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VSジャグドその3

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 直撃を貰った影響は、それだけでは済まなかった。視界がおかしい……と感じた数秒後、自分は理解した。左目が見えていない事に。

(よりによって左目を……! 自分の利き目を潰されるなんて)

 狙いをつけるときに重要なのが利き目だ。真正面を向いて何かに人差し指を向けて狙いを定めて欲しい。そして左右の目を片方ずづ閉じてみて欲しい。恐らくどちらかの目で大きく指さしている狙いがずれるはずだ。そのズレない方が利き目。これを潰された事により、自分の遠距離攻撃の命中率は著しく下がるだろう。

 故に、もう遠距離戦は絶対に出来ない。何が何でもジャグドに食らいつかなければならない。だと言うのに……ここでジャグドは煙幕を展開してきた。煙幕自体は問題ない、これぐらいの視界悪化で見失う事はない。だが、煙幕が発動して一秒後、ジャグドは大きく離れた場所へと移動していた。まるでテレポートしたかのように。

「何らかのアーツか!?」「その通りだ、まあ詳細は教えねえけどな!」

 一瞬で距離を離すアーツだって!? そんなアーツがあるなら、ジャグドが圧倒的に優になってしまう。無論何らかの制限はあるだろう、しかしそう言ったアーツが存在しジャグドが使えると言う事は事実。距離を離してはならないと言うのに、それができない。距離が離れれば、当然ジャグドから再び矢が次々と放たれる。

(く、これはまずすぎる! しかも……やっぱりこっちは狙いが狂っている! イメージ通りの場所に矢が飛ばない!)

 必死で見える右目でジャグドを狙うが、やはり自分が放つほとんどの矢がイメージした場所からズレた場所に飛んで行ってしまう。それに気がつかないジャグドじゃないだろう……事実、ジャグドからの矢が飛んでくる数が増えている。こちらが狙いを定めにくくなっている事が分かったからこそ、猛攻をかけてきたとみるべきだ。

 盾と回避を使って直撃は回避しているが、反撃がままならない。当たらないやなんて打つだけ無駄どころか隙を生み出すだけだ。ならば、こちらは回避できる亀と言う形で距離を詰めて中距離から近接戦に移行するしかない。回避できる亀ッて表現がおかしい気がしなくもないが、動けるデブなんて言葉もある事だし多めに見てもらおう、なんてことを何処かで考える分精神的にはまだ余裕があるみたいだ。

「ち、タンク役をぶち抜くより厄介だぞアース!」

 盾と機動力、経験から来る回避を用いてジャグドの矢の雨を突き進む。その最中ジャグドが口にしたのが先ほどの言葉である。どうしても避けきれない矢は盾で防ぎ、他は機動力のかく乱と回避で矢が放たれる方向をある程度コントロールしながら回避行動をとり続ける。ジャグドもフェイントに多少引っ掛かりつつも矢を放つ手を止めない。完全にどこまで相手を欺けるかの読み合いとなって来た。

(あと十歩は距離を詰めないとダメだ。しかし、その十歩が今は遠い。だが、それでも突き進まなければ勝ち目が生まれない)

 距離が詰まる火度に矢が届く速度が上がっていく訳で、回避が難しくなっていく。それでも前に進むしか今の自分には道がないうのだが。この見えなくなった左目はたぶんこのPvP中に回復する事は望めないだろうと予想を立てている。だから出来る事をやって、勝利と言う結果を無理やりでもこちらに引き寄せるために動く。

 ジャグドも負けじと、矢の勢いと手数を同時に増やすという動きに出た。普通はその両立は出来ないのだがそこはジャグド、向こうも海千山千を越えてきた猛者だ。普通は出来ない事が出来ても何も驚くところはない。それでも自分は前に出る。そしてやっと十歩進み、蛇炎オイルを右手に三本持ちジャグドにサイドスローで出来るだけ地面すれすれを飛ぶように投げつける。

