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最後の一人との攻防
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相手は一気に突撃してくる。そりゃそうだよね、弓相手に距離を取るのは自殺行為にしかならないのだから。その突撃の勢いのまま片手剣による突き攻撃を行ってきたので自分は回避する。相手は突撃の勢いのまま通り過ぎて行ったが、何とスライディングをしてから短剣を地面に差し込んで強引に回転して方向転換をしてきた。向きが合えば再び自分に突撃してくる。
回避を何度しても短剣を使った方向転換によってひたすら自分に高速の突き攻撃を繰り出してくるという一撃離脱を徹底した動きをされる。動きに淀みがないので、この戦い方を相当やってきた人なのだろう。高速の突きはその勢いと剣のダメージが相乗効果を発揮して大ダメージを取れる手段の一つ。直撃は避けたいというのは言うまでもないが、このまま回避し続けるだけでは──
(いや、相手はこちらの居場所に対して正確に突き攻撃を仕掛けてきている。おっと。ならばそれを逆手に取ろう。後数回回避に専念して、回避で手一杯だというイメージを相手に与えてから行動に移ろう)
相手の突きを回避しながら対策を考える。そしてアイテムボックスのヘルマインオイルを取り出すタイミングをうかがう。下手に使うと自爆するが、威力は一級品。タイミングを見計らって、このオイルを相手自身に貫かせる。これ一発で倒せるとは思えないが、物理的なダメ―ジと、何より精神的なダメージを与えられるはず。
徐々に回避タイミングを意図的に遅らせていく。これによってこちらの回避が追い付かなくなりつつあるという事を相手にアピールする。更に都合がいい事に、向こうは突きの速度をもっと上げてきた。こちらの回避が遅れだした演技に乗ってきてくれたとみて良い。そして後三回、二回、一回──今!
(ヘルマインオイルを相手の突きの軌跡に乗せて──両腕のシールドと魔王様のマントで全力防御!!)
轟音が響き渡った。自分はしっかりとガードしていた上に魔王様のマントのお陰で自爆ダメージは全くなかった。衝撃は流石にあったけれど、ダメージにはなっていない。さて、相手はどうだ? そうして《危険察知》先生が教えてくれる相手のいる方向を見てみるが、誰もない。あれ? と思ったら上から相手が落ちてきた。どうやらヘルマインオイルが引き起こした爆発によってかなり空高く打ち上げられていたらしい。
「ふ、ふざけんな……」
顔を煤で真っ黒にし、ひと昔前のギャグのように頭部をアフロにした格好でよろよろと相手が起き上がってきた。頭部に装備していた兜は、どうやら爆発によって吹き飛ばされた──という理屈だと思われる──らしく、相手の右隣に転がっていた。
「ここにきて急に爆発物だと!? 本当にふざけんな!? くそ、なんだこれ! 兜がかぶれねえ!」
どうやら頭部がアフロヘア―になってしまった影響で、兜をかぶりたくても髪の毛が邪魔をしてかぶれない様だ。こんな効果今までのヘルマインオイルにはなかったんだが、改良を施した影響で何らかの変質が起きたのか? 改良と言ってもい力の向上しか狙っていなかったんだが──こんな状態異常を引き起こすのは想定外だ。
(いじったヘルマインオイル全部がこうなのか? それとも先程爆発させた奴がたまたまそうだっただけ? だめだ、わからない)
必死で兜を装着しなおそうとする相手を見つめながら考えを巡らせていた自分だが、相手は兜を装備する事を諦めた様だ。しぶしぶ兜をアイテムボックスに仕舞った姿が確認できた。その後再び自分に向かって剣を向けてくる。
「くそ、このまま負けたんじゃ笑いものになるだけだ。絶対お前だけは倒す!」
殺気込みの宣言なのだが、どうにも顔が真っ黒でアフロヘア―の影響の為かギャグに聞こえてしまうので緊迫感がイマイチ出ない。多分これ、観戦してる人たちの中には笑い転げている人がいると思う。だが剣を構えている相手は真剣そのもの、なのがさらに笑いを誘ってしまうかもしれないな、これ。
再び相手は突撃してくるが、流石に突き攻撃ではなかった。もう一回喰らうのは流石に嫌だろう。自分だってヘルマインオイルの威力をまともに食らうのは御免被る。今度は剣と短剣の二刀流を活かした連撃を仕掛けてきたので、こちらも八岐の月とレガリオンでお相手する。最初は剣に徹して相手の技量を図り、徐々に反撃を増やしていく。
