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しおりを挟むその日は雲ひとつもない綺麗な青空が広がっていた。
そんな天気の良い日に目の前にはうごうご蠢いている白い布に包まれたてるてる坊主。
あのパーティーから数日が経ち、今日はあの会場をパニックにした人の処刑の日。
彼が包まれているのは罪を浄化するという意味の白い布。断末魔が漏れぬ様に魔術が使えぬ様に二重の意味で魔封じの器具で猿ぐつわをされてぐぐもった声しか漏れぬ蠢く様はまるで芋虫のようだと思う。
彼の罪は学園に混乱をもたらしたこと。この国の重鎮達の子を垂らしこんだ事、そして、王妃樣に害を与えた事。
彼の罪を純白が覆い、自らの血でその身を清める。それがこの国の罪人に対する決まり事。その処刑は国民も見ることができるがその会場は高い壁に囲まれている。残酷な光景を見たくない人もいるし、子供に見せたくないと言う方も居るからだ。
私は目の前でもがもが言いながら蠢く存在に最後に話し掛ける権利を頂いた。
「貴方は、『 』でしたわね。もう、執着に囚われなくて良いのですよ。さようなら。」
私の声に彼は反応して動きが活発になる。
だけど、もう私の興味は失せて処刑場を後にした。処刑場の出口にはディランが馬車と共に待ってくれている。私は彼に抱きつき、ディランは受け止めてくれた。このまま、城に帰りたいのはやまやまなんだけど、まだやることがあるので二人で向かうことにする。
向かったのは暗くじめじめとした牢獄がある場所だ。
私の目的の場所は地下の一番奥。
場所一面に魔封じが施されて、逃亡しようにも回りは深い谷へとなった所だ。
そこにはアリストが両手両足を縛られ目隠しをされて納められていた。
「その気配はエルディアス様でしょ。気にくわない奴もいるけど。」
「先程、貴方の裏で糸を引いてたラパン様が処刑されました。」
私達が、唯一牢に繋がる場所に来ると、アリストは嬉しそうに話しかけてきた。
それに、先程の処刑の話をすると表情がさらに嬉しそうなそれになった。
「アイツ、処刑されたんだ。俺はこの後?」
「ラパン様は貴方として処刑されました。」
「…どういうこと?」
ラパン・ルーマニア。アリストの代わりに処刑されたこの男の正体は、かつて正妃様を汚し追い詰めた男である。そう、正妃様の叔父様ですわ。
彼はパーティーの後にアリストと合流するつもりだったのか、混乱を間近で見たかったのか近くの廃屋で会場を眺めていた所を、件の騒動で会場に向かう途中の騎士達に捕らわれたのだ。
ラパンは王妃を襲ったあとに行方不明となっていたのだが、どうやら戦争を起こそうとしていたらしい。そのため、小飼して育てていたアリストを利用した。アリストが重鎮達の子供や子孫を落とす度にその重鎮達の悪い噂を流しゆっくりと民のこのような者達のいる国で大丈夫かという不安を膨らませて来たのだという。
後は無実の少女が国の王子に言われもない事で弾圧され、今までで王妃になるために頑張ってきた健気な少女に婚約破棄を突きつける。
これが今までで不満を抱えてきた国民の起爆剤となり、裏で通じてきた他国と合わさり戦争になるはずだったのだ。
しかし、その目論みは私の婚約者が別だった事と小飼のアリストが私に執着していたことで狂ってしまった。
「王妃様はラパン様の名が罪人としてでも残ることが赦せないらしく、貴方として処刑しましたわ。」
そう、どこかの『白兎』の如くアリスを誘導していたラパンには存在自体を消えていただきました。
そんな話しをすると、アリストは少し気落ちしたような声をだした。
「俺は人知れず殺されるのか?」
「いいえ。」
「じゃあ、牢屋で飼い殺しか?冗談じゃないそれなら舌を切ってエルディアス様の前で死ぬよ。」
「そんな事もしないさ。ただ、取引はどうだい?」
「取引?」
ディランが指を鳴らすとアリストの目隠しが外れ、カシャンという音と共に地面に落ちた。
あれから初めて見る彼の瞳はあの時と変わらず私しか映っていない。それを改めて確認したあと、ディランは口を開いた。
「エルディアスと共に私を支えてくれないか?」
「何を世迷い言を。」
「私は本気だ。お前の動きは優秀だと騎士団長に聞いた。」
「だからと、エルディアス様に執着している俺を側に置くか?」
「執着しているからこそ、お前はエルディアスだけは裏切らないだろ?」
「俺が魅了を使ってエルディアス様をとるとは思わないのか?それかアイツと同じく無理矢理汚すかも知れないぞ。」
ニタリと嗤い、暗に正妃様の様なことが起こる事を示唆する。
