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エピローグ 二人のコキア
エピローグ 二人のコキア その一
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「……」
眠れない。
ジャックはベットで横になるが、眠気が全くおとずれなかった。
室内は暗闇に覆われ、SMTDとサーバから小さな光が点灯している。使用していないときは、スタンバイモードに入る為、必要最低限の電力のみで動いている状態だ。
暖房が効いているおかげで寒くはないが、この部屋は地下にある為、少し息苦しい気分になる。
ゲームの世界では、季節は春で広々としたフィールドを走り回っているので、現実では寒い冬で地下にいることをつい忘れてしまいそうになる。
ネルソンの言っていた弊害がここにも出ていることに、ジャックは苦笑してしまう。
いつもなら就寝の時間だが、今日は全く眠れる気がしなかった。
ジャックは眠るのをあきらめ、パソコンのある机に向かう。今日の戦いはネットでアップされているので、眠気がおとずれるまで見ようと思ったからだ。
今日の戦いは、まさに死闘だった。リザードマンの戦いは、ソレイユの四十連撃がなかったら、レベッカが助けに来てくれなかったら、釘打ちがうまくいかなかったら……何か一つでも欠けていたら、全滅していてもおかしくなかった。
それにソレイユのストイックな戦い方に勇気をもらった。そのおかげで奮闘できた。
ライザー達との戦いはまさに運がよかった。
ネルソンの裏切りがなければ、ジャックとレベッカはコリー達になぶり殺しにされていた。
最悪、レベッカだけでも逃がしたいと思っていたが、ジャックだけでは難しかっただろう。
ムサシとテツが来てくれなかったら、ソレイユはライザーに殺されていたかもしれない。
仲間の大切さ、一人で戦うストイックさを学んだ一日だった。
ジャックは動画サイトをのぞいてみると、自分達の戦いの動画がアップされていた。こうして、改めて自分の戦いを見るのは少しテレくさいと思ったが、すぐに気分がブルーになる。
複数ある動画の中には、ジャックとコリーが戦うシーンがあった。まだ序盤なので、コリーがジャックを圧倒しているが、最後は……。
この動画を見て、視聴者はどう思うのだろうか? ナイスファイトと思ってくれるのか? それとも、人殺しと蔑まれるのか?
そんなはずはない。ジャックは誰も殺していないのだから。
それでも、瀕死のプレイヤーを殺すために、ジャックは何度も何度もウォー・ハンマーを振り下ろすシーンは残酷ではなかっただろうか? そのシーンをリリアンに見られて、軽蔑されるのが怖い……。
ジャックは頭をぶんぶんとふる。
――違う。リリアンを理由に使うな。本当は怖いんだ。
ジャックは自分の両手を見つめる。コリーを殺したとき、手は血まみれになっていた。その感触が、色が、匂いが忘れられない。
目に見える自分の手はごつごつとした手で、血も、汚れも、匂いもない。しかし、目には見えない魂が穢れたような気がする。
ジャックは歯を食いしばり、思い出さないようにしようと、別の動画をクリックする。
クリックした動画はリザードマンとの戦いの動画だ。これなら、人殺しのシーンはない。それに、動画にはコメントが寄せられているので、みんなからどう思われていたのか、知りたかった。
驚くべきことに、コメントは百件以上あった。その大半がソレイユの四十連撃に対してのコメントだった。四十連撃については、賛否両論だ。
すごすぎる、格好いい、綺麗といった好評価と、チート、ずるい、公平でないといった不満の声に分かれていた。それを議論するコメントが長々と書き綴られている。
ジャックについては、無鉄砲だの、チャレンジャーだの、勇者だの、好き放題書かれていた。
ソレイユほどでもないが、感想をくれた視聴者の意見は、ジャックにとって励みになり、嬉しかった。
ボクシングをしていたときも、拍手や励ましの声はもらったが、規模が小さかったため、ネットで感想を書き込まれることはなかった。
何よりも嬉しかったのは、レベッカと共闘した時のコメントだ。二人のコンビネーションを賞賛する声が多く、その中でベストパートナーだ、というコメントがあった。
レベッカ。
結局、彼女は一体何者なのだろう? ジャックが感じたリリアンの面影は勘違いなのだろうか? 赤の他人だろうか?
