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親方達が生み出した渾身の一品

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 翌日、仕事を終えてログインした自分は早速親方の工房へ。そんな自分を出迎えたのは、透明なケースに入れられて飾られている二つの小盾だった。一方は鈍く銀色に光る楕円形の盾。ただ、盾の先端部に一対の爪みたいなものがついている。そしてもう一方は艶のある黒い盾。こちらはアイロンの底みたいな形をしている。

(これは親方の作品だな。新作か? だがこの盾が光を受けて輝く柾は一種の芸術品のようにも見えてくるな)

 そんな感想を胸に盾を見ていると声をかけられた。声の主は一緒にパイルバンカーを作るためにあれこれやったストラスだ。

「アースさん、お待たせしました。アースさんが見ているその二つの盾が完成品ですよ。銀色の盾の方がハサミを仕込んだもの、もう片方の黒い盾がパイルバンカーを仕込んだ盾です。今親方を呼んでくるんで、少しだけ待っててくださいよ」

 そう言い残して、ストラスは工房の奥へと歩いて行ってしまった。まあ、彼が待っていてくれというのだから素直に待つことにしよう。それから数分後、親方がストラスと一緒に姿を見せた。

「よう、アース。今回は世話になったな」「親方、それはこちらのセリフですよ。色々と物作りが出来て楽しかったんですから」

 親方の言葉に、自分はそう返事を返した。しかし、世話になったという言葉の真意が分からない。何に対してだろうか?

「アースのお陰で、注文を受けたハサミを仕込んだ盾という依頼をこなすことが出来た。で、だ。その礼と言っちゃなんだが……アース専用に調整した俺が作れる最高品質の物を用意させてもらった。それがそこに飾ってある盾だ。銀色の方はハサミを仕込んだ盾、黒い方がパイルバンカーを仕込んだ盾となっている。使い方はアースなら分かるよな」

 そりゃまあ、設計にもろに関わったというか土台を作ったのは自分なのだから。しかし、ハサミを仕込んだ方の盾にはなぜあのような引っ掻くことが出来る爪を付けたんだろうか? と親方に問いかけてみるとカモフラージュのため、だそうだ。

「素直にトリガーとなる部分の前にガードを付けるだけでも良かったのかもしれんが、逆にそれを見ればあの盾は何かある、と勘が良い奴なら気が付くだろう。 だからそれをさらに隠すためととっさの反撃の手段を増やすという目的で爪を付けさせてもらった。あれならばガード部分が更に爪で隠されるので見切りにくくなるだろうからな」

 なるほど、そう言った目的が。確かに理に適っているし、仕込まれているハサミが暗器としての役目を果たしやすくなる。

「後、アースが頭をひねって必死で土台を作ってくれたから伝えておくが……売りに出す奴はかなりデチューンしている。それでも相応の武器としての仕事はしてくれるはずだがな──正直、俺達が本気で作ったあのハサミを仕込んだ盾、俺達はハイドシザーズシールドと呼ぶことにしたが、正直能力が市場に流すのはためらわれた。剣とか大太刀はその見た目から武器だと分かるが、ハイドシザーズシールドはそうじゃない。暗殺に使われでもしたら大変だ」

 それは、自分も思っていた事だ。注文した人がどう言う意図で頼んだかは分からないが、そう言った暗い事に使われるのは流石に制作者の一人として御免被りたい。

「ま、モンスターとの戦闘に使うのであれば十分な性能は持たせてあるから依頼主から文句を貰う事は無いだろう。なんにせよ、これで完成して売りに出せる。看板に傷が付かずにすんで助かった。だから、アースには俺達工房が全力を挙げて作ったこの一対の盾を受け取って欲しい。ドワーフが作った武具にだって、見劣りしない出来栄えになっている事は保証するぞ」

 話し終えた親方は、静かにケースを外して盾を両方取り出し、自分に渡してきた。これは受け取ろう。報酬でもあり、親方達が自分になら渡していいと信用してくれた証でもある。受け取らなかったら失礼極まりないだろう。普段使っているクラネス師匠のシールドを外してアイテムボックスに仕舞い、銀色の盾を右腕に、黒い盾を左腕に装着した。さて、では詳細を見て行こう。


 ハイドシザーズシールド・真打

 ブラックス工房の全員が全てを込めて作り上げた世界にただ一つしかない小盾。射出できるハサミが仕込まれており、盾を平行に構えてから発射する事で少し離れた相手を容赦なく両断する事が出来る。

 種類:小盾 制作評価 10+α ユニーク

 DEF+50

 特殊能力 無慈悲なハサミ 相手の防御力を完全に無視した切断攻撃、ハサミ自体のATKは1627あるとして計算される。ただし、挟み込めないほど大きなものに対しては無効。また、相手の首に対して特攻がかかる。

