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決着

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 明確に自分が踏み込んだことで、相手は望む所とばかりに刃を振るおうとする、が──自分はさらにそこから一歩踏み込んだ。明らかに刀剣の間合いではない近距離。だが、自分には蹴りがある。膝で相手のみぞおち付近に一撃を叩き込み、動きが止まった相手の足にローキックと叩き込む。

 横に蹴り飛ばすのではなく、斜め下に埋め込むようなイメージで放ったローキックはそこそこ効いたようで相手が溜まらずうめき声をあげる。だが、これ以上はやらせないとばかりに後ろに飛びのきつつ魔剣を自分の顔付近目がけて振るってきた。その魔剣の攻撃を自分は前に潜り込むようにしながらもう一度距離を詰めて、下から伸びあがる様にしながら膝で相手の顎目がけてカチ上げるようにする。

 が、この膝攻撃は回避された。相手は首をひねって膝から逃れて見せたのだ。その後はすぐに大きく飛びのいて魔剣を構えなおす。自分も再び武器を構えなおしてにらみ合いつつ間合いを図りなおす。

「よもや踏み込んでからの蹴りとはな。刃をくぐる度胸も大したものだ」

 と、相手から褒められた。その言葉にわずかに礼をしたのち──また自分は踏み込んだ。今度は刀剣の間合いでの斬り合いへと発展する。二度も三度も蹴りを振るうのは悪手だろう。こういうのは相手の意思が薄くなったところを突くように使わないと。さて、斬り合いの方だが相手のスピード、そして一撃の重さは明確に上がっている。魔剣の力をより引き出しているのは間違いない。

 でも、屈するレベルじゃない。これ以上の戦いは今までの旅で何度もあった。これ以上の恐怖を感じる場面も山ほど。だから、冷静にいなして反撃する。集中力は戦いの中で更に研ぎ澄まされていく。そして、久々に──明鏡止水の水を見た。透き通った水の奥の奥まではっきりと見えた。

「──この悪寒はなんだ? 一体、何をした?」

 相手が戸惑うような声を上げる。今の自分はどんな表情、いや目をしているのだろうか? でも、気持ちは揺るがない。ただ穏やかに、僅かな曇りも揺らぎもなくただここにある。その様な心で静かにレガリオンを振った。手ごたえを感じると共に、相手の胴体から血飛沫が上がった。

 もちろんそれで止まる理由はないので更なる刃の連撃を見舞っていく。向こうも必死で防ごうとしているのは見えるのだが、焦りが出ているのか守りに穴がある。その穴を容赦なく突いて切り込む。そのやり取りに派手さは全くない、むしろ静かな物だろう。しかし、相手は傷を負っていく。

 周囲の空気が変わったのを感じる。異様な物を見るような、理解できない物を無理やり理解させられるような異物感。無理もない、激しく動いている訳でもない、ジャストガードやパーリングと言った技術を使っている訳でもない。なのに相手の刃は全てが自分の体に届かず自分の刃が次々と相手を切り刻んでいるのだから。

「本当に、なんだこれは!? まるで霧を相手にしているかのようだ……実体がなくただ揺らめいているだけのように捉えられず、しかしこちらは手傷を負う、一体どうなっているんだ!?」

 相手はかなり混乱してきているようだな……流石にこのまま黙って勝つのは少々あれかな……少しだけ、情報を開示してもいいか。

「こちらの世界の師の一人に最後の修行で教わった技術です。明鏡止水、という言葉は耳に入れられた事はあるでしょう。その明鏡止水の状態に入って戦えるようになる能力です」

 周囲が驚きの感情を上げていくのを感じる。それだけでなく流石にそれは無いだろうという疑いの視線、いやいや、あの動きを見せられては納得するしかないというたぐいの視線、もっと見たい、知りたいという興味の視線など様々な物が一気に向けられたのを感じる。だがそれよりも、目の前の相手が一番強烈な感情をぶつけてきた。

「明鏡止水、だと!? 面白い! 面白いぞ! ならばもっと見せてくれ! その状態ならばどう動くのかをもっと見たい、知りたいぞ!」

 困惑から狂喜と言った感じに変わった相手が、猛然と攻めかかってくる。先ほどまでの困惑がなくなったためか、剣筋が鋭さを取り戻している。それでも自分はその攻撃を回避しながら反撃を叩き込んでいく。時には受け流して隙を生み出させてそこを突いた。が、相手は怯まない。むしろもっとよこせと、もっと見せろと言わんばかりに攻撃を止める気配がない。

(生粋の戦闘好きかね? 普通のプレイヤーならあきらめるレベルの攻撃を入れているはずなんだが……まあ、大会に出てくるプレイヤーが普通の筈はないか)

 むしろこちらがダメージを与えるたび、剣筋が鋭さを増し隙が減っていく感じすらする。向こうは明確に、この戦いの中で強くなっていっている。何せ、浮かべている表情は獰猛な笑みだ。向こうは楽しくてしょうがないのだろう、まさに剣を一振りするたびに己が強くなっている、そんな感覚すら覚えているのではないだろうか?

 だが、その時間もすぐ終わりとなった。自分がそこから数秒後に放った三連撃を相手に叩き込んだ直後、相手の足が突如ついさっきまでのように動かなくなった。震えを隠せず歩く事すら困難な様子がうかがえる。ここまでに受けたダメージの蓄積によって、遂に限界が来たのだろうな。

「くそ、動け! こんな楽しい時間をもう終わらせるというのか! もったいないだろう!?」

 そんな叫び声をあげるが、彼の足は応えず震えるのみ。終わりにしよう──後ろに一度下がった自分は八岐の月を背中に背負い、レガリオンを分割して鞘に納めた。そして自分は居合の構えを取った。使うのはガナードの方。鞘から引き抜く一瞬にスネークモードに切り替えながらやれば居合もどきの動きは可能になる事を利用する。

「決着を、つけさせていただきます」

 一言そう告げてから居合のモーションで間合いを詰めていく。すると、向こうも魔剣を収めて居合のモーションを取る。詰める自分と待ち構える相手。間合いギリギリになった所で自分は止まる。一瞬の静寂を経て──自分は一気に距離を詰めながらガナードをスネークモードにしながら居合斬りを仕掛ける。

 相手も反応し、魔剣を引き抜きながら居合でこちらを切り伏せようと歯を食いしばって振るってきた。自分は相手の横を駆け抜けて後ろまで行って止まる。一呼吸置き、自分はゆっくりとガナードを鞘に納めながら自分のチームメンバーの方へ歩き出した。

「え?」「まだ、終わっていないのではないですか~?」

 その動きを見たロナちゃんとミリーの二人は少々焦った表情を浮かべたが、自分は首を振った。

「十二分な手ごたえがあったから、もう終わったよ」

 自分の言葉を待っていたかのようなタイミングで、後ろで何かが倒れる音がした。直後、こちらのチームの勝利宣言が行われた事で決着が正式についた。あのガナードで行った居合もどきの一太刀は、まさに会心と言っていい位の手ごたえを自分の腕に伝えてくれた。だから自分は確信していたのだ、決着はついたと。

 ただ、その後が大変だったが。明鏡止水の事で質問が飛んでくるし、次のツヴァイチームがなかなか武舞台に向かわないものだから警告を飛ばされたりもした。更に観戦者や対戦相手からの視線も減る様子が全くない。この試合終了後、取り囲まれるかとは確定かな? 特に先程の対戦相手からは逃げられそうにない。
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