とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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 皆で注文した肉もかなり減り、お開きになる時間が近くなって来た。注文しようと思えばできるが、引き伸ばしてもしょうがないもんな。

「そういや、アースは今何やってるんだ? 白の塔で訓練をやってるって感じなのか? 少し前に対戦をやったのは見たから知ってるけどよ」

 と、ここでツヴァイからこちらの近況を教えてくれという要望が出てきた。親方達の事だけは隠して話すか……自分もたいがい隠し事多いよな──ミリーの事を言えないぞ。

「ああ、まあ訓練もしてるけど、最後の趣味武器作りとかもやってる。それが完成したら、そいつのテストもしながら最終調整に入っていくって感じかな。今から黒の塔にチャレンジするって気力は流石にないし」

 初めから両方の塔を制覇するなんて考えは全くない。そもそも両方の塔を制覇できてるツヴァイ達がおかしいのであって、普通は片方だけやるもの。

「流石に今から黒の塔を攻略するのは無理でしょうねぇ。時間が足りませんし……仮に私達が手伝ったとしても、良い所五〇〇階ぐらいまで行っておしまい、でしょうか」

 カザミネが自分の言葉に頷きながらそんな言葉をくれた。確かにブルーカラーの力を借りても一か月弱ならそれぐらいが限界だろう。五〇〇階という数字も大きなトラブルが無ければの話であって、もし試練にとんでもない物がやってきたら足止めを喰らう分進める階層は減る。そして、自分に大きなトラブルが無く登れるなんて予想は立てられない。今までが今までなのだから。

「ボクとしては趣味武器って方がきになるかなー? アース君の使う武器は一般的な物から見るとかなりかけ離れているところが多いからねー。もし内緒にするつもりがないなら教えてくれないかなー?」

 と、武器の牢に食いついてきたのはロナちゃん。まあ、片方は教えても良いか。もう一つの方は……とりあえずまだ伏せておこう。

「パイルバンカー」「え?」「だからパイルバンカー。腕に括り付けて、近距離でトリガーを引くと起動して──って近い近い近い!? 離れろ!」

 自分の返答にロナちゃんがハトが豆鉄砲を食ったような返答を返してきたので、もう一度説明を交えてパイルバンカーを作ったと言ったとたん……男性陣にプラスして、ロナちゃんとカナさんまでもが詰め寄ってきたのだ。お陰で自分の体がかなり圧迫される形となり、かなり苦しかった。

「ちょっとまて、パイルバンカーってあれだろ? メカ物に出てくるお約束の射程短い、扱いずらい、しかし当たれば大ダメージっていうあの」「それで間違いないよ。もちろんワンモア製なので色々と違う所はあるけど、杭を打ち出して相手を貫くって所は一緒だ」

 レイジの言葉に、自分は肯定する。レイジも結構メカ物好きなのだろうな。でなければこんな言葉がすらすらとは出てこない。

「見てみたいのですが──」「今は無理。まだ仕上げ切れていない。動作確認をしたのは、試作品の方だから。そっちは壊れるまでテストしたから動かせないよ」

 カナさんの言葉に自分はそう返答を返した。この返答にがっくりと肩を落とすカナさん。カナさんの実家は武道を教える道場だったと記憶しているが、こういうのも好きなのか。パイルバンカーのロマンの前には男女の性別など些細な事だと言われれば、個人的には納得するけど。

「アース、作ろうと思ったのはやっぱり空の戦いが切っ掛けか?」「うーん、どうだろう? それが切っ掛けとは言えないけど、無意識にあそこの戦いで見た物の影響は受けていたのかもしれない」

 ツヴァイが聞いてきたのは、有翼人の戦いで自分が搭乗したパワードスーツや、敵として出てきたメカの事だろう。もし有翼人があんな悪党でなかったのならば、今のプレイヤーが使う装備にそう言ったものはかなり取り入れられていただろうな。残念な話だ、今思い返しても。

(まあ、どう考えても連中と友好的になる展開に持っていく事は不可能だったんだけどな。昔からあそこで滅ぶまで、散々世界の人々に対してやらかしてきた連中だから。比較的まともだった人達は、殺されるか奴隷にされる歴史を紡いできていたからな)

 挙句の果てに、洗脳を用いての地上の人々を完全支配する方向で連中は動いていた。彼等とは絶対に戦って、そしてどちらから滅ぶ以外の結末は無かった。彼等が滅んだあと、貸し出されていた装備は全て役立たずのごみになってしまっていたというのは当時の掲示板でも見た情報だ。そしてパワードスーツの中に自分の脳を残した彼女は、その力が悪用されないようにと己自身を解体して消えていった。そうして、有翼人の技術は実質完全に消失する形となった。

(でも、それで良かった、あれは流石に危険すぎる。残しておくべきものじゃなかった。残しておいたら、またいつか同じことをやる奴は必ず現れる)

 だからもったいない、とは思わない。あれで良かったのだと当時も、そして今でも思っている。

「しかし、やっぱり完成品を見たいですね。アースさん、完成したらぜひ見せて頂けないでしょうか? 本当にワンモアでパイルバンカーが動くのか、自分の目で確かめたいのです」

 カザミネの言葉に、自分は頷いた。完成品が出来たら、ブルーカラーの誰かにウィスパーチャットで教えれば彼等の中で連絡が自然と行き渡るだろう。

「新しい楽しみが出来たな。早く動くところを見てみたいぜ」「私にはさっぱりわかりませんわ? 様はただの杭打ち機でしょう? それになぜそこまで熱をあげられるのか」「まあまあエリザちゃん、男性とはそういうモノなんですよ」

 ツヴァイの言葉にエリザが心底理解できないという表情を浮かべ、ミリーがフォローする。確かに言われてしまえば杭打ち機でしかないもんなぁ。でも、あれは理屈じゃない謎の熱さがあるんだよ。こればっかりは言葉でどうこう言っても伝わるものじゃない。見て、感じてもらうしかないのである。

「っと、そろそろ良い時間か。ログアウトしないとまずいかも知れないな」

 レイジがそう口にした通り、時間は午後一一時を数分ほど回っていた。自分はもうログアウトしないといけないタイミングだろう、明日も仕事がある。

「だな、ここら辺でお開きにするか。でも、またやりたいな」

 ツヴァイの言葉に皆が頷いて、代金を各自支払ってから外に出た。そこからは皆一緒にログアウトするために宿屋へと向かう。別れ際にもう一度挨拶を交わして宿屋の中へ。

(ひさしぶりに長くツヴァイ達と喋ったな。こう言う事も、後一か月弱でできなくなる、か)

 ログアウトして布団の中へと入り、目を閉じながらそんな事を思う。いよいよ終わりが迫ってきていると言う事を改めて強く認識したが……ならばそのわずかな時間を目いっぱい楽しむべきだ。惜しみつつも別れる、という経験は自分にはあまりない。だからこそ、残された時間は大切にしたい。

(そして、パイルバンカーとハサミを仕込んだシールドの方も完成間近だ。そっちの方にまずは集中だな)

 そこまで考えた自分は、静かに眠りに落ちて行った。
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