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十五章 人の皮を被った獣
十五話 人の皮を被った獣 ソレイユ編 その一
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「あ、ありがとうございます」
「いいから、逃げなさい!」
中年の男は頭を下げ、その場を後にした。凶器を持った男は逃げた男を追いかけようとしたが、一人の女性が立ち塞がる。
「待ちなさい。これ以上の殺戮はこの私が許さない」
ソレイユは右手に握りしめたファルシオンを目の前の男達に突きつける。ソレイユの両隣には衛兵がロングスピアを構え、村を襲撃した男達を威嚇している。
ソレイユは旅立ちの前にカースルクームで買い物をしていた。その後、待ち合わせ場所へ向かう途中、いきなり空から矢が降ってきた。
しかも、矢尻には油の染みた布が巻かれ、屋根に突き刺さった火矢は徐々に燃えていき、黒い煙が空高くのぼっていく。
ソレイユは近くに建物に避難した為、火矢から免れた。
その火矢はまさに戦いの狼煙だった。黒いマントを身に纏い、武装した男達が村人達に襲いかかってきた。
武装した男達がなぜ、村人達を襲撃してきたのか?
ソレイユはファルシオンを装備し、襲撃者を迎え撃つ。
理由なんていらない。彼女はいつも自分の心に従い、戦ってきたのだから。
ソレイユは地面を蹴り、襲撃者にファルシオンを振り下ろす。襲撃者はバックステップでソレイユの一撃をかわす。
「うぁああああ!」
他の襲撃者はソレイユを無視し、ソレイユの近くにいた村人に襲いかかる。
「コマンド! 『サモンN』!」
ソレイユの左手にナイフが召喚される。そのナイフを襲撃者の右手の甲目掛けて放つ。
「くっ!」
襲撃者の手が止まり、間一髪、村人を助けることが出来た。
だが……。
「いやぁあああああ!」
女性の一人が襲撃者のロングスピアに貫かれた。女性は膝を突き、そのまま倒れる。
ソレイユはその女性を何度か見かけたことがある。噂好きでよく井戸端会議をしていた女性だ。
「ちっ!」
――数が多い! このままでは!
ソレイユはすぐさま頭を切り替える。襲いかかる襲撃者の凶器を、ソレイユはサイドステップでかわし、距離をとる。
襲撃者の一人がソレイユを足止めし、残りの襲撃者が村に散らばる。
どうやら、襲撃者はソレイユのようなプレイヤーではなく、村人を優先的に襲っているようだ。
「ひぃいいいい!」
ソレイユのそばでまた、一人の村人……畑仕事を生業としているポールが襲撃者に襲われていた。
ソレイユは助けに行こうとするが。
「よそ見してるんじゃねえぞ!」
襲撃者のショートソードを、ソレイユはファルシオンでかろうじて受け止める。
鍔迫り合いになっている為、助けに行く事が出来ない。
ソレイユの目の前でまた、殺されそうになったとき。
「やめろ!」
衛兵の一人が襲撃者にロングスピアを突き出した。襲撃者は攻撃を止め、衛兵の攻撃を回避する。
「早く逃げろ、ポール!」
「あ、ああっ、ありがとう!」
衛兵の働きでソレイユを襲いかかった襲撃者に隙が生まれる。
「どきなさい!」
ソレイユは力で襲撃者を押し返して距離をとり、中段蹴りで相手をぶっ飛ばす。
すぐさま、ソレイユは襲撃者の腹目掛けて振り払い、追撃する。
「ちぃ!」
ファルシオンは襲撃者の腹をかすめる程度のダメージしか追わせなかった。
ソレイユと襲撃者はすぐさま剣を交える。
金属音と火花が飛び散る中、ソレイユが感じていたのは燃えさかる怒りだった。無抵抗な人間を平気で斬り捨てる邪道な輩が許せない。
力が溢れてくる。闘志が溢れ、心が震える。
「はぁああああああああ!」
ソレイユのファルシオンは早く、鋭く、力強くなっていく。彼女のソウルメイトが淡く光り輝き、力が増していく。襲撃者を圧倒し、押し返していく。
「ソレイユ殿! あなたがいてくれて、あなたと戦えて、誇りに思います!」
「このまま押し返しましょう!」
「……いえ。アナタ達は村人のみんなを救助に。ここは私一人で十分です!」
襲撃者の目的は村人のハズ。それならば、本当に危ないのはソレイユではなく、村人だ。
衛兵も気づいているのだろう。少し躊躇したが、衛兵は決意する。
「分かりました。ソレイユ殿。ご武運を!」
「ここはお任せします!」
衛兵は村人を救出するべく、この場を離脱する。
