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戦いは終着点へと

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 厳しい状況が続いた。時間にしてみれば短時間の出来事だったのかもしれないが……グラッドとゼラァの動きに変化が訪れた。二人とも突如動きが硬直し、その直後に大量の喀血を吐き出したのだ。当然、集中していた自分はそんな明確な隙を逃すようなへまはしない。二人の首を一閃する──そうしてついにグラッドとゼラァが地面に倒れこんだ。恐らく、アイテムの反動に体が耐え切れなくなったんだろう。

「うわぁ、ついに二人の限界が来ちゃったっぽいー!?」「く、ガル! ここからは攻撃系のアイテムを惜しまず使え! ありったけのアイテムを放出して、アースにダメージを与え続けるしかねえ!」

 ガルとジャグドは引く事なく、幾つものアイテムを使ってきた。特に攻撃アイテムが多数で、バリスタやら大砲やらを生成してそれらが次々と自分に向かって球を打ち出し始める。これをさっきまで使わなかったのは、おそらく味方同士でも誤射したらダメージが入ってしまうという理由がありそうだ。

 実際に大砲の弾は地面に落ちると広範囲にわたって爆発を引き起こしているので、全線にグラッドとゼラァがいたら間違いなく巻き込んでいただろう。こりゃ確かにさっきまでの戦闘では使えないね……後はいくつか防御アイテムも使ってきた。本人を中心として周囲を泡のような膜で防ぐバリアみたいなものとか、高さ二メートル弱ぐらいのバリケードを発生させるものとか様々だ。

(いったいこれ、アイテムはいくつ種類ががあるんだ? あっという間にガルとジャグドの前に防御壁が完成してしまったし……でも多分時間制限とかの条件が厳しいんだろうな。そうでなければ最初から使っているはずだし)

 泡のような膜のバリアのような物をグラッドとゼラァに使わなかった理由も、たぶん二人のバトルスタイルの良さを殺す何らかのペナルティがあるんだろう。例えば激しく動くとすぐに効果が切れるとか、あのバリアを発動すると緩慢な動きしかできなくなるとか。ノーリスクで強力な効果を発揮するものはそう無いのかも知れない。じゃなかったら使わなかった理由が謎になる。

 考察はこれぐらいにして今は目の前の事だ。完全にガルとグラッドは作り上げたバリケードの裏から出てこずに遠距離戦に徹している。恐らく二人の狙いはザッドとゼッドの二人がこのエリアから鍵を見つけるまでの時間稼ぎ。自分がここにいる以上、残り二人が不意打ちされる心配はないからな。

 バリケードに攻撃も加えてみたが、なかなか固い。八岐の月やレガリオンで攻撃しても単発攻撃では多少の傷が付くぐらいだ。出し惜しみをしていないというのは間違いないだろう。ここまでレベルの防壁を張れるなら、とっておきの範疇に十分入る筈。そして鍛冶もそう多くはあるまい……と吐いて、その硬さは本物。真っ向勝負では手を焼くか。

(なら、こちらも曲射で攻めようか。あのバリケードをわざわざご丁寧に破壊して、そこから奥にいるガルやジャグドを攻撃なんて手順を踏まなくてもいいだろう)

 飛んでくるガルの魔法、ジャグドの矢を回避しつつ、曲射による反撃を開始した。最初の数本はイマイチだったが、その後はバリケードのすぐ後ろに矢が落ちるように撃てている。そして落ちた先では明らかに不自然極まりない音が聞こえている。地面に矢が落ちた場合は精々サクッとか、その辺り。だが今聞こえてくるは、表現するならばガイン! とかガキュィン! みたいな音。

「あーもう、バリケードがあんまり役に立ってない! なんでここまで当ててくるの!?」「泣き言言わずに魔法を撃ちまくれよ! それにバリケードが無かったらもっとやべぇ攻撃が間違いなく飛んでくるぞ! 曲射を強いているだけましなんだよ! あの弓やっぱり狂ってやがるぜ!!」

