とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
上 下
661 / 726
連載

ブルーカラーと食事会へ

しおりを挟む
 自分がある程度近づくと向こうも気が付いたらしく手をあげて挨拶をしてきた。こちらも手をあげてそれに応えつつ近づく。

「よう、元気そうだな」「ツヴァイ達もな。塔での戦闘をした帰りかな?」「まあな、今日はこれぐらいで引き揚げて残り時間は各自自由にって感じだ」

 ツヴァイ達は毎日白の塔と黒の塔を交互に入っているそうで、少しでも最後の戦いの時を迎えるまでに強くなっておきたいと言う事の様だった。

「スキルもほぼ限界まで上がってるんだが、まだ一部が上がり切らなくてな」「お互い、上げにくいスキルのレベル上げが最近は主流ですね」

 とは、レイジとカザミネの言葉だ。最後の戦いまでにすべてのスキルレベルを限界まで上げておきたいと気う気持ちはよく分かる。次の戦いが文字通り再チャレンジできない一発勝負、その戦いを前にしてやり残しが多くある状態じゃ不安しか残らないもんなぁ。

「それに加えて各自の連携と、戦闘技術の向上も狙っています」「ただの力押しなんて……あの存在には通用しないでしょうから」

 と、カナさんとエリザが言葉を続ける。そうだな……あの時話をしただけでもそれなりの圧を感じた。ましてや最後の相手ともなれば、ただの力押しで勝てる相手なんてことはここまでワンモアをプレイしてきた人ならまず思わないだろう。

「ところでアース君は何をしてるの?」「うーん、こちらもやり残しをしないように右往左往しながらあれこれ手を伸ばして色々やってるって感じかな。戦闘だけじゃないからなぁ」

 ロナの質問にはこう返答した。流石に親方達の存在を口にするわけにはいかない。親方達はここにはいない存在として扱わないと……もし隠し工房にいるとバレたら、また面倒な事になりかねない。塔に登り始める直前のごたごたを、もう一度親方やお弟子さん達にやらせるような事になったら迷惑どころじゃないし。

「アースは色々やれるからなぁ。確かに俺達みたいにひたすら戦闘技術を磨いていればいいって訳じゃないしなぁ」「最終決戦に向けての準備は、ある意味我々より大変でしょうね」

 ツヴァイ達も自分の言葉に深く探りを入れてくるような事はなく、ツヴァイとカザミネの言葉にうなずいていた。ま、向こうもこちらが言えない事などいろいろあると長年の付き合いで察しているからかもしれないが。

「でもさ、久々にこうして顔を直接合わせたんだし一緒に食事でもしない? 雑談でも交わしながらさ」「そうだな、たまには良いだろ。アースも時間は大丈夫だよな」「ええ、大丈夫です」

 ロナちゃんの言葉にレイジが続き、自分は時間の確認に問題なしの意味を組めて言葉を返しながらうなずいた。確かにここ久しく顔を合わせた時間がなかったような気がするし、今日はこれ以上やるべき事も無いから良いだろう。ワンモアが終われば恐らくこうやって会話を交わす事もなくなるのだから、今だけでも仲良くしておこう。

「じゃあ、どこにしましょうか? おすすめの所ってありますか?」「肉料理系なら、最近お店を出している『オークキッチン』という所が美味かったぜ。ワンモア世界なら夜に肉を食っても問題は無いから、肉が良いならおすすめだな」

 コーンポタージュさんの言葉に、肉料理を進めてきたのはツヴァイ。こんな時間にリアルでお肉を食べたら色々な意味で大変だが、ワンモア世界ならそう言う心配はないからね。

「魚料理が良いのでしたら、釣りギルドが出店している『寿司処・笹船』というお店が良かったと記憶しています。寿司だけでなく刺身、魚介を使った汁物なども取り揃えていますよ」

 これはカナさんのおすすめだ。ふーむ、そっちもおいしそうだな。過去、サーズが開かれた直後に釣りギルドのメンバーの一人にお世話になった記憶がよみがえる。そして、一匹も魚が釣れなかった記憶も。唯一釣り上げたのは人魚だったしなぁ……人魚は流石に釣果とは言えない。あの時人後から釣りの素養が全くないとまで断言されて、釣りはそれっきりになったんだよな。

「ハンバーガーとか、焼きそばとか……そう言うジャンクっぽい奴が食べたいなら『mixed up』ってお店があったね。名前はごちゃまぜを英語にしてるみたいだね。そこならジャンク系統の物は一通りそろってるよ」

 と、これはロナちゃんからのおすすめだ。ジャンク物か……個人的にあまりハンバーガーとかフライドポテトってお店で買って食べた経験があんまりにないんだよね。不味そう、って思っている訳じゃないんだけど、何故か手を伸ばしにくいというか足が向かないというか。

