とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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依頼品を製作開始

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 翌日。早速自分は設計図を書き始めていた。大雑把な形は──盾の中に仕込んだ糸きりハサミを前方に何らかの力で打ち出す。が、その糸きりハサミの中央部分には何らかの制御装置……それはばねでもいいし、スネークソードの刃でもいい。とにかく一定距離以上は前に出ないようにする。

 すると……前に飛び出した糸きりハサミは一定距離で突如中央の繋がっている部分から後ろにグイっと引っ張られるような形になる。そうなるとどうなるか? 前に飛び出した勢いと引っ張られる勢いでハサミ部分が急速に閉じられる──はずだ。その後は引っ張られるままに飛び出した糸きりハサミは盾の中に収納される形としよう。

 ただ、あまりに長射程にはしない方が良いだろう。自分がクラネス師匠から頂いたアンカーの様にはいかないのだから。あくまで短距離、瞬間的に飛び出して一瞬で切り裂いてすかさず戻る形が多分いい。相手に何をさせたのかを理解させないで斬り捨てる武器としての運用がベターだと思う。

 問題は、どうやってハサミ部分を打ち出すかだ。収納の方はまあ参考に出来る物があるから何とかなるが……ハサミの打ち出し方は何とか考え付かなければいけない。一番手っ取り早いのは、クラネス師匠に教わった魔法を動力とした方法か。それをハサミの両端に一つづつ付けて射出する。

 射程を長くすると曲がったりしそうだが、今回の射程は一メートルにも満たない短距離にする予定なのでその点はあまり考えなくていいだろう。思ったようにいかなかったとしてもバランス調整でどうにでもなる。しかし、この方法を取ると生産できるのが自分だけになってしまう。修理もドワーフの皆さんの腕を借りないとならなくなってしまう。

 他は燃料を用いた方法もある。様はジェット噴射のようにするのだ。これならば燃料補充は難しくないし、修理もまあできるだろうけど……機構がなぁ。小さなブースターを作る事になるので重量もちょっとかさんでしまう可能性が出てくる。

 打ち出すだけならと考えると、ハサミ側に機構を積むのではなく盾側に仕込む方法もなくはない。ボウガンの様な機構を作って装填し、スイッチが押される事で射出される。ただ、この場合は一回打つ事に弦を引いて再セットしなければならないという問題が発生する。だが、その一方で弦などが切れない限りは打ち出せるというメリットもまた存在する。

(変にドワーフ技術や燃料等を用いる形よりも、再セットしなければならないという手間を考えても何度も使える方が良いか? 燃料などのコストをカットできるわけだし……弦などの予備を持っておけば、現地でも修繕できる、そう言う方が利便性が良いかもしれない)

 ハサミを打ち出すようにした特別なボウガンを考える。と言っても、矢をハサミに変えて打ち出す仕組みと言う事は散々作ってきた弓の経験も活かせる。ただ、弦だけはそのままって訳にはいかないので……一部に革を張ってハサミのお尻部分を包む感じで。もちろん後ろにはハサミを引っ張る為の機構もあるからそれを邪魔しないようにしなければならないが。

(イメージは出来てきたな……まずは機構のみで作って正常に動くかどうかを確認して……そこから縦などでどう隠しつつ防御力を得ていくか、だな)

 幸い、軽くて頑丈な素材はパイルバンカーの一件でストラスが作ってくれた新しい合金という都合の良いものがある。よくしなり、頑丈な木材もある。外に出かけなくても試作品を作るのに必要な素材は工房内に全てある。ならばあとは作るだけだ。まず、弾丸かつ相手を切り捨てるハサミ部分から作ろうか。

 糸きりばさみが元ではあるが、完全に外見を真似する必要もあるまい。刃部分の長さは糸きりハサミの半分ぐらいでいいだろう……で、ハサミの口の広がりは一五〇度ぐらいか? 大きく口を開けた形で作らないと……こんなものだろうか? 最初の試作品を試してみたところ、ハサミの先端が素直に閉じない。

 力を目いっぱい入れれば先端が閉じる形にはなるが……機構が生み出す力から想像するとちょっと動きが硬すぎる。没だな。なので試作品の二つ目はもうちょっと柔らかく動くように作った訳だが、はい。今度は柔らかすぎました。簡単に閉じられはするのだが、こんなに柔らかいと、打ち出した時の力に負けて裂けてしまいそうだ。