もしかして、もしかすると……。
ジャックは頭を振り、そんな都合のいい話はないなと無理やり思い込む。もし、レベッカがリリアンなら、どうして、違うと言い張るのか?
なにはともあれ、視聴者の生の声が少しこそばゆいとジャックは感じていた。そんな気分も、ジャックVSコリーの動画の欄が目に入ったとき、一気に冷めていく。
ちゃんと最後まで見るべきか……。
それは自分の罪を忘れるな、そう言われている気がして、目をそらしてはいけないとジャックは感じていた。しかし、結局はアクセスできなかった。
境界線を越えたはずなのに、一人になるとその決意は、風船がしぼむように小さくなってしまった。
ジャックはため息をつき、もう一度、ベットに戻ろうとしたとき、新規のメールが表示されていることに気づいた。
このメールアドレスはプライベート用で、親しか登録していない。ネトゲで使用していたメールは現在、放置していた。
一応、何かあったときの連絡用のアドレスなのだが、一体何が起こったのか? もしかして、親にコリーを殺すシーンを見られて、お叱りのメールだろうか?
ジャックは再度ため息をつき、メールを開く。
ジャックは息が止まりそうになった。差出人がリリアンになっていたのだ。
なぜ、リリアンが? どこでこのメールアドレスを知ったのか?
ジャックは過去に一度、リリアンにこのアドレスを教えていたことを思い出した。理由は何かくだらない理由だったと思うが、とにかく、教えていたことを思い出したのだ。
あれほどリリアンに会いたくて連絡を待っていたのに、メールを開くのに三分ほど時間を要した。
勇気を出して開いてみると、『チャットで話したい』というメッセージと、アドレスが書かれていた。
どうして、今頃になってメールが来たのか? 話したいこととは何なのか?
不安がジャックの胸の中にうずまくが、それでも、リリアンと接触できる絶好の機会だ。絶対に逃すことは出来ない。
ページを開くと、ログイン画面になる。ジャックは以前、リリアンとチャットで話したときに利用したことがあるのを思い出し、ユーザ名とパスワードを入力する。
ユーザ名は二人の頭文字、パスワードは『コキア』を入力する。
ユーザ名とパスワードが認証され、チャットルームに入室する。書き込みはまだない。しかし、入室者はリリアンの名前が表示されていた。
入室者は二人。ジャックの名前も表示されている。リリアンにも伝わっているだろう、ジャックが入室したことに。
ジャックは緊張で落ち着かない。
パソコン越しにずっと会いたかったリリアンがいるのだ。会えなくても、言葉を届けることができる。最初の言葉は何を書くべきか。
元気だった? 会いたかった? どうして連絡をくれたの?
