とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
上 下
636 / 725
連載

今更知る、魔剣の相性

しおりを挟む
 親方の腕を改めて再確認させてもらう形となった。あのような剣は、自分には決して生み出せない。とことん鍛冶作業に没頭し、ひたすら鉱物と関わってきた親方だからこそなせる業だ。あのような名剣を、プレイヤー、ワンモの世界の住人両方が用いているところを見た記憶がない。やはり流通している数は非常に少ないのだろう。

「良い物を見せてもらいました」「そう言えば、アースには会心の一振りが出来上がるところを見せたのは初めてだったか。狙って作れる物じゃないんでな、今までは見せる機会がなかっただけだが」

 親方の言葉を疑うつもりは一切ない。あれだけの剣がポンポン作れるのなら、もっと世間に普及しているはずだからね。

「その言葉を疑うつもりはありませんよ。あんな素晴らしい剣を量産出来たら、それこそ鍛冶世界の化け物でしょう」「そうだな、その点は同意見だ。ドワーフ達にも一振り見せてみたんだがな、彼等も褒めてくれたよ。これだけの一振りをよくぞ打ち上げたと」

 ドワーフの皆さんも認めるのか……そりゃ、凄いな。

「欲しいという注文も入るんだが……狙って生み出せる一品じゃないから渡せるか分からんので基本的には断ってるんだが──今回の依頼主はすさまじい運の持ち主だったらしいな」

 そう口にした後、親方は笑った。確かに、親方が会心の一振りを打ち上げた時が自分の注文の品の時だったというのは運だな。

「あれだけの一振り、魔剣を凌ぐ一品かも知れませんね」「まあ、魔剣には相性もあるからな。相性に左右されない剣というのは大事だ」

 自分の話に親方から帰ってきた言葉に自分は首を捻った。魔剣には相性もある? え、そんな情報あったっけ? そんな疑問が顔に出てしまっていたようで、親方が口を開いた。

「アース、もしかして魔剣はプレイヤーとの相性によって能力が左右されるという話を知らなかったのか?」「初耳なんですが。Wikiの魔剣のページにそんな情報あったかな……」

 Wikiの内容を記憶から引っ張り出すが……該当する情報には覚えがない。もちろん自分が見逃していただけという可能性も十分ある。とにかく、魔剣についての話し合いは掲示板などでも見てきたが、魔剣にプレイヤーとの相性があるという話は覚えがない。

「そうか、まあ魔剣関連について詳しく調べた鍛冶集団の話を耳にしていなければ知らなくてもおかしくはないか。魔剣を打つことに特化した鍛冶屋集団ギルドがいたんだがな……そこの集団が色々な実験をした結果、相性がある事はほぼ間違いないと結論を出してんだ」

 親方曰く、その魔剣専門鍛冶屋集団は各種魔剣を各属性別々に打ち上げた上で、様々なプレイヤーの協力の元、膨大なデータを集めたらしい。その結果わかった事は……魔剣は使う人間との相性によって、基本的な威力や魔剣に付与された専用スキルの効果の差が大きく出るという事実。

 相性のいい組み合わせとなると大幅な能力向上が図られたのに対し、相性が悪いと性能を十全に引き出せなかったらしい。これはプレイヤーの技量とは完全に別の話であり、プレイヤー側の責任ではないとの事。

「そうなると、契約した妖精の属性の魔剣が相性が良いと言う事だったんですか?」「いや、そうとは限らなかったらしい。闇妖精と契約した奴が魔剣は光の方が向いていたとか、風の妖精と契約していたが、魔剣は火が一番良かったとかの話は多数あってな。なぜそう言う事が起きるのか、皆で首を捻ったそうだ」

 契約妖精の属性とは別のパターンも多かったと言う事か。何故そんな差が生まれたのだろうか? その鍛冶屋集団は、その謎を解き明かそうと動いたのだろうか?」

「そんな差がなぜ出るのかって謎をそのまま放置するのは気持ちが悪いって事でな……調査が続行されたらしい。そうすると……そのプレイヤーのワンモアでの生き方、活動内容がかなり関わっているとされた。一例としてモンスターを積極的に狩り、ガンガン攻撃する事が好きなやつは火の魔剣と相性が良くなりやすいという話が出たな」

 と言った話を始めとして……魔剣との相性は、活発的や勢いのあるプレイヤーは火。戦いの最中でも冷静に立ち回る、落ち着きがあるプレイヤーは氷、移動が多く、様々な立ち回りをするプレイヤーは風、逆にどっしりと構えて最小限の動きに抑えるプレイヤーは土。こういう傾向が多いと言う事だったらしい。あくまで戦闘スタイルだけをみればだが。

(そう考えると、ツヴァイの魔剣が火でカザミネの魔剣が氷というのは納得が行く、か。あの二人は魔剣の力を十全に出せていたと思うし、ツヴァイの魔剣は大技も覚えていた。相性が悪いと言う事はあり得ないと考えて良い)

 ブルーカラーの面々の事も考えると、データは大体間違ってはいないように感じられる。もちろん例外はあるだろうが、そう言った傾向が多いと言う事自体は正しいだろう。そうなると──光と闇は?