「ち、やっぱりお前はしっかりと対応してくるか! 弓兵は近寄れば優位に立てるなんて一般論が通じないお前のような相手は本当に厄介だ!」
悪態をつきつつも、相手はさらに手数を増やす事でこちらを押し切ろうとしてくる。相手の武双的に、重い一撃に賭けるというタイプではないからな、手数で押し切る手段を取るのが基本だろう。中には片手剣でも重量があるものを用いて一撃必殺を仕掛けてくるプレイヤーもいると言うが、自分はお目にかかった事がない。
さて、手数こそ増えたが重さがないな。だから弾く事も受け流す事も難しくない。これより早くこれよりはるかに重い攻撃を仕掛けてきて防いで見せよと笑いながら追い込んでくるのが雨龍師匠だったなぁ、なんて思った直後背中に冷たい物が走る。まさか雨龍師匠がこちらの思考でも読んで警告でも飛ばしてきたか? あの師匠ならそんな事をされても不思議じゃない。
(いけないいけない、目の前の事に集中集中)
より集中力を固め、相手の攻撃を受け流した後の反撃の手数を増やしていく。無論向こうもこちらの反撃をやすやすと受けてくれるわけではないが、やはり手数は鈍る。もちろん相手の手数が減ればこちらの手数を増やして反撃に移る。こうして徐々に相手を押していくのがこういう戦いになった時の手の一つだ。
自分の有利を相手に押し付けるのが対人戦だ、という言葉があるが──その押し付けていたはずの有利を徐々に崩して押し返していくという戦い方を自分はかなりやってきたな。無論師匠達の修行と旅先でやってきた厄介な連中との戦いの経験があってこそ出来るわけだが。この戦い方の地点は、相手プレイヤーの精神力を確実に削っていける点にあるだろう。
押していたはずなのに気が付いたら自分が押される立場になって苦戦していた。これはやられると精神的にかなりくるものがある。とくに序盤優位であればあるほどにだ。もちろん優位であるように見せる演技を相手にされていたなんてパターンもあるけれど、とにかくなんでこうなった!? と冷静でい続ける事が難しくなる。今戦っている相手もまさにそうだ。
「くそ、なんでだ!? 何でことごとくこうなる!?」
自分は相手を押していたはずだ、反撃を許さぬほどの猛攻を仕掛けていたはずだ。なのに気が付いたら何故か相手はほぼ無傷でこちらが多くの手傷を負って押されているのだ? という展開に持ち込まれた相手がそこからなお冷静さを保って問題点に気が付いて修正して反撃に出る事は難しい。一息ついて頭を冷やせば修正点を見つけられる人はそれなりにいる。だが──
(頭を冷やす時間は与えない、熱を引かせず考えさせず相手を落とすのもまた戦法の一つだよね)
こちらがその妨害をして、考える時間を与えない。一呼吸おいて冷静にさせる機会を与えない。相手が押してくればいなして、相手が引けば即座に追う事で休ませない。そうすれば相手はますます焦って視界は狭まり、考える事が難しくなって、ミスをする。ほら、こんな状態で腕に力を入れたら──大きな一発を放つ可能性がありますよと相手に対して言っているような物だぞ。
「うおおおおっ!!」
気合を入れて繰り出された相手の片手剣による突き攻撃。だが、自分はやってくる可能性があると感じ取っていたので、落ち着いて体をずらして回避する事に成功。さらに一瞬だが力を込めた突きを放ったことによって硬直した相手の隙を逃す理由はないので、八岐の月についている爪で相手の顔面を引き裂いた。
この一撃がかなり効いたようで、相手が後ろに数歩たたらを踏むような形で下がっていく。ここが好機と見て前に出ようとした自分だが、このとき一瞬であったが相手が左手に持っている短剣の刃の先に妙な光を見たような気がした。それが自分に危険信号を送り、自分は前に出ようした体を必死に止める。
直後、相手の左手に握られていた短剣が突如自分に向かって飛び出してきた。言うまでもないが投擲などではない。短剣は自分の頭部を狙ってきたので、何とか首を振って回避する。頭部を掠られたが、ダメージはない。あったのは軽い衝撃だけだ。だが、短剣はすぐさま相手の元に戻り、こちらに再び刃を向けてくる。
「魔剣か」「ああもう、最低でも準決勝までは温存しておきたかった奥の手の一つを反射的に使っちまった。だが、使わなかったら恐らくとどめを入れられただろうしな……使った以上は仕方がない、こいつと俺の全力をもってお前を倒すだけだ。お前を倒せば、疲弊している残りの二人は何とかなる可能性が高いからな」
