とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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ジャグドとのPVPの前に、待ったが入る

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 ジャグドが対人戦の設定をしているが、途中でこちらに振り返りこう一言告げてきた。「地形などの設定はなしで、対戦は非公開でいいんだろ?」と。非公開の方が助かるので、自分は頷いた。だがそれに反対するひときわ大きな声が上がった。当然自分もジャグドも、周囲の人もそちらの方に視線が向いていまう。

「おいおいおい、ジャグド。そりゃねえだろう。なんで今回に限って非公開にすんだよ? いつもは堂々と見せてくれてるじゃねえか」

 そう言いながら、大勢の人をかき分けつつ自分とジャグドの前に姿を見せたのは一人の男性プレイヤー。軽鎧を着込み背中に大剣を背負い、左手には金属製の小盾を括り付けている。また、腰には一対の剣も下げている。更には肩付近にショートソードと思われる長さの鞘付きの剣まで。状況に応じて各種刀剣を使い分けて戦うのだろう。

「ああ? 別に見せる見せないはこっちの自由だろうが? お前に突っかかられる覚えはねえな」

 ジャグドも反論する。口元が明らかに不愉快になっている感じを漂わせているな。というか、こんなやり取りがあるって事はある程度お互いを知っているんだろう。

「そりゃそうだがよ、普段は対戦を公開しているお前がなんでこの黒いぼろっちい外套を身にまとっている奴に限って非公開にしやがるんだってのが気になんのよ。こんなぼろっちい、いやぼろく見えるようにしてるのかも知れねえが、どのみち格好だけつけている奴にそんな特別待遇をする理由ってのが分からねえんだよ」

 んー、まあ彼からしてみたらそうなんだろうな。ジャグドに限らずグラッドパーティはワンモア内ならだれでも知っている。そんなメンバーの一人であるジャグドが自分との対戦だけ非公開にするとなったら、疑問を持つのも無理のない話ではあるのだろう。さて、ジャグドはどう返すのか。

「は、その外套がただのぼろに見えてるって時点でお前の眼力は知れたもんだな。こいつ相手は普段は見せたくねえ手の内を明かして戦わなきゃ勝てねえから非公開にすんだよ。最終日一週間前にある対人大会まで、見せたくねえ手札を使いてえからな」

 なんて事をジャグドが言ったせいで、男性プレイヤーからの睨みによる圧がぐっと高まった。まあ、うん、それでも怖いって程ではない。師匠達や今までの強敵、悪党などに比べればかわいい物である。

「ジャグド、お前がそこまで言うか……なら試させろ。戦ってみればわかんだろ、こいつが強いか弱いか……その戦いは公開させてもらうぞ?」

 なんか、勝手にこの男性プレイヤーとPvPするって話になってしまってる。でも、周囲の人達からも同意するようなヤジがいくつも飛び交い始めている。こういう空気を作られると、拒否する事は難しいな。拒否したらしたである事ない事言いふらすってのも、この手のヤジを飛ばす連中がよくやる事だ。そうなると本当に面倒なんだよ。

「それはアース次第だがな。まあ、アースが良いっていうなら公開にして戦ってみりゃ良いだろ。恥をかくのはお前の方だと思うがな?」

 今度は口元でニヤッと笑いながら男性プレイヤーに言葉を返すジャグド。そして自分の右肩に軽く手を置いてこう続けたのだ。

「ま、お前なら余裕で勝てる相手だ。面倒だとは思うが一回だけ軽く遊んでやってくれねえか? こいつはこう言い出すとなかなか引かねえ。俺ももうこいつとは五〇回以上戦ってるが、そのほとんどがこいつが引かねえから仕方なく遊んでやったってだけだしな」

 そんなジャグドの挑発に、分かりやすく男性プレイヤーが怒りの感情をあらわにした。顔も真っ赤になっているし、こりゃ一戦交えないと絶対引かないな。ま、多少ログアウト時間が遅れても今日は大丈夫だし、今回はPvPを受けた方がスムーズに事が進むか。

