とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
上 下
697 / 752
連載

ジャグドとのPVPの前に、待ったが入る

しおりを挟む
 ジャグドが対人戦の設定をしているが、途中でこちらに振り返りこう一言告げてきた。「地形などの設定はなしで、対戦は非公開でいいんだろ?」と。非公開の方が助かるので、自分は頷いた。だがそれに反対するひときわ大きな声が上がった。当然自分もジャグドも、周囲の人もそちらの方に視線が向いていまう。

「おいおいおい、ジャグド。そりゃねえだろう。なんで今回に限って非公開にすんだよ? いつもは堂々と見せてくれてるじゃねえか」

 そう言いながら、大勢の人をかき分けつつ自分とジャグドの前に姿を見せたのは一人の男性プレイヤー。軽鎧を着込み背中に大剣を背負い、左手には金属製の小盾を括り付けている。また、腰には一対の剣も下げている。更には肩付近にショートソードと思われる長さの鞘付きの剣まで。状況に応じて各種刀剣を使い分けて戦うのだろう。

「ああ? 別に見せる見せないはこっちの自由だろうが? お前に突っかかられる覚えはねえな」

 ジャグドも反論する。口元が明らかに不愉快になっている感じを漂わせているな。というか、こんなやり取りがあるって事はある程度お互いを知っているんだろう。

「そりゃそうだがよ、普段は対戦を公開しているお前がなんでこの黒いぼろっちい外套を身にまとっている奴に限って非公開にしやがるんだってのが気になんのよ。こんなぼろっちい、いやぼろく見えるようにしてるのかも知れねえが、どのみち格好だけつけている奴にそんな特別待遇をする理由ってのが分からねえんだよ」

 んー、まあ彼からしてみたらそうなんだろうな。ジャグドに限らずグラッドパーティはワンモア内ならだれでも知っている。そんなメンバーの一人であるジャグドが自分との対戦だけ非公開にするとなったら、疑問を持つのも無理のない話ではあるのだろう。さて、ジャグドはどう返すのか。

「は、その外套がただのぼろに見えてるって時点でお前の眼力は知れたもんだな。こいつ相手は普段は見せたくねえ手の内を明かして戦わなきゃ勝てねえから非公開にすんだよ。最終日一週間前にある対人大会まで、見せたくねえ手札を使いてえからな」

 なんて事をジャグドが言ったせいで、男性プレイヤーからの睨みによる圧がぐっと高まった。まあ、うん、それでも怖いって程ではない。師匠達や今までの強敵、悪党などに比べればかわいい物である。

「ジャグド、お前がそこまで言うか……なら試させろ。戦ってみればわかんだろ、こいつが強いか弱いか……その戦いは公開させてもらうぞ?」

 なんか、勝手にこの男性プレイヤーとPvPするって話になってしまってる。でも、周囲の人達からも同意するようなヤジがいくつも飛び交い始めている。こういう空気を作られると、拒否する事は難しいな。拒否したらしたである事ない事言いふらすってのも、この手のヤジを飛ばす連中がよくやる事だ。そうなると本当に面倒なんだよ。

「それはアース次第だがな。まあ、アースが良いっていうなら公開にして戦ってみりゃ良いだろ。恥をかくのはお前の方だと思うがな?」

 今度は口元でニヤッと笑いながら男性プレイヤーに言葉を返すジャグド。そして自分の右肩に軽く手を置いてこう続けたのだ。

「ま、お前なら余裕で勝てる相手だ。面倒だとは思うが一回だけ軽く遊んでやってくれねえか? こいつはこう言い出すとなかなか引かねえ。俺ももうこいつとは五〇回以上戦ってるが、そのほとんどがこいつが引かねえから仕方なく遊んでやったってだけだしな」

 そんなジャグドの挑発に、分かりやすく男性プレイヤーが怒りの感情をあらわにした。顔も真っ赤になっているし、こりゃ一戦交えないと絶対引かないな。ま、多少ログアウト時間が遅れても今日は大丈夫だし、今回はPvPを受けた方がスムーズに事が進むか。