「親方、光と闇はどうだったんです?」「それなんだがな……まず、理解しておかなきゃいけねえことがある。よく光と闇は使われる題材で、光が正義、正しい方向。闇が悪党、間違った行為として取り扱われる事は結構多い。が、ワンモアに関してはそれは当てはまらねえ。あくまで属性の一つであって、善悪だとか正しいとか間違ってるとかの話は一切関係ない」

 親方の念押しに頷いた。そりゃそうだ、正しいとか間違ってるとかの考えで行ったら闇妖精と契約したプレイヤーは悪党と言う事になってしまう。だが実際はもちろんそんな事はない。

「それを踏まえた上での話だが……光は治療行為などが得意だと出やすい傾向がある。あと、明るい時間帯は活発に動くが夜の時間は街にいる事が多いプレイヤーも光に対する相性が良くなりやすいらしい。一方で闇は、搦め手が得意だったり、昼夜問わずに外で活動的だったり、特殊な一部スキルを持っていると適性が高くなる傾向があると相性が良くなりやすいって話だ」

 ふむ、〈義賊頭〉を持っている上に、搦め手を交えての戦いは自分の取る戦闘スタイルの一つだ。夜であっても視界の悪化はないし、闇との相性が良くなる要素は確かに多いか。だからこそ真同化をあそこまで振るえたのだろう。

「なるほど、言われてみると心当たりがありますね。特に反論したくなるような部分もないですし」「もちろん例外はあったが、大まかにはこういう傾向で間違いなかったそうだ。だが、魔剣も属性がある以上は相性が悪い敵ってのも当然いる。だからこそ、鍛冶屋が打つ魔剣ではない一般的な武器の需要が魔剣が出回っても減る事はなかったがな」

 親方の言う通り、魔剣が一般的に存在を知られるようになり、多くのプレイヤーが握る事になっても鍛冶屋が打つ剣の需要が下がると言う事は無かった。属性がついていないと言う事は、どの相手に対しても一定の成果をあげられると言う事。もちろんリッチとかの魔法などの力が無いと有効打が与えられないモンスターもいる。つまり、活躍の場は両者にあると言う事だ。

 そして、この相性だが……もしかしなくても、魔剣の世界と呼ばれる所に行けるか否かにこの相性は大きく関わっていたのだろう。行ける人、行けない人の差が掲示板で騒がれていたことがあったが、相性がいい魔剣を相棒に出来たか否かが明暗を開ける一つの分岐点になっていたと考えた方が筋が通りそうだ。

「知らなかった事実が次々と……」「はははは、まあ興味が無ければ知らずに終わっていた話だろうな。一方で俺としてもポーションやら料理などの他の分野の生産に関してはあまり知らなかったからな。旅をして、いろんな国を回って食って飲んで、その制作方法や材料に驚いたなんてことはしょっちゅうだったぞ。何気なく使っていた物や食っていた物に何度驚いたか」

 ああ、確かに親方は鍛冶屋に特化しているから、その周囲の生産関連は分かっても縁があんまりない生産関連に関する知識が薄くてもおかしくはないか。プロフェッショナル故に、知識が狭く深いのだ。自分の様なゼネラリスト──いや、自分はゼネラリストじゃなくて節操なしか。とにかく、そう言う人の知識は基本的に浅く広い。もちろんどちらにも例外はいるけど、それを言い始めたらきりがない。

「でも、そう言う事を知ることが出来るのは旅の醍醐味だな。この世界が見て回ってきたのは正しかったと思えるし楽しかった。まあ、一方で今作っているような装備の注文まで舞い込んできてしまったがなぁ……名前が売れているというのは良い面もあるが面倒な所もあるもんだ。さて、そろそろ話しは終わりにして生産に戻るか」

 親方はそう話を締めくくって再び生産に取り掛かった。自分もそれに倣って弓制作を再開する。この日はそのままログアウトするまで弓を作り続けた。


*****


連絡がございます、近況報告の方にて。
しおりを挟む
感想 4,734

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。