ボロボロになったロナちゃんは言うまでもないが、ミリーもプレイヤーが先ほどの戦いでかなり疲弊している。だからここで自分が崩れたら逆転負けは大いにありうる。だが、そうはさせない。初戦から躓く訳にはいかないのだから。
回避を何度しても短剣を使った方向転換によってひたすら自分に高速の突き攻撃を繰り出してくるという一撃離脱を徹底した動きをされる。動きに淀みがないので、この戦い方を相当やってきた人なのだろう。高速の突きはその勢いと剣のダメージが相乗効果を発揮して大ダメージを取れる手段の一つ。直撃は避けたいというのは言うまでもないが、このまま回避し続けるだけでは──
(いや、相手はこちらの居場所に対して正確に突き攻撃を仕掛けてきている。おっと。ならばそれを逆手に取ろう。後数回回避に専念して、回避で手一杯だというイメージを相手に与えてから行動に移ろう)
相手の突きを回避しながら対策を考える。そしてアイテムボックスのヘルマインオイルを取り出すタイミングをうかがう。下手に使うと自爆するが、威力は一級品。タイミングを見計らって、このオイルを相手自身に貫かせる。これ一発で倒せるとは思えないが、物理的なダメ―ジと、何より精神的なダメージを与えられるはず。
徐々に回避タイミングを意図的に遅らせていく。これによってこちらの回避が追い付かなくなりつつあるという事を相手にアピールする。更に都合がいい事に、向こうは突きの速度をもっと上げてきた。こちらの回避が遅れだした演技に乗ってきてくれたとみて良い。そして後三回、二回、一回──今!
(ヘルマインオイルを相手の突きの軌跡に乗せて──両腕のシールドと魔王様のマントで全力防御!!)
轟音が響き渡った。自分はしっかりとガードしていた上に魔王様のマントのお陰で自爆ダメージは全くなかった。衝撃は流石にあったけれど、ダメージにはなっていない。さて、相手はどうだ? そうして《危険察知》先生が教えてくれる相手のいる方向を見てみるが、誰もない。あれ? と思ったら上から相手が落ちてきた。どうやらヘルマインオイルが引き起こした爆発によってかなり空高く打ち上げられていたらしい。
「ふ、ふざけんな……」
顔を煤で真っ黒にし、ひと昔前のギャグのように頭部をアフロにした格好でよろよろと相手が起き上がってきた。頭部に装備していた兜は、どうやら爆発によって吹き飛ばされた──という理屈だと思われる──らしく、相手の右隣に転がっていた。
「ここにきて急に爆発物だと!? 本当にふざけんな!? くそ、なんだこれ! 兜がかぶれねえ!」
どうやら頭部がアフロヘア―になってしまった影響で、兜をかぶりたくても髪の毛が邪魔をしてかぶれない様だ。こんな効果今までのヘルマインオイルにはなかったんだが、改良を施した影響で何らかの変質が起きたのか? 改良と言ってもい力の向上しか狙っていなかったんだが──こんな状態異常を引き起こすのは想定外だ。
(いじったヘルマインオイル全部がこうなのか? それとも先程爆発させた奴がたまたまそうだっただけ? だめだ、わからない)
必死で兜を装着しなおそうとする相手を見つめながら考えを巡らせていた自分だが、相手は兜を装備する事を諦めた様だ。しぶしぶ兜をアイテムボックスに仕舞った姿が確認できた。その後再び自分に向かって剣を向けてくる。
「くそ、このまま負けたんじゃ笑いものになるだけだ。絶対お前だけは倒す!」
殺気込みの宣言なのだが、どうにも顔が真っ黒でアフロヘア―の影響の為かギャグに聞こえてしまうので緊迫感がイマイチ出ない。多分これ、観戦してる人たちの中には笑い転げている人がいると思う。だが剣を構えている相手は真剣そのもの、なのがさらに笑いを誘ってしまうかもしれないな、これ。
再び相手は突撃してくるが、流石に突き攻撃ではなかった。もう一回喰らうのは流石に嫌だろう。自分だってヘルマインオイルの威力をまともに食らうのは御免被る。今度は剣と短剣の二刀流を活かした連撃を仕掛けてきたので、こちらも八岐の月とレガリオンでお相手する。最初は剣に徹して相手の技量を図り、徐々に反撃を増やしていく。
「ち、やっぱりお前はしっかりと対応してくるか! 弓兵は近寄れば優位に立てるなんて一般論が通じないお前のような相手は本当に厄介だ!」
悪態をつきつつも、相手はさらに手数を増やす事でこちらを押し切ろうとしてくる。相手の武双的に、重い一撃に賭けるというタイプではないからな、手数で押し切る手段を取るのが基本だろう。中には片手剣でも重量があるものを用いて一撃必殺を仕掛けてくるプレイヤーもいると言うが、自分はお目にかかった事がない。