いろんな単語がジャックの頭を駆け巡る。ジャックはゆっくりと文字を入力する。
『お待たせ』
『待たせないでよ、バカ』
ジャックはこのやりとりに懐かしいものを感じていた。
最初は、
『待った?』
『今来たところ』
だったのだが、ジャックが女の子から拗ねた感じで、バカって言われたいとリクエストした結果、このやりとりになったのだ。
ジャックのおバカな性癖に付き合ってくれるリリアンが愛おしく感じる。
たった一言のやり取りなのに、ジャックは胸がいっぱいになる。
言いたいことは沢山あったのに、この瞬間を想像していろいろと考えてきたのに、湧き上がるものは胸の中を満たすあたたかいものだった。
ジャックが何か文字を入力しようとしたとき、リリアンのほうからメッセージが送られてきた。
『私の事、追いかけてきたの? ジャックがカシアスなんでしょ?』
眠れない。
ジャックはベットで横になるが、眠気が全くおとずれなかった。
室内は暗闇に覆われ、SMTDとサーバから小さな光が点灯している。使用していないときは、スタンバイモードに入る為、必要最低限の電力のみで動いている状態だ。
暖房が効いているおかげで寒くはないが、この部屋は地下にある為、少し息苦しい気分になる。
ゲームの世界では、季節は春で広々としたフィールドを走り回っているので、現実では寒い冬で地下にいることをつい忘れてしまいそうになる。
ネルソンの言っていた弊害がここにも出ていることに、ジャックは苦笑してしまう。
いつもなら就寝の時間だが、今日は全く眠れる気がしなかった。
ジャックは眠るのをあきらめ、パソコンのある机に向かう。今日の戦いはネットでアップされているので、眠気がおとずれるまで見ようと思ったからだ。
今日の戦いは、まさに死闘だった。リザードマンの戦いは、ソレイユの四十連撃がなかったら、レベッカが助けに来てくれなかったら、釘打ちがうまくいかなかったら……何か一つでも欠けていたら、全滅していてもおかしくなかった。
それにソレイユのストイックな戦い方に勇気をもらった。そのおかげで奮闘できた。
ライザー達との戦いはまさに運がよかった。
ネルソンの裏切りがなければ、ジャックとレベッカはコリー達になぶり殺しにされていた。
最悪、レベッカだけでも逃がしたいと思っていたが、ジャックだけでは難しかっただろう。
ムサシとテツが来てくれなかったら、ソレイユはライザーに殺されていたかもしれない。
仲間の大切さ、一人で戦うストイックさを学んだ一日だった。
ジャックは動画サイトをのぞいてみると、自分達の戦いの動画がアップされていた。こうして、改めて自分の戦いを見るのは少しテレくさいと思ったが、すぐに気分がブルーになる。
複数ある動画の中には、ジャックとコリーが戦うシーンがあった。まだ序盤なので、コリーがジャックを圧倒しているが、最後は……。
この動画を見て、視聴者はどう思うのだろうか? ナイスファイトと思ってくれるのか? それとも、人殺しと蔑まれるのか?
そんなはずはない。ジャックは誰も殺していないのだから。
それでも、瀕死のプレイヤーを殺すために、ジャックは何度も何度もウォー・ハンマーを振り下ろすシーンは残酷ではなかっただろうか? そのシーンをリリアンに見られて、軽蔑されるのが怖い……。
ジャックは頭をぶんぶんとふる。
――違う。リリアンを理由に使うな。本当は怖いんだ。
ジャックは自分の両手を見つめる。コリーを殺したとき、手は血まみれになっていた。その感触が、色が、匂いが忘れられない。
目に見える自分の手はごつごつとした手で、血も、汚れも、匂いもない。しかし、目には見えない魂が穢れたような気がする。
ジャックは歯を食いしばり、思い出さないようにしようと、別の動画をクリックする。
クリックした動画はリザードマンとの戦いの動画だ。これなら、人殺しのシーンはない。それに、動画にはコメントが寄せられているので、みんなからどう思われていたのか、知りたかった。
驚くべきことに、コメントは百件以上あった。その大半がソレイユの四十連撃に対してのコメントだった。四十連撃については、賛否両論だ。
すごすぎる、格好いい、綺麗といった好評価と、チート、ずるい、公平でないといった不満の声に分かれていた。それを議論するコメントが長々と書き綴られている。
ジャックについては、無鉄砲だの、チャレンジャーだの、勇者だの、好き放題書かれていた。
ソレイユほどでもないが、感想をくれた視聴者の意見は、ジャックにとって励みになり、嬉しかった。
ボクシングをしていたときも、拍手や励ましの声はもらったが、規模が小さかったため、ネットで感想を書き込まれることはなかった。
何よりも嬉しかったのは、レベッカと共闘した時のコメントだ。二人のコンビネーションを賞賛する声が多く、その中でベストパートナーだ、というコメントがあった。
レベッカ。
結局、彼女は一体何者なのだろう? ジャックが感じたリリアンの面影は勘違いなのだろうか? 赤の他人だろうか?
