コイツがスヒナスならエンブレムがあるはずだ」
「エンブレム?」
「傭兵団の証だ。確か……腰に……あった!」
へえ……エンブレム一つとっても、デザインが凝ってるな。盾のような形で、真ん中に二つの剣とその間に鷲……でいいのか? 鳥の絵が彫られている。
これで確定だな。
「スヒナスの仕業だってことは確定だな。だが、アイツらは認めないだろうな」
「認めない? どういうことだ?」
物的証拠があるのに? それはちょっと酷くないか?
「エンブレムなんて盗まれたっていえば、それまでだ。アイツらは絶対にしらを切るのが見えてるし。ガッサーだっけ? コイツが生きていて、ヤツらの前で企みを白状させないと認めないだろうな」
だからこそ、ガッサーの仲間はガッサーが口を割る前に殺したのだ。マジでクソ野郎だ。
証拠がなければバッツ達衛兵は動けない。このまま、スヒナスはまた、護衛料をクロスロードからふんだくり、好き勝手に暴れるのだろう。
バッツの悔しさは分かる。吐き気がする悪党がいるのに、取り締まれないのは耐えがたい苦痛だろう。
だが、俺は違う。俺はそんなもんなくても、戦える。
私怨? 上等だ! やってやる!
「よう、バッツ。お疲れ」
「お疲れ、ニッシ、タンラ。今、カモリアのことでとんでもないことが分かったぜ」
「あまり聞きたくねえな……ただでさえ、新たな武装集団が現れたっていうのに」
「新たな武装集団?」
「ああっ。もしかすると、カモリアよりも凶悪かもしれないぞ。ローブで身を包んだヤツらで、確か『ビックタワー』って名乗ってやがった。盗賊や商人、衛兵……誰彼かまわず襲っているみたいだ」
「本当かよ……」
「ただ、ヤツらの拠点はここから南西の方で活動しているみたいだから、そこだけが救いだな」
へえ……他にも悪さをしているヤツらがいるのか。場所や名乗りから今回の件とは関係なさそうだな。
今はスヒナスだ。
「あの……今日はもう、帰っていいですか?」
「おおっ、すまなかった。夜遅くまで付き合ってくれて、ありがとな。せっかく、お前さん達がグルフの首をとってきてくれたのに、このザマだ。情けねえよ」
「……」
俺は黙って部屋を出た。
待っててくれ、バッツさんよ。その悔しさ、殺された人々の無念、恨み、絶対に俺がはらしてやる。
屯所を出ると、グリズリーとコスモス、ライザー達が待ってくれていた。
「お疲れ、クリサン。大丈夫だった?」
「ああっ、俺は問題ないさ、コスモス」
「ということは、他に問題が起こったのですね? 話してもらえませんか?」
ネルソンの問いに俺はうなずき、バッツから仕入れた情報を全て話した。
ここにいる全員が憤怒していた。
「……許せない。人の不幸で金を巻き上げるなんて、外道だわ」
「吐き気がするわね」
コスモスも、レベッカも怒っている。
「黒いカモリアを倒したように、俺達でスヒナスを潰してやろうぜ、ライザー!」
「……そうだな。俺達に喧嘩ふっかけてきやがったんだ。きっちり、ケジメをつけさせてもらう」
ライザー達はやる気に満ちていた。
「そうじゃな。そん悪党、おい達で成敗してやろう!」
グリズリーもメラメラと闘志を燃やしていた。
ったく、今日一日でヒーロー気取りかよ、お前ら。
だが、それでいい! 俺だってそうだからな!
