上 下
740 / 745
連載

試合終了

しおりを挟む
 空を自由に飛び回る魔剣か。こういった空を自由に飛ぶ刀剣て奴は物語に出てくることがあったな──問題はどれだけの精度と威力があるかだな。かといって流石にわざと一回斬られてみようという訳にはいかない。もし麻痺毒などが塗られていて抵抗できずに麻痺でもしてしまおうものならその時点でお終いだ。

 ましてや短剣だ。短剣は真っ向から斬り合う物ではなく、不意打ちや組み付いてからの刺突──そして毒を塗って攻撃するというのがよくある手段だ。不意打ちは先ほど受けたが、魔剣がそれだけで終わるはずもない。ふらふらと宙に浮きつつ、こちらのにとって致命的な一撃を入れようと狙っている様に見える。

(疑似的な二対一となった訳か。しかもその刃にどんな効果があるか分からない。でも、まあ──ソロでやってきたから、相手の数の方が多いなんてのはいつもの事か。一対一から多対一へと頭を切り替えればいいな)

 こちらの考えが纏まったタイミングを狙ったわけじゃないんだろうが、まさにこちらが考えを切り替えた所で相手さんが襲い掛かってきた。なるほど、本人が前から攻撃を仕掛けて注意を引き、魔剣が頭上を取って頭部から串刺しにする動きか。確かに理に適ってはいる、人はどうしても上への注意が薄れやすいし、こうして戦えば前方に意識を持っていかれるからなおさらだ。

 ある程度斬り合って、意識が完全に向いたと思ったタイミングで──魔剣が襲い掛かってくる。が、こちらには《危険察知》先生がいる。その上魔剣からも殺気が放たれてしまっているな。これじゃ感が良い人は《危険察知》先生がなくったって気が付くだろう。襲い掛かってきた魔剣をバックステップで回避し、再び相手に食らいつく。

「な、にぃ!? 何故!?」「戦闘中に答えを教えるほど、こちらもお人よしじゃないぞ?」

 回避された事に焦る相手に、そう一言だけ伝えて戦闘続行。再び魔剣が死角に移動していくが、攻撃を失敗したことが魔剣に影響を及ぼしたのかますます魔剣から放たれる殺気が強くなった。それじゃ、不意打ち役としては失格だよ。不意打ちをしたいなら殺気や気配なんてものは真っ先に抑えなきゃいけないモノなのに。

 今度は真後ろについたようだが、バレバレだ。魔剣とのコンビネーションという戦い方は素晴らしいけど、肝心の不意打ち役を務める魔剣がダメダメすぎる。威力があっても、ここに隠れていますよーって殺気で自己主張する様じゃ不意打ちとしては成功しない。こういうのは使い手が気が付かなきゃいけない事なんだが。

(殺気が隠せないなら、常時積極的に切りつけさせて意識を散らす方向で使うべきだと思うんだがな。メカ系にある自立兵器的な立ち位置で運用した方が、あの魔剣の力を活かせると思うのだが)

 背後から襲ってきた魔剣を再び回避しながら自分だったらあの魔剣をその様に使うかな、という事を考えつつ戦いを進めていくと突如『試合終了』という声が響き渡った。そうか、時間切れか──という事は。AI判定を持ってブルーカラーの勝利となった。やはり二人KOされた相手側と、ボロボロな面子はいたが全員が生き残ったこちら側ではこういう結果になるのが妥当だろう。

「切り札を使わされた上に時間切れで負けて……くそっ! 良いようやられちまった!」

 先ほどまで戦っていた相手は心底悔しそうにそう吐き捨てたのち武舞台を降りた。自分もそれに倣って武舞台を降りた。なんにせよ、これで二次予選で一勝目を上げる事が出来た。降りた先ではツヴァイ達が待っていた。

「ロナが相手の大技を喰らって瀕死まで追い込まれた時は冷や汗をかいたが、最終的には無事に勝ってくれて何よりだぜ」

 ツヴァイが手を出してきたのでこちらも軽く手を出してパン! と軽い音を立ててタッチを交わした。しかし、ロナちゃんが瀕死のダメージを受けたというのはかなり痛い。この大会のルール上、ロナちゃんが完全回復するのには数試合が必要だろう。その間、自分とミリーだけで回せればいい。だが回せなかった場合、負傷が回復していなかろうがロナちゃんは武舞台に立たなければならなくなる。

 が、それは他のギルドも同じだ。完全にKOされた場合は体力が次の試合開始時に四割まで回復するらしいのだが、ここまでの試合でも瀕死に追い込まれたプレイヤーはいる。彼等もまた、次の試合では瀕死状態から時間をかけて回復していかなければいけない。今の試合には勝ったが、次の試合がきつくなる事で、一方的に勝ち進めないようにしているのだろう。

