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第二部 運命の日
プロローグ 旅立ち
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「ジャック。この状況、どう思う?」
テツの問いにジャックは肩をすくめる。
「見たまんまじゃない? 採取スキルは上がっているんだけど、オオカミ自体少なくなっているから、結局は少ないんだよね。ピークは過ぎちゃったっていうか」
『ソウル杯』が開催されてから一週間が過ぎた。
最初は手こずったオオカミも、今では楽勝で倒せるようになったが、ある問題が起きていた。
オオカミ一体から採取できる数が増えているのに、昨日やおとといに比べると、素材の総量が減っているのだ。
考えられる原因は……。
「やっぱり、そうか。オオカミをあまり見かけなくなったからな。そろそろ潮時かもしれねえ。おい、みんな! きいてくれ!」
テツはパンパンと手を叩き、みんなの注目を集める。
「俺達は今までクロスロードを拠点としてきた。だが、ここらに生息しているオオカミは減っている。俺達プレイヤーが狩り続けたからだ。だから、クロスロードから離れる」
普通のRPGなら、雑魚は時間がたてば再度出現(POP)して無限に湧いてくるが、この世界はそうではない。敵を狩り続けば、生態系に影響を与えるようだ。
そもそもここいらに生息するオオカミは森林地帯や山岳地帯に縄張りがあるのだが、人間が開拓していったせいで緑が減り、オオカミの獲物も少なくなった。
それ故、オオカミは人里に出てきて、家畜を襲うようになった。
そこでギルドがオオカミを狩るクエストを発行したわけだ。
プレイヤーや冒険者がオオカミを狩り続けた為、家畜を襲われる心配はなくなったが、今度はジャック達が獲物の心配をするハメになった。
敵がいないと、採取できなくなるし、武器を使用しないので武器の熟練度がアップしない。
そして、ギルドもオオカミに関するクエストは引っ込めるだろう。そうなるとますます、収入源が減ってしまう。
狡兎死して走狗烹らる、だ。
――現実に似すぎているのも問題だな。
そうテツは思いつつ、テツは話を進める。
「おいおい、ここを離れてどうするつもりだ? どこにいくんだ?」
不安そうに尋ねるムサシに、テツは堂々と言い放つ。
「クロスロードの南にある街、カネリアだ。そこで馬を手に入れる」
この広大な大陸、アレンバシルを移動する場合、歩きで移動していたらいくら時間があっても足りない。移動だけで一年は過ぎてしまうだろう。ゲームのように、瞬間移動することももちろんできない。
それならば、速く移動できる方法が必要になってくる。それは何か? テツの言っていた馬である。
馬は本来、移動手段として使われていた。車がないこの世界では、馬は移動手段として欠かせないだろう。
クロスロードでは馬は取引されていない。だから、馬が買える場所に移動しなければならない。
馬を購入できる場所で、クロスロードから一番近い街がカネリアになる。
「馬か……僕、初めて乗るよ! みんなは?」
ジャックは興奮しながらみんなに話しかける。
馬はゲームでもメジャーな乗り物だ。乗り方はゲームによって独特で、扱うのにコツがいる。
ジャックはゲームの馬に乗ったことはあったが、本物に乗ったことがないので、楽しみにしていた。
もちろん、この世界もゲームだが、きっと現実とほぼ同じ乗り心地なのだろう。
車や飛行機がメジャーな移動手段となった世の中で、きっと、この中で馬に乗ったことのある者は誰もいないはず。
ジャックは仲間の誰よりも早く、馬を手懐けよう、密かに闘志を燃やしていたが。
「私は何度かあるけど」
「自分もだ」
「あ、あっれ~? もしかしてみんな、セレブなの? 軽井沢に別荘持ってるの?」
ジャックは少しひがんだように馬に乗ったことのあると発言したソレイユ、ムサシを睨む。ジャックの問いに答えたのはテツだった。
「いや、そんなわけねえだろ。北海道に住んでいたら、遠足か何かで乗ってるだけかもな。それか酪農の大学通っているとか。よく知らんけど」
何の根拠もない、偏見に満ちた答えに、ジャックは呆れながらも安心していた。きっとそれに似たような理由に違いないと。
セレブがそうそう、そこいらに転がっているとは思えないのだ。
