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第四章 運命の導き手

四話 運命の導き手 その一

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 ジャック達は一度クロスロードに戻り、旅支度を整えていた。
 ジャックとテツはギルドで受けていたクエストの清算、ムサシは次の目的地の情報収取、ソレイユとエリン、ロイドは買い物にお店を回っていた。

「毎度あり!」

 店の亭主の明るい声を耳にしながら、食材のお店を出たソレイユとエリン、ロイドは次の買い物先へと向かう。今日もアレンバシルの空は青く澄み渡り、雲一つない快晴である。
 クロスロードの港町は、今日も活気にあふれ、活き活きとした人々の生活がそこにあった。

 ソレイユ達は次の目的地、カネリアに向けて旅支度を進めていた。ソレイユは食材を、エリンは裁縫に必要な布を、ロイドは荷物持ちとしていろいろな店をまわっている。
 ソレイユは寄り道せず、目的の店だけ足を運んでいる。

「ソレイユ、結構な量を買い込んだけど、こんなに必要なの?」

 ロイドの問いに、ソレイユは肩をすくめ、理由を話す。

「……チームには大食いが何人もいるじゃない。餞別せんべつにお腹いっぱいのご馳走ちそうを作ってあげようと思って」
「餞別?」

 ソレイユはそれ以上何も答えず、目的の店へと歩き出す。
 普段と違う雰囲気にロイドは心配になるが、ソレイユは何も語ろうとはしなかった。二人の気まずい空気にエリンは黙って事の顛末てんまつを見守っている。
 周りの喧騒けんそうだけが、三人の間に流れていく。

 三人の沈黙を破ったのは、意外な人物だった。
 ソレイユは、自分のズボンが誰かに引っ張られるのを感じた。不思議に思い、その引っ張られる方向に視線を向けると、一人の男の子がただずんでいる。

 見たことのない男の子に、ソレイユは誰なのか、どうして、自分のズボンを引っ張るのか考えを巡らせていた。
 お互い視線は合うが、何も話さない。二人の奇妙なアイコンタクトが続いている。

「ねえ、キミ。どうかしたの?」

 見かねたロイドが、男の子と同じ視線になるよう、しゃがみ込み、心配しなくていいよと言いたげに微笑む。
 男の子はロイドの笑みに、気を許したのか、ゆっくりと口を開いた。

「お願い、助けて……」

 男の子の助けを求めるこの一声が、ここにいるソレイユ達だけでなく、ジャック達も巻き込んで、生きるか死ぬかの死闘へと導かれることを、まだ誰も予測できずにいた。



 ジャックはクエストの報酬で得たお金を一部、ギルドに預けることにした。
 この世界には銀行がない。なので、持ち歩きが基本となるのだが、全額を持ち歩くのはリスクがある。
 盗まれる可能性があるし、何より制限重量がある限り、持てる数には限度がある。

 制限重量とはその名の通り、所持できる量を指す。武器や道具にはそれぞれ重さが設定されていて、ソウルメイトには持ち運びできる重量が設定されている。
 この重量を超えると、動作が鈍くなっていく。重さに応じて全体の動きが遅くなり、重量が3倍になると動けなくなる。
 なので、必要のないものは手放すことになるが、今は必要なくても、別の機会で必要となる場合がある。

 そこで用意されたのが、ギルドの預かり所だ。ギルドの預かり所にはお金やアイテムを預けることができる。預けたお金やアイテムは同じギルド内で取り出しが可能となる。
 ただ、ギルドのない街では預けることも取り出すこともできない。

 このシステムで、お金はともかく、持ち物が遠く離れたギルドで取り出せるのは如何様いかようなものかとツッコミを入れたい思っている者がいるとは思うが、ゲームを円滑に進めるための救済処置だと思っていただきたい。
 それはさておき、ジャックはクエストで稼いだ自分のお金で串焼きを購入し、食べ歩きしていた。

「ジャック……ソレイユのご飯食べただろ? それはデザートか何かか?」
「だって、しょうがないじゃん。これから先は大陸内部に入っていくんでしょ? 海の幸を食べる機会はずっと少なくなっちゃうよ。今のうちに食べておかないと。それに、気に入っちゃったんだよね、この味。テツも食べる?」

 ジャックの差し出した串を、テツはしかめっ面で睨んでいたが、渋々串を受け取る。

「……サンキュ」
「それ、口止め料ね。クエストの報酬から必要経費として使ったから」

 クエストの報酬は、報酬を受け取った後、基本全員に同じ額を分配する。それをジャックはちょろまかしたのだ。その口止め料が串一本であることに、テツは苦笑してしまう。

「ちゃっかりしてやがる」

 テツはジャックから串を受け取り、串にかぶりついた。ジャックはもごもごと口を動かしながら、街を見渡す。
 この賑やかで騒がしい街ともおさらばだ。もう少し堪能しておきたかったが、期限がある為、のんびりしていられない。
 この世界が大会の為だけに作られたのはつくづくもったいないとジャックは思う。
 大会が終わったとき、ここにいる人達は、世界はどうなってしまうのだろうか? リセットされてしまうのか? それとも、何らかの形で残されるのか?

