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制作をしながらの会話

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 暫く武器を作っていたわけなんだが、そこでふと疑問が沸いた。そもそも親方を始めとしたプレイヤーは、もう十分武器を作ったから残された時間で世界をのんびり見て回るって言ってたよな? なのになんでまたこうして注文を取って武器を作っているんだろう?

「親方、ちょっと武器生産とは関係ない質問があるんですが」「ん? なんだ?」

 親方が話に応じてくれるので、先ほどの疑問をぶつけてみた。すると親方は──

「ああ、そのことか。確かにあれから俺達は護衛の人達と一緒に世界を巡った。今更ながら龍の国やエルフ達の国、そして魔王領にも行って来た。もちろんドワーフたちがいる地下世界も行って来たぞ。いやー、まさかVRとはいえドワーフと出会って話をして、一緒に槌を振るわせてもらう機会に巡り合うとは思わなかったぜ」

 そこまで話した親方は豪快に、しかし心底楽しそうに笑っていた。そんな親方に、お弟子さん達もにこやかな笑みを浮かべていた。どうやら、親方達の旅は楽しい事がいっぱいの望ましい旅だったようだ。

「だがよ。その旅の間にな……俺達が鍛冶屋って事で仕事を頼んでくる面々がいた。プレイヤーじゃなくこの世界の住人達だがな……基本的には修理が多かったな。特に包丁を始めとした器具の手入れが多かった、無論武器の手入れ依頼もあったが。まあ旅先の駄賃稼ぎにもなるんで受けてたわけなんだが……ここからが本題だ」

 ここで話を親方は一度区切った。なお、話をしながら作業は皆行っている。手を止めている人はいない。

「あちこちで聞かれたんだよ。こんな武器を使う男がいた、あの武器を作る事は可能なのか? もし作れるのであれば是非欲しいと。異様な見た目だが、有用でもあると。それこそ大人から子供まで、男女何系なく戦う事に重きを置いている連中にな。で、丼案武器だったんだと話を聞いてみれば──アースに見せたまさにそれを渡された訳だ」

 自分が戦う姿を、遠くから見ていた人も街中で背中にしょっているのを見た人もいたのだろう。それを見て興味を持ち、もしくは自分が使いこなしているところを見て使ってみたいという欲をこの世界の人々の一部に沸かせてしまっていたと言う事になるのか。

「特に魔王領の魔族の人達は熱心に欲しいと頼んで来てな。アース、あれは普通じゃなかったぞ? お前さんはあの国にずいぶんと深く関わっているようだな?」

 あー、うん。関わっているどころかあの国の秘密のいくつかを知っています。なので秘密の内容は明かさずに、共闘した事が何度もあるとだけ伝えておく。魔王様も含めて、と。それを聞いて親方よりもお弟子さん達の方が沸き立った。

「うわ、それ本当の話っすか!?」「魔王様と共闘したって……それはぜひ見てみたかった!」「そりゃ、あれだけ食いついてくる訳だわ……魔族の人達が妙に多くの注文を出してきたことに納得が行ったよ」

 各自作業の手は止めていないが、やいのやいの大騒ぎだ。無論、親方も非常に興味深そうな表情を浮かべている。

「そいつはすげえな。関わってる処か魔王領の機密すら知ってるとは恐れ入った。ああ、もちろん内容は話さなくていいぞ? そういうものは墓の中までもっていくべき事だからな」

 親方の言葉通り、秘密の内容を根掘り葉掘り聞いて来ようとする人はいなかった。親方の言う通り、こう言う事は内容を絶対に口にしてはいけない。口外しないという信頼があるからこそ──あの時の戦い、そして魔王の真実を知っても魔王領内にて閉じ込められるような事にはならなかったのだから。

「まあ、魔王領に関わらず自分は世界のあちこちで戦ってきましたし、この注文が入っている武具も使ってきましたからね……それに、有翼人との戦いでもそれなりに参加していましたから。武器に興味を持たれるシーンの心当たりはいっぱいありますね」

 自分の冒険者としての生き方は、人族の街に始まり……この世界の全てかは分からないがかなりいろんな場所に訪れている。当然多くの場所に訪れれば、そこに住む人々と多く関わることになる。ほとんどは良好な関係を結べたとは思うが……辛い出来事もあった。イチかバチかの賭けに出るしかなかったときもあった。