 この自分からの反撃にジャグドの対応が一瞬遅れたのが変わった。蛇炎オイルが入った瓶がジャグドに直接あたる事は無かったものの、ジャグドの近くで瓶が割れて炎が吹き上がりながらジャグドに対して蛇の様に襲い掛かった。ジャグドは大きくサイドステップを行い炎の蛇から逃れようと動いたが……当然そう動けばこちらへの射撃が止む。

「──!!」「くそ、接近されちまったか!」

 全力で接近し、自分が振るったレガリオンの一撃をジャグドはぎりぎりのタイミングではあったが弓についている刃部分で受け流した。だが、受け流しが不十分だ。体勢を崩されることが無かった自分はすぐさまレガリオンのもう片方の刃でジャグドの顔面目掛けての追撃を行う。ジャグドはこの攻撃も回避したが……彼がいつもかぶっている帽子がスパッと切り裂かれてジャグドの顔があらわになる。

「ぎりぎり中のぎりぎりって感じだったな。まさかこいつを切り裂かれちまうとは」

 ジャグドはそんな事を言っているが、こちらとすればそれだけで済ませられてしまったのかと歯噛みしたい。ここでジャグドの目とはいかなくても頭部にダメージを入れて大ダメージを奪っておきたかった。今の様なチャンスはそうそうあるものじゃない。蛇炎オイルも見せてしまったし、次からは警戒されることは間違いない。

 だが、まだ至近距離。チャンスは途切れていない。今度はこちらが八岐の月とレガリオンを最大限に生かした連撃でジャグドに猛攻を仕掛ける。これに対してジャグドは弓についている刃や回避行動で対処するが、時々血飛沫が待っている。一発一発のダメージは微小なんだろうが、それでも短時間で積み重なれば総合ダメージは大きくなる。

 事実、ジャグドの表情にも余裕はあまりない。もちろんそう見せている可能性は考えられるが、顔面に汗が滲み出ている以上演技する余裕もそうは無いだろう。当然ジャグドもやられっぱなしでたまるかとこちらの連撃の合間にカウンターを放ってくる。それを読んでこちらがカウンターを狙う、という読み合いも進行中である。

「く、普段はあんなのほほんとしてるくせにこういう時はバーサーカー並みの連撃だな!? やっぱりお前は面白いぜ!」「そいつはどうも! 後理性は失ってないからバーサーカーではないけどな!」

 そんな事を互いに口にしながらも戦闘を続行する。離れたがっているジャグドと接近戦を維持したい自分と言う図式が完全に出来上がっており、ジャグドがまた煙玉と思わしきものを地面に叩きつけようとすれば自分が即座にそれを阻止するという型もまた出来上がっている。お互いある程度今まで隠していた札を見せたからこうなるんだが、お互い札はまだ持っている、はず。それをどこで切るか……

 なので、今度は自分が切る事にした。使うのは右手につけている盾のシザーズ機構。連撃の合間にジャグドからは見えにくい角度で仕込んであるボウガンの弦は引いてある。後はタイミングを見計らってトリガーを引くだけ……欲を言えばこれでジャグドの首を飛ばしたい。が、早々上手くいくはずもないので、ある程度のダメージを取れれば良しと考えよう。

 暗器は意表を突き、確実に仕留める覚悟で使う物。ジャグド相手に厳しいが、それでも意表をつく事は出来るはず。全ては流れとタイミング。何度か同じ動きをしてこれにはこう対処をすればいい──と無意識に思わせて、そこを狩る。ジャウグド相手に同じ動きを見せるのは危険極まりないし、読まれる可能性は当然ある。それでも、やるしかなさそうだ。

(何より、ここら辺で確実な一撃をいれておかないと流れをこちらに引き寄せる事が出来ない。猛攻こそ仕掛けているが明確な直撃は一回もない。何処かで仕掛けなければならないんだ)

 ジャグドとの距離を離さないように前に前に出ながら仕掛けるタイミングをうかがう。これを外しても札はまだあるが、むやみやたらとオープンしたくない……この一撃で確実に明確なダメージを与えて流れを引き戻すんだ。
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