襲撃者は衛兵を追おうとするが。
「ここから先には行かない方がいいわ」
ソレイユは襲撃者を視線で威嚇する。襲撃者はまるで進路に危険物があるかのように、後ずさる。
ソレイユはただ淡々と告げる。
「ここに私がいる以上、通りたければ死ぬ気でかかってきなさい」
命を奪うのなら、命を奪われる覚悟をしなければならない。
人の命を踏みにじるのなら、悲惨な末路を覚悟しなければならない。
人の道を踏み外した者には、慈悲など与えられない事を覚悟しなければならない。
ソレイユは知っている。外道にかける言葉はないことを。
ソレイユは知っている。解決方法は力のみだと。
ソレイユは知っている。負ければ全てを失う。これこそが弱肉強食だと。
負けられない戦いがここにある。そのことをソレイユは頭でなく、本能で理解していた。
ソレイユの気迫に、襲撃者は更に一歩後退する。
戦いは膠着するかに思えたが。
「ここは俺に任せて先に行け」
襲来者の後ろから一人の男が現れた。
ジャックと同じく大柄な男でフルプレートに身を包み、バルディッシュを手にしていた。
バルディッシュ。
1.5Mほどの長さで、刃が三日月状の曲線を描く形をしていることから、『三日月斧』、『半月斧』とも呼ばれている。
先端が鋭く長く尖っていて、突きも可能な武器だ。
フルプレートの男から放たれるプレッシャーに、ソレイユは気を引き締める。
襲撃者はこの場を去って行く。村人を探し出し、殺す為に。
だが、ソレイユは止めにいけなかった。目の前にいる男から視線をそらせば、斬りつけられてしまうからだ。
フルプレートの男をなんとかしなければ村の被害も、ソレイユも生きてこの村から脱出できないだろう。
ソレイユはゆっくりと男と距離を詰める。円を描くようにお互い一定の距離をとり続ける。
「聞かないのか? なぜ、俺達がこんなことをしているのか?」
「必要ないわ。ゲスの考えなんて知りたくもない。それより、あなた達を倒してしまえば問題ないでしょ?」
「……正論だ。俺の名はジェス。名前くらい教えてくれてもいいだろ?」
「……ソレイユよ」
それ以降、ソレイユとジェスには会話はなかった。先に仕掛けてきたのはジェスだ。バルディッシュを大きく振りかぶる。
ソレイユは注意深くジェスの軌道を見極める。
バルディッシュはファルシオンに比べ、リーチも威力も高い。バルディッシュは突きもあるが、どちらにしても、その大きさや重量からして大ぶりになり、素早い連続攻撃は不可能だ。
ジェスの攻撃を空振りさせ、その隙をソレイユは狙おうとしたとき。
「っ!」
ソレイユはファルシオンでバルディッシュを受け止めようとするが、受け止めきれず、咄嗟に受け流す。
誤算……いや、予想外のことが起こった。
ジェスの攻撃が早すぎたのだ。まるで木の枝を振るうようにバルディッシュを振り抜いてみせた。
ファルシオンから伝わる衝撃の強さから、バルディッシュが軽量化されているわけではなく、逆にかなり重い一撃であった。武器を重くすることで威力をあげていることが分かった。
ただ、重くなれば当然、攻撃のスピードも遅くなるはず。
それなのに、攻撃の速さがまるで軽量系の武器であるダガーのように素早い。
――初段だけが早い攻撃?
それならば、アビリティの一種かもしれない。
アビリティとは武器を使用する事でたまった熟練度から解放される技である。
技には様々な種類があり、攻撃力や攻撃のスピードを上げたり、システムでプログラムされた連続技がある。
ソレイユは、ジェスの早い攻撃はアビリティの攻撃技と判断し、考えを切り替える。
一旦防御に徹し、ジェスの攻撃のタイミングとスピードを見極める。そこから、カウンター、もしくは攻撃の合間をぬって攻撃する。
ジェスのなぎ払いをソレイユはバックステップでかわす。早い攻撃でも備えていれば、かろうじてだが、避けられないことはない。
そうソレイユは思っていたのだが……。
――早い! 早すぎる!
なぎ払ったと思ったら、すぐにまた逆の方向になぎ払い返した。
次に、振り下ろし、振り上げ……どの一撃もタイムラグがほとんどない。まるで短剣系の通常攻撃を繰り返しているみたいだ。
バルディッシュのような長物をフルプレートを着たまま、あそこまで扱えるのは異常だ。あんな怪力、熊かゴリラ並だ。
重装備をまるで軽装備のように扱える力。
それこそが……。
――ジェスの潜在能力?