「それにしてもミリーさん、あの戦い方はアースさんの戦い方に非常に似ていましたが──採用した理由を教えて頂けると嬉しいです」

 ここで、カナさんがミリーに先ほどの試合でミリーがブレイド系列の魔法で自分の武器を模し、更に戦い方まで模倣した理由を問いかけた。確かに、自分もそこは不思議に思う。他人の戦い方を模倣すること事態はおかしい事ではない。しかし、なぜ長時間共に行動したブルーカラーの面子の戦い方ではなく自分の戦い方を模倣したのか? そこは確かに気になる。

「理由ですか~? それはですねぇ~……私がもし魔法使いでなかったなら、やってみたかった戦い方として一番頭に浮かんだ戦法だったからですよ~。近距離戦、飛び道具等を交えて一つの力ではなく様々な手を用いて戦うというのは、私の好みに合っていたんですよ~」

 闘技場から引き揚げながら、ミリーの発した返答はこうだった。もし己が別の戦い方を選んだのならやってみたかった戦法だったからか……それに選ばれたのは光栄かな。相手にも自分の戦い方を模倣した人が居たし、やはり様々な形で広まってるな。

「普段の自分とは違う戦い方か……そうだな、俺だったらカザミネの戦い方は刺激を受けるな。大太刀を縦横無尽に振り回し、そしてここぞで首を獲る。俺はどうしても片手斧と大盾というパワーで押す戦い方がメインだからな、あのような技量に秀でた動きは憧れる」

 更にレイジも話に乗ってきた。そうか、確かにレイジはタンカーだからカザミネの様な動きは難しいな。だからこそ、別の戦い方をできるならばそう言う戦い方もしてみたいという言葉が出るのだろう。

「逆にボクは別のスタイルなんて考えられないかなー。自分が剣や槍を持つ姿なんて想像できなかったから格闘家になったんだしね。今でも自分に一番合っている戦い方はこれだって思ってるし。まあ今日はちょっとやられちゃったけど……」

 これはロナちゃんの言葉。確かに今更ロナちゃんが剣や槍を振り回す姿って想像できないなぁ。彼女はぶん殴って、蹴り飛ばして、そして掴んで豪快に投げるっていう動きこそがしっくりくる。

「俺もロナと同じく今のスタイルが一番しっくりくるな。二刀流とかとてもできる気がしないし、弓なんて絶対無理だぜ」

 これはツヴァイ。まあ彼も大剣を振り回す姿が一番似合っている。同じ両手武器でも、両手斧や大太刀などを振り回す姿はちょっと想像が出来ないな。

「アースさんは何かあります? 他のスタイルをやってみたいと思った事など」「うーん、ううーん──というよりも、自分はいろんな動きの切れ端を集めて縫い合わせたようなところがあるからなぁ。今更他のスタイルを考える余裕は流石にないな」

 カザミネに問いかけられたが、自分はそう答えるしかない。色んな武器の動きをかき集めて使えそうなものを使えそうな形にでっち上げている部分が多々ある。師匠達によって土台はしっかりと鍛えたので、そんなでっち上げが成立しているという面があるが。八岐の月に付けた爪一つ取ったって、突き刺したり引っ掻いたりするだけで様々な動きが考えられるのだ。

 そのさまざまの動きの中から自分が使いやすい動きや有効な動きを考え、師匠達と対峙して突き詰めてまた考え直してを繰り返してきた結果がいまだ。もはや何をどうつなぎ合わせて継ぎ接ぎにして見た目だけは綺麗に見えるようにしたのかなんて思い出せるわけもない。だからこそ、他のスタイルの動きなんて参考にはなるがやってみたいとは思わない。

「人それぞれだけど、やっぱりコントローラーで動かしてきたゲームとは違って自分の体を直接動かすシステムだから同じ武器を使っても差が出るわよね。そしてアースの様な特殊過ぎる動きをするプレイヤーも一定数出てくるのが面白い所よねぇ」

 なんて感じで、ノーラがスタイルに関しての感想みたいな言葉をつぶやいた。ノーラの言う通り、ゲームの中に入り込むフルダイブと呼ばれる方式だからこそ、同じ武器を使ってもその人なりの動きや癖が出る。そこもまたフルダイブ型のゲームが面白くなる点の一つだろう。

「そして模倣する人も現れる、と。惜しむらくはあとわずかな期間でこの世界に私達は訪れる事が出来なくなるという点ですわね。もう少しこの世界で、さまざまの人の戦いぶりを見ていたかったですわ」

 とエリザ。そうだな、ワンモアももうあと少しでお終いだ。結末を迎える最終日がどうなるのかは今のところさっぱりわからないが──今はこの大会で優勝する事だけを最優先で考えよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。