「アースって言ったか? で、俺と戦う度胸はあるか?」「分かりました、PvPを受けます」

 男性プレイヤーの確認に自分が同意したことで周囲からは色んな声を飛び交う。口笛を吹いてはやし立ててる人も数人いそうだな。聞こえてくる口笛の音が少しづつ違うように聞こえるし。そして男性プレイヤーが設定したルールは……地形変化なし、デスマッチ、公開であった。地形は平たんでどちらかのHPがなくなるまで戦う、一般的なルールだな。なので自分はそれにOKと返し、PvPエリアに送られる。

「さて、ジャグドがあそこまで言うお前の腕前って奴を、見せてもらおうか!」「ご期待に添えると良いのですが」

 両手剣をゆっくりと引き抜きながら言葉に、こちらも左手に八岐の月、左手にレガリオンと言う構えを取りながら返答する。だが、その自分の姿を見て男性プレイヤーが口を開く。

「な? なんじゃそりゃ? 変な弓に……双刃だ? まるでおもちゃじゃねえか。そんなんで戦えんのかよ?」

 多少の嘲笑交じりの言葉だったが、自分は何も答えず構えてカウントダウンの開始を待つだけ。向こうからしてみればおもちゃかも知れないが、幾多の戦いを共にしてきた相棒たちだ。その相棒たちを侮辱するのであれば──刃で応えるのみ。

「──なんだよ? 急に圧を感じる? まさか、この圧はお前の持っている何らかのスキルか?」

 なんて事を男性プレイヤーが言って来るが自分は応えない。なお、そんな相手にい圧を掛けるスキルは持っていないが。それでも圧を感じると言うのであれば……相棒たちをコケにしてくれた怒りが漏れたのかもしれない。そんな中、カウントダウンが始まる。三、二、一、fight!

 自分が一歩前に足を踏み出した直後、男性プレイヤーはその場から動かず両手剣で突きのモーションを取る。遥かに間合いが遠いが、闘気を飛ばす系統の飛び道具であれば十分射程範囲内。もしくは突進してくるのかもしれない。なんにせよ、注意を払う。が、向こうは全く動かないのでこちらから近づく事にした。

 六歩ほどゆっくりと歩いたタイミングだろうか。男性プレイヤーの両手剣が赤と青の二色が入り乱れた風のような物を纏った──瞬間、高速での突進突きが飛んできた。こちらのHPを一発で消し飛ばして見せようと言った気迫もうかがえる。だが、悲しいかな、今の自分にはこの早い突きであっても見えてしまっている。

 一瞬ジャンプして回避しようかとも思ったが、その考えをすぐに放棄して突きの切っ先が自分の間合いに入る瞬間を待ち構え、入った瞬間レガリオンでその切っ先に合わせてこちらの突きを合わせた。瞬間、赤と青の二色の風が自分の周囲に吹き荒れる──しかしその風はまるで自分をよけていくかのように飛んでいき、霧散した。

「な、なに!?」

 まさか突きを避けるのでもなくガードするのでもなく、切っ先に突きを合わせて止めると言うのは完全に想定外だったのだろう。驚愕の表情が男性プレイヤーに浮かんでいた。だが、彼の動きが止まっていたのはほんの僅か。両手剣から手を放し、素早く後ろに下がりながら腰に下げていた一対の剣を抜き放った。当然両手剣は大きな音を立てて地面に転がる。

 だが、この捨てた両手剣に何か仕込みをしている可能性はある。なので、自分は両手剣を軽く蹴って一八〇度回転させる。これで柄の部分が自分の前に来たので、相手に向かって両手剣の柄を蹴り飛ばす事で攻撃と同時に両手剣を自分の周辺から排除した。相手は飛んできた両手剣を横に飛びのく事で回避している。

「っち、次から次へと予想外の動きを……」

 そんなぼやきが聞こえてくる。でもこっちとしては可能性を考慮して問題を排除しただけなんだけどな。相手の武器を自分の足元に転がしておくなんて不安でしょうがないし。自分自身もやっているから言える事なんだが、武器にどんな仕込みをしているのか分かったもんじゃないからね。さて、続けようか。
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