まさか、いきなり潜在能力を使ってくるとは思ってもいなかった。ジェスは切り札をいきなりもってきたのだ。
能力が分かっていたとしても、つけいる隙が見当たらなかった。ソレイユは完全に押されていた。
リーチが長く、破壊力のある攻撃に、フルプレートの鉄壁な防御。
ファルシオンを二、三度たたき切ってもダメージは望めないだろう。
しかし、ソレイユにも逆転の策はある。一撃でもクリーンヒットすれば、そこからソレイユの潜在能力、無限コンボを叩きつけることが出来る。
しかし、ソレイユには迷いがあった。
相手を確実にキルできるのか? それとも、耐えきってしまうのか?
ソレイユは二度、プレイヤーに無限コンボを叩きつけたが、そのどれもが失敗している。それ故、不安になるのだ。
しかし、ソレイユがジェスに勝つには、そこに勝機を見いだすしかない。
ソレイユは不利な状況でも瞳には闘志が宿り、ジェスの攻撃の隙を見逃さないよう神経を集中させる。
だが、ソレイユは気づかなかった。ソレイユの意識をジェスにむけることこそ、ジェスの狙いなのだと。
ソレイユはすぐにジェスの意図に気づく。ただし、それと引き換えに致命的な隙を相手に与えてしまうことになる。
ソレイユはうまくジェスの攻撃を回避していくが。
「キューィ! キューィ!」
「!」
ソレイユのサポキャラ、アスコットが警告を放ち、ソレイユの動きが止まってしまった。ジェスはその一瞬の隙を見逃さなかった。
「はぁ!」
ジェスはバルディッシュで真っ直ぐに突いてきた。ソレイユは無理矢理体を横に傾け、躱そうとするが……。
「っ!」
体勢を崩したところに足下に固いモノがぶつかり、ソレイユはその場に尻餅をついてしまう。
ソレイユの足を取られてしまったものとは……村人の死体だった。ソレイユは死体を見て、思わず硬直してしまった。
決定的な隙がうまれてしまう。
ジェスはバルディッシュを大きく振りかぶり、ソレイユの上半身を斬りつけた。
「いいから、逃げなさい!」
中年の男は頭を下げ、その場を後にした。凶器を持った男は逃げた男を追いかけようとしたが、一人の女性が立ち塞がる。
「待ちなさい。これ以上の殺戮はこの私が許さない」
ソレイユは右手に握りしめたファルシオンを目の前の男達に突きつける。ソレイユの両隣には衛兵がロングスピアを構え、村を襲撃した男達を威嚇している。
ソレイユは旅立ちの前にカースルクームで買い物をしていた。その後、待ち合わせ場所へ向かう途中、いきなり空から矢が降ってきた。
しかも、矢尻には油の染みた布が巻かれ、屋根に突き刺さった火矢は徐々に燃えていき、黒い煙が空高くのぼっていく。
ソレイユは近くに建物に避難した為、火矢から免れた。
その火矢はまさに戦いの狼煙だった。黒いマントを身に纏い、武装した男達が村人達に襲いかかってきた。
武装した男達がなぜ、村人達を襲撃してきたのか?
ソレイユはファルシオンを装備し、襲撃者を迎え撃つ。
理由なんていらない。彼女はいつも自分の心に従い、戦ってきたのだから。
ソレイユは地面を蹴り、襲撃者にファルシオンを振り下ろす。襲撃者はバックステップでソレイユの一撃をかわす。
「うぁああああ!」
他の襲撃者はソレイユを無視し、ソレイユの近くにいた村人に襲いかかる。
「コマンド! 『サモンN』!」
ソレイユの左手にナイフが召喚される。そのナイフを襲撃者の右手の甲目掛けて放つ。
「くっ!」
襲撃者の手が止まり、間一髪、村人を助けることが出来た。
だが……。
「いやぁあああああ!」
女性の一人が襲撃者のロングスピアに貫かれた。女性は膝を突き、そのまま倒れる。
ソレイユはその女性を何度か見かけたことがある。噂好きでよく井戸端会議をしていた女性だ。
「ちっ!」
――数が多い! このままでは!