「いえ、私は北海道に住んでいないわ。でも、軽井沢にも他の場所にも別荘はあるし、学校にも馬はいるでしょ?」
「「このブルジョワが!」」
ジャックとテツの声がハモる。世の中、やはり無常だ。どこに馬のいる学校があるのか、ツッコみたかった。
「まあまあ、いいじゃないか。自分は家で馬を飼っている。乗り方が分からなければ聞いてくれ」
「飼ってるってすごいね。ムサシ、馬の乗り方、教えてくれる?」
ムサシとロイドのやりとりに、ジャックとテツは苦笑するしかなかった。
「ねえ、テツ。僕達の感覚っておかしいのかな? フツウ、馬に乗る事なんてないよね?」
「……別におかしくねえよ。所詮、俺達は庶民って事だろ?」
こうしてみると、ここにいる全員が全国各地から集まったプレイヤーだと思い知らされる。育ってきた環境、考え方、常識等がジャックの予測できないことばかりで、新鮮であった。
ただ、楽しんでばかりはいられない。この世界は少しでも気を抜けば、死に繋がる。その為にも、仲間との連携は不可欠だ。
例え、このゲームの勝者は一人でも、仲良くやっていけるはずだ。ジャックはそう信じていた。
もっとみんなと会話していけば……喧嘩するかもしれないけど、それでも、このメンバーとなら楽しくずっとやっていける。
特にソレイユとは仲良くやっていきたいとジャックは考えていた。
ソレイユは唯、リリアンに繋がる手がかりだ。ソレイユは独立心が強く、人に頼ろうとしない。
せめて、手がかりが見つけるまで、ソレイユから離れたくない。
ジャックはソレイユを利用しているみたいで気が引けたが、それでも、彼女にすがるしかない事に葛藤していた。
ジャックは拳に力をこめる。
――大丈夫、どんな敵でも、プレイヤーでも絶対に負けない。リリアンに出会うまでは。
そう、ジャックは誓うのであった。
「おーい、二人とも! 行先は決まったんだ。クロスロードで準備をしようぜ! それにせっかくチームを立ち上げたんだ。全世界に自分達のチーム、『トライアンフ』がとどろくよう、頑張ろうぜ!」
ムサシが口にしたチーム名『トライアンフ』はみんなで考えた名前だ。意味は『勝利、凱旋』を意味している。
単純だが、チームで勝ち抜く願いを込めて、ギルド名にした。
ジャック達は今日も最強を目指して、一歩ずつ歩んでいくのであった。
テツの問いにジャックは肩をすくめる。
「見たまんまじゃない? 採取スキルは上がっているんだけど、オオカミ自体少なくなっているから、結局は少ないんだよね。ピークは過ぎちゃったっていうか」
『ソウル杯』が開催されてから一週間が過ぎた。
最初は手こずったオオカミも、今では楽勝で倒せるようになったが、ある問題が起きていた。
オオカミ一体から採取できる数が増えているのに、昨日やおとといに比べると、素材の総量が減っているのだ。
考えられる原因は……。
「やっぱり、そうか。オオカミをあまり見かけなくなったからな。そろそろ潮時かもしれねえ。おい、みんな! きいてくれ!」
テツはパンパンと手を叩き、みんなの注目を集める。
「俺達は今までクロスロードを拠点としてきた。だが、ここらに生息しているオオカミは減っている。俺達プレイヤーが狩り続けたからだ。だから、クロスロードから離れる」
普通のRPGなら、雑魚は時間がたてば再度出現(POP)して無限に湧いてくるが、この世界はそうではない。敵を狩り続けば、生態系に影響を与えるようだ。
そもそもここいらに生息するオオカミは森林地帯や山岳地帯に縄張りがあるのだが、人間が開拓していったせいで緑が減り、オオカミの獲物も少なくなった。
それ故、オオカミは人里に出てきて、家畜を襲うようになった。
そこでギルドがオオカミを狩るクエストを発行したわけだ。
プレイヤーや冒険者がオオカミを狩り続けた為、家畜を襲われる心配はなくなったが、今度はジャック達が獲物の心配をするハメになった。
敵がいないと、採取できなくなるし、武器を使用しないので武器の熟練度がアップしない。
そして、ギルドもオオカミに関するクエストは引っ込めるだろう。そうなるとますます、収入源が減ってしまう。
狡兎死して走狗烹らる、だ。
――現実に似すぎているのも問題だな。
そうテツは思いつつ、テツは話を進める。
「おいおい、ここを離れてどうするつもりだ? どこにいくんだ?」
不安そうに尋ねるムサシに、テツは堂々と言い放つ。
「クロスロードの南にある街、カネリアだ。そこで馬を手に入れる」
