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上手く行かなかったときは

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 そして、二号機の献身のお陰で、三号機が完成した。今日はこの三号機によるテストを行ったら終了かな……二号機で判明した補強が必要な部分は更迭をより頑丈にした物を少々譲ってもらって補強を施してある。

 更に一番変わった所は杭を打ち出した後の爆炎と衝撃を逃がすための穴を今までとは違って強制的に開くようにした点だ。仕組みが動いて火薬が爆発し杭を打ち出す動作の後にスライドさせて普段は穴に蓋をしている部分をスライドさせる形で動かして、開かせた穴から爆炎と衝撃を逃がす形とした。最初からこうしておけば、とは思わない。こっちの方が製作が手間だし、仕組みも少々面倒になる。

 それでも採用したのは確実に爆炎と衝撃を逃がす必要があるからだ。爆炎や衝撃に逃げ道が無いと全体にダメージが入ってあっという間に壊れるなんてのは想像するまでもない。だからこそ初代や二号機のように動きが不完全では困るのだ。最低でも装填されている杭をすべて打ち出すまでは機構が持ってくれないとな。

 ただ、こんな機構を作ったのは初めてだし、きちんと動くかの自信がない。だからこそのテストなのだが……とにかく火薬と杭をセットし、再び距離を取って発射させる。轟音と共に杭が発射される。

 その直後に機構がスライドして爆炎や衝撃を逃がす──計算だったのだが、どうやら機構が上手く動かなかったようだ。火薬の量を抑えているので自壊こそしなかったが、大きく三号機が飛び跳ねて台座から落ち、地面を転がる。

(あっれー? 計算だと十分動くはずなんだけどな……ちょっとばらして中身を見てみるか)

 少し待ってから三号機をある程度解体すると……スライドする内部の仕組みに幾つものヒビが入っていた。んー? どういうことだこれは? このヒビは間違いなく先ほどの実験に際についた物だろう。制作時にはこんなヒビは無かった……つまり、何らかの理由で仕組みが動かず、その影響がこの穴を普段は塞いでいく仕組みに大きなダメージを与えた、と。

(うーん、普段は穴を塞いでいてもらうためにバネを仕込んだのは確かだけど、そのバネだって先ほどの火薬の爆発によって生まれる力に抵抗できるレベルじゃない。こうやって手で軽く押しだけでちゃんと縮むしなぁ……マズイ、原因が分からないぞ)

 何かに引っかかって、本来想定していた動きが阻害された? いや、こうやって分解して調べているが出来るだけ単純にしているからそう言った突起物はない。機構はあまりにも大雑把に言えば筒だ。その筒の内側にもう一つ薄い筒を入れてそれが普段は穴を塞いでいる役割をしている。

 そして火薬の爆発による衝撃でその内側の筒が動き、筒の穴を解放するという動きをするのだ。この内側の薄い筒は杭の打ち出しと連動していて、杭が打ち出される動きが加わったら動くように作ったはずなのだ。なのにこちらの想定した通りに動かなかった。動かなかったと言う事は設計にミスがあると言う事に他ならない。

 だからその原因を見つけなければ先に進めない。なので最終的には全てのパーツを分解してパーツ一つ一つを確認していったのだが、それでも機構が動かなかった原因は不明のままだった。自分以上の技術者がここにいてくれたのであれば理由が分かるのかもしれないが、残念ながらそんな素晴らしい人材はここにはいない。

(ううーむ、どうした物か。これが動かないとなると三号機を作った意味がなくなってしまう。かといって初代や二号機だと仕組みの動きにムラがあったんだよな。あんな不完全な仕組みでは実戦に使う武器としては失格だし……)

 パーツの三割、特に火薬の爆発を杭に伝えて打ち出すパワーにする部分がかなりのダメージを受けている。これは間違いなく余計な爆炎や衝撃を内部から外へと逃がすことが出来なかったからだ。ダメージを受けた部品は再び作り直さなければ実験を続ける事は出来ない。そして今日はもう作業を行う時間がない。

 なのでとにかく部品一つ一つを何度もじっくり見て、機構が動かなかった理由を探り当てる事しか今日は出来ない。だが……残念ながらこれだ! と思い当たる事はなく、この場を片付けてから引き揚げるしかなかった。工房に戻り、想定した結果が出せなかった事で肩を落としているとストラスが話しかけてきた。