「待ってください。少し落ち着きませんか?」
「ネルソンくぅん、これだけぇもりあがってぇるのにぃ、それはぁないでしょうぅ?」
「コリーさんも落ち着いて。大体、敵はどこにいるんですか? 戦力は? 何一つわかっていない状態でどう戦うんです?」
……うん、間違ってないね。流石はネルソン、冷静すぎる指摘だ。
そういえば、スヒナスがどこに拠点があって、どれくらいの規模か、知らない。
流石に黒いカモリアのようにはいかないか。黒いカモリアのときは、冒険者ギルドで拠点の場所を手に入れることが出来た。元々、討伐クエストで依頼があったからだ。
だが、スヒナスは違う。
素行に問題があったとはいえ、一応は味方だった。黒いカモリアを牽制していたと思われていたからだ。
だから、スヒナスの情報はない。討伐クエストなど依頼など出るはずがないからだ。
ったく、面倒だよな、ほんと。
大体、俺は謝礼金目当てなので、危険なことは止める側なんだよな。
なのに、今では自分ですすんで討伐に参加しようっていうんだから、皮肉だよな。
「ネルソン。お前なら追跡できるよな? スヒナスの連中を」
「……やり方を任せてもらえれば」
えっ、出来るの? ネルソンって草の者? 失礼かもしれないけど、ちょっと、格好いいんだけど。
「ただ、テンションに身を任せて事を起こせば、必ずこちらも手痛い報いを受けることになりかねますが……」
「おいおい、冷めるようなこと言うなよ。相手は悪党なんだろ? だったら、やっつけなさいよ」
「誰だ!」
ネルソンの言葉を遮り、煽ってきたのは、建物の屋根に座っていた男だった。その男も黒いローブを羽織っている。
アイツ、もしかして、スヒナスの一員か? いや……。
「てめえぇ! まさかぁ、スヒナスのぉ一員かぁ! 降りてぇ来やがれぇ!」
「はいよっと」
黒いローブの男は屋根を飛び降り、俺達の前に着地する。
武器を構えるムートに、ライザーが待てっと制止する。
黒いローブの男はローブを外し、顔を見せた。
「初めまして。俺はテンペスト。もちろん、スヒナスの一員ではございません。このゲームを面白おかしくする為にかき回すのが俺の役目。よろしくな」
このゲームを面白おかしくする? コイツ、プレイヤーか?
俺はいつでも杭を投げる準備をした。ライザーもレベッカも瞬時に戦闘には入れるように構えている。
「それで? 私達に何か用ですか? テンペストさん?」
ネルソンが代表してテンペストに尋ねる。
テンペストは両手を広げ、理由を話し出す。
「みなさんにいい情報を持ってきたんです。スヒナスの根城、数、構成、色々です」
「……目的は?」
それだ。
テンペストの目的は何なのか? なぜ、俺達とスヒナスと戦わせようとするのか?
考えられるとしたら、スヒナスに俺達を殺させること。そうすれば、ライバルは減るって寸法だ。
だが、納得いかないんだよな。何か、コイツにはある。
得体が知れない危険なヤツだと俺の本能が告げていた。
「人の話しはちゃんと聞きましょうや。さっき言ったでしょ? このゲームを面白おかしくするのが俺の役目だって。実はスヒナスとグリズリーさんの対決が賭け事になっていましてね。どちらが勝つのか、興味津々なんですよ。私のクライアントは」
「クライアントだと? つまり、俺達は……」
「そう、キミ達は賭場《コロッセオ》に出てくる剣闘士に選ばれたってことさ」
「ふざけるな!」
確かに、これにはライザーが怒鳴る気持ちも分かるし、俺だって怒鳴りたい。
賭け事だと? 知るかよ、そんなこと!
アホ達の勝手な娯楽のせいで、クロスロードの人達は殺されたのか? 確かに、クロスロードの人達はNPCだし、賭け事をしているヤツらもただのプログラムで動く人形だと思っているだろう。
だが、この世界に触れて、クロスロードの人達に関わって、一つ分かったことがある。彼らはこの世界を生きる住人なのだ。
俺達のような余所から来ているヤツらが好き勝手に荒らしていいわけがない。
もし、それが許されるのなら、人間を生み出した神、いや、全てを生み出した地球が人々を蹂躙しても、俺達はその運命を受け入れることが出来るのだろうか? 出来るはずもない。
地球を目茶苦茶にしておいていうのもなんだが、それでも、死にたくないんだ。
それはクロスロードの人々だって同じだ。
「……なあ、テンペスト君。一つ質問をしてんよかか?」
「え、ええっ……俺で答えられることならなんでもいいですよ、グリズリーさん」
「そん賭け、おいも参加しきっと?」
はぁあ? 賭けに参加したいだと? 自ら道化になるつもりか?