      一対の爪 盾の前部に付けられている爪。切れ味が鋭く相手の防御力の30%を無視する。爪自体のATKは350あるとして計算される。

      耐久力増加極大 耐久力自然回復 防御成功時ダメージ軽減大 重量軽減大 物理的な攻撃を除く攻撃に対しての拡散能力 強奪無効化 他者からの鑑定不可 トレード不可


 ツインパイルバンカーシールド・真打

 ブラックス工房の全員が全てを込めて作り上げた世界にただ一つしかない小盾。細めながらも相手の防御を貫いて爆発する杭を発射する機構が仕込まれている。

 種類:小盾 制作評価 10+α ユニーク

 DEF+50

 特殊能力 一対パイルバンカー 相手の装甲を無視して突き刺さり、爆発する杭を2本同時に射出できる。ただし射程は短く、一度発動したら専用の杭を再び所定の場所に入れないと再使用できない。杭1本のATKは2682あるとして計算される。

      耐久力増加極大 耐久力自然回復 防御成功時ダメージ軽減大 重量軽減中 物理的な攻撃を除く攻撃に対しての拡散能力 強奪無効化 他者からの鑑定不可 トレード不可


 防御力こそ小盾の範疇だけど……仕込んである武器の火力は危険極まりない。これは確かにばらまく訳にはいかないな……シザースシールドの方は首刎ね能力をしれっと備えているし、パイルバンカーの方も更なる威力アップが図られている。普通に危険物だよ……で、強奪対策と鑑定、トレードも出来ないようになっている、と。これを見れば、欲しがる人は多数出るだろうしな。

(対人でもちょっと、使えないかも。ブルーカラーの面々に見せるのが精いっぱい、かな?)

 最近のPvPでは、録画されている事がデフォとなっているので大勢の人の目に映る機会が増えている。そんな中こんな武器を使ってみろ……絶対騒がれる。入手先をしつこく聞き出そうとしてくるプレイヤーなんか山となって出てくる事は容易く予想できるし、そうなったら親方にも迷惑が掛かりかねない。そう考えていたんだが、親方から出た言葉は全く違った。

「大事にしまい込むなんて事はせずに、ガンガン使ってくれ。モンスター相手だろうが対人だろうが、そいつらの性能を引き出して暴れまわってやれ。そうしてくれた方が、俺達も嬉しい。しまい込むために、飾る為に作った訳じゃないん赤らよ」

 むしろ使えと、そう言われてしまった。良いのだろうか? 親方の作品だと、見抜く人は出ないだろうか? そう自分は不安になって問いかけたのだが、親方は笑うだけだった。

「別にいいさ、バレたらバレたで。大半のプレイヤーは塔に上ったから俺達の事を追いかけられないんだからよ。残りの連中は、どうとでも撒く事が出来るさ。この工房みたいにこっちの手札はまだまだある」

 との事だった。こちらの様子をうかがっているお弟子さん達も皆が頷いていたので、それは嘘でも強がりでも何でもないのだろう。

「それにな、アースに一度ぐらい俺達の作った武器を振るってもらいたかったってのもある。アースの作る武器は色々おかしい所もあったが、だからこそこっちも色々な刺激を受けて今まで向上心を失わずにやってこれたって部分があるのは確かだ。そんな奴に、最後ぐらい俺達が生み出せる最高の装備の一つを身に着けて戦ってみてほかったのさ」

 そう言う思いも、この一対の盾には込められていたという訳だ。ならば、使わないという選択肢はないか。今後はクラネス師匠が作ってくれた盾も交えて、盾同士の相性や組み合わせを変えての戦闘スタイルの見直しや改善を図ってもいいかもしれない。

「それとな、俺達は仕事がすんだからここら辺で全員が地上に戻る。だから、アースとはしばらくさよならだ。明日ここに来ても何もないからな、忘れない様にしてくれ。まあ、勘のいい奴が気が付き始めてうろうろし始めたってのもあるが……な。で、最後にカーネリアン! 持ってこい」「はーい」

 カーネリアンさんが親方の言葉に従って持ってきたのは、工具箱の様な金属製の箱だった。その中には、びっしりとツインパイルバンカーで使う杭が収められていた。

「限界まで詰め込んだから、たぶん持つと思うわ。残された日の中で一日一〇〇発打っても大丈夫! って計算だから。でももし万が一足りなくなったら、次こっちに上がってきた時に補充してあげる。だから気にせずバンバン使ってね」

 との事だった。一日一〇〇発って、ずいぶんと豪快過ぎる計算をしたなぁ……が、残弾を気にせず使いまくってもいいというのは心強い。自分は親方達に向かって頭を下げた。

「素晴らしい物を、ありがとうございます。後一か月弱しかいられないこの世界ですが、遠慮なく使わせていただきます」

 自分の言葉に、親方やお弟子さん達からは励ましの言葉を頂いた。その後親方やお弟子さん達の前で両方の盾の機能を使って問題なく動く事を皆で確認し合ってからお別れとなった。自分が工房を出たら、すぐに地上に戻って次の仕事にかかるのだそうだ。親方達も大変だな……そんな人たちが作ってくれたこの盾、大事にしつつもしっかりと使って行こう。内心でそう決意を固めつつ、工房を後にした。
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