 打ち直し続ける事数回。少しづつ硬さと柔らかさのバランスを考えて改善しながら打ち上げて九回目。ようやく耐久性と柔軟性のバランスがいいかな? と思えるものが打ちあがった。機構が生み出すし力と打ち出された時の衝撃に耐えうるだけの耐久性の両立は必須だ。とりあえずこれを初代試作品として機構に組み込む事にする。

 次は刃の鍛錬だ。八回まで作って失敗したハサミ達は取っておいたので、それらを用いて先端部分を刃にしていく。この刃部分はとにかく切れ味を優先した刀と同じような感覚で打ち上げる必要がある。ロングソードを始めとした重量を持って相手を圧し潰す斬り方は絶対に出来ないのだから。

 刃の鍛錬は六回目までは良い物が作れなかった。七回目にしてようやくまあ、まともかな? という物が出来て──八回目でこの切れ味ならば武器として通用するかもしれないとなり、本番の九回目の刃でそれなりに満足する物が出来た。ただし、それはあくまで試作品の範疇だ。お客様に出すものはもっと斬れ味が良く、相手を容赦なく切断するレベルの物にしなければいけないが。

 そうして出来上がったハサミの大きさは、長さ三〇センチ、刃部分の長さは五センチぐらいのサイズとなった。これが正解かどうかは分からないが、とりあえず今はこのサイズで行く。上手く行かなければサイズを変更するだけだ。次はハサミの後ろに取り付ける引っ張る役目を持つ部分だが、これは引きバネにすることにした。

 引きばねの外側にはシールドを兼ねた鉄の筒を作り、ばね部分を守りつつ機構に引っかかりにくいようにもする。鉄の筒部分だが、バネが伸びた時に追従して伸びることが出来る様に一定間隔で切断し、筒の断面にはスネークソードの仕組みを取り入れた。筒状の形をしたスネークソードに引きばねを守らせる形となる訳だ。

 試しにくっ付けて、引っ張ってみた。うん、イメージした通りの動きを見せてくれる。これならばサイズが変わったとしてもすぐにそのサイズに合った物を作ることが出来るだろう。後は実際に打ち出してみないと分からないな。ならば次は当然ハサミを打ち出すボウガン部分の制作だ。

 これはリアルのボウガンの図面を引っ張ってきた。それを加味した上で、ハサミが出来る限りまっすぐに打ち出されるように調整を加えていく形で作っては修正、作っては修正を繰り返した。言葉にするとこれだけなのだが……実際の作業は非常に大変だった。しっくりこない理由はどこにある? おさまりが悪い理由はどこだ? の試行錯誤が続いたからだ。

(あー、しんどい。でもこういう部分をおざなりにするとろくな事が無いもんなー。会社でも新商品の制作時は工場内がピリピリするし。とにかく作り慣れてない物を作る時は慎重かつ、僅かな違和感や問題点を先送りしないことが重要だしな)

 会社の経験がこういう時に生きるのだろう。ボウガンを幾つも付くってハサミなどをセットしてみた時にどうにも気持ち悪い、しっくりこない、このままじゃダメな感じがするというのが放つ前にある程度分かるのだ。そう思った瞬間ボウガン部分の作り直しを行っている。それでも作れば作るほどにそう言った気持ち悪さなどは少しづつ減って行っているから前進はしている。

(おそらく今日は試射する事も出来ないな。今の完成度で試射を行っても、絶対ろくな事にならないだろう……まさしく時間の無駄って奴だな。今ボウガン部分に感じている違和感がすべて消えるようになるまでパーツの調整を行ってからじゃないとな)

 会社の経験だけじゃなく、今までワンモアの世界であれやこれやと様々な物を作ってきた。そちら側の勘も今のままではダメだと言っている。あてずっぽうな勘は頼りにならないが、こういう経験から来る勘は無視できない。ならばその両方がこれなら行けるとなるまでボウガン部分を修正しなければならないだろう。

 そしてこの日はボウガン部分のパーツを作っては修正を繰り返す形で終わってしまった。試射は明日、まずは一人で行ってみるつもりだ。そこで問題点を確認してから改善した物を作り、そこで親方に見せようか。


*****

ではこれから、ちょっとドラゴンに心臓奪われてきます。
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