この発言には俺達だけでなく、テンペストすら呆然としている。きっと、テンペストは罵声や非難を浴びることを想定していたのだろう。
それなのに、訳の分からないことを言われて、主導権を握るはずが、うまく握れず戸惑っている。
「えっ? さ、参加ですか? いや、会員制って聞いていますので……ただ、参加者の一人と知り合いなので、話しだけでも通すことはできますが……」
「それなら、ソイツにゆちょってたもんせ。おいに賭くれば、必ずもうけさせっこっが出来っと。おいん分まで賭けて欲しかと伝えてくるっかな」
テンペストは呆然としていたが、急に大笑いした。
「ぷっ……ふふふふっ……ぷっははははははははははは! 最高です! 最高ですよ、グリズリーさん! いいでしょう! 現実のグリズリーさんがどこでソウルインしているかは分かりませんので、私が今回の報酬分、全てあなたの勝ちに全額賭けましょう! お礼は必ずさせてもらいます!」
グリズリーって器が大きいのか、バカなのか、分からないよな。
けど、スケールがでかいってことは分かる。
そうだよな。賭け事だろうがなんだろうが、俺達のやることは変わらない。スヒナスをぶっ潰すだけだ。
俺達はテンペストに導かれ、スヒナスに戦いを挑む事になった。ただ、テンペストの後ろにいるヤツにはいずれ、お返しをするけど……何かが引っかかる。
なんだ?
「あ、あの……グリズリーさん。俺からも一つ、お願いがあるのですが……」
「なんか?」
「……サイン、もらってもいいですか?」
「「「……」」」
グリズリーは笑顔でテンペストのマントにサインしやがった。なんか、締まらないよな……別にいいんだけど。
「ああっ、引き渡したあの死体が証拠だ。俺の言ったとおり、小指がなかっただろ? 酒場のウエイトレスに似顔絵で確認してもらえれば裏がとれるはずだ」
「……最悪の事態だ……」
本日二回目の屯所の取調室。
俺くらいじゃねえ? 一日に二回もここに来るのは。トロフィーがあったら、ぜひもらいたいものだ。ゲームの世界なんだし。
おおっと、話がそれたな。事態が結構ヤバくてつい、現実逃避してしまった。
実はとんでもないことがクロスロードで起こっていたのだ。
今夜だけで三件、辻斬りがあった。被害者は皆、NPCだ。
犯人は黒いローブを羽織り、『黒いカモリア』と名乗って、報復にきたと叫んでいたという。
つまり、頭領であったグリモが死んでも、黒いカモリアの活動は止まらず、逆に街に被害が出てしまった。
それだけでも、大事件なのだが、俺が捕まえたガッサーが更にこの問題を大きくする。
犯人を見たという人物が、ガッサーの着ていたローブと同じものを黒いカモリアが着ていたというのだ。
これが何を意味するのか?
「……自作自演だったってことか。アイツらめ!」
俺を取り調べしていたバッツはカンカンになり、椅子を蹴飛ばした。
気持ちは分かる。金を払って護衛してもらっていた傭兵団スヒナスが、実は黒いカモリアだったなんて……洒落にもなってないよな。
我が物顔でクロスロードを闊歩し、様々な店で問題、無銭飲食を繰り返し、因縁をつけられ、その度に金を請求してきたスヒナス。
なるほどな。絵に描いたような胸くそ悪い悪党共だ。
「けど、どうする? 証拠はあの死体だけだが……」
「いや、待て。コイツがスヒナスならエンブレムがあるはずだ」
「エンブレム?」
「傭兵団の証だ。確か……腰に……あった!」
へえ……エンブレム一つとっても、デザインが凝ってるな。盾のような形で、真ん中に二つの剣とその間に鷲……でいいのか? 鳥の絵が彫られている。
これで確定だな。
「スヒナスの仕業だってことは確定だな。だが、アイツらは認めないだろうな」
「認めない? どういうことだ?」
物的証拠があるのに? それはちょっと酷くないか?
「エンブレムなんて盗まれたっていえば、それまでだ。アイツらは絶対にしらを切るのが見えてるし。ガッサーだっけ? コイツが生きていて、ヤツらの前で企みを白状させないと認めないだろうな」
だからこそ、ガッサーの仲間はガッサーが口を割る前に殺したのだ。マジでクソ野郎だ。
証拠がなければバッツ達衛兵は動けない。このまま、スヒナスはまた、護衛料をクロスロードからふんだくり、好き勝手に暴れるのだろう。
バッツの悔しさは分かる。吐き気がする悪党がいるのに、取り締まれないのは耐えがたい苦痛だろう。
だが、俺は違う。俺はそんなもんなくても、戦える。
私怨? 上等だ! やってやる!