ソレイユはすぐさま頭を切り替える。襲いかかる襲撃者の凶器を、ソレイユはサイドステップでかわし、距離をとる。
襲撃者の一人がソレイユを足止めし、残りの襲撃者が村に散らばる。
どうやら、襲撃者はソレイユのようなプレイヤーではなく、村人を優先的に襲っているようだ。
「ひぃいいいい!」
ソレイユのそばでまた、一人の村人……畑仕事を生業としているポールが襲撃者に襲われていた。
ソレイユは助けに行こうとするが。
「よそ見してるんじゃねえぞ!」
襲撃者のショートソードを、ソレイユはファルシオンでかろうじて受け止める。
鍔迫り合いになっている為、助けに行く事が出来ない。
ソレイユの目の前でまた、殺されそうになったとき。
「やめろ!」
衛兵の一人が襲撃者にロングスピアを突き出した。襲撃者は攻撃を止め、衛兵の攻撃を回避する。
「早く逃げろ、ポール!」
「あ、ああっ、ありがとう!」
衛兵の働きでソレイユを襲いかかった襲撃者に隙が生まれる。
「どきなさい!」
ソレイユは力で襲撃者を押し返して距離をとり、中段蹴りで相手をぶっ飛ばす。
すぐさま、ソレイユは襲撃者の腹目掛けて振り払い、追撃する。
「ちぃ!」
ファルシオンは襲撃者の腹をかすめる程度のダメージしか追わせなかった。
ソレイユと襲撃者はすぐさま剣を交える。
金属音と火花が飛び散る中、ソレイユが感じていたのは燃えさかる怒りだった。無抵抗な人間を平気で斬り捨てる邪道な輩が許せない。
力が溢れてくる。闘志が溢れ、心が震える。
「はぁああああああああ!」
ソレイユのファルシオンは早く、鋭く、力強くなっていく。彼女のソウルメイトが淡く光り輝き、力が増していく。襲撃者を圧倒し、押し返していく。
「ソレイユ殿! あなたがいてくれて、あなたと戦えて、誇りに思います!」
「このまま押し返しましょう!」
「……いえ。アナタ達は村人のみんなを救助に。ここは私一人で十分です!」
襲撃者の目的は村人のハズ。それならば、本当に危ないのはソレイユではなく、村人だ。
衛兵も気づいているのだろう。少し躊躇したが、衛兵は決意する。
「分かりました。ソレイユ殿。ご武運を!」
「ここはお任せします!」
衛兵は村人を救出するべく、この場を離脱する。
襲撃者は衛兵を追おうとするが。
「ここから先には行かない方がいいわ」
ソレイユは襲撃者を視線で威嚇する。襲撃者はまるで進路に危険物があるかのように、後ずさる。
ソレイユはただ淡々と告げる。
「ここに私がいる以上、通りたければ死ぬ気でかかってきなさい」
命を奪うのなら、命を奪われる覚悟をしなければならない。
人の命を踏みにじるのなら、悲惨な末路を覚悟しなければならない。
人の道を踏み外した者には、慈悲など与えられない事を覚悟しなければならない。
ソレイユは知っている。外道にかける言葉はないことを。
ソレイユは知っている。解決方法は力のみだと。
ソレイユは知っている。負ければ全てを失う。これこそが弱肉強食だと。
負けられない戦いがここにある。そのことをソレイユは頭でなく、本能で理解していた。
ソレイユの気迫に、襲撃者は更に一歩後退する。
戦いは膠着するかに思えたが。
「ここは俺に任せて先に行け」
襲来者の後ろから一人の男が現れた。
ジャックと同じく大柄な男でフルプレートに身を包み、バルディッシュを手にしていた。
バルディッシュ。
1.5Mほどの長さで、刃が三日月状の曲線を描く形をしていることから、『三日月斧』、『半月斧』とも呼ばれている。
先端が鋭く長く尖っていて、突きも可能な武器だ。
フルプレートの男から放たれるプレッシャーに、ソレイユは気を引き締める。
襲撃者はこの場を去って行く。村人を探し出し、殺す為に。
だが、ソレイユは止めにいけなかった。目の前にいる男から視線をそらせば、斬りつけられてしまうからだ。
フルプレートの男をなんとかしなければ村の被害も、ソレイユも生きてこの村から脱出できないだろう。
ソレイユはゆっくりと男と距離を詰める。円を描くようにお互い一定の距離をとり続ける。
「聞かないのか? なぜ、俺達がこんなことをしているのか?」
「必要ないわ。ゲスの考えなんて知りたくもない。それより、あなた達を倒してしまえば問題ないでしょ?」
「……正論だ。俺の名はジェス。名前くらい教えてくれてもいいだろ?」
「……ソレイユよ」
それ以降、ソレイユとジェスには会話はなかった。先に仕掛けてきたのはジェスだ。バルディッシュを大きく振りかぶる。
ソレイユは注意深くジェスの軌道を見極める。
バルディッシュはファルシオンに比べ、リーチも威力も高い。バルディッシュは突きもあるが、どちらにしても、その大きさや重量からして大ぶりになり、素早い連続攻撃は不可能だ。
ジェスの攻撃を空振りさせ、その隙をソレイユは狙おうとしたとき。
「っ!」
ソレイユはファルシオンでバルディッシュを受け止めようとするが、受け止めきれず、咄嗟に受け流す。
誤算……いや、予想外のことが起こった。
ジェスの攻撃が早すぎたのだ。まるで木の枝を振るうようにバルディッシュを振り抜いてみせた。
ファルシオンから伝わる衝撃の強さから、バルディッシュが軽量化されているわけではなく、逆にかなり重い一撃であった。武器を重くすることで威力をあげていることが分かった。
ただ、重くなれば当然、攻撃のスピードも遅くなるはず。
それなのに、攻撃の速さがまるで軽量系の武器であるダガーのように素早い。
――初段だけが早い攻撃?
