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戦いの流れ

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 ツヴァイの大剣による連撃を、バトルメイジは杖をうまく使って連続で受け流す。しかし、ツヴァイの手数がわずかに上回っているようでバトルメイジが徐々に押される。それを見ていられなかったのであろう、相手の弓使いが再び乱入しアーツをツヴァイに向かって放つ。

「《一通》!」

 自分は使えないアーツだな……確か貫通力に特化したアーツだったか? 生半可な盾など無いと同じで無力化し相手に突き刺さる使い勝手のいいアーツ、だったかな? Wiki頼りでハッキリとは覚えていないんだが。が、ツヴァイの視界は弓使いの動きも取らえることが出来ていた様でこのアーツをあっさりと回避。ホーミング性は一切ないアーツだったようで、矢は空しくツヴァイがさっきまでいた場所を過ぎ去るのみ。

「その動きは想定している!《アローネット》!」

 しかし、弓使いは退場する前にもう一つのアーツを空に向かって放ってから武舞台を退場した。アーツの名前からも分かるように、このアーツは投網と同じことを弓矢で行うものだ。空中に放たれた矢が八つに分裂し、網を展開。そのまま地面に落ちてきて相手の四肢を絡めとるというアーツだ。しかし、このアーツにて発生する網は普通の物であり──

「そらよっとってな感じだ!」

 刃物で切り付けられればあっさりと切れてしまう。無論普通のナイフとかならそれなりに耐えるぐらいの耐久はあるが、こんな場所にまで来ているプレイヤーの武器に耐えられるだけの耐久性は流石にない。あっさりと網を切り裂かれ、無残な姿で落ちてくる残骸。しかし、上に向かって攻撃をすればバトルメイジが当然動くだけの猶予を与える。

「そこ──」「乱入は貴方達のみの特権じゃないって事、忘れたかしら?」

 バトルメイジがツヴァイへ攻撃をしようと動いたそのタイミングで、ノーラが乱入した。ノーラは複数のナイフを素早くバトルメイジに向かって投擲──にしてはずいぶんと狙いが大雑把だな? ノーラらしくないと思ったのだがこれには理由がきちんとあった。

 投擲されたナイフを容易く躱したとバトルメイジが今度こそツヴァイに対して攻撃をしようとして前に一歩出たその時だ。彼の動きが突如動きが止まったのは。

「な──」「《ウオーターバインド》! ナイフと水魔法の組み合わせによっては、こういう事も出来たりするのよね」

 ノーラが投げたナイフのグリップ付近から、細い水の糸みたいなものが見えた。それがバトルメイジの体にいくつも絡まっているのが何とか見える。それだけでなく、水の糸が次々とバトルメイジの体に纏わりついていくのが見えた。ナイフを投げた時には視認性を極限まで下げていたのかもしれない。だからバトルメイジも視認できなかったのか。

「じゃ、後はよろしく!」「ありがとな!」

 ノーラが退場し、ツヴァイが動きを封じられたバトルメイジに対して大剣を振り上げながら接近する。バトルメイジ側は手早く詠唱できる魔法を次々と唱え、魔法による攻撃でツヴァイの足を止めてから拘束から逃れようと動くが、ここでツヴァイは大剣を下ろして盾にしながら強引に突っ込んで魔法を無理やり弾き飛ばしながら距離を一気に詰める。

「もらったあああ!」

 そして間合いに入ったツヴァイによる全力振りかぶりによる攻撃が拘束から抜け出せなかったバトルメイジに行われる。こういう条件になった時の大剣や両手斧の一撃は本当に強い。刃の斬撃と両手武器の重量、それに勢いまで載せられるのだから軽傷で済む事は絶対にない。ましてやクロースなんて言う布装備では抗えない。文字通りの体を真っ二つにする形でツヴァイがバトルメイジを倒した。そこからすぐさまツヴァイは交代し、レイジと交代する。

「後は頼むぜ!」「ああ、任せろ」

 勝利はしたが、ツヴァイはバトルメイジから攻撃をそれなりに貰っていた。だからこそ次の試合に向けて少しでも回復するべくレイジと交代するのは正しい判断だろう。後はレイジがダメージをできるだけ抑えて勝てばいい。相手は弓使いしか残っていないからな……レイジは盾をしっかりと構えて弓使いに対して距離を詰めていく。

 弓使いだって黙ってやられるわけがない。真正面からでは盾に弾かれるため、曲射を多用してレイジの盾を乗り越えて攻撃する形で攻撃を行う。射撃を終えたらすぐさま場所を変えてまた射撃をする。なんというか、ボクシングのインファイターとアウトボクシングの選手の戦いを見ているような気持ちになるな。

(レイジが前に出ようとしたタイミングで場所を移動し、また距離をしっかりとってから射撃。かなりの足の速さだな。あれではレイジが接近戦をしたくても難しいだろう)

 弓使いの足取りは非常に軽やかだ。まるでスケートでもしているかのようにするすると武舞台を滑るかのように動き回り、自分の距離を維持してレイジに射撃攻撃を繰り返す。レイジはかなり辛そうだな、矢の直撃こそ一発も貰っていないが、攻められないのがな。かといって身軽なノーラにチェンジしたくても弓使い相手に背中を晒すのは危険すぎる。

 そんな弓使いが終始レイジのやりたい事をさせない形で進めていた戦いであったが、時間切れを迎えたため戦いは終了した。言うまでもなくAI審判は全員がブルーカラーの勝利であると判定を下した。弓使いもまあ、そうなるよなみたいな感じで素直に結果を受け入れていた。これで最初のラウンドはこちらが取った。あと一勝できれば相手ギルドに対するブルーカラーの勝利が確定する。

「では、行ってきます」「ええ、いってらっしゃい」

 カザミネの言葉にノーラが送り出す。次の面子はカザミネ、カナさん、エリザの三人だ。相手は……おおっと、全員両手武器使いなのか。両手斧、大剣、大太刀使いが出てきたな。どのプレイヤーも一発で不利な状況からの一発逆転が可能なパワーを持っている事は間違いない。先にラウンドを取られたから、このラウンドは絶対に取ると言う意思が見て取れる。

「まずは勝ってきたぜ」「ああ、お疲れさん。どうだった、手ごたえは?」

 一方でこちらに戻ってきたツヴァイの言葉を聞いて、自分は戦ってみた感じを聞いてみる事にした。

「そうだな……少し硬くなっている感じを受けた。特に最初に出てきた大太刀使いはぎこちない所があったように感じたぜ。最初の大振りにしても、モーションが見え見え過ぎたからな。この大舞台で緊張するなというのは酷なのかもしれないが──一方で三人目の弓使いはかなり動きが良かったな。アイツが最初に出てきたらどうなっていただろうと考えるな」

 なるほど、それがツヴァイの感想か。まあ最後の大会って事でどうしても緊張は付きまとうよな。でもそれは皆同じ事だし、その緊張で動けなくなるか楽しめるかの差はそれまでの経験から変わってくるモノだろう。ツヴァイ達ブルーカラーも厳しい戦いを何度も乗り越えてきているから、緊張を程よく楽しめる側だろう。

「次の勝負は、取らなきゃ負けると考えて向こうが硬くなったらカザミネたちの敵じゃないだろうな。逆にこの逆境こそが楽しい瞬間だと思える相手だったら、苦戦するかもしれないが」

 そんなツヴァイに言葉に頷きながら、次の試合を見届けよう。さて、次の相手はどんな戦い方を仕掛けてくるだろうか?
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