「アースって言ったか? で、俺と戦う度胸はあるか?」「分かりました、PvPを受けます」

 男性プレイヤーの確認に自分が同意したことで周囲からは色んな声を飛び交う。口笛を吹いてはやし立ててる人も数人いそうだな。聞こえてくる口笛の音が少しづつ違うように聞こえるし。そして男性プレイヤーが設定したルールは……地形変化なし、デスマッチ、公開であった。地形は平たんでどちらかのHPがなくなるまで戦う、一般的なルールだな。なので自分はそれにOKと返し、PvPエリアに送られる。

「さて、ジャグドがあそこまで言うお前の腕前って奴を、見せてもらおうか!」「ご期待に添えると良いのですが」

 両手剣をゆっくりと引き抜きながら言葉に、こちらも左手に八岐の月、左手にレガリオンと言う構えを取りながら返答する。だが、その自分の姿を見て男性プレイヤーが口を開く。

「な? なんじゃそりゃ? 変な弓に……双刃だ? まるでおもちゃじゃねえか。そんなんで戦えんのかよ?」

 多少の嘲笑交じりの言葉だったが、自分は何も答えず構えてカウントダウンの開始を待つだけ。向こうからしてみればおもちゃかも知れないが、幾多の戦いを共にしてきた相棒たちだ。その相棒たちを侮辱するのであれば──刃で応えるのみ。

「──なんだよ? 急に圧を感じる? まさか、この圧はお前の持っている何らかのスキルか?」

 なんて事を男性プレイヤーが言って来るが自分は応えない。なお、そんな相手にい圧を掛けるスキルは持っていないが。それでも圧を感じると言うのであれば……相棒たちをコケにしてくれた怒りが漏れたのかもしれない。そんな中、カウントダウンが始まる。三、二、一、fight!

 自分が一歩前に足を踏み出した直後、男性プレイヤーはその場から動かず両手剣で突きのモーションを取る。遥かに間合いが遠いが、闘気を飛ばす系統の飛び道具であれば十分射程範囲内。もしくは突進してくるのかもしれない。なんにせよ、注意を払う。が、向こうは全く動かないのでこちらから近づく事にした。

 六歩ほどゆっくりと歩いたタイミングだろうか。男性プレイヤーの両手剣が赤と青の二色が入り乱れた風のような物を纏った──瞬間、高速での突進突きが飛んできた。こちらのHPを一発で消し飛ばして見せようと言った気迫もうかがえる。だが、悲しいかな、今の自分にはこの早い突きであっても見えてしまっている。

 一瞬ジャンプして回避しようかとも思ったが、その考えをすぐに放棄して突きの切っ先が自分の間合いに入る瞬間を待ち構え、入った瞬間レガリオンでその切っ先に合わせてこちらの突きを合わせた。瞬間、赤と青の二色の風が自分の周囲に吹き荒れる──しかしその風はまるで自分をよけていくかのように飛んでいき、霧散した。

「な、なに!?」

 まさか突きを避けるのでもなくガードするのでもなく、切っ先に突きを合わせて止めると言うのは完全に想定外だったのだろう。驚愕の表情が男性プレイヤーに浮かんでいた。だが、彼の動きが止まっていたのはほんの僅か。両手剣から手を放し、素早く後ろに下がりながら腰に下げていた一対の剣を抜き放った。当然両手剣は大きな音を立てて地面に転がる。

 だが、この捨てた両手剣に何か仕込みをしている可能性はある。なので、自分は両手剣を軽く蹴って一八〇度回転させる。これで柄の部分が自分の前に来たので、相手に向かって両手剣の柄を蹴り飛ばす事で攻撃と同時に両手剣を自分の周辺から排除した。相手は飛んできた両手剣を横に飛びのく事で回避している。

「っち、次から次へと予想外の動きを……」

 そんなぼやきが聞こえてくる。でもこっちとしては可能性を考慮して問題を排除しただけなんだけどな。相手の武器を自分の足元に転がしておくなんて不安でしょうがないし。自分自身もやっているから言える事なんだが、武器にどんな仕込みをしているのか分かったもんじゃないからね。さて、続けようか。
しおりを挟む
感想 4,732

あなたにおすすめの小説

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。