「よう、バッツ。お疲れ」
「お疲れ、ニッシ、タンラ。今、カモリアのことでとんでもないことが分かったぜ」
「あまり聞きたくねえな……ただでさえ、新たな武装集団が現れたっていうのに」
「新たな武装集団?」
「ああっ。もしかすると、カモリアよりも凶悪かもしれないぞ。ローブで身を包んだヤツらで、確か『ビックタワー』って名乗ってやがった。盗賊や商人、衛兵……誰彼かまわず襲っているみたいだ」
「本当かよ……」
「ただ、ヤツらの拠点はここから南西の方で活動しているみたいだから、そこだけが救いだな」
へえ……他にも悪さをしているヤツらがいるのか。場所や名乗りから今回の件とは関係なさそうだな。
今はスヒナスだ。
「あの……今日はもう、帰っていいですか?」
「おおっ、すまなかった。夜遅くまで付き合ってくれて、ありがとな。せっかく、お前さん達がグルフの首をとってきてくれたのに、このザマだ。情けねえよ」
「……」
俺は黙って部屋を出た。
待っててくれ、バッツさんよ。その悔しさ、殺された人々の無念、恨み、絶対に俺がはらしてやる。
屯所を出ると、グリズリーとコスモス、ライザー達が待ってくれていた。
「お疲れ、クリサン。大丈夫だった?」
「ああっ、俺は問題ないさ、コスモス」
「ということは、他に問題が起こったのですね? 話してもらえませんか?」
ネルソンの問いに俺はうなずき、バッツから仕入れた情報を全て話した。
ここにいる全員が憤怒していた。
「……許せない。人の不幸で金を巻き上げるなんて、外道だわ」
「吐き気がするわね」
コスモスも、レベッカも怒っている。
「黒いカモリアを倒したように、俺達でスヒナスを潰してやろうぜ、ライザー!」
「……そうだな。俺達に喧嘩ふっかけてきやがったんだ。きっちり、ケジメをつけさせてもらう」
ライザー達はやる気に満ちていた。
「そうじゃな。そん悪党、おい達で成敗してやろう!」
グリズリーもメラメラと闘志を燃やしていた。
ったく、今日一日でヒーロー気取りかよ、お前ら。
だが、それでいい! 俺だってそうだからな!
「待ってください。少し落ち着きませんか?」
「ネルソンくぅん、これだけぇもりあがってぇるのにぃ、それはぁないでしょうぅ?」
「コリーさんも落ち着いて。大体、敵はどこにいるんですか? 戦力は? 何一つわかっていない状態でどう戦うんです?」
……うん、間違ってないね。流石はネルソン、冷静すぎる指摘だ。
そういえば、スヒナスがどこに拠点があって、どれくらいの規模か、知らない。
流石に黒いカモリアのようにはいかないか。黒いカモリアのときは、冒険者ギルドで拠点の場所を手に入れることが出来た。元々、討伐クエストで依頼があったからだ。
だが、スヒナスは違う。
素行に問題があったとはいえ、一応は味方だった。黒いカモリアを牽制していたと思われていたからだ。
だから、スヒナスの情報はない。討伐クエストなど依頼など出るはずがないからだ。
ったく、面倒だよな、ほんと。
大体、俺は謝礼金目当てなので、危険なことは止める側なんだよな。
なのに、今では自分ですすんで討伐に参加しようっていうんだから、皮肉だよな。
「ネルソン。お前なら追跡できるよな? スヒナスの連中を」
「……やり方を任せてもらえれば」
えっ、出来るの? ネルソンって草の者? 失礼かもしれないけど、ちょっと、格好いいんだけど。
「ただ、テンションに身を任せて事を起こせば、必ずこちらも手痛い報いを受けることになりかねますが……」
「おいおい、冷めるようなこと言うなよ。相手は悪党なんだろ? だったら、やっつけなさいよ」
「誰だ!」
ネルソンの言葉を遮り、煽ってきたのは、建物の屋根に座っていた男だった。その男も黒いローブを羽織っている。
アイツ、もしかして、スヒナスの一員か? いや……。
「てめえぇ! まさかぁ、スヒナスのぉ一員かぁ! 降りてぇ来やがれぇ!」
「はいよっと」
黒いローブの男は屋根を飛び降り、俺達の前に着地する。
武器を構えるムートに、ライザーが待てっと制止する。
黒いローブの男はローブを外し、顔を見せた。
「初めまして。俺はテンペスト。もちろん、スヒナスの一員ではございません。このゲームを面白おかしくする為にかき回すのが俺の役目。よろしくな」
このゲームを面白おかしくする? コイツ、プレイヤーか?