この広大な大陸、アレンバシルを移動する場合、歩きで移動していたらいくら時間があっても足りない。移動だけで一年は過ぎてしまうだろう。ゲームのように、瞬間移動することももちろんできない。
それならば、速く移動できる方法が必要になってくる。それは何か? テツの言っていた馬である。
馬は本来、移動手段として使われていた。車がないこの世界では、馬は移動手段として欠かせないだろう。
クロスロードでは馬は取引されていない。だから、馬が買える場所に移動しなければならない。
馬を購入できる場所で、クロスロードから一番近い街がカネリアになる。
「馬か……僕、初めて乗るよ! みんなは?」
ジャックは興奮しながらみんなに話しかける。
馬はゲームでもメジャーな乗り物だ。乗り方はゲームによって独特で、扱うのにコツがいる。
ジャックはゲームの馬に乗ったことはあったが、本物に乗ったことがないので、楽しみにしていた。
もちろん、この世界もゲームだが、きっと現実とほぼ同じ乗り心地なのだろう。
車や飛行機がメジャーな移動手段となった世の中で、きっと、この中で馬に乗ったことのある者は誰もいないはず。
ジャックは仲間の誰よりも早く、馬を手懐けよう、密かに闘志を燃やしていたが。
「私は何度かあるけど」
「自分もだ」
「あ、あっれ~? もしかしてみんな、セレブなの? 軽井沢に別荘持ってるの?」
ジャックは少しひがんだように馬に乗ったことのあると発言したソレイユ、ムサシを睨む。ジャックの問いに答えたのはテツだった。
「いや、そんなわけねえだろ。北海道に住んでいたら、遠足か何かで乗ってるだけかもな。それか酪農の大学通っているとか。よく知らんけど」
何の根拠もない、偏見に満ちた答えに、ジャックは呆れながらも安心していた。きっとそれに似たような理由に違いないと。
セレブがそうそう、そこいらに転がっているとは思えないのだ。
「いえ、私は北海道に住んでいないわ。でも、軽井沢にも他の場所にも別荘はあるし、学校にも馬はいるでしょ?」
「「このブルジョワが!」」
ジャックとテツの声がハモる。世の中、やはり無常だ。どこに馬のいる学校があるのか、ツッコみたかった。
「まあまあ、いいじゃないか。自分は家で馬を飼っている。乗り方が分からなければ聞いてくれ」
「飼ってるってすごいね。ムサシ、馬の乗り方、教えてくれる?」
ムサシとロイドのやりとりに、ジャックとテツは苦笑するしかなかった。
「ねえ、テツ。僕達の感覚っておかしいのかな? フツウ、馬に乗る事なんてないよね?」
「……別におかしくねえよ。所詮、俺達は庶民って事だろ?」
こうしてみると、ここにいる全員が全国各地から集まったプレイヤーだと思い知らされる。育ってきた環境、考え方、常識等がジャックの予測できないことばかりで、新鮮であった。
ただ、楽しんでばかりはいられない。この世界は少しでも気を抜けば、死に繋がる。その為にも、仲間との連携は不可欠だ。
例え、このゲームの勝者は一人でも、仲良くやっていけるはずだ。ジャックはそう信じていた。
もっとみんなと会話していけば……喧嘩するかもしれないけど、それでも、このメンバーとなら楽しくずっとやっていける。
特にソレイユとは仲良くやっていきたいとジャックは考えていた。
ソレイユは唯、リリアンに繋がる手がかりだ。ソレイユは独立心が強く、人に頼ろうとしない。
せめて、手がかりが見つけるまで、ソレイユから離れたくない。
ジャックはソレイユを利用しているみたいで気が引けたが、それでも、彼女にすがるしかない事に葛藤していた。
ジャックは拳に力をこめる。
――大丈夫、どんな敵でも、プレイヤーでも絶対に負けない。リリアンに出会うまでは。
そう、ジャックは誓うのであった。
「おーい、二人とも! 行先は決まったんだ。クロスロードで準備をしようぜ! それにせっかくチームを立ち上げたんだ。全世界に自分達のチーム、『トライアンフ』がとどろくよう、頑張ろうぜ!」
ムサシが口にしたチーム名『トライアンフ』はみんなで考えた名前だ。意味は『勝利、凱旋』を意味している。
単純だが、チームで勝ち抜く願いを込めて、ギルド名にした。
ジャック達は今日も最強を目指して、一歩ずつ歩んでいくのであった。
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