「そば、うどん系ならやはり『有凪』でしょうね。出汁もいいし、麺にコシもあって満足できるお店です。ただ大勢で行くにはちょっと向かないかも知れませんが」

 これはカザミネのおすすめか。確かにカザミネの浪人風な外見からすればそばやうどんを食べる姿は様になっているかもしれない。しかし、結構食べ物系統のスキルを取ってる人が店を出しているんだな。普段は素通りするばかりで興味を持たなかったから、これだけ色々とお店が出ていること自体を知らなかった。

 そしてこれだけお店をあげられると、どこに行こうかの意見も割れる。なお自分はカナさんのおすすめしてきた『寿司処・笹舟』に票を入れている。そして票が少なかったお店を削って残ったのが『オークキッチン』と『寿司処・笹舟』だった。

「じゃ、これ以上時間を使いたくねえからコインを弾いて決めようぜ? 別に肉側でも寿司側でも、絶対そっちじゃなきゃ嫌だって事は無いだろ?」

 ツヴァイの言葉に彼を除く全員が頷いた。自分も開くまで行くならば~こっちかな? って感じで絶対に寿司じゃなきゃ嫌だ! と言う訳ではない。そしてそれは他のメンバーも同じようだった。ツヴァイが全員の意思を確認してから一枚のコインを取り出し、こっちが表、こっちを裏とすると全員に宣言。

「表なら肉、裏なら寿司。じゃあ行くぞ?」

 ツヴァイがコインを右手の親指で弾き、右手の甲部分で受け止めつつ左手で押さえる。そしてコインは──表を出した。

「じゃあ、肉料理だ。安心してくれ、あそこは脂っこくない肉もいろいろ揃えてる。脂っこいのが苦手な人はそれを選んでくれればいい」

 と言う訳で、肉料理のお店で食事をしながら雑談でも交わそうと言う事が決まって早速移動。ツヴァイの案内でたどり着いたお店は、なんというか焼き肉のお店みたいな感じだった。幾つもの部屋があり、その部屋の中にテーブルと肉を焼く為の設備。会社の同僚と一緒に行った事がある焼き肉店の内装にかなり似ていた。

「じゃ、大部屋で」「かしこまりました、ご案内しまーす」

 対応までほとんどそのままじゃないか……なんにせよ、案内された部屋は十分なスペースがあり窮屈さはない。そこで重装備な人はある程度装備をアイテムボックス内に仕舞って身軽になった所でメニューが回されてきた……ここまでリアルに忠実に作ったのか。塔の中だってのに、凝り過ぎじゃないの?

 まあなんにせよメニューを見て……おいおい、ウーロン茶とか普通にあるし。後は各種肉……流石にドラゴン肉はない。流石に仕入れる事は不可能だよな。それでもいろいろあるな、熊肉とか鹿肉とか普通にある。鹿肉は社員旅行に行った先で食べる機会があったが、なかなか旨かったんだよな。後は……うん、ハラミを貰うかなぁ。後タンも。

「注文はお決まりでしょうかー?」「すみませーん、お願いしまーす」

 それから各自色々と注文した。そしてやってきたお肉でテーブルが見事に埋まる。でもこの世界なら食べきれるだろう。リアルだったら、絶対無理だろうなぁ。誰だよカルビ一〇人前とか頼んだ人は。自分は一人分の分量しか頼んでいないぞ。足りなかったら追加注文して、お残しは出さないようにするからだ。

「じゃ、まずはカンパーイ!」「ツヴァイ、やけに手馴れてるわね……」

 ツヴァイの乾杯の音頭に、ノーラがジト目でそう突っ込んだ。ツヴァイって歳幾つなんだっけ? でもなんというか、確かに乾杯の音頭が手馴れてるよなぁ。それはさておき、皆が注文していた飲み物で乾杯をする。なお、アルコールの類は無かったのでジュースとかお茶とかです。

「じゃあ早速……焼きますか!」「この音が良いんだよな」

 ロナちゃんの言葉に、レイジが続く。この二人は最初からこの店に票を入れていた。ロナちゃんのおすすめはジャンクじゃなかったのか? と来る途中で聞いてみたが、そう言うお店もあるという選択肢を上げただけだよーと言われてしまった。まあ、確かに祖素目だと思ったのは個人的な感覚に過ぎなかったからなぁ。ロナちゃんからしてみれば、あくまで選択肢を一つ増やしただけに過ぎなかったのだろう。

 なんにせよ部屋に充満するお肉の焼けるいい音と次第に漂う香り。なお煙は焼いている台の真横にぐるりとついている煙を吸い寄せる装置によって吸い取られている模様……こんなものまで作るとはなぁ。あ、自分もあんまり人のこと言えないや。さて、お肉を焼きながら雑談をしますか。何を話そうかねー。
しおりを挟む
感想 4,741

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。