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第四章 運命の導き手

四話 運命の導き手 その四

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 ジャックは地図とコンパスを見比べ、アミルキシアの森であることを確信しつつ、リリアンに地図のことで尋ねる。

「ねえ、リリアン。マップに書き込みってできるの?」
「できるよ。マップを指でなぞると書き込めるし、その土地の知識があれば、勝手にマッピングされるよ」
「知識?」

 リリアンが言うには、自動的にマッピングするには、その地域の知識、要は土地の名前を知る必要がある。森や山に入っても、名前が分からないと、その地域の名前が出てこないらしい。
 事前にNPCや案内の看板にその地域の名前が出てくるので、その場所と名前を照らしあわせて一致すれば、マップに書き込まれるとのこと。

 簡単に言えば、目の前の森はアミルキシアの森であることをNPCや看板から情報を得た状態で森に入れば、地図に『アルミキシアの森』と書き込まれる。
 ジャック達はそのまま、街道を通ってアミルキシアの森へと足を進める。
 草原と違い、青々とした高い木が周りを覆っている。人の手入れのない自然の光景に、ジャックは感動していた。

 都会育ちのジャックにとって、人工的でない自然は魅力的に見えるのだ。この喜びを分かち合いたいのだが、ここにいるメンバーが果たしてジャックと共感できるかが疑問だ。
 乗馬経験のあるソレイユは慣れているかもしれないし、ロイドは意外と田舎育ちなのかもしれない。それか、実家が田舎か。
 エリンは虫が出そうでイヤだなって思っている可能性が高い。地元民のロビーは論外だろう。

 さて、ここからが本番だ。
 ジャックは気を引き締め、今後の方針を確認する。

「みんな、分かってるよね? 今回は採取が目的。森の主に出会っても、挨拶なんてしないでね」
「了解したわ」
「OK!」
「私が森の主を倒して、王座に就くのは~?」
「却下だから!」

 エリンの下剋上に、ジャックは悲鳴を上げる。森の主にちょっかいを出して、全滅エンドなんて洒落になっていない。
 化け物を相手にするのはノーサンキューだ。
 エリンはぺろっと舌を出して笑っているが、冗談かどうかさっぱり分からない。ジャックは呆れつつ、話を続ける。

「真面目な話、森の対策って誰か知ってる?」
「森の対策?」
「ほら、森って同じような景色だらけって聞くし、目的のものを見つけても、引き返すとき、迷わず無事に森から出て行けるのかなって」

 ジャックの不安はもっともだろう。
 現代のように道は舗装されていないだろうし、携帯電話もネットもない。ググることも出来ないし、電話一本で救助隊が助けに来るわけもない。
 しかも、森の住人である獣が、木の陰、茂みからジャック達に襲いかかる可能性が高い。
 ナメてかかると痛い目を見るだろう。

「ジャックさん。今更ですよ? フツウは森に入る前に、念入りに調査するのがセオリーですから」
「ですよね~。どうしよう? 通った道にパンくずとか落とした方がいいのかな? それとも、ロープを使って命綱を用意した方がいい?」
「ハハハッ、ジャックさん。相変わらず笑えないジョークですね。魔女にかまどで煮られたいんですか? それと、ロープの案は獣が切り取ってしまう可能性を考えなかったんですかー?」

 エリンの皮肉に、ジャックはハハハっと笑う。

「エリン、知らないの? ヘンゼルが機転を利かせたおかげで森から無事に抜け出せたじゃない。つまり、縁起がいいって事さ。それに獣がロープなんて切ると思う? ありえないでしょ?」
「……ジャック君。ヘンゼルじゃなくてグレーテルがおばあさんをかまどに突き落としたの。正当防衛とはいえ、縁起なんてよくないでしょ? それに、結局二人は何日も迷ってやっと家に帰れたの。パンのくずを落としても無意味よ。ロープに関しては、獣が切り取るらしいわ。キミの相棒リリアンに聞いてみたら?」

 ジャックはリリアンに視線を送り、質問する。

「ねえ、リリアン。そんなこと、ありえるの?」
「ありえるよ。自分達の縄張りに何か異物があった場合、排除するようになっているみたい。ギルドに置いてある本に書いてあったじゃない」
「ダメじゃん!」