さて、手数こそ増えたが重さがないな。だから弾く事も受け流す事も難しくない。これより早くこれよりはるかに重い攻撃を仕掛けてきて防いで見せよと笑いながら追い込んでくるのが雨龍師匠だったなぁ、なんて思った直後背中に冷たい物が走る。まさか雨龍師匠がこちらの思考でも読んで警告でも飛ばしてきたか? あの師匠ならそんな事をされても不思議じゃない。
(いけないいけない、目の前の事に集中集中)
より集中力を固め、相手の攻撃を受け流した後の反撃の手数を増やしていく。無論向こうもこちらの反撃をやすやすと受けてくれるわけではないが、やはり手数は鈍る。もちろん相手の手数が減ればこちらの手数を増やして反撃に移る。こうして徐々に相手を押していくのがこういう戦いになった時の手の一つだ。
自分の有利を相手に押し付けるのが対人戦だ、という言葉があるが──その押し付けていたはずの有利を徐々に崩して押し返していくという戦い方を自分はかなりやってきたな。無論師匠達の修行と旅先でやってきた厄介な連中との戦いの経験があってこそ出来るわけだが。この戦い方の地点は、相手プレイヤーの精神力を確実に削っていける点にあるだろう。
押していたはずなのに気が付いたら自分が押される立場になって苦戦していた。これはやられると精神的にかなりくるものがある。とくに序盤優位であればあるほどにだ。もちろん優位であるように見せる演技を相手にされていたなんてパターンもあるけれど、とにかくなんでこうなった!? と冷静でい続ける事が難しくなる。今戦っている相手もまさにそうだ。
「くそ、なんでだ!? 何でことごとくこうなる!?」
自分は相手を押していたはずだ、反撃を許さぬほどの猛攻を仕掛けていたはずだ。なのに気が付いたら何故か相手はほぼ無傷でこちらが多くの手傷を負って押されているのだ? という展開に持ち込まれた相手がそこからなお冷静さを保って問題点に気が付いて修正して反撃に出る事は難しい。一息ついて頭を冷やせば修正点を見つけられる人はそれなりにいる。だが──
(頭を冷やす時間は与えない、熱を引かせず考えさせず相手を落とすのもまた戦法の一つだよね)
こちらがその妨害をして、考える時間を与えない。一呼吸おいて冷静にさせる機会を与えない。相手が押してくればいなして、相手が引けば即座に追う事で休ませない。そうすれば相手はますます焦って視界は狭まり、考える事が難しくなって、ミスをする。ほら、こんな状態で腕に力を入れたら──大きな一発を放つ可能性がありますよと相手に対して言っているような物だぞ。
「うおおおおっ!!」
気合を入れて繰り出された相手の片手剣による突き攻撃。だが、自分はやってくる可能性があると感じ取っていたので、落ち着いて体をずらして回避する事に成功。さらに一瞬だが力を込めた突きを放ったことによって硬直した相手の隙を逃す理由はないので、八岐の月についている爪で相手の顔面を引き裂いた。
この一撃がかなり効いたようで、相手が後ろに数歩たたらを踏むような形で下がっていく。ここが好機と見て前に出ようとした自分だが、このとき一瞬であったが相手が左手に持っている短剣の刃の先に妙な光を見たような気がした。それが自分に危険信号を送り、自分は前に出ようした体を必死に止める。
直後、相手の左手に握られていた短剣が突如自分に向かって飛び出してきた。言うまでもないが投擲などではない。短剣は自分の頭部を狙ってきたので、何とか首を振って回避する。頭部を掠られたが、ダメージはない。あったのは軽い衝撃だけだ。だが、短剣はすぐさま相手の元に戻り、こちらに再び刃を向けてくる。
「魔剣か」「ああもう、最低でも準決勝までは温存しておきたかった奥の手の一つを反射的に使っちまった。だが、使わなかったら恐らくとどめを入れられただろうしな……使った以上は仕方がない、こいつと俺の全力をもってお前を倒すだけだ。お前を倒せば、疲弊している残りの二人は何とかなる可能性が高いからな」
ボロボロになったロナちゃんは言うまでもないが、ミリーもプレイヤーが先ほどの戦いでかなり疲弊している。だからここで自分が崩れたら逆転負けは大いにありうる。だが、そうはさせない。初戦から躓く訳にはいかないのだから。
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