 何処かで歩む道を違えていた場合は、今ここに自分がいたとしても全く違った姿だっただろう。手にした武具も、使ってきた装備も全く異なったかもしれない。それだけの時間をこの世界で過ごし、戦い、そして今ここに存在している。そう考えると、使ってきた武器もまたこの世界で自分の生きてきた証明の一つなのだ。

「後は龍の国からのスネークソード関連の注文も結構あったな。なんでも子供が特に興味を持ったとか」

 このお弟子さんが発した言葉には心当たりがある。龍の国を旅立つ前にある武門の方々と関わった。その時に子供達とめんこやベーゴマなどを通じて交流を深めていた。最後にその部門の方数名と手合わせをしたが──その時だろうな。スネークソードの動きに、興味を持たせてしまったのは。

「それも心当たりがありますね。ちょっとした練習試合をしたことがあったので」

 過去の出来事を騙ると、それは子供が興味を持つわという返答が数名のお弟子さん達から帰ってきた。あ、やっぱりそういう答えになるよね。

「しかし、こっちの世界の子供達とめんこにベーゴマか……そう言うことをやったプレイヤーはかなり限られるだろうな。戦う連中は自分のスキルを上げる事に夢中なのが大半だし、俺達の様な生産者も注文を捌くのに必死で……そう言った所に目を向けられる奴ってのは、そう多くは無かった筈だ。アースは、この世界のとの付き合い方が上手いのかもな」

 親方からはこのような言葉をかけられた。世界との付き合い方、か。深く考えた事はなかったが……それでも、この世界に対して多大な迷惑をかけないようにしようとは考えてきたような気がする。初期の妖精達から懐かれた事と、その後にやってきたフェアリークィーンの一件が、大きく影響しているのかもしれないな。

「自分ではあんまり意識したことはないのですが……確かに、この世界の人々とは様々な出会いをする機会は貰ってきたことは間違いないですね。そこの判断が上手く行ったのでしょう」

 幸い友好的な関り方多かったし、こちらも好意には好意で応えてきたから受け入れてもらいやすかったのかもな……もちろん、一部の悪意や殺意には相応の返答を返してきたのだけれど。それでもその時その時で、出来るだけの事はやってきたと思う。裏の顔の義賊頭も含めて。

「幸いにして、いい人が多かったですから。こちらも手を伸ばしやすかった、という所がありましたね。今日に対して共闘したことも多々ありましたし……今こうやって振り返ると、それなりに仲良くやれたなとは思います」

 もう直接会う事はないが……色んな思い出がある。良い事も悪い事も。楽しかったことも苦しかったことも。それらをひっくるめて、ワンモアの掲げた一つの人生を、自分は満喫できたと言っていいのかもしれない。

「そうだな、良い奴は多かった。だが、プレイヤーの行動によっては碌でもない連中と関わる方が多いって事もそれなりにあったようだがな。特に悪行に走ったプレイヤーは顕著だ。ある意味、この世界は鏡だったのかもしれねえな……善い行い、悪い行いに対して返ってくる出来事が左右されていたと感じるぜ」

 鏡、か。確かに、親方の意見も納得が行くところがあるな。この世界で関わってきた人たちに対して、礼節を欠く行動をとっていたらどうなったかは想像しやすい。たかがゲーム、そんな考えを持ち続けてそっけない対応をしていれば……この世界もそっけない対応で返してくるのはこれまた簡単に分かるな。

「もちろん、プレイヤー一人一人がどう動くのかは自由だ。が、取った行動にはそれなりの結果が常について回る。現実のそれが、この世界でもよく再現されていたと思うぞ。幾人か知っているろくでもないプレイヤーの末路は、まあそうなっただろうなと納得が行くものばかりだった」

 親方も多くのプレイヤー、ならびにこの世界の人々と多く関わった人の筈。そんな親方が言うのだから言葉に重みがある。自分も義賊頭として行動して、相対した連中も悪党はそれなりの結末を迎えていたな。まあ、迎えさせたところも多々あったが。こうして話をすることで、今までの総決算をしているような気分になってきた……
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