もしかして、もしかすると……。
ジャックは頭を振り、そんな都合のいい話はないなと無理やり思い込む。もし、レベッカがリリアンなら、どうして、違うと言い張るのか?
なにはともあれ、視聴者の生の声が少しこそばゆいとジャックは感じていた。そんな気分も、ジャックVSコリーの動画の欄が目に入ったとき、一気に冷めていく。
ちゃんと最後まで見るべきか……。
それは自分の罪を忘れるな、そう言われている気がして、目をそらしてはいけないとジャックは感じていた。しかし、結局はアクセスできなかった。
境界線を越えたはずなのに、一人になるとその決意は、風船がしぼむように小さくなってしまった。
ジャックはため息をつき、もう一度、ベットに戻ろうとしたとき、新規のメールが表示されていることに気づいた。
このメールアドレスはプライベート用で、親しか登録していない。ネトゲで使用していたメールは現在、放置していた。
一応、何かあったときの連絡用のアドレスなのだが、一体何が起こったのか? もしかして、親にコリーを殺すシーンを見られて、お叱りのメールだろうか?
ジャックは再度ため息をつき、メールを開く。
ジャックは息が止まりそうになった。差出人がリリアンになっていたのだ。
なぜ、リリアンが? どこでこのメールアドレスを知ったのか?
ジャックは過去に一度、リリアンにこのアドレスを教えていたことを思い出した。理由は何かくだらない理由だったと思うが、とにかく、教えていたことを思い出したのだ。
あれほどリリアンに会いたくて連絡を待っていたのに、メールを開くのに三分ほど時間を要した。
勇気を出して開いてみると、『チャットで話したい』というメッセージと、アドレスが書かれていた。
どうして、今頃になってメールが来たのか? 話したいこととは何なのか?
不安がジャックの胸の中にうずまくが、それでも、リリアンと接触できる絶好の機会だ。絶対に逃すことは出来ない。
ページを開くと、ログイン画面になる。ジャックは以前、リリアンとチャットで話したときに利用したことがあるのを思い出し、ユーザ名とパスワードを入力する。
ユーザ名は二人の頭文字、パスワードは『コキア』を入力する。
ユーザ名とパスワードが認証され、チャットルームに入室する。書き込みはまだない。しかし、入室者はリリアンの名前が表示されていた。
入室者は二人。ジャックの名前も表示されている。リリアンにも伝わっているだろう、ジャックが入室したことに。
ジャックは緊張で落ち着かない。
パソコン越しにずっと会いたかったリリアンがいるのだ。会えなくても、言葉を届けることができる。最初の言葉は何を書くべきか。
元気だった? 会いたかった? どうして連絡をくれたの?
いろんな単語がジャックの頭を駆け巡る。ジャックはゆっくりと文字を入力する。
『お待たせ』
『待たせないでよ、バカ』
ジャックはこのやりとりに懐かしいものを感じていた。
最初は、
『待った?』
『今来たところ』
だったのだが、ジャックが女の子から拗ねた感じで、バカって言われたいとリクエストした結果、このやりとりになったのだ。
ジャックのおバカな性癖に付き合ってくれるリリアンが愛おしく感じる。
たった一言のやり取りなのに、ジャックは胸がいっぱいになる。
言いたいことは沢山あったのに、この瞬間を想像していろいろと考えてきたのに、湧き上がるものは胸の中を満たすあたたかいものだった。
ジャックが何か文字を入力しようとしたとき、リリアンのほうからメッセージが送られてきた。
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