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工房二日目

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 翌日。仕事を終えてログインし、昨日親方のお弟子さんに連れて行ってもらった付近まで移動。親方の隠し工房への入り口は大まかにしか分からないので、お弟子さん達からの接触を待つ。待つこと数分、お弟子さんの一人が案内してくれた。周囲にも気を配るが、こちらを注視しているプレイヤーは居ない。

 再び工房の中に入ると、すでに親方を始めとした数名が制作作業を行っていた。なので自分も昨日使わせてもらった場所で制作に取り掛かる。そうして三〇分ほど談笑を交えつつ制作をしている時だった。親方が作った商品を売る為に地上に戻って配達しているお弟子さんから連絡が来たと口にしたのは。

 しばしのやり取りの後、ウィスパーチャットを終わらせる親方。果たして無事に売れたのだろうか? そんな不安がよぎったが──親方の表情は明るい。

「売り上げは問題なし、お客の方もこの出来ならば満足との事だ」

 その親方の言葉を聞いて、自分はほっとした。自分の作った弓も一緒に運ばれているのだ……これで盾は良いが弓はだめだ何て言われた日には落ち込むどころでは済まなかった。無事に注文主が満足してくれたようで良かった。

「ああ、それとアース。お前さんにはちょっとした土産があるそうだ。帰った時に渡すという連絡も来ている」

 土産とな? 一体何が運ばれてくるんだろうか。首を捻った自分に、親方がその中身を教えてくれる。

「アースの作った弓を特に気に入った獣人連合の名家のお嬢さんがな、あの弓を用いたいくつかのアーツを編み出したらしくてな。そのアーツが書かれたスクロールをくれるんだそうだ。そのスクロールは一回こっきりの使い捨てだが、それを使えばアーツが習得できるぞ」

 そんなシステムもこの世界にあったのか!? いまだにこうして全然知らない事が出てくるな……でもそんな情報、Wikiには……ここでお弟子さんの一人が口を開く。

「Wikiにも載ってないから、驚くのもしょうがないよ。でも、俺達みたいに信頼されている制作者だとこういう事がたまにあるんだ。アーツを書き留めたスクロールを渡されて、信用できるものに渡してほしいって頼まれる。俺達はそのスクロールを、お得意様の中でも口が堅くて悪事に使わないと確信できるプレイヤーにだけ渡してたから知らなくて当然ってことで」

 お弟子さんの言葉で、Wikiを始めとした攻略情報のどこにもアーツが書かれたスクロールがない理由が分かった。数が少ない上に、そんなものがあると分かれば親方達に所に押し掛けて無理難題を吹っ掛けてスクロールを手に入れようとする連中は山ほど出てきてしまうだろう。だから秘匿するという考えに行きつくのは至極当然だ。

「なるほど、そんな事が……自分はあれこれ手を出して特化してないプレイヤーだから知る機会が無かったと言う事なんですね……そもそも作ったモノはあくまで自分が使う為であって売ったりする為に物じゃなかったですし。それに、口が堅い人にしか渡さないという判断も納得できますよ、口が軽いスピーカー人間に知られた日には、とんでもない事になるでしょうからね」

 このような特殊なアーツ入手は、強力なものであったり便利なものであったりする可能性がある。それ故にそうそう簡単に取れないようになっているのだが……今回みたいにスクロールさえ手に入れば覚えられるという融通の利く方法は、一回知られると人か押し寄せてくる事になるのは言うまでもなく──その結果、親方達がまともに生産家業が出来なくなるという弊害が予想できる。

「アースさんの言う通り、口の軽い奴らに知られてぺらぺらと話されたら大変な事になっちゃいますからねぇ……スクロールは親方が管理して、親方を始めとした弟子たちの九割がこいつになら渡しても問題ないだろうって人物にしか渡してないんすよ。あ、アースさんが信用できないって訳じゃないっすよ、アースさんに渡せるいいスクロールが手に入らなかったってだけっす」

 他のお弟子さんがそんな事を言ってきた。ああうん、そこら辺は別に気にしてない。それに自分はあまりにも特殊な型だから、そう言ったスクロールを貰ってもうまく生かすことが出来なかった可能性が高い。なので全然問題ないのである……と言う事を伝えておいた。

「ただな……武具を受け取ったお客さんからの評価が良いのは素晴らしい事なんだが。その出来栄えを見た人達から追加の注文も入ってしまったと言う事も連絡が来た。なのでもっと作らなきゃいけねえって事も伝えておくぞ」

 ここで親方からその様な追加情報が。ならば自分も弓をもっと作らなきゃいけないって事か……まあ、素材は親方達から十分融通されてるし、塔も登り切ったから生産に没頭しても問題はない。もしグラッド達からPvPを申し込まれたら、その時だけ抜ければいいだろう。親方の表情からしても、とても捌き切れない注文が入ったという感じはしないからな。

「あと、徐々にで良いがアース……盾に仕込むハサミのギミックを考えてくれないか? 弓を作る合間に木で試作品を作ってもらえると助かるんだが」

 親方からの言葉に自分は頷く。とりあえず今日は弓を作るとして……その合間に設計図を頭の中で書き直すか。中盾サイズで、使う時だけ盾の下部を相手に向けられるようなからくりを仕込んで、そして何らかの動力でギミックを動かして仕込まれているハサミを飛び出させるというイメージは出来ている。

 後は動力だが──やっぱり、人力、魔法、火薬ぐらいしか思いつかないな。盾の横にグリップをつけておいて、相手に向けた後にグリップを右手で引く事で仕組みを動かすタイプ。クラネス師匠からある程度伝授されていたドワーフの技術を使って、魔力を込める事で中のギミックを動かし起動させるタイプ。最後に火薬の衝撃を活かして起動させるタイプか……どれを作るにしても、やっぱり最初は模型を作って動くかどうかの確認は必須だろう。

「とりあえず大まかなイメージは出来ています。ただそれをしっかりとした形に落とし込みつつきちんと動くようにする為には模型を作ってチェックしてみないと何とも。それを作ってみて、さらに親方を始めとした皆さんに見てもらって改善を進めて、問題ないだろうという所まで進めたら試作品を作るって感じになると思います」

 ただ、今回は親方を始めとした生産のプロが大勢いる。なので自分が大まかな形を作り、親方達がそれを改善し、一人の時とは比べ物にならない効率で完成品を生み出すことが出来る。なので、かなり気が楽ではある。

「ああ、その流れで良いと思うぞ。とにかくこの手の特殊な動きをするものなんてのはアースが大まかでいいから形を作ってくれねえと、こちらも動きようがないからな……それに、そう言ったギミック仕込みの武具を間近で見られると思うと結構楽しみという感情もある。とにかく、改良案なんかはこちらでじゃんじゃん出すから、大まかな形を頼む」

 親方の言葉に再び頷き、今日の生産に取り掛かる。とりあえず明日、木材と縄なんかの材料を貰って試作品を作る事は決まった。ならばそれは明日の仕事、今日やるべき事じゃない。なのでそれ以上は考えず今日の仕事である弓の制作に向き合う。こういう生産に関しては、マルチタスクなんてやろうとしない方が良い。碌な事にならない。全体で物事が進んでいればそれでいいのだ。

(情けない物を作るのは、親方達に泥を塗る事にもなるんだ。自分一人で済む話ではないんだ、だから気を引き締めて集中して作らなければ)

 心の中で気合を入れなおし、一張り一張りしっかりとした弓を作る事を心掛ける──よし、最初に出来上がった弓の出来は悪くない……この調子で確実に良い物を作って行こうじゃないか。
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