俺はいつでも杭を投げる準備をした。ライザーもレベッカも瞬時に戦闘には入れるように構えている。
「それで? 私達に何か用ですか? テンペストさん?」
ネルソンが代表してテンペストに尋ねる。
テンペストは両手を広げ、理由を話し出す。
「みなさんにいい情報を持ってきたんです。スヒナスの根城、数、構成、色々です」
「……目的は?」
それだ。
テンペストの目的は何なのか? なぜ、俺達とスヒナスと戦わせようとするのか?
考えられるとしたら、スヒナスに俺達を殺させること。そうすれば、ライバルは減るって寸法だ。
だが、納得いかないんだよな。何か、コイツにはある。
得体が知れない危険なヤツだと俺の本能が告げていた。
「人の話しはちゃんと聞きましょうや。さっき言ったでしょ? このゲームを面白おかしくするのが俺の役目だって。実はスヒナスとグリズリーさんの対決が賭け事になっていましてね。どちらが勝つのか、興味津々なんですよ。私のクライアントは」
「クライアントだと? つまり、俺達は……」
「そう、キミ達は賭場《コロッセオ》に出てくる剣闘士に選ばれたってことさ」
「ふざけるな!」
確かに、これにはライザーが怒鳴る気持ちも分かるし、俺だって怒鳴りたい。
賭け事だと? 知るかよ、そんなこと!
アホ達の勝手な娯楽のせいで、クロスロードの人達は殺されたのか? 確かに、クロスロードの人達はNPCだし、賭け事をしているヤツらもただのプログラムで動く人形だと思っているだろう。
だが、この世界に触れて、クロスロードの人達に関わって、一つ分かったことがある。彼らはこの世界を生きる住人なのだ。
俺達のような余所から来ているヤツらが好き勝手に荒らしていいわけがない。
もし、それが許されるのなら、人間を生み出した神、いや、全てを生み出した地球が人々を蹂躙しても、俺達はその運命を受け入れることが出来るのだろうか? 出来るはずもない。
地球を目茶苦茶にしておいていうのもなんだが、それでも、死にたくないんだ。
それはクロスロードの人々だって同じだ。
「……なあ、テンペスト君。一つ質問をしてんよかか?」
「え、ええっ……俺で答えられることならなんでもいいですよ、グリズリーさん」
「そん賭け、おいも参加しきっと?」
はぁあ? 賭けに参加したいだと? 自ら道化になるつもりか?
この発言には俺達だけでなく、テンペストすら呆然としている。きっと、テンペストは罵声や非難を浴びることを想定していたのだろう。
それなのに、訳の分からないことを言われて、主導権を握るはずが、うまく握れず戸惑っている。
「えっ? さ、参加ですか? いや、会員制って聞いていますので……ただ、参加者の一人と知り合いなので、話しだけでも通すことはできますが……」
「それなら、ソイツにゆちょってたもんせ。おいに賭くれば、必ずもうけさせっこっが出来っと。おいん分まで賭けて欲しかと伝えてくるっかな」
テンペストは呆然としていたが、急に大笑いした。
「ぷっ……ふふふふっ……ぷっははははははははははは! 最高です! 最高ですよ、グリズリーさん! いいでしょう! 現実のグリズリーさんがどこでソウルインしているかは分かりませんので、私が今回の報酬分、全てあなたの勝ちに全額賭けましょう! お礼は必ずさせてもらいます!」
グリズリーって器が大きいのか、バカなのか、分からないよな。
けど、スケールがでかいってことは分かる。
そうだよな。賭け事だろうがなんだろうが、俺達のやることは変わらない。スヒナスをぶっ潰すだけだ。
俺達はテンペストに導かれ、スヒナスに戦いを挑む事になった。ただ、テンペストの後ろにいるヤツにはいずれ、お返しをするけど……何かが引っかかる。
なんだ?
「あ、あの……グリズリーさん。俺からも一つ、お願いがあるのですが……」
「なんか?」
「……サイン、もらってもいいですか?」
「「「……」」」
グリズリーは笑顔でテンペストのマントにサインしやがった。なんか、締まらないよな……別にいいんだけど。
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