 ガルの悲鳴交じりの声にジャグドの声が飛んでいる。が、苛立ちはこちらにもある。結構な数の矢を叩き込んだはずなのにまだバリアがはがせていない。矢の落ちた先で聞こえてくる音が変わらないからだ。かといって距離を詰めるとガルの魔法やジャグドの矢が避けきれなくなるし……状況を強引に硬直させられてしまった……そして耳に届くアナウンスの声。

『雪原エリアの鍵が発見されました。これにより全てのが戯画発見されましたので中央の草原エリアにて扉が出現いたします』

 ついに鍵が見つかってしまった。これで今回の対戦は最終局面に移行する事になる。だが、今すぐ歯向かえない。最悪でもダウンさせたグラッドとゼラァを檻に閉じ込めなければならない。それをせずにこの場を立ち去れば、二人はガルとジャグドのアイテムですぐさま復帰してくるはずだから。

(どういう仕組みか分からないが、あの二人のバリアがまだ?がせない以上これ以上続けても無駄かもしれない。これだけ攻撃を与えても壊せない所から。射撃による防御力に特化した物の可能性もあるからな。そうなればこれ以上は時間の無駄……危険だけど、あの二人の撃破は諦めて方針を変えよう)

 ガルの魔法とジャグドの矢の雨の中に突っ込み、武器と盾を使ってできる限り消耗を押さえつつ、ダウンしているグラッドとゼラァのそばに近寄る。そう、強引に拘束し、檻に閉じ込めてしまおうと言う事だ。当然向こうもこちらの動きから狙いを察したのだろう、攻撃密度が上がる。当然呼び出されているバリスタや大砲も自分に向かって弾を飛ばしてくる。

 それでも何とか潜り抜け、鎖を二人にかけてから前に出る。ここからは回避は出来ず、飛んでくる攻撃を止めなければならない。そうしないと鎖が破壊されて拘束を中断させられるからだ。その三十秒は、かなり体感的に長い時間になるだろう。でも、やるしかない。特に大砲の弾が危険すぎる。これだけは矢で射抜いて落ちてくる前に対処する事が必須だろう。

 結果だけ言えば、グラッドとゼラァの拘束、そして檻への移動は成功した。だが……その間の戦いはひたすら振ってくる魔法と矢、バリスタと大砲の弾と言う物騒な雨にこの身一つでただひたすらに対処する苦闘極まる戦いだった。目的を達した時には残りのHPは二割を切っていたし、更にはガルとジャグドはアイテムによってあっという間に逃げてしまった。

 ますます状況は厳しくなった訳だが……向こうは向こうで厳しい状況に追いやられていた。まず、残り時間が四分を切っている。この残り時間では多分グラッドとゼラァの二人を探し出して解放する事は出来ないだろう。そうなれば残り四人で扉を開けるために攻防戦をしなければならない。向こうも戦力が落ちた状態で最終決戦をやらねばならないのだ。

(残り時間的に焦っているのはたぶん向こうだ。こちらのHPも危険水域だが──普段通りの立ち回りが出来るのであれば何とか持たせられる。扉を開ける作業をひたすら妨害して、タイムアップを狙おう)

 最終決戦の作戦をそう立てて、中央エリアである草原へと向かう。中央にたどり着くと、そこには日本の城の門をイメージしたと思われるものが現れていた。その門には五つの鍵がすでに差し込まれており、門は非常にゆっくりと……手前から奥に向かって開いていく様子がうかがえた。

(確か近くにクランクがあるって……これか)

 門の左右側に二つづつ、合計四つのクランクがあった。時計回りに回すと扉が早く開き、半時計に回すと扉が閉まるようだ。なお試してみたところ自分は反時計側にしかまわせないようになっていた。これはおそらく最終決戦の焦りの中、逆に回す事で見かたの邪魔をしてしまうような状況を生み出さない様にする為の処置だと予想される。回したことで再び門が完全に締まる。そして《危険察知》に反応が四つ。

(来たな、では最終決戦だ。決着はあと少しでつく。どっちが勝ってもおかしくはない状況だ……最後まで戦い抜こう)

 変則的な対戦も、いよいよ終わりだ。勝って塔の先に進めるのは自分か、それともグラッドパーティか。あと少しでその答えが出る。
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