 ジャックは頭を抱えてしまった。ゲームではそんなことありえないのだが、ここは現実のような世界だ。ありとあらゆる可能性を考えなければならないようだ。
 ジャックは気を取り直し、思いついたアイデアをぶつけてみる。

「それなら、道や木に目印をつけるのは? これならいけるよね?」
「ジャック、ここってゲームの世界だよね? オブジェクトに傷つけること、できるのかな?」
「できる!……よね、リリアン先生」

 ロイドの疑問にジャックは胸を張って答えたが……すぐにリリアンに尋ねてみた。

「できるよ」
「よし!」
「でも、ジャックさん。その目印を追って、プレイヤーが襲いかかってきたら、どうするつもりなんですか~?」

 ジャックは天を仰いだ。確かにエリンの指摘通りだ。
 これでは、プレイヤーに自分達の居場所を教え、奇襲してくださいと言っているようなものだ。
 ソウル杯はプレイヤー同士がしのぎを削り、生き残りを賭けたバトルロイヤルだ。
 地形の利を利用しない手はないだろう。

「ど、どうしよう~」

 ジャックは完全にお手上げだった。人助けをしたい気持ちがはやって、全く対策をおこたっていた。これでは、採取以前の問題だ。
 ジャックは考えた。
 ここは現実に近いゲームの世界。それなら、きっとこの世界ならではの方法があるはず。
 何かいい案はないか? ゲームでは森に入ったとき、どうしていたのか? どうやって、自分の位置を把握できたのか?
 ジャックはあることに気づいた。

「リリアン! 地図だけじゃなくて、森でもマッピングできるの? そんなシステムある?」
「あるよ。自分の通った道を自動でマッピングできるの」
「ほらほら、聞いたエリン! 所詮、ここはゲームの世界! ユーザに優しい世界で出来ているんだよ! どうだ! まいったか!」

 今にも踊りだしそうなジャックにエリンは半目で睨みつける。
 ジャックが通った道がマッピングされるのなら、現在どこにいるのか? 迷っても最悪、マッピングした道を逆算し、出口までのルートを見つけることが出来る。

「別にジャックさんが偉いわけではないですよねー」
「ねえ、ジャック。喜んでいるところ悪いんだけど、マッピングされるだけで、現在地は分からないよ」
「どういうこと?」

 リリアンはマッピングのシステムについて話し出す。

「新しい場所を歩くとマッピングされるけど、一度通った場所は何もされないの。しかも、居場所をあらわすマークなんてないから。だから、マッピングされた場所を歩き続けると、どこにいるのか分からなくなっちゃうよ」
「運営~~~!!!!」

 ジャックは天に向かって叫んだ。
 自分の位置を常に確認しながら進めば問題ないが、獣に襲われた時、果たして自分の位置を見失う事なく勝利できるのか? もし、敵から逃げることになった場合、逃亡しながら自分の位置を常に把握できるか自信がない。
 本格的に不味いとジャックが焦り出した時、今まで黙っていたソレイユが口を挟む。

「大丈夫よ、ジャック君。何も問題ないわ」
「どうして、そんなことが言えるの、ソレイユ? もしかして、いい案があるとか?」
「あるわよ。ガイドに案内してもらえばいいだけのこと」
「ガイド? そんな人、どこに……」

 ジャックはソレイユを問い詰めようとして、言葉が止まる。ソレイユの傍に、ロビーが胸を張って親指を立てている。

「えっ? この子が? ウソでしょ」

 ロビーの身長から、大体小学生の低学年だと思っているジャックは、自分達の命をこんな小さい子に預けて大丈夫なのかと不安だった。


「……ぐすっ」
「あ~あ! ジャックさんが子供を泣かした!」

 ここぞとばかりにジャックを指さすエリンに、ジャックは慌てて弁解する。

「ちょっと! その言い方は悪意ありまくりでしょ! 僕はただ、労働基準法を重視しているだけで……」
「じー」

 ロビーの無表情な視線に耐え切れなくなったのか、ジャックは空を仰いだ。

「分かったよ、分かりましたよ! それでいこう! 元々、ロビーの依頼でここに来たわけだし、それくらい手伝ってもらっても罰は当たらないでしょ! 僕が彼をエスコートしてあげるから!」

 こうして、ロビーの案内の元、アミルキシアの森へと歩き出すのであった。
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