その姿に、ディランが声を出して笑いだした。あげくの果てには目尻から涙も見せながら、辺りに響く大笑いをしている。
笑いが治まったのはその数分後。
さすがにアリストも何だコイツといったような目線を向けていた。
「すまないな。少し可笑しくて。」
「可笑しいのはお前の頭だろ。」
「そうかも知れない。でも、お前がエルディアスを傷つける事は無いと確信している。」
「はぁ?」
自信のある言葉に、アリストがめを見開いた。まあ、その気持ちも分かりますけどね。
私も最初はなに考えているかわからなかったし。
「君はエルディアスに愛されたいのだろ?」
「……。」
「ラパンの様に怨まれても記憶に残りたい訳でなく、ただ単に愛されたいだけ。だからこそこんな面倒な手順計画を仕込んだんだろ?」
「ラパンの奴に言われただけだ。」
「それに、エルディアスには魅了は無効だ。彼女は状態異常無効を体質として持っているんだ。」
「おかげさまで、風邪など引いたこと有りませんけどね。」
最後の言葉にぽかんとした顔は年相応に見えますわ。年齢知らないですけど。
そうなんです。どうも私の一族には特異体質な者が多く出る家系なのです。その理由は後程わかると思いますが、ゆえにアリストにとっては天敵の様な存在になります。
「だが、俺は悪役だぞ。」
「あら、何かなさりました?」
「将来重役に付くであろう者達をたぶらかした。」
その回答にふふふ、と笑い声をあげてしまいました。
残念ながらアリスハーレムの人々は違うのです。
騎士団長の息子は確かに誠実だしお強いですが、今、冒険者をしている姉君の方が常識的だしお強いのです。騎士団長ですら本気を出さないと殺られそうになるのだとか。なので、次期騎士団長はその姉君がなる予定です。
宰相家の次男様ですが、頭の回転は早いのですが、応用力が残念な方です。それよりもすでに宰相様と引き継ぎが始まっている長男様の方が臨機応変で素晴らしいのです。
宮廷魔術師長様には養子もおりますが、実子もおります。どちらも魔力が高く器用なのですが、養子という負い目からか、ここぞというときに実力が発揮できないでおいでです。しかも、宮廷魔術師長様は実力主義で実力さえあれば平民だろうとスラムの者だろうと受け入れるかたですので、別にそのまま後釜に入れるとはなりません。
最後に勇者の子孫ですが、その勇者が居たのは百年前のこと。なので、子孫は意外と色んな所に居ます。実を言うと私もそうです。ハーレムに居た方とは異なり剣は使えませんが、特異体質を受け継ぎました。
確かに彼らは重要なポストの方々ですが、国を揺るがすかと言ったら答えはNOなのです。なので、アリスに落とされてもこちらに被害がなければ皆放置していたのです。
「まあ、そんな感じにあんまり影響ないのです。」
「影響があったのは国民にあんなアンポンタンどもどうにかしろという不満ぐらいかな。」
国民の不満もそれぐらいでおさまったので戦争なんてまたの夢の夢。ラパン様って意外と阿呆で御座いますわね。ああ、しばらく表に居なかったから情報に疎いのかしら。
「それでは取引再開よ。」
「…エルディアス様。」
「私が一番愛しているのはディラン。二番目はこの国なんだけど、二番目の愛を貴方にあげる。」
「二番目…。」
「アリスト様とは子は作らないし、私はディランを守るためいざとなったらこの身を剣の前に差し出すわ。だけど、貴方に微笑み、共に歩み、愛を語るわ。」
「このように私を優先する彼女を守って欲しい。私では手出し出来ないところでエルディアスを守ってくれ。同じ女を愛した者の頼みだ。」
しばし、考えるそぶりを見せてから先程のヘラヘラとした表情が真面目な顔つきに変わった。
「俺だけの物にはならないのだな。」
「ええ。取引のチャンスは一度です。これが終われば貴方はもう二度と私と逢えませんわね。」
「…エルディアス様にだけ忠誠を誓う。王子は寝首を掛かれないようにな。」
契約成立。
利用できるものは利用するそれが私自身ならなおさら。だって私はこの国の王を支える王妃だから。
アリストの牢を開けて、手を差し出す。
彼は震える手で私の手を握る。彼のほの暗い私だけを移す瞳を見つめながら微かに口元を歪めた。
「貴方は今日からアイリスよ。」
その後、ある王国では歴史上並ぶ者がいないと称される賢王が誕生する。
その王の側には健気に尽くし国のため身を粉にする王妃の姿があった。
そんな王妃は王に愛を謳う傍ら、もう一人愛を囁く者が居たのだとか。王公認のその者は、王妃の身に掛かる火の粉を払い、常に側にいたのだとか。
あと一話。
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