 複雑な思いを胸に、ジャックは串焼きを食べ終わり、ゴミ箱に串を投げ捨てた。



 ジャックとテツは中央広間に着くと、ムサシがフリメステアの像にもたれながら、串焼きを頬張っていた。

「ムサシ。さっきソレイユのご飯、食べたの忘れちゃった?」
「自分の身体を見たら分かるだろ? あれだけじゃ物足りない。あれの四倍はほしい」

 ムサシの意見はジャックも同じ考えだ。ソレイユはバランスを考えてご飯を作ってくれているのだろうが、食べ盛りの男共には物足りない。
 如何いかにして、ご飯の量を増やしてもらうよう交渉するか……。
 組合でも作ろうかとジャックは考えていると、肝心のソレイユとエリン、ロイドの姿が見えない。

「ソレイユ達はまだみたいだね」
「女の買い物は長いからな。日が暮れなきゃいいが」

 テツはやれやれと言いたげに像にもたれかかる。女性の買い物が長いかどうかはともかく、ソレイユは合理的だから、そんなに時間をかけないと思っていたジャックはテツの意見には同意せず、周りを見渡す。
 相も変わらず、町の人々はその日の糧を稼ぐために、あくせくと働いている。そんな喧騒けんそうに耳を傾けながら、ジャックは再度考えていた。

 これがNPCのプログラムされた動きなのだろうか? まるで人間そのものだ。それがすごく怖い。人は、いやアノア研究所は何を作り上げようとしているのか?
 人と機械の区別がつかなくなったとき、どんな世界がやってくるのか? すぐ近くまでそんな未来が近づいてるのに、まったく想像できない。

「……ジャック、おい、ジャック!」

 テツの声にジャックは我に返る。どうやら、ソレイユ達が来たみたいだ。ソレイユとエリン、ロイドともう一人の少年……。

 ――誰?

 この場にいるジャック、テツ、ムサシはそう思っただろう。
 背の高さはソレイユの腰くらいで、ネズミ色のブラウスと青の長ズボン、そして茶色チョッキのような服を着ている。
 この街の地元の子だろうか? ソレイユの足にぎゅっと抱きついている。

「ねえ、ソレイユ。その子、新しい入団者? 体は子供だけど頭脳は大人で達人級の強さ……ってオチ?」
「ジャックの想像通りよ」
「えっ? まさか、二つともあってるの?」
「……地元の子供よ。あなた、この子が戦えるとでも思っているの?」
「ですよね~」

 ソレイユの凍てつく睨みに、ジャックは誤魔化すように笑う。

 ――少年や幼女姿でもチート級の強さを誇る相手はお約束じゃない。

 そうソレイユに言ってやりたかったが、ジャックは黙っていることにした。

「私、ソレイユの子供かと思った」
「それ、絶対にソレイユに言わないでよ、リリアン。僕が殺される。それと、センスがおっさんくさい」
「なにを~!」

 リリアンはポカポカとジャックの頭を叩くが、痛くもないのでジャックは無視することにした。

「それで? そのガキが何の用だ? 悪いがガキの遊びに付き合う気はねえぞ」

 テツの言葉にソレイユは少し困った顔をしている。何か厄介ごとに巻き込まれたことはソレイユの表情を見てわかった。ロイドが二人の間に割って入る。

「まあまあ、テツ、落ち着いて。この子は依頼者だよ」
「依頼者?」
「そう。アミルキシアの森に咲いている薬草の採取依頼さ」

 ゲームでは、ギルドといった特定の場所や人物以外にも、街の住人やモンスターからもクエストを受注することが出来る。
 だから、この少年からクエストを依頼されるのは別にめずらしいことではない。
 ただ、テツが気になっているのは……。

「それで、報酬は?」
「あなた、子供に何を期待しているの? バカなの?」

 ソレイユの突き刺さる視線に、テツは睨み返す。

「俺はただ働きするつもりはねえ。どうしてもって言うんなら、ギルドに依頼しな。ちゃんとしたプロが責任を持ってガキの依頼を聞いてくれるさ」
「……」

 ソレイユは不満そうな顔をしている。このままだと、喧嘩になると思ったムサシは腰を落とし、膝を突いて少年と同じ視線で語りかけた。

「よう、少年。ちょっといいか。二度手間で悪いんだが、話を聞かせてくれるか?」

 ムサシの行動に、テツは舌打ちし、ソレイユは怒りを抑えた。
 男の子は不安そうにソレイユを見つめるが、ソレイユに優しく頭を撫でられ、目を細め、気持ちよさそうな顔をしている。
 しばらくして、ぼそぼそと話し出した。
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