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エリザが言い争っていた理由

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 ツヴァイに連絡をした後、エリザの声がする方向へと向かう。ツヴァイ達はタイミング悪く黒の塔の方で訓練をしていたらしくやってくるのに時間がかかるとの事。これは流石にツヴァイの責任じゃないな。さて、とりあえずツヴァイがやってくるまでの間、状況が悪化しないようにしておきたい所なんだけど。

 エリザと言い争っている感じなのは二人の男性プレイヤーの様だ。で、エリザは自分の後ろに一人の女性プレイヤーを匿っているような形だ。うーん、状況が見えないけど少なくともエリザが喧嘩を吹っ掛けたとかいう雰囲気ではないな。

「俺達とリアルでも会わないかって話をしてるだけじゃん? そこまで睨まなくてもいいと思うんだけどな?」「それに対して此方の女性は嫌です、と明確に断っていたではありませんか。にも拘らずしつこく良い寄って来ていたのはそちらでしょう? これ以上此方の女性に要求を続けるならGMコールをするしかなくなりますわよ?」

 あー……そう言う事かぁ。ワンモアだとアバターの性別はリアル性別と一緒だ。だからこそそう言うナンパをする連中も狙いを定め易いんだよなぁ……だが、明確に女性が拒否したのにそれでも引かずに騒ぎ続けるのであれば、これはGMコールの対象になる。

 だが、皆が皆そう言う行動にすぐに移れる訳じゃない。気弱な人はなおさらだ……エリザが匿っていると思われる女性プレイヤーはなんか小刻みに震えている様にも見えるし。というか、周囲のやじ馬たちは何やってんだ。さっさとGMコールすればいいのに……なので、自分は遠慮なくGMコールを行った。

 それから数秒後、エリザと匿われていた女性、そして男性プレイヤー二人がふっと目の前から消えた。恐らくGMが特定のエリアに四人を引っ張っていったのだろう。やじ馬たちは何が起きたの? という感じでざわめいた。それからややあって、エリザと匿われていた女性のみがこの場へと戻ってきたので声をかける。

「エリザ、GMコールをしたがそれで良かったんだよな?」「アースさん、GMコールをしてくれたのは貴方でしたの。ええ、実によい判断でした……一方で、周囲で見ているだけのやじ馬には失望していますが。見ているだけでGMコールすらしないのは流石に呆れましたわ」

 その後エリザから状況を聞いたが、まあ予想通りというかなんというか。気弱な女性に対して男二人がリアルでも交流しようぜと持ち掛けて、女性側がそれを拒否。それで男性側が引けば終わった話なんだが……そこからねちねちとあれこれ話す姿を見たエリザが割って入った。底から言い争いに発展していったという所だ。

「彼らの言動は、記録できる範囲で全て記録してありましたから言い逃れは出来ませんわ。GMさんに提出しましたし、ワンモアのバックログからも確認できるでしょう。まったく、女性に声をかけるのは宜しいですが、断られたらすぐに引く潔さも持ち合わせて欲しい所ですわ」

 などと言いながらエリザは憤慨していた。とにかく状況は落ち着いたので、ツヴァイに事の次第を報告しておいた。これでツヴァイも焦らずにいることが出来るだろう。と、ここで残り二人の男性もこの場に戻ってきた。少しげっそりとしている所から、かなりGM三に絞られていたのだと予想する。でも悪いのはそちら側なので、素直に反省……するわけがないんだよね、この手の手合いは。

「余計な真似をしてくれやがって……GM呼んだのはどいつだ!?」

 なんて大声を周囲にまき散らす。そして一斉にこの場にいた連中が自分の事を見る。はい、予想通りに二人の男性プレイヤーは今度は顔を真っ赤にしながら自分に近寄ってくる。だが、そちらがGMコールされるような事をしていたから呼ぶことになったんだぞなんて正論を述べても聞き入れないんだよなぁ。

「お前か! GMコールするような事じゃなかっただろ!」

 そう言われてもな……そんなそちらの身勝手な判断なんか流石に考慮できないよ。なのでこう返答する他ない。

「そう言われても、とてもじゃないが状況はGMコールするしかないという感じしかしなかったぞ。リアルで会おうと持ち掛けること自体があまり感心できないし、ましてや断られたからってあれこれしつこく付きまとうような真似をするのは論外だと思うが……」