「アースさん、どうした? ずいぶんと疲れているようだけど……」

 なので、ストラスには正直に今日やった事を伝えた。試作機を作って何度も実験したが、まともに動く物は作り出せなかった事を包み隠さず。それを聞いたストラスはこう返答を返してきた。

「そりゃ無茶だ。一日でそこそこの物を作るってのは」「しかし、未知の武器ではなくある程度外見や中身が分かっているモノだからなぁ。それがこうも実際に自分で作るとなると形にならないというのはどうにも」

 ストラスに伝えたように、本当に全くの未知の武器を作るとなれば時間がかかるのは仕方がない。だが、パイルバンカーは様々なアニメ、ゲームなどに登場している武器であり一定の見本が存在しているのだ。それがあってなお進捗がよろしくないというのは問題だろう。

「でも、杭を打ち出せるところまでは行けたんでしょう?」「ああ、うん。そこまでは行けたんですよ。ただ、その後機構内部に残る爆炎や火薬の爆発によって生じて杭を打ち出した後に必要なくなった衝撃などを逃がす機構が必須なんですがそこでどうにも……」

 特に問題となっている部分をストラスに伝えると、ストラスもああ、なるほどと頷いた。

「確かに、パイルバンカーは放った後に派手な爆炎とかが同時に発生するもんなあ。アースさんの目指しているのはまさにあれなんですね」「メカ物のゲーム経験者なら、おなじみの光景ですよね。あれを見た目的な意味でも、実用的な理由でも再現したいんですよ」

 自分がパイルバンカーの動力を火薬式にしたかった理由がそこにある。あの爆炎と共に杭が打ち出され、相手の装甲ごと命まで穿つ。その姿こそがパイルバンカーという武器の魅力と恐ろしさだと思うから。

「でも、気持ちはわかりますよ。作るんならとことん突き詰めたいですよね……でも申し訳ないけどそう言った機構を作った経験がないんで、力になれないです。申し訳ない」「いえ、これは自分の担当する部分ですからね。今日はもう時間が無いから無理ですが、明日はまた試作機を作り直してあれこれ試そうと思っています」

 本当のことを言えば、どういう風に作り直せばいいのかのイメージが全く沸いていない。それでも弱音ばかりを吐いていたら周囲の士気を下げる。ある程度吐きだしたら、再び前を見るようにしないと何をやっても上手く行くはずがない。

「そうそう、俺の方なんですが……親方の話も聞いて新しい合金つくりをやっているんですが完成にはもうしばらくかかりそうです。今日も幾つもの形を試したんですが、目指している物には程遠くて……こっちもはっきりとした成果を出すには時間がかかりそうです。ですから、アースさんも焦る必要はないですよ」

 ──本当のこと半分、気遣い半分かも知れないな、出てきたストラスの言葉は。こちらもあまり進んでいないのだから、気にしなくていいみたいな感じを受けた。やれやれ、気を遣わせてしまったか……自分もまだまだだな。まあどんな物事も実際にやってみれば予想以上の困難という物はつきものか……それに今日はまだ初日。ストラスの言う通り焦る必要はまだない、か。

「そうですね、やっぱり実際に作ってみないと分からない事は多々あるものですし……制作によってデータはとれていますから前進はしていますね。確かに、少々焦り過ぎていたかもしれません」

 焦りは視野を狭めて答えから遠ざかってしまう。それを自分は今までの人生でよく分かっているじゃないか。なのに忘れるとは、まさに迂闊だろう、自分。一日で成果を出そうなんて、思い上がりも良い所だろう。何処かで慢心していたのだろう……自分自身に喝を入れて反省しなければならない。

「それならいいじゃないですか。前進しているなら十分な成果ですよ。こっちも失敗したとはいえ改善点は幾つも見つけていますから前進は間違いなくしています。お互いにこうやって前進していれば、必ず完成させられますよ」

 ストラスの言う通りだ。やれやれ、たぶんストラスは自分より年下だと思うが彼の方が年長者みたいだ。何とも情けない気分になるが、それもまた大事だ。情けないと思うなら反省をして、どうすれば良いのかを考えて、実行すればいい。人は死ぬまで学び続ける物だとは工場長が時々口にする言葉だ。そう、自分もまた学べばいい。

「そうですね、では今日はもう遅いのでそろそろ失礼しますね」「俺もそろそろ落ちます。寝ないと明日が辛いんで」「ははは、そこはまさにお互い同じですね」

 そんな会話を交わしてストラスと別れて宿屋にてログアウト。よし、明日もまた頑張ろう。
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