それならば、アビリティの一種かもしれない。
アビリティとは武器を使用する事でたまった熟練度から解放される技である。
技には様々な種類があり、攻撃力や攻撃のスピードを上げたり、システムでプログラムされた連続技がある。
ソレイユは、ジェスの早い攻撃はアビリティの攻撃技と判断し、考えを切り替える。
一旦防御に徹し、ジェスの攻撃のタイミングとスピードを見極める。そこから、カウンター、もしくは攻撃の合間をぬって攻撃する。
ジェスのなぎ払いをソレイユはバックステップでかわす。早い攻撃でも備えていれば、かろうじてだが、避けられないことはない。
そうソレイユは思っていたのだが……。
――早い! 早すぎる!
なぎ払ったと思ったら、すぐにまた逆の方向になぎ払い返した。
次に、振り下ろし、振り上げ……どの一撃もタイムラグがほとんどない。まるで短剣系の通常攻撃を繰り返しているみたいだ。
バルディッシュのような長物をフルプレートを着たまま、あそこまで扱えるのは異常だ。あんな怪力、熊かゴリラ並だ。
重装備をまるで軽装備のように扱える力。
それこそが……。
――ジェスの潜在能力?
まさか、いきなり潜在能力を使ってくるとは思ってもいなかった。ジェスは切り札をいきなりもってきたのだ。
能力が分かっていたとしても、つけいる隙が見当たらなかった。ソレイユは完全に押されていた。
リーチが長く、破壊力のある攻撃に、フルプレートの鉄壁な防御。
ファルシオンを二、三度たたき切ってもダメージは望めないだろう。
しかし、ソレイユにも逆転の策はある。一撃でもクリーンヒットすれば、そこからソレイユの潜在能力、無限コンボを叩きつけることが出来る。
しかし、ソレイユには迷いがあった。
相手を確実にキルできるのか? それとも、耐えきってしまうのか?
ソレイユは二度、プレイヤーに無限コンボを叩きつけたが、そのどれもが失敗している。それ故、不安になるのだ。
しかし、ソレイユがジェスに勝つには、そこに勝機を見いだすしかない。
ソレイユは不利な状況でも瞳には闘志が宿り、ジェスの攻撃の隙を見逃さないよう神経を集中させる。
だが、ソレイユは気づかなかった。ソレイユの意識をジェスにむけることこそ、ジェスの狙いなのだと。
ソレイユはすぐにジェスの意図に気づく。ただし、それと引き換えに致命的な隙を相手に与えてしまうことになる。
ソレイユはうまくジェスの攻撃を回避していくが。
「キューィ! キューィ!」
「!」
ソレイユのサポキャラ、アスコットが警告を放ち、ソレイユの動きが止まってしまった。ジェスはその一瞬の隙を見逃さなかった。
「はぁ!」
ジェスはバルディッシュで真っ直ぐに突いてきた。ソレイユは無理矢理体を横に傾け、躱そうとするが……。
「っ!」
体勢を崩したところに足下に固いモノがぶつかり、ソレイユはその場に尻餅をついてしまう。
ソレイユの足を取られてしまったものとは……村人の死体だった。ソレイユは死体を見て、思わず硬直してしまった。
決定的な隙がうまれてしまう。
ジェスはバルディッシュを大きく振りかぶり、ソレイユの上半身を斬りつけた。
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