 ましてや一対一ではなく二対一だ。女性側からしたら怖いなんてもんじゃないだろう……だから断られて当然だと思う。リアルで会おうってのは、あくまで一定以上の交流があってこその話だ。エリザに匿われていた女性の雰囲気からして、そう言う交流があったとは思いにくいんだよな。もちろんこれは当て推量だけど、そう間違ってはいないはず。

「ちょっと声をかけただけだろうが!」「あそこまで相手を怯えさせるのは、ちょっとどころじゃないよ。事実、GMさんからかなりきつめの注意を受けたんだろう? つまりそれは悪質な行為であるって事に他ならない。腹を立てるのはしょうがないとしても、ここら辺にしておいた方が良いと思う」

 どう見ても楽しく話をするって感じじゃなかったもんなぁ。この手の連中はワンモアからはじき出されたと思った板が、しぶとく生き残っている連中もいたと言う訳か。だが、こいつら分かっているんだろうか? 先ほどGM三にきつい中を受けた上で、すぐさまこんな行動に出るのはあまりにも愚かな行為だ。監視の目が続いている可能性とか考えてなさそうだ。

「私が割って入ったのも、貴方方の言動が流石に無視できないレベルで酷かったからですわ。それをちょっと声をかけただけというのは流石に無理でしょう。今日はもうログアウトされて、頭を冷やした方が良いと思いますわよ」

 嫌悪感を漂わせてエリザがそう言い放った。まあ、これはしょうがない……エリザは二人の男性に詰め寄られる女性を見捨てるような事は出来なかったのだろう。だからこそ、嫌悪感を出してしまうのはやむを得ない。だけど……まあ、こういう言葉で自分の行動を鑑みて一歩下がれる人間じゃなかったんだよね。その証拠に、自分に対して目の前の二人からPvPの要請が現れたのだから。

「PvPの要請!? 貴方方、本当に……」

 エリザの方にも送られたらしい。エリザが呆れ交じりの声を出すのも仕方が無いだろう。自分達がやった行為に反省せず、挙句の果てにPvPでこちらをボコって少しでもすっきりしようとするその考え方。エリザからしてみれば見下げ果てた奴だと言った所か。自分としてもそれに近い感情を持ってしまう。

「エリザ、どうする?」「受けましょう……こうなったらこちらとしても引けませんわ。お灸をすえなければ、どこまでも暴走するでしょう」

 エリザに確認を取ると、そんな返答が返ってきた。なので自分は頷いてPvPの要請を受ける。エリザもそれに続き、自分、エリザ、そして相手となる二人の男性プレイヤーはPvPエリアへと移動させられる。なお、今回のルールは二VS二のデスマッチ。相手を全滅させる事が勝利条件であり、PvP公開設定は全てのプレイヤーとなっている。こちらを叩きのめして、恥をかかせてやると言った所か。

「首を突っ込まなきゃ、こんな痛みを味わう事は無かったんだぜ? それを教えてやるよ」

 片方の男性プレイヤーがそんな言葉を吐きつつ、アイテムボックスから大きな両手剣を取り出していた。もう片方の男性プレイヤーはナックルを腕に嵌めている。格闘が主体のスタイルか?

「向こうは魔法使いにレンジャー系って所だろ。レンジャーの方は俺が受け持つから、お前は魔法使いの女を潰せ」

 格闘スタイルを取る男性プレイヤーがそう言っている。さて、これはフェイクか? それとも本当の事をわざわざこちらに伝えてくるぐらい余裕があるのか? まあ、どっちにしても鵜呑みにして戦術を考えるような思考をする事だけは絶対にしないが。PvPの開始を告げるカウントが減っていく。そうなればこちらも向こうも静かに始まりを待つ形となる。

(さて、とりあえずエリザを守る事をメインに動こう。そして向こうが隙を見せたら……)

 最初の動きをそう定めて、カウントダウンを待つ。そして戦いは始まった。エリザの望み通りにするためにも、今回の相手に負ける訳にはいかないな。集中していこう。
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